愛欲臨界 Berserker's Lust


カルデアに召喚された同人鬼伊織と地右衛門オルタリリィのよく分からない話。
捏造設定しかない。長ったらしいギャグのような何かです。




男の話をしよう。
 生に疲れた瞳は語る。
愛を求める時、男は獣と等しくなる。
 “俺の全ては、神のために。”


俺の数に対して地右衛門が足りない、と伊織は嘆いた。
足りないなら増やせばいいじゃない、とマスターは笑った。

どう接するべきか解らない、と伊織は嘆いた。
アヴェンジャーとリリィではまだ足りない、とマスターは笑った。

地右衛門オルタリリィを召喚したよ、とマスターは笑った。
まるで地獄を煮詰めたような概念だ、と伊織は嘆いた。

被虐体質スキル持ちだから気を付けてね、とマスターは笑った。
自分は彼を正しく愛せるだろうか、と伊織は嘆いた。


可能性は幼い霊基の中で結合する。
切傷を縫い合わせるように、固まる血液が傷を塞ぐように。

絶望を具現する子供は語る。
すべてを諦めたからこそ、自身の存在も許せるのだと。



 カルデアという場所では、同じ英霊の別側面が違うクラスとなり別個体で召喚されることも少なくない。
 ブリテンの王は全てのクラスを制覇する勢いで様々な可能性や人生を辿った彼女が複数存在しているし、オルレアンの乙女もまた、水着だったり幼いサンタだったり、様々な姿でカルデアに集っている。

 宮本伊織もまた、複数人の自分がサーヴァントとして存在している類の英霊である。
 盈月の儀に参加し、その記憶を失くしたセイバーの伊織。アルターエゴは剣の道のみを求め、他を余分として捨て去った剣鬼の伊織。サバフェスでなんやかんやあって誕生した同人誌を作成し続けるバーサーカーの伊織。
 正統派からイロモノまで、多数の可能性が存在する宮本伊織だが、不思議とカルデアに召喚される彼は高確率で地右衛門へと惹かれる運命にあった。
 しかし、バーサーカーこと通称同人鬼の伊織がカルデアへと正式に召喚された時には、既に一人の地右衛門に対して二人の伊織が言い寄っている状況であり、新参者の伊織が入る余地など無かった。
 そしてそれをマスターに愚痴ったところ、「じゃあ、増やそうか。召喚で」とあっさりと言ってのけたのである。足りなければ増やせばいいじゃない。カルデアだもの。と言いながら親指を立てたマスターは、実にあっさりとカルデアに新しい地右衛門を喚び寄せた。
 そうして喚ばれたのが、地右衛門の復讐鬼としての側面と島原の怨霊達の集合体であるアヴェンジャーと、悲劇に見舞われる前の少年、もしくは明るい未来の可能性の象徴であるアルターエゴである。
 なんとも両極端な二人の地右衛門を前に、同人鬼伊織は怯んだ。剣をペンに持ち替えた彼は、オタク特有のコミュ障をスキルとして取得してしまった為に、他の宮本伊織よりも若干に人見知りなのである。復讐心マシマシのアヴェンジャーは勿論のこと、どこまでも純粋無垢な幼子との距離感など上手く掴めるはずもない。というか、前者は伊織を見るとまるでバーサーカーの如く会話が通じなくなるし、アルターエゴ、通称地右衛門リリィは成人向け同人誌を執筆している自分が近付いて良い存在なのかすら解らない。
 そもそも幼子は愛でる対象ではあるが性的な触れ方をしてはいけない。YESロリショタNOタッチ、というやつである。……これ、俗に言う詰みというやつでは?

 そしてそんな心境をまた愚痴ったところ、マスターはやはりにっこりと笑って「じゃあまた増やそうか。大丈夫大丈夫。君の同人誌のおかげで地右衛門の可能性はだいぶ増えたからね」とこれまたあっさりと言ってのけたのである。水着に着替えるだけで別人認定。ソシャゲだもの。と、林檎の描かれたカードを財布から取り出すマスターの目はどこか遠くを見つめていたが、これを理解したらもう戻れないような気がしたので、伊織は何も言わずに召喚へと向かうその背を見送ったのである。
 そうして再度の召喚により喚び出された新しい地右衛門を初めて目にした時、伊織は絶句した。何も言葉が出てこなかった。そんな伊織の様子に気付いているのかいないのか、マスターはいつもと変わらない笑顔で新入りを紹介したのである。

「この子は地右衛門オルタリリィ。既にいる地右衛門リリィが光と可能性の象徴だとしたら、この子は闇と過去の象徴……所謂『おのれ森宗意軒』案件と同人的邪推を盛り込んだ悲劇の具現化みたいな存在だよ」
「そんな可哀想な路線の破廉恥など望んでいないが!?」

 幼子に背負わせるにはあまりにも重い設定というか、地獄のような概念である。既に成人済の登場人物の過去としてちらりと匂わせるだけならまだしも、幼子に現在進行系で背負わせるものではない。可哀想なのは抜けない。同人バーサーカー宮本伊織は左右組合せ完全固定派であると同時に、基本的にはハピエン厨なのである。モブレは地雷。ダメ絶対。受け(地右衛門)に手を出すのは攻め(俺)だけでいい。

「じゃあ伊織、後は若い二人でごゆっくり!自分はちょっと周回に行ってくるから!」
「ま、待ってくれマスター!」

 言うとほぼ同時に走り去っていくマスターは伊織の制止など全く聞かずに姿を消した。コミュ障を初対面の相手と二人きりにしないでくれ、という伊織の切実な思いなど全く考慮してくれない。ああ、我がマスターよ。行動力の化身よ。マスターは人の心がわからない……。

「……あの」

 一人脳内で長々とモノローグを垂れ流す伊織へ、覇気のない小さな声が呼び掛ける。はっと顔を上げた伊織の目に、自分を見上げる、まるで闇のように光の無い瞳の子供が映る。

「……地右衛門といいます」
「あ、ああ……。俺は伊織という。その、これから宜しく頼む」
「はい……」

 幼い子供に気を使わせてしまった、と落ち込む伊織に、地右衛門は無表情のままに再び口を開いた。

「戦力としては役に立たないですけど……。必要なら、好きに使ってくれていいので……」
「使う、とは」
「もう死ぬこともないみたいなので……。首を絞めるなり、叩くなりも、お好きにどうぞ」

 ひゅ、上手く飲み込めなかった息が喉に詰まる。それと同時に思い出すのはマスターの言葉と、先程自分が脳内で散々に否定した地雷シチュエーション。つまるところ、この幼い地右衛門にとってモブレは現実であり、経験として根付いている……。

「安易にそんな事を言ってはいけない……!そんな風に自分を安売りしないでくれ……!」
「……一度したなら、もう二度も三度も変わらないので……。これも神に裁いてもらう為の罪だと思えば、まあ、いいかなって……」

 完全にハイライトの消えた瞳で語る言葉に、おそらく嘘偽りはない。この子は全てに絶望し、他者も自分もどうでもいいと思っているのだ。だから簡単に自分を投げ出すような事を言えるのだろう。

「頼むから、自分を大切にしてくれ……!」

 血を吐くような伊織の叫びにも、地右衛門は全く表情を変えることは無い。彼の心に伊織の言葉が全く響いていないのは、火を見るより明らかだった。
 きょとんと心底理解出来ないものを見るように伊織を見上げながら、地右衛門が小さく首を傾げる。ふわりと揺れる黒髪。その毛先が触れた首元に残る、誰が付けたのかも分からない鬱血痕に目が奪われる。
 ……この子は、この子の身体は男を知っている。
 一度そう意識してしまうともう駄目だった。自分の年齢の半分にも満たない幼い子供に、どこか淫靡な雰囲気を、色気のようなものを感じて、胸がざわつく。
 傷だらけの肌に優しく触れて、啼かせたい。薄く小さな唇に舌を捩じ込んで味わい尽くしたい。古傷に舌を這わせ、上書きするように噛み付きたい。彼の最奥を暴いて、己が欲を、熱を注ぎ込みたい、蹂躙したい。
 頭の中を卑猥で卑劣な妄想が支配している事に気付き、伊織は我に返る。無意識に強く掴んでいた地右衛門の肩から慌てて手を離そうとすると、それを阻むように、地右衛門が小さなその手を伊織の手へとそっと重ねた。

「いいですよ。あなたが望むなら」

 その言葉に宿る熱はない。愛も欲も無く、あるのは諦めだけ。 
 望まずに得た被虐体質。大人の男の煽る魔性の色香が伊織を誘う。
 ごくり、と唾を呑み込む伊織を地右衛門がじっと見詰めている。その瞳が快楽に揺らぎ蕩ける姿を夢想して、伊織の脳内を再び淫らな想像が埋め尽くす。
 ……ここで手を出してはいけない。ゲームで例えるのなら、この選択肢は完全にバッドエンド行きのそれだ。セーブ&ロードの出来ない現実で選んではいけないそれだ。解っている。解っているのに、抗い難い引力がある……!

 退け、我が余分。我が性欲。
 選ぶべき選択肢は──

▶地右衛門を犯す
 地右衛門を犯さない
 地右衛門を犯す
 地右衛門を犯す
 地右衛門を犯す


……いや、これ俗に言う積みと言うやつでは?宮本伊織は訝しんだ。
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