【星屑レイサSSイフ】キャスパリーグの封印


クリームたっぷりのショートケーキ。
キラキラ砂糖が彩るクッキー。
色とりどりの包み紙のチョコレート。
目にも甘いスイーツたち。

口に入れればなくなってしまう── あぁ、どれから手をつけよう。

「私の負けですかね」
廃棄された旧トリニティ区画。
とある廃屋の中。
長い戦いの日々の果て、カズサはついに星屑レイサを追い詰めていた。
突きつけたマビノギオンの銃口。それに臆することもなくレイサは笑って話しかけてくる。
その笑み、その声にカズサの暗い瞳の温度が一段と下がった。
星屑のいつもの手だ。
彼女はどのような状況であれ言葉巧みに人の心の隙間に囁きかけ、その内の秘めた不安や恐怖、悪意、それにまつわる願望を暴き出し、狂わせ、破滅を誘う。
カズサの脳裏にいつくもの光景がよぎる。
長い付き合いになった屈託なく笑う百花繚乱紛争調停委員が、信じていた仲間たちに背中から撃たれ冷たくなった。
極寒の中、古びた校舎で二人肩を寄せ合い暮らしていた恩人の先輩たちが自らの居場所を守るためにと学園の全てを焔に焚べていった。
ただ当たり前の人々の暮らしを守っていたヴァルキューレの警察官が街中で起きたテロから市民を守ろうと制止を振り切って渦中に飛び込み、そして帰ってこなかった。
星屑がキャスパリーグから奪っていったもの。その一欠片。
凶星の輝きは浴びたものを狂わせ、その狂乱の輪は無関係なものも巻き込み燃やし尽くしてきた。
これ以上その言葉に付き合う必要はない。
カズサは額に当てていた銃口をレイサの口の中に捩じ込んだ。もう二度と余計なことを話させない様に。
一方のレイサはそんなカズサの瞳に懐かしいものを見た。ずっと昔、スラムの廃墟の中で自分をいたぶっていた者たちの目。深い底なしの憎悪。
もっともカズサのそれは逆恨みなどでなく全くもって正当な憎しみに違いないが。

そうか──杏山カズサもあの日々から変わったのか。

それがレイサの最後の思考だった。
彼女の口内でマシンガンが火を吹く。鼓膜を破る連なった発射音がしたのは数秒。即座に装填された全ての弾が吐き出され、カズサは素早い手つきで体勢もそのままリロードを行った。引き金を引く。リロード。引き金を引く。リロード。引き金を引く。リロード。
いくらキヴォトスの住人が頑丈であろうと限界は存在する。
熱を持ちすぎた銃身が限界を迎える頃──、そこには大きく穴の空いた床と下顎から上が消し飛んだ宇沢レイサの死体が残されていた。
「………………」
ぼんやりと、馬乗りになったまま、カズサはレイサだったものを眺める。
達成感はなかった。ただ、やっと終わったのかと、長い仕事を終えた後の疲労感が重力となって体にのしかかる。
その重みに抗うように、ゆっくりと立ち上がって──
「あ……」
少し高くなった視線で見下ろすレイサの体。あの頃と同じトリニティの制服。あの頃と同じ星の描かれたシューティング☆スター。ピアスとタトゥーで彩られた顔がなくなったそれはあの日──遠い青春のままで。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!」
突然の発作に突き動かされてその体を蹴り飛ばす。意味も、理由もわからない。ただ、耐え難い何かに突き動かされて。
「おごぉ……うぷ、うっ、うぇ……おええぇぇぇ………おぇ、ぇ……」
すぐに反動の様に上半身から血の気が失せ、途轍もない不快感が体を震わせた。えずく。空っぽの胃がそれでも中身をひり出そうと体内で捻れてうねる。胃液だけが、先ほどまでレイサの体が転がっていた床にシミを作った。
「はぁ……はぁ……はぁ、はぁ」
荒い息。ふらつく体をなんとか支えてカフェの面影の残る廃墟を後にした。
死体の処理、連絡。すべきことは幾つも頭の中に浮かんでいたがそのどれもする気にはなれなかった。誰にも会いたくない、話したくなかった。
体を引きずり寝床へ。
とにかく、帰って寝てしまいたかった。
そうしよう。
どうせもう、追うべき星もないのだから。

しばらく歩き、乗り捨てていたバイクに跨る。乱暴にエンジンをかけ、ずっと狭くなった現在のトリニティ学区へ向かう。
学区の端、薄暗く人の寄り付かない建物の一室が今のカズサの寝ぐらだ。埃っぽい空気に出迎えられたカズサは着の身着のままベッドへ飛び込んだ。
しばらくうまく眠れず、けれど寝返りを九度程うった頃にやっと意識は暗闇に落ちていった。

夢を見た。
キャスパリーグなんて名を捨てて、ごく普通の女子高生として過ごしていたある日。自分の過去を知るあいつが現れた。
名を叫ぶ。戦いを挑む。大騒ぎ。
終わらせたと思っていたもの。捨てたと思っていたものをあいつは当たり前のようにカズサに突き出したのだ。
あなたはキャスパリーグでしょう、と。
屈託のない笑顔で。
あぁ、うんざりする。
本当に……うんざりだ。

ぼんやりと、意識が浮上する。
体が妙に重い。寝方が悪かっただろうか。
チャリ、と金属の音。
そこで意識が一気に覚醒した。
「これって……くっ!」
手足が拘束されている。帰り着いた寝ぐらで寝ていたはずが、見知らぬ部屋で横たわっていた。
どこぞの廃墟か。珍しくもない風景だが、妙に小綺麗でもあった。窓はない。薄暗く、壁にはヒビも入っている。だが、掃除が行き届いているのか埃っぽさはなく、いくつかの棚、机。床にはカーペットまで敷かれていた。
カズサが横たわっていたのは木製の可愛らしいベッドだ。なんなら彼女の寝床のものより上等に思えた。
「流石は杏山カズサ。意識を取り戻すのが早いですね」
「なっ──なん、で…………」
周囲を観察していたカズサは、その声を聞いて、喉が掠れる。
「もう数時間は目を覚さない計算だったのに。意識もはっきりしてますね」
ニヤニヤと。
宇沢レイサがそこに立っていた。
ほんの少し前に殺したははずのレイサ。
頭を無くしたはずの星屑。
上下の感覚がぐにゃりと歪む。右が下で後ろが上のような。脳が麻痺し平衡感覚を歪ませていた。
「あははははは!すごい顔ですよ杏山カズサ!その顔!その顔が見たかったんです!」
素敵、素敵と甲高い声が繰り返す。
それは聞き間違えるはずもないレイサの声で。
「何が……あんたは、確かに頭を吹っ飛ばして……」
脳裏にだらりと焼けた舌だけ覗かせたレイサの死体を思い出す──逆流しそうになる胃液を必死に抑えてカズサは眼前の少女を睨みつけた。
「偽物……?いや、そんなはず…………だったら幻覚?あれが……?」
「いいえ、いいえ。偽物でも幻覚でもありませんよ。私は確かに、あなたの手でこの頭を吹き飛ばされました」
上から下へ、自らの顔を手のひらでゆっくりと撫でながら、レイサはカズサの推測を否定した。
「流石の私も初めての体験でしたよ。目玉を抉られたり、鼻を削ぎ落とされたことはありましたが──、脳をグチャグチャにされる痛み、意識が物理的に吹き飛ばされる感覚は……あぁ!」
うっとりと。
その痛みを思い出してレイサは頬を染めていた。
理解できない状況、理解できない感想。
だから──カズサはそれら全てを切り捨てる。付き合ってはいけない。
瞬間的に手足に力を込める。
手足を縛るのは無骨な鉄枷だ。
だが、今のカズサの全力であれば。
この間合いなら。
ガギッ!
接合部が込められた力に耐えきれず悲鳴をあげる。そして──それだけだった。
未だ枷は硬くレイサの手足を抑え込んでいる。
(強度を見誤った?……いや、それよりも……)
自分の力が弱くなっている?
己の失態を苦々しく思っていると、レイサがかすかに声を震わせた。
「……すごいですね。今のは。ちょっと本気で、焦りましたよ」
星屑となって相対してから初めて聞くレイサの声音。
一瞬だけ視界を上げ、真意を図れないかと彼女の顔を観察する。
笑みはない。怒りも、驚きも。
ただ、ビー玉のように感情の色を失った瞳をカズサの手足に向け、
「あの日、もし私に────────?」
辛うじて聞き取れる声でそう呟いていた。
その意味を、カズサはそれ以上考えたくなかった。
その表情も一瞬で、すぐにレイサは笑みを取り戻した。
「けれど残念でした。今のあなたには普通なら一生涯後遺症を残すくらいの薬物を打ち込んでいるんです。普通まともに体に力は入らないはずですよ?」
そんな状態で鉄枷を壊しかけたのが恐ろしいですが、と苦笑する。
「……チッ」
全身が重い理由にカズサは舌を鳴らした。
代謝の問題でしょうか、それとも単純な肉体強度?あるいは──
そんな風に首を傾げてるレイサにカズサは問いかけた。
「で、あんたはなんで生きてるわけ?」
今すぐの脱出は不可能と判断し、ひとまず情報を得ることに頭を切り替える。少し時間を置くことで、先程までの動揺も飲み込むこともできた。
「そんなに難しい話じゃないんですけどね……私のことどれくらい理解してます?」
「何そのめんどくさい彼女ムーブ」
「へへ……それでどうです?ほら、ほら」
ここで会話を止めても仕方ない。
「元トリニティ総合学園所属。……過去に不良たちに誘拐、暴行を受ける。その不良たちの命令に従ってトリニティの生徒に危害を加えていたところを──私に見つかり逃走。その後トリニティには戻らず学籍は停学扱い──後に抹消。以後は星屑を名乗りブラックマーケットを拠点に奴隷として様々な犯罪組織、団体に取り入りながらテロ行為を幇助。数々の大規模な事件にも関与しキヴォトス全土に被害を及ぼす。ヴァルキューレからは七囚人に並ぶ凶悪犯として手配。しかし、現在も行方は掴めず捜索中」
「まるで調書の読み上げですね」
「これでも警察の協力者なんでね」
「ふふ、流石はキャスパリーグ。けど、それだけじゃ不十分です。もっとないんですか?星屑に対する噂やゴシップ」
さあさあと促される。
「……」
もちろん、そちらも知っている。
曰く、何かを壊す願いを叶える流れ星。買い上げた主人に本当の望みを教える肉人形。ブラックマーケットに潜む怪異。知らぬ間に店頭に並び、知らぬ間に買い上げられ、知らぬ間に主人の元を去る。破滅の大王が使わした奈落の手先。神秘学者の召喚実験により呼び出された外より来たる何か。等々。
今やメジャーな都市伝説となった星屑には多種多様、全くの創作から実際にあった出来事を捻じ曲げたもの、関係ない都市伝説の統合と尾ひれ背びれ腹びれ臀びれまでついて、このキヴォトスで語られている。あまりに雑多すぎてキリがない。
「ハッ、願いを叶えるお星様……だっけ?」
だから端的に。馬鹿にするように、それだけ言う。つまらない挑発だった。
ミレニアムのエイミは星屑を指して特異現象と呼んでいた。現象と。
そして、レイサの言葉はひどく端的にその情報を肯定するものだった。
「その通りです。この身は願い叶える星屑──つまり人ではありません」
「……」
正気を疑う言葉を当然のことのように。
レイサの声は穏やかだ。
「とても単純なお話です。私は、もう人ではないのです」
カズサに言い聞かせるように。
僅かに目を伏せるレイサは容姿にそぐわぬ色気を放ち、艶やかだった。
「もう──あの程度では、死なないんですよ」
頭を吹き飛ばされた程度では。
それは、ひどく悍ましい言葉に思えた。
カズサは今更、眼前のレイサの顔に、銃弾を撃ち込む前にはあったピアスもタトゥーも存在していないことに気づいた。残っているのは首筋のタトゥーだけ──まるで、全てが吹き飛んだ後に彼女の血肉だけが再生したような。
「ひひ」
その笑い声に背筋が凍りつく。
自分は──一体何と戦っていたのか。恐怖は実像を歪ませる。トリニティの制服で笑うその姿が人ではない別のものに思えてしまった。
「──化け物」
歯を食いしばり、悔し紛れにボソリと呟いた言葉にもレイサはニコリと笑い返した。
「あなたも大概ですよ、キャスパリーグ」
その口角が更に吊り上がる。
「さて、それでは種明かしもすみましたし、そろそろ楽しいおしゃべりも終わりにしましょう」
その瞳に、情欲が灯る。
昏い、昏い、愉悦の炎。
「お預けももう十分ですよね」
先程とは別の意味でカズサの体に怖気が走る。
「捕まったヒーローがどうなってしまうのか──もちろん、キャスパリーグならわかりますよね」
銃身に焼かれていたはずの二股の舌が、ペロリと淡い桜色の唇を舐めた。

パチン!
甲高い音と共に剥き出しのカズサの胸が大きく揺れた。
「すごいすごい、ぶるんぶるん揺れますね!」
ケタケタとレイサが笑う。こんなにも醜い己の笑い声を、かつての彼女自身が聞いたらどう思うのだろうか。星屑となってからすら、こんな風に笑ったことはあったのだろうか。
不要な想像に思考の一部を割きながらカズサは少女の行いを鼻で笑った。
「バカみたい」
「ふふ、そうやって強がるあなたもバカみたいですけどね、杏山カズサ」
レイサの目が全てを取り払われたカズサの全身を舐める。強く、しなやかな戦うための体。それ故の美しさ。
「あぁでも、バカなんていうよりはエッチだって言ってあげた方がいいでしょうか?」
「……っ」
「変わりましたね。あの頃に比べて成長したんですね。それだけ──時間が経った……」
叩かれ、赤くなった乳房を強く揉み、舌を這わせる。ヒリヒリと敏感になった肌にレイサの舌先を感じる。唾液が、ひんやりとした余韻の軌跡を引く。
「胸もこんなに大きくなって」
「昔からあんたよりは大きかったんじゃない?」
あんたは昔と何一つ変わらない、中身以外は。
そんな言葉を飲み込んで。
カズサはじっとレイサの愛撫に耐えた。あとほんの少し手足が自由に動かせたら、組み付いて首を締め上げてやるのに。
服を引きちぎられ胸を弄ばれる。羞恥こそあれど、それくらいだ。この程度であればどれだけだって耐えられる。
カズサは隙を探せと己に言い聞かせる。
「チパ、チュパ♡……これだけ大きいのだからその内おっぱい出るようにしちゃいましょうね」
「……」
チパチパと音を立てて胸を、乳首を舐め回される。そうしながらレイサはいずれここはこうしたい、ここには図柄を掘ろう、なんてカズサの体の改造計画を語って聞かせた。
不安を煽っているのだ。
「気丈に振る舞っていますね。なんだか懐かしい……私も最初、こうやって乳首をつねられて痛かったんでしたっけ」
「っ……!」
ギリ、と音が立ちそうなほどに強く乳首をつねられる。
「あの時は本当に何もかもが初めての体験で──すごい怖かったんです」
レイサは楽しそうに口にする。
「自分がどうなるかわからなくて、何をされてるか理解できなくて、恐ろしくて、不安で──けど、杏山カズサのために負けるもんかって」
「…………」
「だけど、ご主人様たちに躾けてもらって、叩かれるのも、踏みつけにされるのも痛いのも苦しいのも全部全部気持ちよくなって……あなたは今何を考えていますか、杏山カズサ?」
のしかかるようにカズサの胸に顔を埋めながら、レイサの手が秘所を弄る。
ここから足を絡めて首を折れないか。いや、流石に厳しい。正面勝負で負ける積もりはないが星屑は決して容易い相手でもない。
「いっぱい、いっぱい、可愛がったら……どこかで壊れるんでしょうか?」
ろくに濡れていないそこを白魚の如き指が弄り回す。その手管は娼婦のそれ。
「壊れるんでしょうね……」
ほんの僅かな間にそこは溢れんばかりの蜜壺と化しクチュリ、クチュリと淫らな音を鳴らし始めた。
「チッ……」
生理現象だ。カズサは自身にそう言い聞かせながらも、悔しさを堪えきれずにいた。
「ふふ、キャスパリーグが素直なのは下のお口だけですね」
クチュッ、ピチャッ
「ほら、もうこんなに。熱くなって……トローリ、トローリって」
愛蜜を泡立てながらレイサが囁きかけてくる。その瞳が怪しく揺らめく。銀河の向こう、星の雲のように煌めき煙る。
「──っ下手くそ」
その光を見続けるのが危険に思えて、視線にありったけの嘲りを込めてレイサをなじった。そんな程度かと鼻で笑う。
けれど、カズサの暴言にレイサは悦ぶように頬を染めて。
「ひどいですね!私これでもご主人様たちからは奉仕が上手って褒められてるのに!」
「んっ……っ……」
語気は強く、けれどその語尾はスキップするように跳ねている。
「キャスパリーグは本当に素直じゃないんですから」
カズサの愛液で濡れそぼった指をピチャピチャと、これ見よがしに舐める。
「ずっと気になってた杏山カズサの味、こんなだったんですね」
レロ、チパパ、チュッ
行儀の悪い子供のように指の隙間まで舐めこそげとる。
中途半端に弄ばれた蜜壺が続きはとひくついていた。眼前で指を這うレイサの舌が体の内を嬲る感覚に襲われる。カズサは唇を噛んだ。
「チュウッぷはっ……ですが、あまり気持ちよくなかったとしても仕方ありません。実は、今ここであなたをイかせるつもりはないのです!」
今度は自分の唾液まみれになった指をカズサの胸で乱雑に拭いながら得意げに話す。
「私、奴隷だったのでご主人様から色んな開発をされることはあっても、他人の体を自由に弄ることってほとんどなかったんですよね。だから、色々考えていて」
まるで──そうだ、ずっと昔に、カズサに挑戦状を叩きつけてきた時とよく似た表情で。
「杏山カズサ、あまり経験ないのでしょう。私が特別、丹念に開発してあげます」
快楽への忌避より、これからの不安より。
その笑顔が。記憶が。
憎悪に沈めたカズサの心がそんなものを見せないでくれと叫ぶ。
「あなたは処女のまま、子宮でだけイく体になるんです」
そんなことも知らずレイサは笑う。

始めは、ゆっくりと腹回りを撫で回されているだけに思えた。マッサージの一種ですよ、と言うレイサの言葉の通りに丹念に繰り返されるそれはカズサの体をほぐし、癒しさえした。
ひどく緩慢な時間が流れていた。
「ずっとずっと走ってきたのだから、ゆっくりとしましょうよ」
元凶が抜け抜けとそんなことを言う。
「……」
食事の世話をされ、排泄の世話をされ、時々体を拭われて。後はひたすらに腹回りを弄られた。レイサが自らの手を使うこともあれば、振動するなにかの器具で刺激を与えられることもあった。
何度か脱出も試み、その度に失敗した。
「あなたは油断も隙もありませんね」
その度に、レイサは嬉しそうに笑っていた。
そうして幾日かが経過した。

「フー……ハァー……」
「わかりますか、杏山カズサ?私が今ゆっくりと押しているここ。この場所です」
グリッ、これまでより力強く、レイサの揃えた指が押し込まれる。
視界が塞がれている。だから余計に、その感覚を意識させられる。ありきたりな手段だと理解していながら、ありきたりだからこそ抵抗することができない。
グリ、グリグリ
波の様に寄せては返す、へそ下を襲う圧迫感。
そこに、本来なら感じるはずもない内臓を愛撫される快感が生まれ、じわりと拘束されたカズサの体中に広がっていくのだ。
「ほら、お腹の中、すっかりトロトロですね……。外から触ってるだけなのにグジュッグジュッて濡れて悦んでるのが手に取るようにわかります。ほら、杏山カズサも感じて、想像して。自分の体の中、子宮の入り口がお腹の上から私に弄ばれて……グズグズ、に熟れてるの。あぁ、きっと瑞々しくて、それでいてネットリして、美味しそう……なんでしょうね。ほらまた、こうやって、押し込んだら……グジュッ、ビュッてお腹の中、蜜が跳ねてる……」
耳元で、ヒソヒソとレイサが囁きかける。
無視したい。聞きたくなどない。それなのに──
「あっ、ビクンって、ほら、感じましたかキャスパリーグ。あなたの子宮がビクンって嬉しそうに跳ねましたよ。もっとちょうだい、気持ちいいの、もっとちょうだいって言ってるんです。あなたの口は相変わらず固いのに。お腹の中……子宮はすっかり、私のことが大好きになったみたいですよ」
手のひらがカズサの腹に当てられてゆっくりと、円を描く様にぐにゃりと捏ね回される。
「ん♡…………っ♡」
「私も、あなたの子宮が大好きになりました。素直でかわいい。これが本当のあなたなんですね。とってもいい子。ほら、いい子、いい子、いい子」
「……♡…………♡♡♡……ッ♡♡」
ぐにゃり、ぐにゃり
鍛えられた腹筋に覆われたはずのカズサの腹が、レイサの小さな手でパン生地の様に捏ね回される。ぐにゃり。グズグズにれたカズサの腹は少し力を込められただけでレイサの思うように形を変えてしまう。
──実際には見えない。本当は、どんな状態かカズサにはわからない。
けれど。
「ほぉら、ほぉら。杏山カズサのお腹、もうすっかり形が変わっちゃって。私が元の形に戻せるよう、またコネコネって、してあげないといけませんね」
「ん゛……♡……♡」
ぐにゃ、ぐにゃ、ぐにゃ
その声を聞いて、へそ下、子宮の上を捏ね回されるとカズサの脳裏には言葉の通りにぐにゃぐにゃにされた自分の腹部が浮かんできてしまうのだ。
胸も、口も、性器も触れられふことなく。
カズサの体は腹を撫でる、ただそれだけで官能に狂わされ始めていた。
「こんな感じでしょうか。もう少し整えて……とんとんっと」
「お゛っ♡あ゛……っ♡」
散々に捏ねられた腹を軽く叩かれる。子供を寝かしつける様な優しい振動だ。
だというのに。
子宮が震える。
「あ゛♡あ゛〜〜〜あ゛〜〜〜〜〜♡♡♡」
体の深い場所から滲み出る様に湧きあがった快楽がカズサの喉を鳴らし、触れられてない股の間からはプシャッと潮を噴かせる。
頭の中が白く漂白される。
「あ〜あ、イっちゃちましたね。お腹トントンってされただけなのに。お股も、お胸も触ってないのに。少し触っただけで、イっちゃったんですね、杏山カズサ」
「〜〜〜〜ッ」
クスクス、と耳朶をレイサの笑い声がくすぐる。
「気持ちいいですか?幸せですか?……ふふ、あなたのお腹は本当に素直です。よしよし、いい子はもっといっぱいこねこねこしてあげますからね。よしよし、よしよし」
「や゛、ぁま゛っ……♡〜〜っ♡♡」
単純なオーガズムではない。
全身が解放される様な、抑えようのない神々しさすら感じられる快楽。
それが繰り返し、繰り返し、カズサを襲う。
頭の中がチカチカとした瞬きで埋め尽くされる。それでもカズサはせめてもの抵抗として声を押し殺しこの官能の嵐を耐え切ろうとしていた。
「えいっ」
「ん゛お゛ぉ゛っっっ♡♡♡」
「と、強く押し過ぎちゃいましたか。じゃあ今度はもっと優しく──」
それは、あまりに儚い抵抗だったけれど。

ツツ……
「……っ、ッッ♡」
へそ穴から秘部の手前まで。ただ真っ直ぐに指が滑る。それだけでカズサの体は跳ね、足先がピンと伸びてしまう。
「へへ、やはり時間をかけてじっくりと開発を進めるとよく仕上がりますね」
嬉しそうにレイサが笑う。
あれからまた時間が経っていた。どれだけ経過したかはカズサにはわからない。食事や排泄、睡眠のタイミングをレイサが意図的にずらし時間を測れない様にしているのだ。始めは食事以外だけでもリズムを保とうとしていたが──。

「トイレの時間ですよ。ほら、キャスパリーグ!我慢しちゃいけません。そう言うことするなら、膀胱のところを……とんとん、ほらシー、シーって」
「……ッ♡♡」

「眠れないんですか?仕方ないですね。なら思いっきりイきまくって、意識を飛ばしちゃいましょうか」
「〜〜〜〜♡♡〜〜〜〜〜〜♡♡♡」
「すっかり感じやすくなって……へへ、これならすぐに意識も飛んじゃいそうですね」

カズサの体はレイサに触れられるだけで彼女の思う通りに反応を返す様になってしまっていた。
それはひどく屈辱的で、同時に忌まわしい多幸感をカズサに覚え込ませていた。
それでも、カズサはそれを噛み締めて反撃の時を静かに待っていた。
まだ、彼女の心は折れていなかった。
たとえその外郭が快楽に溶かされ、濁った頭は満足な判断能力を失いつつあるのだとしても。

「今日はいいものをあげますよ、杏山カズサ」
既に出来上がった体を赤く染め、息を熱くするカズサの目の前に、レイサはパンツの様なものをを掲げてみせた。
「あなたのために用意したんですよ」
様な、と形容したのはその、股間のあたりに大きな張り子が突き出していたからだ。それはペニスバンドと呼ばれるものだった。内側にも、こちらは非常に細いものが伸びている。
前後で太さの異なる双頭ディルドのペニスバンド。
「こっち、中に生えているディルドはとっても細いでしょう?これなら、あなたの処女膜を破かずに済むかもしれないなと思いまして」
私はなんでも壊してばかりなのでうまくいくかはわからないですが。
へへ、と困り顔で笑いながらそれをカズサに穿かせていく。
「よかったですね。これで外からじゃない……ついに中からもあなたのここ、ポルチオ、子宮を刺激することができる様になるんですよ」
「……ッん♡………♡」
ぬるり、カズサは自分の内に異物が潜り込んでくる未体験の感覚に体を震わせる。開発されきった子宮とその通り道は、先のひと撫ででとっくに濡れきっており、まるでチュウッと吸い付く様に簡単にディルドを受け入れてしまう。
「どうですか?ギリギリ奥に届くかどうかくらい……に調整できてるでしょうか」
パチン、パチンと左右をベルトで留めることで固定する。
すると、カズサの股間に大きな逸物が直立した。
「ふふ、ははっ、似合ってますよ、杏山カズサ」
「……っ、なんの♡……つもりでこんなこと」
自分のその姿に羞恥を覚えたカズサは、耐えきれずに震える声でそう怒りを露わにした。
「ひひ、やっと口を開いてくれましたね。もうずっと何日も黙りだったので、お腹が気持ち良すぎて言葉を忘れてしまっていたのかと思いました」
「チッ……」
「まあ、あなたが私と話すことを警戒していたのは分かってます。怖かったんですね、私に自分が変えられるのが。沢山見てきたんですよね、そういう人たちを。けど別に私は言葉一つで人心を自由にする様な、そんな危険な存在ではないんですよ?そこまで警戒せずともいいのに」
「別に……あんたと、話したいことが何もなかった、だけだし」
「素直じゃないですね……まぁ、折角口を開いたのだから、これから何をするかお話ししましょう」
そう言ってレイサは自身の服を脱ぎ始めた。
「っ……はぁ?あんた、本当にバカ?」
カズサは、一瞬だけ心の柔い部分が震えるのを感じた。服を脱ぐレイサの姿に思い出したくないあの日を重ねて。
「それを付けたんだから、やることはひとつでしょう」
あの頃より更にひどくなった、幾つものアクセサリーに彩られた小さな裸体を晒し、レイサは言った。
「足枷を外してあげます」
「……!」
「手枷の方の……ベッドに繋いでる鎖も取ってあげます。それで私を犯してください、一緒に気持ちよくなりましょう?」
レイサの目は既にこれから行われるだろう快楽への期待でドロリとした欲望に濁っていた。
カズサの眼が吊り上がる。
それは、つまりレイサが今のカズサを枷をつけておくに足らない存在だと言ったに等しかったからだ。
「あ、流石に手枷自体は外しませんよ。手は動かせないので。うまくバランスをとってくださいね」
おどけた声を上げながら足元に顔を埋め枷を外していく。
「ほら、こぶぇ!!?」
レイサの頭が吹き飛んだ。
そう見えるほどの蹴りが、彼女の側頭部を捉えていた。
「フー、フー」
カズサは穿かされたペニスバンドも体を苛む官能も無視し、憎悪を込めてレイサを睨む。
「いったた……足癖悪すぎませんか?」
レイサは鼻から血を流しながらも立ち上がる。やはり今の状態で動けないところまでもっていくのは難しいか。それでも──
カズサは視界を巡らせて扉を見つけるとそちらへと駆ける。
「ああ、もう……まったく」
あの扉の開き方は見ている。一か八か飛び出す──
ヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴ
「……ッ♡♡♡………ッ♡♡♡♡」
へそ下、ずっと外から開発されてきた子宮、膣内が内側からの振動によってよがり狂う。
耐えきれず、カズサは膝を折った。それだけでは済まず、チョロロと音を立てその足元に水溜りができる。失禁までしてしまっていた。
「ちゃんと……話を聞かないから。そのディルドは扉に一定距離近づぐうっ……♡」
歩み寄ってきたレイサを反射的に蹴り飛ばした。星屑は憎むべき敵。ここに監禁されてからずっと、ろくに彼女と話すこともせず自身に言い聞かせていた言葉が、快楽漬けのカズサをなんとか動かしていた。
それでも、膣内からの振動には耐えきれず、扉から後ずさる。
距離に連動しているのか、歩くことすらままならないディルドの振動は収まった。
「そんな様子じゃ、扉から出てくのは難しいですね」
忌々しいレイサの言葉。だが、その指摘は正しい。今のカズサの体であれを耐えて扉まで辿り着くのも、そこから扉を開けるのもひどく困難に思えた。何より、モタモタとしていればすぐにレイサに連れ戻されてしまう。
「フー…….っ♡ハーー♡……だったら……だったらここであんたを……!今度こそぉ!!」
「やってみますか?その格好っごぉ♡」
「このっ……!!」
だから、まずはレイサを無力化する。
靄のかかった頭で、それでもカズサは今ここで全力の抵抗を試みることを選んだ。
ゆっくりゆっくりとカズサの体は変えられていっている。それをカズサ自身には意識させずに。
今を逃して次を得られる自信がカズサにはなかった。
「ごっ♡うべっ……♡あ゛♡♡」
満足に使えるのは足だけだ。
勢いと体重を掛けながらレイサの手足を折ることを狙って踏みつける。
何度も、何度も何度も。
「あはっ♡ひひ、ひひひ♡……元気がっ♡いいですね♡……けど、そんなに暴れて大丈夫ですか?」
体中にアザを浮かべながらレイサは楽しそうにカズサの股間に目をやる。
カズサが踏み付けを行うたび、そこに反り立つ張り方が揺れる。そして連動する様にカズサの膣内のそれも上を下を擦り、カズサの腹の底に熱い欲望の高まりを呼んでいた。
ずぐりずぐりと。
カズサにとっては初めての膣内からの官能。
同時に、それは決定的なところに届かないひどくもどかしいものでもあった。
「それに……♡、今の踏み付け程度じゃ私を動けなくするなんて、難しいんじゃないですか?」
煽る様なレイサの声。
そんなものを聞くなと言い聞かせながら、カズサの視線は全く別のものに釘付けになっていた。踏み付けられ、アザまみれにされ、それでダラダラと濡れるレイサの小さな割れ目。
呼吸が熱い。
違う、今はレイサを動けなくして。
腰に反り立つこれをあの中につきいれたなら。
この部屋を出るためにも。
レイサを。
ふらふらと立ち上がったレイサは大きく股を開いてベッドに腰掛けた。
そして、自ら濡れそぼったその蜜壺を開いて見せる。たらりと、愛液がシーツに滴る。
そこから、視線が外せない。
「ここを突いて失神でもさせた方が可能性があるんじゃないですか?杏山カズサも、散々体験したでしょう?」
馬鹿馬鹿しい、挑発──。
「お゛ぉ゛♡♡お゛ぁ♡♡♡」
カズサの逸物がレイサの秘部奥深くを貫いていた。
「〜〜〜〜〜♡♡♡」
同時に、カズサの中に刺さっていたディルドの先端が、子宮の入り口、散々に開発されきったそこをコツンとついた。
視界が、弾ける。
「あ♡あは♡あははっ♡♡っ♡あははははははははっ♡」
レイサの哄笑が部屋に響いていた。
カズサが二度目、三度目と擬似男根をレイサに突き立てる。
思考は分断されただ本能が彼女の体を支配していた。
「あっ♡あのキャスパリーグが♡♡不良たちに恐れられた伝説のスケバンが♡強くて、クールで♡♡今じゃみんなのヒーローのキャスパリーグが♡♡♡私相手に必死で腰を振ってっ♡♡あはっ♡♡あんっ♡あはは♡ははははははっ♡」
笑う。
何もかもがおかしいかの様に、膣を抉られ子宮を突き上げられながらレイサは笑う。その声を聞くことすら出来ずに、カズサは必死で腰を振り、自らに生えた偽の男根をレイサに打ちつける。その度、彼女の膣奥が小突かれ正気を失うかの様な快楽が背骨を走り抜けていた。
「ほら♡私をやっつけるんでしょう♡♡もっと速く♡強く♡一生懸命腰を振らないと♡♡♡ねぇ♡」
パン、と音を立てて自らに覆いかぶさっていたカズサの腹を叩いた。
それだけで。
「〜〜〜〜〜っ♡♡♡」
ビクンッ、ビクンッ
電撃でも流れたかの様にカズサの手足が痙攣する。耐えきれない快感に、意識が吹き飛ばされ、崩れ落ちる。
そこはキャスパリーグの停止スイッチとなっていた。
「へへ……一発でこれですか……」
泡を吹いて倒れたカズサに押し潰される形になったレイサはその下から這い出ようとして、自らの股のあたりに違和感を感じた。
「ぷっ、あはは!」
ヘコヘコと意識を失ってなお快楽を求める様にカズサは腰を振っていた。その姿にレイサは屈託なく笑い、衝動に任せてカズサに抱きついた。
「いい子♡いい子ですよ♡キャスパリーグ!!素直なあなたはかわいいです♡もっと、もーっと可愛がってあげますからね!!」
抱きしめながら、ご褒美に膝で彼女の腹をあたりをグリグリと刺激してやる。
その度、意識のないカズサの体がそれでも快楽を得てビクン、ビクンと跳ねる。
最後にはチョロチョロと小水が溢れだす。
「悪い癖がついちゃってますね……けれど、それを躾けるのも楽しそうです」
なんだか嬉しくなってレイサはキスの雨をカズサの顔に降らせた。
「最初はただ壊すだけ、そこまでと思ってましたが……もっとずっと楽しめそうですね」
ね、キャスパリーグ。

あの日以来、カズサの監禁生活に新しいサイクルが組み込まれた。
体外からひたすら子宮周辺をマッサージされるのはそのままに、時々ペニスバンドをつけられてレイサの相手をするのだ。
前回の何かが琴線に触れたのか、レイサはその際は必ず手足を折り曲げた拘束で四つ足移動を強要し、目隠しや耳栓などその都度五感のいずれかを塞いで残された感覚のみで自分を探り当てる様に呼びかけるのだ。
まるでペットと遊ぶかの様に。

「ほら、今日は声が聞こえるでしょう。こっち、こっちですよ、キャスパリーグ」
「ハァ……ハァ……ハァ……っ!♡♡!!」
「よく来ましたね、ほら、ここですよ。ここに、ちゃんと挿れてください……っあん♡いい子♡今日もヘコヘコかわいいお尻を振りましょうね」

抵抗は、あれ以来する気になれなかった。
快楽に濁った頭であっても、あの日の自身の選択がカズサには強いトラウマとなっていた。
反発しようとして、従わせられる。
抵抗しようとして、誘導に逆らえない。
自身の意思を意図せず捻じ曲げられた、その感覚がカズサから主体的な行動を奪っていた。
いつかは反抗すると心の中で誓いながら、今はまだと言われるままに従い続ける。
自分で選んで従っている間は意思を捻じ曲げられることはないと。
それが浅はかな言い訳であることくらいカズサ自身にもわかっていたけれど。

「お゛っ゛♡♡♡お゛ぼっ゛♡♡」
「どうですか?お腹ぎゅーーって、ぎゅーーーーってして、気持ちいいですか?」
「お゛♡ぎっ♡ぎぼじい゛い゛でしゅ♡」
「キャスパリーグは素直になりましたね。いい子ですよ。いい子には……たっぷりご褒美をあげますからね」
「い゛ぃ゛♡♡♡〜〜〜〜っ♡」

あの日以来の変化がもう一つ。レイサがカズサのことを頻繁にキャスパリーグと呼ぶ様になったことだった。
何かある度に、いい子ですねキャスパリーグ。ご褒美ですよキャスパリーグ、と。
小さな胸元に抱かれ、耳元でキスと共にそう呼びかけられる。
ペット扱いは、けれどカズサの心の一部を軽くしてくれる様にも思えた。寄り添われ、愛でられる安心感。決して認めることはできない安寧。

その日、カズサは特に快楽に飢えていた。
意識を失う直前まで、散々に寸止めをくらい、泣いて喚いて絶頂を懇願した程に。
目を覚ました時直ぐにペニスバンドが付けられていることに気づいた。手足は肘と膝をつかねばならぬ四つ足体勢で、目も耳も聞こえなかった。お尻の穴に感じる異物感は、こっちの方が可愛らしいからと最近挿れられることが多くなった尻尾の付け根だろう。
ドクン、ドクンと快楽の期待に全身の産毛が立った。こういう時はレイサを見つけて腰を振れば特に可愛がってもらえるのだ。
「すん、すんすん」
塞がれなかった嗅覚で自分が犯すべき相手を探す。ベッドの上から短い四つ足で器用に降り──何度も繰り返し慣れてしまった──カーペットの上で鼻をひくつかせる。
すると、ツンと鼻をつく雌の匂いを嗅ぎ取った。
「はぁっ♡はぁっ♡」
こっちだ。
覚え込んだ快楽を期待して既に胎の中はドロドロだ。
「こっち!こっち!!」
知性の溶けた声を上げて匂いをたどり床を駆ける。どんどん強くなる雌の匂い。やがて突き出した鼻の頭が濡れた花弁をら探り当てる。
「ハァー♡ハァー♡ハァー♡ハァー♡」
子宮がキュンキュン鳴り、強い快楽を求める。その本能に従って腰の先端の張り子を揺らし、その入り口を探し求める。
いつものように、レイサの手が優しくカズサを導いてくれる。そのことに言葉にできぬ幸せを感じながら、張り子を秘所に添え──一気に突き入れた。
バチンッと、そんな音を幻聴してしまうほどに。堰き止められていた快楽の電気信号が脳細胞を焼きながらカズサの心の全てを満たす。
バチンッ、バチンッ
真っ暗な視界に花火が上がる。
いつもより少し硬めの膣はその分突き入れる度強い刺激をカズサの子宮口に届けた。
ほんのりと甘みの混ざった雌の匂いが許された嗅覚味覚を刺激し、体深くの炎を煽った。
脳奥深くの報酬系。
快楽を司る器官。
よだれを散らし、腰を無心で振るカズサの脳の中で機能していたのはその最も原始的な部位のみだった。
「あ゛ぁ゛♡あ゛あ゛ぁ゛♡あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛♡」
本能のまま、覚え込まされたりまま女を貪る。
きっと聞こえず見えない世界の向こうでは今日も宇沢レイサがいい子、いい子と自分をあやしてくれているに違いない。その想像がより女陰の奥、カズサの最も快楽を生み出す器官の熱を高めた。
過去も未来も、痛みも苦しみも、責任も使命も忘れ。
カズサは快楽の奴隷となった。

「ぁ──────」

瞳から光を失った栗村アイリが転がっていた。服は着ておらず、両足の間が真っ赤に染まっていた。顔を近づければ痛々しいことに肉が抉れ、捲れていることに気づけただろう。
血が広がり、床を汚す。
アイリはピクリとも動かない。
今となっては意味がない。
「どうですか、キャスパリーグ。アイリさんは気持ちよかったですか?」
「……」
呆然と、自分を抱いてあやすレイサを見上げる。
「いつも私の相手だけじゃ飽きてしまうと思いまして。サプライズプレゼントですよ」
カズサは何も話せない。
その腹を慈しむようにレイサは手のひらで撫でる。
すると、散々に食らった快楽がぶり返し、カズサの意志と関係なく吹き出した潮が、真っ赤に染まるアイリのそこに掛かった。
「へへ、今日も素直ですね。いい子、いい子」
あやされながら快楽に溺れさせられる。それを自然と受け入れている自分が恐ろしかった。
「こうなる可能性を危惧したから、あなたはいつも以上に私を血眼に探したのでしょう?」
動かないアイリ。
星屑。
トリニティで。
キッと、そのひと時だけかつての眼光が彼女に戻る。せめてと、反射的に手が上がる。
なのに、レイサを打ち据えようとした手は振り上げたまま動かない。
カズサの目をレイサが覗き込んでいた。
光、瞬き、星屑の輝き。
カズサがずっと恐れ避けていたもの。
星屑に呑まれそうになる感覚。
その一歩手前。
「どうしたんですか?私を打たないんですか?」
力が、入らない。
この手を振り下ろして、それが何になるというのか。
踏みとどまるために力を振り絞る意地が、カズサから抜け落ちていった。
壊してしまったもの。
壊れたもの。
自分に何が残されているのかを考える力もない。
「………………もう、疲れた」
掠れた声が喉の底から溢れる。
アイリの無事を確認しなければならないと思うのに、それすらできずにいた。
いや、確認することが恐ろしかった。
振り上げていた手が力無く落ちる。
ずっとずっと歯を食いしばってきた。
失うことも、失わせることも望まないのに繰り返して。
期待と希望。重すぎて息ができなくなるかと思っていた。
それでも歩く理由があった。
歩く理由があったはずだった。
「……」
膝をつき、星屑を見上げる。
その光は温かく、手を伸ばせば届きそうで。
「どうして欲しいんですか?」
星屑が問いかける。
「素直に、言いましょう」
「……もう、終わりたい」
だから──、苦しさと恐怖で、縋るようにそれしかいえなかった。
「そうですか」
星屑は優しく微笑んで──
ドン、とカズサを突き飛ばす。
「…………え?」
ニコニコと浮かべる笑みは変わらない。
「お願いするというのなら、それらしい態度を取ってください。どうか叶えてくださいと、媚びて媚びて媚びて見せてください。お手本は──何度も見せて上げましたよね」
「は、はは……」
なぜ笑っているのか自分でもよくわからない。ただ、言われるままに腰を突き出し股を開き、自らの割れ目もこじ開けて慈悲を乞う。
「どうか……どうか私を……誰一人救えやしない、惨めで、淫乱な雌猫キャスパリーグを、杏山カズサを──めちゃくちゃに……終わらせてください」
バカのように腰を振る。卑屈な笑顔を浮かべ、喜んでもらおうと一心で。
そんなカズサの眼前に極太のディルドが突きつけられる。
カズサがアイリを貫いたものだ。今も彼女の血が黒々としたそれを濡らしている。
「素直な子にはご褒美をあげます。これで、めちゃくちゃにしてあげます」
「ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……」
「嬉しいですか?」
嘘はいらなかった。
「はいぃ♡嬉しいです♡」
「なら、叶えてあげましょう」
「あ゛♡」
ズドッ、それまで細長い管のようなものした挿れたことのなかったカズサの秘所に太く杭が打ち込まれる。
バチュンッ、バチュンッ
ねじ込まれ押し広げられた膣道からは血が愛液と混ざりピンクの泡となって溢れ出た。
「お゛♡んお゛♡っごい♡♡♡奥の、じきゅうがぁ゛♡♡ぐちゃっで♡♡ごんなの゛♡ごんなの゛じっだらも゛う゛♡♡♡」
「しっかり捏ねて捏ねて♡屈服することが気持ちいいって教えてきたキャスパリーグの子宮♡今♡止めを♡刺してあげますからね♡」
バチュンッ、バチュンッ、バチュンッと。
水袋を叩くような音が繰り返す。
「お゛ん゛♡あ゛ん゛♡あ゛っ゛♡お゛ぼっ♡」
胎の中が燃え、その熱が一瞬で全身を焦がす。
「ほら、終わりたいんでしょう!赤ちゃん作る部屋、雌猫発情サンドバッグにして……終われ!お前も!!人として終われ!!終われ!!!終われ!!!!」
上から両手で子宮とその先の卵巣まで押し潰し、膣内からは極太の逸物が本来開くはずもない入り口をこじ開ける。
「あ゛〜〜〜〜〜〜〜っ゛♡」
伸び切った爪先が痙攣を繰り返し、繋がったまま尿道から小水を漏らす。
反り返った体の先、カズサの頭は耳をピンと伸ばし、白目を剥いてよだれを垂らしている。
ひどい有様だ。
だが、レイサの仕事はまだ残っている。
「杏山カズサ、まだ気を失ってはいけません!聞こえますか!キャスパリーグ!」 
「ぁ……ぅあ♡…………♡」
頭上でチカチカと明滅するヘイロー。
そこに、星屑レイサの手が伸びる。
「あひゃっ♡♡」
ビクンっとバネ仕掛けのようにカズサの体が跳ねる。
「びゃっ♡んにゃぁあ♡♡♡」
そんなカズサの反応を無視してレイサは掴んだカズサのヘイローをまるで針金を曲げるようにぐにゃりぐにゃりと捻じ曲げていく。
「あなたが願った通り、終わらせてあげます。けど、終わらせてどうするかまでは聞いてませんから……ひひ、こちらで好きにやっちゃいますよ?」
「ぁひゃ♡ひゅー♡ひゅーー♡」
捻れるたび、体の穴から汁が飛び、折り曲げられるたび体が跳ね回る。
ヘイローが、魂が、杏山カズサが形を変えてゆく。

それは、古くはトリニティの由緒正しき家柄の本邸だったという。元の住人もいなくなり長らく史跡として残されながら新たな活用方法を模索されていた。たが、キヴォトスが荒廃し遺棄区域に含まれた後は荒れるに任せた幽霊屋敷と化していた。立地も悪いせいで浮浪者もろくに寄り付かない。
そんな館の荊が幾重にも絡まった柵の向こう。
無人のはずの庭園を歩く二人の人影があった。
「ママー、お花摘んできたーー!」
猫耳をピコピコと動かして無邪気に母の元に駆け寄る。
「きれいなお花ですね、ありがとうございます。キャスパリーグ」
「えへへ」
会話だけなら微笑ましい筈だ。
だが、幼げな言葉遣いで母と慕うのは成熟した体つきで切れ長の目をした美しい女性。母と慕われるのは逆に小さく幼げな容貌の少女だった。
立場も言動も何もかもがべこべだった。
いや、仮に立場が逆だったとしても二人の年齢差は精々が姉妹で親子にはとても見えない。
「さて、それじゃあこの後はお茶に──」
母と呼ばれた少女、星屑宇沢レイサにキャスパリーグ杏山カズサがもじもじと指を突き合わせて懇願する。
「ママ……おっぱい欲しい」
「またですか?お姉さんになるんだから少しは我慢しないとダメですよ」
「え〜〜だってぇ〜〜」
泣きそうな声を上げるカズサ。
その様子に仕方ないとため息をつく。
「仕方ありませんね」
上をはだけ、母と名乗るにはあまりにもささやかな乳房を露わにする。
「さぁ、いいですよ」
許しが出たことに歓声をあげカズサはレイサの元に駆け寄った。
「ママ、マーマ!」
「んっ♡そうそう、キャスパリーグは上手ですね」
「チパッ、チュパっ、チュッ……うん、だって今度ナツちゃんにやってあげるんだ」
「流石はお姉ちゃんですね」
舌を絡め、吐息で濡らしながら乳房を嬲る様は、子供のおっぱいと呼ぶにはあまりに淫らだった。
そのカズサを褒めるように、頭を撫でるのではなく股の間を弄るレイサの行いも明らかに娘に対するものではなかった。
「んっ……♡やっん♡おまた、ジンジンする……♡」
「それは気持ち良くなっている♡証拠ですっ♡」
「あっ♡あ、あぁ♡ああぁ♡あうっ♡」
レイサの胸を吸っていたカズサがビクンビクンと体を震わせる。レイサの手によって気をやったカズサの愛液が庭の芝生を濡らした。
「これで満足しましたね」
「うん!」
胸をしまうレイサにカズサは元気よく答える。
「こっちのお花はアイリちゃんにあげるの!」
「キャスパリーグは本当にアイリさんのことが好きですね」
「うん!!」
手を繋ぎ、所作だけはまるで本当の家族のように屋敷へと戻る道を歩く。
「あ、アイリちゃん!おーーい!」
その二階の窓辺に少女の影を見てカズサは元気よく手を振った。影が答えることはない。
あの日、カズサに血まみれになる程に犯されたアイリは心を完全に壊し、息こそしているものの外界からの刺激には何の反応も返さない人形のような状態となっていた。
「アイリさん、何か言っていましたか?」
「気をつけて帰ってきてねって」
「そうですか。じゃあこの前みたいに走って転ばないようにしないと」
「あんなの、たまたまだもん!」
「そんなこと言って。この辺りは段差も多いんですから。ちゃんと手を繋いで歩くこと、いいですか」
「ぶーー」
「もうすぐナツさんとヨシミさんのお姉さんになるんですよ?なら、ちゃんとしないと」
「……はーい」
不貞腐れながらも渋々と返事をし、キュッと手を握り返す。
こういうところは本当にかわいい。
最近ここへ連れてきた柚鳥ナツと伊原木ヨシミの調教も順調だ。"今のカズサ"の内には外に出すこともできるだろう。
「これからもっと賑やかになりますね」
屋敷へと一歩一歩、歩きながらレイサはこれまでのカズサに思いを馳せた。
ニャーニャーと鳴き服も着ず猫として過ごすカズサがいた。敬虔なシスターでレイサのことを導くべき哀れな悪人と扱うカズサがいた。
その都度レイサはカズサと親しくなり、絆を深め──最後には私を壊してくださいと懇願させた。
あの日、最初のカズサを壊した時からレイサはずっとそんなことを繰り返していた。
壊してはまた新しいカズサを作り、そのカズサが大切と思えるほどに絆を深めるとそれを壊す。
杏山カズサを使った一人遊び。
「ママぁ、今日のお茶のお菓子は何?」
「うーん、どうしましょうか」
甘いもの好きの可愛い娘。
このカズサもいずれは壊さずにいられなくなるのだろう。
ママ、ごめんなさい、ママ。
そんな風に泣きじゃくるカズサを今から想像して、レイサの下腹部がほんのりと熱を帯びる。
「クッキーか、チョコレートか……あ、ショートケーキが残ってましたね」
「ケーキ!!」
何度壊しても飽きることがない。
幾度出会い直しても褪せることのない。
星屑レイサのキャスパリーグ。

砕けて散った星屑は猫を連れて星の彼方へ消えてゆく。滅びも、終わりも必要なくなったから。
世界より、欲しいものが手に入ったから。

「それじゃあ、ママはお茶の準備をするので、あなたはアイリさんを席に連れて行ってあげてください」
「まかせてー!」

かくして星屑はキャスパリーグによりこの館へと封印された。
外の世界への興味は失せ、ただ小さな箱庭の中でどこか狂った日常を過ごす。
争いも苦しみも遠い。
壊れた少女たちは今日も笑う。
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