兎たちの戯れ


「相談がしたい」
 そう言ってきたのは由井正雪。最近カルデアにきたキャスターだ。正雪は縋るように、アサシンの両儀式を見つめる。式はうげと顔を歪ませた後、
「他を当たれ。オレより適任なのは沢山いるだろ」
 猫のようにそっぽを向いた。
「神話や英雄譚に語られるような方々では恐れ多く……。あ、いや、式殿に恐れがないと言う訳ではなく、勿論先達として尊敬している!
 私がしたいのは、普通の恋愛の相談で……」
 正雪はもじもじと言葉を濁らせる。頬が僅かに染まっている。白い肌にその赤は映えた。見るものが見れば、心を奪われる光景。
「それこそ、お門違いだ」
 しかし、式はばっさりと斬り捨てる。今にも逃げ出してしまいそうな勢いだった。
「しかし、式殿は結婚して子供がいるのだろう?」
「……誰に聞いた?」
 途端、式の声が低くなった。厄介な事になるからと、周りには言ってない。
「アルクェイド殿だが」
 不機嫌な式に気圧されながら、正雪は素直に答えた。
「……アイツ!」
 アルクェイド・ブリュンスタッド。真っ白な真祖の姫君。どうした訳か式を気に入り、ちょいちょいとちょっかいを出されていた。霊体化しても逃げられず、色々と聞き出されて記憶を思い出し、式はうんざりする。
『両儀はあれで面倒見いいから、逃さず頼めばなんとかなるわよ』
 正雪の記憶の中、アルクェイドはそう言っていた。
『そうなのか?』
 それまで式を取っ付きにくい人物だと思ってたので正雪はキョトンと首を傾げる。
 正雪は時折食事の時間帯が重なった時、アルクェイドと会話をしていた。我欲を持った自然の嬰児が珍しいのか、弱い受肉精霊と言う存在に、それの上位版とも言える受肉精霊のアルクェイドは正雪を気に入っているようだった。
 大抵、それは取り止めもない話だった。
『両儀は志貴と似てるからね。誰よりも死に近いから、日常を大切にしてる。だから、なんだかんだで面倒見がいい。すぐ死んじゃうってわかっているからね』
 アルクェイドはそう言うが正雪にはピンと来ない。アルクェイドの言うシキと式が別人なのはなんとなくわかるが、それ以上は分からない。アルクェイドの会話は一方的にアルクェイドが会話をする事が多い。
『私だと警戒して話してくれないけど、あなたなら大丈夫でしょ! 猛獣の口元まで無防備に入っていけるいける!』
『口元?』
『そうそう。そこまで無防備に来られたら、逆に萎えちゃうもん!』
 がおーとアルクェイドは笑っていた。それを思い出しながら、正雪は言葉を続ける。
「それに歳が近く、兎に例えられる事が多いと聞く。一方的で済まないが、親近感が湧いてしまったのだ」
 式の不機嫌さに正雪は気付いてないのか、正雪は明るい声で答えた。兎と言ったのは式の礼装を見たからだ。アルクェイドに言われてから、正雪は式について調べていたのだ。そこでマスターから礼装があると教えられた。
 正雪に式を茶化す雰囲気はない。ただただまっすぐな正雪の雰囲気に式は文句すら言えなかった。
「歳が近い?」
 ただ疑問だけを口にする。
「こう見えて、私は30代で……。ホムンクルスなので見た目は10代のままなんだ」
「30代……?」
 式の本体は2015年に人理焼却の前日で止まっている。目覚めれば、焼却を免れない微睡。式はそこからサーヴァントとして分たれている。本年齢は35歳。現状、全盛期召喚なので10代後半なのである。
 奇しくも二人は似たような年頃となっていた。
「その……、駄目だろうか?」
 無垢な顔だった。悪意がなく、相手が自分の要求を飲んでくれるのだと、相手を信じてる顔。傲慢ではなくただただ、そういうものだと信じてる。それは式にとって断りづらい顔だった。
「……話を聞くだけだ。アドヴァイスとかは他を当たれ」
「有り難い」
 正雪はニコリと笑った。その笑顔とは裏腹に式は溜め息をついた。



「出会いは?」
 食堂の片隅で正雪はワクワクしながら尋ねる。こう言った話をする機会は珍しい。生前にはなかった事だ。カルデアに来てから始めたが、この手の話はワクワクする。
「面白い話はないよ。普通だよ。学校で同じだったってそれだけ」
「学校、——寺子屋か。そうか。いいな……。あぁ、いいな!」
 正雪は花咲くように微笑む。
「そこまで喜ぶもんか?」
「あぁ! 他の人の話を聞いた事があるんだが、その、こう、運命と言うものが多くてな。それもいいが、普通の出会いと言うのも憧れる。紫式部殿の図書館の本を借りたのだが、そう言うものが多くてな」
 正雪は最近紫式部に誘われて、現代の書物に触れるようにしている。読んでいるだけでその物語の当事者になったかのように感じられて楽しい。
「……ふぅん」
「……私はその、出会いが最悪で……。儀があったとは言え、殺す為に刀を向けて……」
 だからこそ、正雪は自分の行いの後悔が生まれつつあった。普通の出会いをしていたら、と考えると落ち込んでしまう。
「それは大丈夫だろ。オレも押し倒して、ナイフを突きつけたから。それでもアイツは諦めなかった。その後も普通だった」
 だが、式はしれっと返した。
「!?」
 正雪は目を白黒させた。
「……そうか。そうか。それくらいは普通か」
 正雪は式の恋愛の詳細は知らない。だが、カルデアのマスターが生まれた平和な世と近い時代から来ているから、式の恋愛は普通なものという先入観があった。
 式自身も己の恋愛については普通だと思っているので訂正はしなかった。多少切った張ったは多いが普通の範囲だと思っている。
「全然普通じゃないと思いますが……」
 見かねて、割り込んできた声が一つ。
「貴殿は?」
「失礼。聞かせていただきました。ルーラー、アルトリア・ペンドラゴンです。以後、お見知りおきを」
 水着にてカジノのディーラーをこなすアルトリア・ペンドラゴンその人であった。
「丁寧にどうも。由井正雪だ」
 正雪はぺこりと頭を下げる。
「……代わりが来たので、オレは行くぞ。後は勝手にやってくれ」
 式はこれ幸いと席を立つ。恋愛相談なんて、居心地が悪くて仕方ない。
「ダメです」
 だが、そんな式の首根っこをアルトリアが掴んだ。
「離せ」
 セイバーのアルトリアと違って、ルーラーのアルトリアと式では身長差がある。なので、式は掴まれると猫のように摘まれてしまう。
「正雪はあなたを頼ってきたのですよ。最後まで聞くべきです」
「お前がやればいいだろ」
「今の私には正雪が喜びそうな話はできません。マスターとの話はまた別の話です。その手の話はセイバーの私の役割ですから」
「なら、そっち呼んでこい」
「今は私がここにいますので」
「………」
 式はそっぽを向いた。霊体化して逃げないので、まだいい反応だった。それを確認して、アルトリアは式の隣に座った
「なぁ、やはり、ふ、普通じゃないか……。うぅぅううっ……!」
 一方、正雪は唸っていた。一瞬大丈夫かもしれないと上げられたところを落とされて、再び後悔に襲われていた。
「だ、大丈夫です。普通ではないですが、吊り橋効果もありますし。式も結婚しましたし」
 アルトリアは慌ててフォローする。
「そ、そうか。そうなのか」
「別に……、ナイフを突きつけたくらい普通だろ。コクトー以外にもやった事あるけど、それでも好きだなんて言う奴もいた。まぁ、あれは逃避だったけど」
 かつて、少しだけ一緒に暮らした『野良猫』を思い出して、式は目を閉じた。
「他にもやってるんですか、あなた? 普通は刃物を突きつけません」
「別にいいだろ?
 と言うか、そもそもあれはコクトーが悪い。家を見張ったりしてた。窓を開けると見えるんだぞ、アイツ。危機意識がない」
 普通だと思っていた事を否定された事、あの当時の夜の散歩に行けなくなった事やあれやそれを思い出して、式は口を尖らせる。
「式、あなた、それを放置したんですか?」
「……コクトーだ。問題ない」
 むしろ、コクトーの危機感のなさに苛立ちさえ覚えた。あそこまで来るのであれば家に入ってきた方がまだ安心できる。
「それは私もやったな。儀に必要だったとは言え、伊織殿に監視を放った」
 ようやく共感できる話題が出て、正雪は口元を緩ませる。話題が話題なので、だいぶ正雪の基準もおかしくなってきた。
「時代が変わっても気になる相手にやる事は同じか」
「そうなのだな。儀があったとは言え、時代を経ても変わらないのであれば、少し安心できる」
「あなたたち……」
 アルトリアは頭を抱えた。



「別に出会いなんてどうでもいいだろ? 大切なのはその後、な訳だし……」
 式は話をズラしたくて、そう切り出した。
「その後か……。その後か……。その後が、その……」
 その後を思い出して、正雪は苦笑を溢す。それしか出来なかった。
「……別にそこは今でもいいだろ? お前の想い人がどこにいるかは知らないが、どうせ今は会えるんだろ。じゃないと相談に来ないはずだ」
 式はニヤっと笑うと正雪に目を向ける。これでも式は気を遣った方である。
「別にい、伊織殿は、その……」
 だが、正雪は自爆した。
「………」
 流石にこれには式は絶句した。
「伊織ですか。そうですか……、かの御仁ですか」
 アルトリアも苦笑してしまう
「……あ! うう、ぁああああ……」
 二人の様子に正雪は己の失態を知った。テーブルで頭を抱える様は小動物みたくあった。
「唸るな。……まぁ、相談に来た以上、遅かれ早かれバレる。特にお前らはいつも目線で追ってるからわかりやすい」
「ば、バレていたのか……。あ、いや、私はそんな追っていた訳ではなくて……。その……」
「無自覚ですか?」
 正雪は更に小さくなってしまった。



「式殿、具体的にどうやって想いを伝えたのだ?」
 気を取り直して、正雪は式に尋ねる。気を取り直すまでにふわっふわのクロワッサン、ココアにマシュマロを乗せるなどの時間を要した。
「……お前、オレに言わせるつもりか? 絶対に言わないぞ」
「参考にしたい」
「帰る」
 式は気まぐれな猫そのもので、席を立った。
「おっと。ダメですよ、式」
 そんな式をアルトリアが止める。筋力Cのアルトリアではあるが、筋力Eの式に振り払う事は困難だった。
「お前、面白がってるだろ!」
「それはあります。このような式を見るのも珍しいので。それに式が逃げてしまっては公平性に欠けるかと思いました。ルーラーですので」
「都合よくルーラーぶりやがって! お前、裁定者じゃなくて、支配者の方だろ」
「そこはそこです」
 アルトリアはくすりと笑う。
「式殿……、無神経だと思っている。だが、簡単に話を聞くだけでいいんだ。その……、他に参考にできる人がいなくて、どうか……」
 正雪は眉を顰める。カルデアでは恋や愛の物語は溢れている。けれど、物語として纏められたそれはある意味物語として形骸化してしまっている。正雪が触れたいのは生の話であった。
「……っ! その顔をやめろ。
 あぁもう! わかった。そもそもオレは言ってないんだよ」
「言ってない?」
 正雪はキョトンと首を傾げる。
「つまり、告白された側だと!」
「……っ」
「羨ましい! どんな言葉で!? どんな素敵な言葉だったのだ?」
「………」
 式は硬く口を閉ざした。絶対に言うまいと顔を顰めている。正雪はあわあわと視線を泳がせる。
「こうなっては直接は言わないでしょう。ならば、周りの状況から聞くべきです」
「なるほど」
 正雪一人ではきっと式は機嫌を損ねて聞けずじまいだっただろう。アルトリアの助言で顔を輝かせた。
「……アルトリア、お前は正雪に肩入れすぎだろ」
「ゲームは一方的に強すぎると成り立ちませんので、カード配りに気を遣ってるだけです」
「……イカサマだろ」
「なんの事でしょうか?」
 アルトリアはイタズラっ子のように人差し指を口に当てた。



 結局、式は色々とはかされる事になった。どうしても正雪のような人物には弱い。逃げてしまえばいいが、今回はアルトリアがそれを許さない。嘘が下手な式は付き合うしかなかった。
「祝言前から同居状態だったと?」
「……別にいいだろ。家は別々だ。面倒だから泊まってただけだ」
 むすっと顔を顰めてはいるが式はしっかりと答えてくれる。
 泊まり合うと言う言葉にすら、正雪は頬を染める。
「悪いとは言ってませんよ、式。ただその手が早いと思いまして」
「コクトーだって、泊まりにきてた。そもそもアイツは勝手にうちの鍵を持ってたんだぞ。オレはアイツの家の鍵、持ってなかったのに!」
「つまり、鍵を交換し合っていたと」
「……っ」
 言うつもりはないが、言えば言う程ドツボにハマるようで式は言葉の端々を摘まれて、私生活を暴かれていく。
「鍵の交換か……。いいな。そう言う事をできる間柄か。式殿がそこまで信頼できる御仁か。さぞ素晴らしい人なのだろう。是非会ってみたいな」
「……ん」
「式、こう言う反応に弱いですね」
「うるさい……」
 絶対に言うまいとしていても、正雪にこんな顔をされると式自身が惚気ているような錯覚に陥る。ホムンクルスと言う存在は悪意があろうとなかろうと厄介だと式は学んだ。



「——別に普通だろ」
「式の両親とその殿方が仲がよかったり、がっつり外堀、埋められていますが……」
 式はまたがっつりはかされた。ここまで来ると開き直ってきた。正雪もアルトリアも頬を染めながら、楽しそうに聞いている。
「ん? アイツは顔広いし、そう言うもんだろ。いつの間にか秋隆——家令とも仲が良かった」
「無自覚ですか」
 アルトリアは式が語るそれに苦笑する。惚気なのはわかるが、それに見え隠れする式の彼に重さを眩暈がしそうだ。式も重いが、式に執着する彼はそれ以上だ。式の自覚は薄いが。
「外堀を埋める、か。ここにはカヤ殿はいない。とすれば、セイバー殿か」
 正雪は真面目に考えていた。
「同じ事をする必要はないと思います」
「……そもそも、正雪はソイツとどうなりたいんだ?」
「どう、とは?」
「こう、なんかあるだろ? 収まるべき形」
「言葉選びが、下手ですね」
 アルトリアは思わず言ってしまう。
「うるさい。こう言うのは大体幹也がやってくれるんだよ。文句あるか?」
 式はムッとしたまま、そう言った。
「やってくれる?」
 言葉の意味をそのまま飲み込めず、正雪は目をパチクリさせた。
「気がついたら、なんかその……。あれ? アイツ、どうやって察して……? 最初はアピールした気がするけど、途中からそう言うのなくなって……。末那が出来たときも……」
 今になって振り返り、式自身が首を傾げる。引っかかる点が多くて、思わず式は照れ隠しでテーブルを強く叩いた。
「だいぶ接待されてますよ!? 無意識レベルで擦り込まれてます」
「こ、これが大人の関係?」
「あぁもう! 喋りすぎた! うるさい! 散れ散れ!!」
 残念ながら、まだ話は終わらなかった。



「………」
 話が終わらなかった結果、式が拗ねた。喜々哀々に揉まれた結果、式は拗ねてしまった。
「完全に拗ねましたね。いるだけ、マシですが」
 式が霊体化しないのが、奇跡と言えた。
「式殿はとても良い人に恵まれたのだな。
 そうか。外堀を埋めて、相手を察して先回りするか」
 正雪は話を聞きながら、嬉しそうに声を弾ませる。小説とも違う生の話がだいぶ気に入ったようだった。
「だいぶ高度だと思います。少女漫画でこのようなものがあるとは聞いてましたが、リアルにするとこうも……」
 怖い、という言葉をアルトリアは口にはしなかった。式は普通だと思っているようだったし、正雪は言葉通り受け取り、素敵な恋なのだと思ってしまっている。
「確かに私では難しい。そこまで相手を察せれるか……」
「そこまで身を捧げては、疲れるだけですよ」
 アルトリアはそれとなく正雪を嗜める。少女漫画だから夢浪漫で許される事もある。リアルでは当人同士の合意がなければ、恐怖でしかない。それに自分全てを捧げてしまうのは良くない。
「ん? そうだろうか? 相手に尽くして、喜んでもらえるのであれば私も嬉しい」
「……そう言えば、ホムンクルスでしたね」
 正雪と言う生き物の脆弱性を受けて、アルトリアは微かに眉を寄せた。
「滅私奉公も過ぎれば毒ですよ」
「お前が言うな」
 流石の式もつっこんだ。国に全てを捧げたかの王が言うなと。
「……はぁ、人の恋愛に首を突っ込みたくないが、正雪はどうしたい? お前、このままだと道具に逆戻りだぞ」
「道具? いや、私は——」
「求めてるのは恋人か? 所有者か?」
「………っ」
 正雪は息を止めた。無意識のうちに行動。咄嗟に現実を突きつけられて逃避してしまうような行動だった。
「そこがわかってないと、間違えるぞ」
「それは……」
「正雪?」
 正雪は口をもごもごと動かして、何度も何度も何かを言いかけている。声にならない声だけが幾多も落ちていた。
「……話はこれで終わりだな。今度こそ、オレは帰るぞ」
「式」
「オレに頼ったところで無駄だよ。こればっかは自分で決めないといけないからな」
 そう言って、式は席を立つ。そう言われてはアルトリアも止められない。
「式殿……」
 だが、それを正雪が止めた。
「なんだよ?」
「………」
「オレは何にも言えないぞ。自分で決めろ。別にお前が良ければ、所有者でもいいんじゃないか?」
「……よくは、ない」
「なら、答えは出てるだろ」
「………」
「はぁ……」
 式は溜め息をついた。けれど、正雪の手を振り払おうとはしなかった。
「……恋人として求めてもいいのだろうか?」
「さぁな。本人に聞いてみろ」
「式殿……!」
「オレに文句を言うな。最初に言っただろ。聞くだけだって」
「それはそうなのだが……」
「正雪、無理に決めずともいいではないですか?」
 不意にアルトリアが正雪に手を伸ばした。白い髪をアルトリアが撫でる。
「あ、アルトリア殿?」
「すぐに決めてどうこうと言う問題でもないですしね。そもそもまだ片想いなのでしょう?」
「……それは」
「ならば、想いが通じ合ってからでも遅くはないでしょう」
「そうか。なるほど。……そもそも伊織殿が私を選ぶわけがなかったな」
 正雪はふわっと微笑むと、式から手を離した。
「………」
「………」
 アルトリアと式は顔を見合わせる。
 二人が知る件の宮本伊織と言う人物は、正雪を目で追っていた。
「………」
「………」
 二人は少し悩んだ末、何も言わない事を選んだ。それは当人同士がなんとかするだろう。
「今日はありがとう、式殿、アルトリア殿」
 そうして笑顔の正雪を二人は見送った。

 後日、二人が見たのは生まれたての子羊のように震えた脚で歩く正雪の姿だった。食堂など目立つところで話していれば、聞かれてない訳がなかった。
「……な、ななな、なんでもない。なんでもないんだ……! そのこれは伊織殿が……、尽くそうと息巻いていたら、尽くされたと言うか……。うぅうううぅ、いや、違う! なんでもないんだ!!」
 正雪が見事に自爆したので二人は大体察した。
お知らせ
実務でも趣味でも役に立つ多機能Webツールサイト【無限ツールズ】で、日常をちょっと便利にしちゃいましょう!
無限ツールズ

 
writening