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※カルデア時空
ご都合主義の霊基バグにより女体化した地右衛門と無自覚伊織君が地右衛門を意識し始めるお話




 ムニリ、と己の手の内に収まる柔らかな弾力に宮本伊織は一瞬それが何か理解出来なかった。大きさはささやかながら、以前セイバーと食堂で食べたましゅまろという菓子にも似た心地良い感触で……………しかし、何故それがこんなところに?と疑問を浮かべフニフニとその物体を探る。

「…………ひゃ!?」

 突如目の前、というか今しがた押し倒してしまった地右衛門が声を上げた。それが、いつもの彼の声と異なり違和感を覚え、慌てて声を掛ける。

「すまない地右衛門。怪我はないだろうか」
「……………け」
「?、今なんと?」
「……退けろって……」

いつもより覇気もなく顔や耳はほんのりと赤く色付いている。倒れた拍子にどこかぶつけたのだろうか。先程までマスターと共に特異点に赴いたと耳にしていたが、その際に怪我でも負ったのか。

「どうした?様子がおかしいぞ。怪我をしたなら早く医務室に、」
「だから、たったとその手を退けろ!!」

指摘をされ改めて伊織は視線を下ろす。

 己の手が地右衛門の胸部がしっかりと掴んでおり、なるほど先程の柔らかさの正体はこれかと理解する。けれど同時にこれはまるで女人の胸では?己の知っている地右衛門は男では?というか嫁入り前の女人の胸部に触るのは悪しきことだろう良くないことだろうと次々と思考が浮かんでは沈み、やがてゆっくりと地右衛門の上から体を退かし廊下の上に膝をつくと頭を深く下げ、それは見事な土下座を見せた。

「……………すまない地右衛門、責任は取る」
「気色悪ィこといってんじゃねぇぞ!!!」


地右衛門の甲高い怒声が辺り一帯に響きわたる。



 ことの経緯は、今回のレイシフト先で受けた敵の攻撃のようだ。攻撃とは言っても傷を負うわけでなく、それ以上に厄介なことに霊基に異常を起こすものだった。地右衛門のように性別が変わる者もいれば、ある者は幼児化し、またある者は犬やら猫やらに姿を変え、しかもその姿に影響されてかステータスも著しく減少している。


幸い聖杯は無事に回収出来たので特異点と共にその異常も暫く時間を置けば治るだろうとダヴィンチは笑顔で口にした。

「まぁ、もし待てないって言うなら手っ取り早く魔力供給でもすればちょちょいと治るからさ!」
「わぁ、ダヴィンチちゃんメタ〜い」

そんなご都合主義の霊基バグに慣れたカルデアマスターとサーヴァント一同が話は終わったと解散する中、地右衛門は1人途方に暮れた。

戻れるものなら早く元に戻りたい。

けれど魔力供給とは果たして如何にすればいいのか。魔術が多少使えるとはいえ、そこまで深く通じてるわけではない。加えて本来聖杯から得られる知識も、この霊基異常の影響のせいか遮断されてしまい、人に聞こうにも今の姿を見られるのは抵抗があり、治るまでは大人しく部屋に籠るかと戻る道中で伊織と出会してしまったらしい。


「………なるほど、そういうこともあるのか」
「他の連中には言うなよ、口にしたら燃やす」

 あの状況で地右衛門1人にするわけにもいかず、ひとまず部屋まで送り届けたはいい。
そのまま退散しようとしていた伊織を制するように腕に絡みついて威嚇のつもりなのか低い声で釘をさしてくる。が、いかんせん普段より背も低いことがあって迫力はさほど無い。

…………なによりも、あの柔らかな感触が、腕にあたっている。

態とではないんだろう。それは分かる。しかし距離が近過ぎて少しでも地右衛門の方を見遣れば着物からチラリと覗く胸元がやたらと目についてしまう。
 
「おい聞いてんのか、宮本伊織ィ」
「……そのだな、」
「聞いてんなら返事くらいしやがれ、つぅかなに顔逸らしてんだよ」
「………っ仔細はわかった!公言する気は毛頭ない、この件は俺の内に秘めておく……ので少し離れてくれないか」

顔を逸らし必死に己の中の欲を抑えようとする伊織に気付かず、地右衛門はぐいぐいと体を押し付けてくるものだから堪ったものではない。

「はぁ?」
「先程から距離が近過ぎる。今は女人の身なのだからこうして無防備に異性に接するのは些かどうかと……」

情けなくも段々と言葉が尻すぼみになっていく。しかし、どう言えば怒らせずに穏便にこの事態から脱するのか伊織自身も手一杯だった。

「…………何言ってんだテメェ?」

そんな伊織の内心などつゆ知らず、幼子のように小首を傾げる姿にうぐっ…と言葉が詰まり、同じ男であるなら察してくれと思うと共に段々と己の発言がだいぶ浅ましくはないかと不安になってきた。

「こんな体に欲情する物好き、いねぇだろ」

揶揄いも皮肉もなく心底からそう思っているのか着物の裾に手をかけ躊躇いもなく伊織の前にその肌を晒し出す。そこには不健康そうな青白い肌と、生前の彼がいかに苛烈な人生を送っていたか物語る斬り傷や火傷痕が刻まれている。

同情、憐憫……そんな情を一摘みでも抱ければ良かった。いや頭の片隅では僅かながらにあったのかもしれない。それ以上に手折れるほどに細く、けれど男の体と違う丸みを帯びた柔らかな肉体に伊織は思わず喉を鳴らす。
 このカルデア内でそれこそ美女は見慣れたものだし露出にしてもかなり際どい格好の者もいる。けれど伊織自身は彼女らにそこまで関心を示すこともなく、地右衛門が元は男だとしてもその裸体にこんなにも強烈に惹かれてしまうのか分からなかった。

…………あぁ、理解したい。

プツリと己の中で何かがことキレてそのまま力任せに地右衛門を押し倒す。相変わらず何が起きたのかわからないといったようにこちらを見返す瞳はどこまでも無垢だった。


「何しやがる……!」
「教えてやろう、地右衛門」

あまりにも警戒心のない獲物のさまに、ついつい口元には笑みが浮かんでしまう。
残念ながら、そうした物好きな輩はいるのだ。少なくとも今ここに1人。
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