先生、お見合いするってよ4


オーバーヒートしてしまったマリーの介抱をナギサに任せ、私は会場内にいる他の子達へと視線を移していく。
(マリーには悪い事しちゃったな。後でちゃんと謝らないと……)
先ほどのマリーの真っ赤に染まった顔を思い返す。
(マリーのあんな顔、初めて見た。私の事をあんなに……いや違う。きっとこの会場にいるみんながそうなんだろう)
ヒナの付き添いであろうイブキはともかく、ホシノ、ヒナ、ナギサ、マリー。
全員が私に対して明確な好意を抱いてここに来ていた。
つまり、彼女達は私とのお見合い、ひいては私と結ばれることを望んでいるのだ。
正直な話、彼女たちはみんな女性としても非常に魅力的な子たちばかりだ。
私も一人の男としてそんな彼女たちに好意を向けられて嬉しくないわけがない。
けれど私は先生だ。
生徒を導く者として生徒とそういう関係になることは許されない。
しかし、私はこうも思うのだ。
このような事態になってしまっているのはひとえに私がハッキリせず、彼女達からの好意をのらりくらりと躱し続けていたのが原因だったのではないか。
「……愛想を振りまいて、か。確かに母さんの言う通りだったかもしれない」
私は本当は彼女たちの想いを知りながら、見えないフリをし続けていたのだ。
それはなんて残酷で罪深いのだろう。
そんな自責の念が頭の中でぐるぐると渦巻いていると、顔に出てしまっていたのか、不意に私を心配する声がかかる。
???「あの、大丈夫ですか先生?」
先生「あ、いや、大丈夫。ちょっと考え事を……って、フウカ!?」
フウカ「はい、フウカですよ先生♪それとーーー」
???「もぐもぐ……ごくん。私もいるよ先生」
先生「ナグサまで……!ていうか、また何か食べてる!」
現れたのは頭に生えた大きなツノが特徴の少女、愛清フウカと白い肌に白い髪が印象的な少女、御稜ナグサだった。
ナグサ「ふふ、最高級ホテルって銘打ってるだけあってどの料理も美味しいよ。先生も食べる?」
そう言うとナグサは素早く料理を取り分け、私に差し出してくれた。
先生「あ、ありがとうナグサ。いただくよ」
フウカ「先生、こちらのお料理もいかがですか?口に含んだ際のとろけるような甘味が絶品ですよ♪」
先生「うん、ありがとうフウカ。じゃあ二人とも一緒にご飯を食べながら少し話そうか」
ちょうど小腹も空いていた頃合いだったので、私はフウカとナグサと一緒に食事を取ることにした。
ナグサ「フウカ、こっちの肉料理も絶品だよ。はいあげる」
フウカ「あ、ありがとうございますナグサさん。……はむっ。ん〜!美味しい〜♡」
料理を囲み談笑しながら私は二人の姿を眺める。
フウカは、正月に披露してくれた晴れ着を身に纏っている。
あの時にも感じたが、ピンクと白の花柄が彼女の可憐さを見事に引き立てており、非常に可愛らしい。
ちなみに、今回はパーティーということもあってか、首元のショールは身につけていない。
フウカ「……?あ、この衣装気になりますよね……」
先生「いや、じっと見てしまってすまない。不快にさせたのなら謝るよ」
フウカ「い、いえ!そんなことはっ!……本当ならパーティー用のドレスを新調したかったのですが、予算的に参加費だけでも厳しかったので……」
情けない話ですよね、とフウカは照れ笑いする。
フウカにそこまで無理をさせてしまった事に一抹の罪悪感が胸に突き刺さる。
先生「ごめんフウカ。私なんかのために無理をさせてしまって……」
フウカ「謝らないでください先生。このくらい毎日の給食部の活動に比べたらへっちゃらですから!」
先生「でも……」
ナグサ「もぐもぐ。……私はフウカのその衣装とても似合ってると思う。百鬼夜行の生徒みたいな自然な着こなしですごく良い。もぐもぐ」グッ!
ナグサはそう言うと串料理にかぶりつきながらキラリとサムズアップをする。
フウカ「あ、ありがとうございます……!百鬼夜行の生徒さんにもそう言っていただけるなんて嬉しいです!」
百鬼夜行は和服の生徒も多い。
そんな和服の本場とも言える学園の生徒からの褒め言葉にフウカは笑顔で喜ぶ。
ナグサはそんなフウカを見るとすぐさまこちらへアイコンタクトを送って来た。
先生「!……そ、そうそう!私もフウカのその衣装すごく似合ってたからもう一度見たいなー、って思ってたんだ。また見れるなんてすごく嬉しいよ!」
私はフウカへできる限りの身振り手振りで喜びを伝える。
少々大袈裟な喜び方かもしれないが、実際フウカの晴れ着姿は素晴らしいのだからしょうがない。
フウカ「ほ、本当ですか!ふふっ、それなら安心しました♪」
安心したのかフウカはホッと胸を撫で下ろした。
助け舟を出してくれたナグサへ感謝のアイコンタクトを送ろうと彼女の方を向く。
すると、ナグサは頬を朱に染め、不安そうな上目遣いでこちらを見つめていた。
ナグサ「それで先生、私はどうかな?……その、似合ってる?///」
普段の彼女とのギャップに一瞬くらっとしかけるが、すぐさま意識を戻し彼女の服装を見る。
ナグサが着ているのは、薄いピンクの薔薇、赤い蓮華、青い桔梗の三種類の美しい花があしらわれた白と薄い水色の着物だ。
加えて普段の長い髪をひとつまとめにし、雪の結晶の飾りがついたかんざしを指している。
また、自身の右腕を隠すためか着物の上からいつもの百花繚乱の羽織を羽織っている。
先生「うん、ナグサらしい透明感があってすごく綺麗だよ」
白い肌に白い髪、そして着物。
透き通るような美人とは彼女のような女性を言うのだろう。
どこかの自称超天才なんちゃら美少女ハッカーとは大違いだ。
……と言うと、すぐにでも鬼電が掛かって来そうなので喉にまで出かかった言霊をグッと堪えることにした。
ナグサ「そ、そう。それはその、よかった///」
ナグサの白い肌がほんのり赤みを帯びる。
先生「……ところで、二人はどういう関係?」
フウカとナグサ。
方やゲヘナの給食部部長、方や百鬼夜行の百花繚乱紛争調停委員会の副委員長。
学校も違えば立場や性格も何もかもが違う二人だ。
そんな二人が一緒にいるのは何故か、ちょっとした好奇心が働いたのだ。
フウカ「どういう関係、というほどのものではないのですが……」
ナグサ「さっき私が料理を取りに行ったら、その前でメモを取ってたから声をかけたの」
先生「えーと、それはどういう……」
二人の話を聞けば、フウカは今回のパーティーでお見合いが第一目的ではあるものの、せっかく最高級のホテルに来たのだから料理の味を少しでも盗んで行こうと考え、会場に到着してからずっと料理のメモを取っていたのだという。
そして、そんな熱心にメモを取るフウカの姿が気になったナグサが声をかけ、二人で料理の話をしていたところに顔色の悪い私が通りかかったというわけだ。
フウカ「ちょっとはしたないかなって思ったんですけど、こんな豪華なホテルの料理を口にする機会なんてあまりないですし……それに少しでも味が再現できればみんなにもっと美味しい給食が提供できるかなって思いまして」
先生「そっか、やっぱりフウカは優しいね。パーティーでもみんなのためにメモを取ってるなんて」
フウカは誰かのために必死で頑張れる子だ。
そんなどこであっても変わらないフウカの姿は私としても誇らしい。
フウカ「い、いえ!そんなことは!私が好きでやっていることなので……」
先生「それでもフウカはすごいよ。好きだからって言っても誰にでもできることじゃない。胸を張って誇れる立派なことだよ」
ナグサ「うん、フウカの謙虚さは確かに美徳だけど、やりすぎはダメ。正直さっき聞いた毎日4000人分の給食とか凄すぎて規模が分からないくらい。ホントにすごい」
フウカ「そ、そうでしょうか……?お二人にそこまで褒められると、その、嬉しいです///」
フウカは観念したのか私達の賞賛を素直に受け入れた。
フウカ「そ、それに……レパートリーが増えれば、先生にもっと美味しい料理をたくさん食べていただけますし……///」(ボソリ)
先生「え?なんて?」
ナグサ(……この娘、意外と強かかも)
先生「あれ?でもナグサって料理できたっけ?」
ナグサ「う、私は料理はあまりしないけど……。フウカには百鬼夜行の料理やお祭りの屋台料理について話してたの」
フウカ「百鬼夜行の料理は味付けが繊細だと聞いたのでずっと興味があったんです」
ナグサ「うぅ、ごめんフウカ。私がもっと料理ができれば、レシピとか教えてあげれたのに……」
ナグサは目尻に涙を浮かべながら申し訳なさそうにフウカに謝る。
フウカ「な、泣かないでくださいナグサさん!ナグサさんのお祭りのお話とか屋台の料理のお話とかすごく楽しかったですし、ナグサさんのお話でもっと百鬼夜行に行ってみたいって思えましたのでっ!」
それに料理なら今度お会いした時に一緒にしましょう、と泣きそうになっているナグサを宥めるフウカ。
(それにしても、ナグサってこんなに泣き虫だっけ?他に知り合いがいないから素が出てるとかなのかな……)
ナグサ「料理もできないんじゃ、先生も私を選んではくれないよね……グスッ」
急な爆弾発言するナグサ。
フウカ「っ……///」
フウカもそれを聞き、このパーティーでの本来の目的を思い出したのか、頬を赤らめ俯いてしまう。
先生「そ、それは……」
ナグサ「……先生忘れてたでしょ。でも、ここはご飯を食べる会じゃなくて、先生のお嫁さんを決めるパーティー。そして、私を含めてここにいる全員が先生のことを好きでいる。つまり全員がライバル」
ナグサの表情は涙目から一変、“あの時”に見せたような真剣な眼差しで私を見据える。
先生「ええと、お嫁さんを決めるんじゃなくて、正確にはお見合いパーティーなんだけどなぁ……」
ナグサ「でも、お見合いが成功すれば結局は同じ。……私はこんな体だし、料理もできない、泣き虫で弱虫の臆病者だけど……。それでも、先生への想いだけは誰にも負けないつもり///」
ナグサは自分のことを卑下しつつもそれでもと啖呵を切った。
一方でフウカはというと、彼女もまた意を決したのかナグサを正面から見据える。
フウカ「わ、私も!先生のことが、だ、大好きなのは同じです……!///」
ナグサ「……フウカは良い子ですごい子だけど、ここだけは譲る気はない」
フウカ「私だってナグサさんにも、ここにいる誰にも負けるつもりはありませんっ!」
二人は立ち上がり、目から火花が出るほどにお互いを見合う。
一触即発。
ピリピリとした空気が周囲を包む……かに思えた。
ナグサ「……とは言っても、それを決めるのは先生であって私達じゃない。それにパーティーはまだ始まってすらいない。そこで存分にアピールすれば良い」
フウカ「……そうですね。これだけの方が来てる以上、どんな結果になっても後悔のないようにお互いベストを尽くしましょう」
二人は先ほどまでの凄みはどこへやら、普段通りの落ち着いた雰囲気へと戻っていた。
そして私の方へと向き直る。
ナグサ、フウカ「「先生、よろしくお願いします」ね」
短いながらも二人のその言葉には言葉以上の覚悟が乗せられていた。
私は二人の覚悟を受け取るとこちらも真剣に二人を見据える。
そうだ、これは私だけの問題ではない。
ここにいる全員が自分の今後の人生を左右するかもしれないことを覚悟して来ているのだ。
ならば私にできるのは、彼女たちの想いを受け止め、その上で答えを出すことだろう。
ーーーそれがたとえどんな結果になろうとも。
先生「うん、こちらこそよろしくね」
その後、3人で食事を終えた私は開始時刻までの時間を確認しつつ、二人の席を後にするのだった。

つづく
お知らせ
実務でも趣味でも役に立つ多機能Webツールサイト【無限ツールズ】で、日常をちょっと便利にしちゃいましょう!
無限ツールズ

 
writening