カルデア・嫁姑?


カルデアの廊下を歩いていると正雪の困ったような声が聞こえ、そちらに急ぎ近づくと正雪の肩を抱くように絡む師匠と、困ったように師匠から逃げようとする正雪を見つけた。
「武蔵殿……。そろそろ……」
「正雪ちゃんは可愛いけど、もう少し若ければなぁ。それだけが本当に惜しい」
「お戯れが過ぎます」
「可愛いので何も問題はないのですが」
「武蔵殿!」
「師匠。何をしているんですか?」
声をかけたことで一瞬気を取られたのか師匠から力が抜け、正雪が師匠から離れた。こっちに来いと手招きをする助かったとばかりに正雪は俺の後ろに隠れる。
そんな俺達の様子を師匠はニヤニヤと笑いながら見てくるものだから呆れたようにため息も出る。
「お嫁さんを可愛がっていただけです。まさか、あの伊織くんがこんなに可愛らしいお嫁さんを連れてくるとはねぇ」
ニヤニヤと笑う師匠を正雪は顔を真っ赤にしながら困ったように俺の後ろから覗く。その顔は困惑はしているが拒絶は見られないためそこまでのことではないのだろうと正雪に問いかける。
「して、正雪。何を言われた」
「もう少し若ければと……。やはり、私の方が伊織殿よりも年が」
「師匠のあれは気にするな。ただ、童が好きなだけだ」
確かに幼い頃の正雪も愛いのだろうなと考えていると、ふと正雪とよく似た面持ちの誰に似たのか人誑しのくせに朴念仁だった息子を思い出す。そんなことをぼんやりと考えていたからかつい言葉に出してしまった。
「……息子の一人が正雪にそっくりだったな」
「伊織くん」
「師匠には会わせませんよ」
生前の息子たちを思い出しつつも、会えるならば俺が会いたいと思っていることをおくびにも出さず、尚も正雪にちょっかいを出そうとする師匠への壁になるのだった。


正雪にはセイバーが呼んでいるからと先に部屋に向かわせる。もっと話したかったと文句を言う師匠に向き合うと、疑問に思った事を聞くことにした。
「しかし、師匠。何故正雪にそこまでに絡むのですか」
「それはもちろん、伊織くんが所帯を持ったことが嬉しいからです」
師匠は真面目な顔つきになるとまっすぐにこちらを射抜くような視線を向ける。まるで逃げることを許さないと言いたげな視線に汗が流れる。
「だって、君。放っていたら剣と結婚しかねなかったでしょ」
「そ、れは……」
もし、儀の最中に正雪との魔力供給をしなければ、正雪の理想に共感しそれに殉じようと思わなければ……。俺は自分のために盈月を残しただろう。
(それはきっと人の道には反している。だが)
剣を極めようとする俺ならばその道すら選び取る。その末に何が起こると知っていても辞めることはないだろう。
(強敵と戦うために生き、戦い死ぬのだろうな。それは……)
とても魅力的に思えた。
「否定できないわよね。だって、私達はそういうものだから」
そう笑う師匠を見るが、剣よりも正雪の手を掴むことを選んだ俺には関係のないことだったと頭を振る。そんな俺を師匠は穏やかに見つめてきた。
「そんな君が人と歩むことを選んだんです。別の世界の伊織くんの事とは言え私だって安心もします」
これからもお嫁さんを大切になさい。と師匠は手を振り、うどんを求め食堂へ向かった。
お知らせ
実務でも趣味でも役に立つ多機能Webツールサイト【無限ツールズ】で、日常をちょっと便利にしちゃいましょう!
無限ツールズ

 
writening