白い鳥


ドッドッドッドッ
深い森の中、自らの心音がうるさいくらいに響いていた
…妙な感覚だった。風の音や目の前の呪霊が動く音が聴こえてもおかしくない筈なのに何も聴こえず、まるでこの場には自分だけなのではと錯覚する。

目の前の呪霊はさして楽しくも無さそうに新鮮な肉塊を弄んでいた。ほんの先刻まで任務について話していたあの塊が、ただの細かい肉になったら今度は俺の番だろう。

自らの「死」が近づいているのに対して俺は恐怖を感じていなかった。陳腐な言葉だが、人間はいつか死ぬんだ。ここで死のうが、100年後死のうが何も変わらない気がした。

…その時、俺と呪霊の間を白い鳥が横切った
何処かで見たことがあるような鳥だった。
そうだ、確か雪山に遭難した時に同じ鳥を見たんだった。宗治が食べようとしたのを大翔と二人で止めたんだっけ。あの時は楽しかった。また来年も遭難しようと三人で笑いあったのを今でも覚えている。

…目が覚めたような気がした。俺はまだ死ねない。もっとあの変な先輩達の事を知りたい。もっと大翔とくだらない話をしたい。もっと宗治の漫画を読みたい。

腹から、全身から呪力が溢れ出してきた。

こんなところで死んではダメだ。アイツらを呪ってしまう。

もう動くことは無いと思っていた脚で立ち上がる。

呪わなければいけない。生きる為、最期の一滴まで。

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