ある研究者の見た絶望


 その地の光景を見て、男は驚愕を覚えた。

 男は、研究者であった。テーマは、『天と地の力の成り立ち』だ。異なるとされる、2つの力がどこから来たものかを探っていた。魔法学から、あるいは歴史学から、はたまた地学から、生物学から。

 また、男には愛した者がいた。彼女といた時は2人の未来に、希望で彩って思い描いていた。———結局は、その画布も2つに、生と死に引き裂かれたのだけども。

 男は認めたくなかった。『天』『地』その2つの諍いが、自分たちを引き裂いたことを。その事から逃げるように。あるいは、問い詰めるように。この2つの世界を。ただただ突き詰めていった。

 否定したかったのだ。こんな、2つに裂かれたような世界など。見れば見るほど、違いのない2つに何故。———魔法学から、あるいは歴史学から、はたまた地学から、生物学から。天も地も、根本的な所で違いなどない。そう結論付けるのに時間はかからなかった。

 ある場所へ赴いた。人の身では到達する事が困難とされる場所。プラント王国とオーブ王国の間を隔てる、飛び飛びの険しい岩の群れ。地球人からすれば小惑星帯のミニチュアと呼びそうなソレ。

 忘れられた聖地イクシード。そこを囲むような、巨大な魔力痕、小島ごとの地形の変化、散らばる術式や武具。男はそれを戦争の跡だと仮定した。中心に近づけば近づくほどその跡も、埋もれた骨もおびただしく、魔力痕の違いは曖昧になっていく。

 その一点、中心で、一際大きな爆発の跡のようなものを見た。その中心で建っていた、一つの標石のようなものを見た。

 『人ヲ愛シ、愛サレタ女神。ソノ証ヲココニ刻ム』

 ハウメア教の有名な一節だ。人を愛し、愛された女神。ハウメアだろう。間違ってもメンデルと呼ばれる神ではない。

 男は考えた。メンデル教では、ハウメアは二人の『プリキュア』と呼ばれる戦士に任せ、1人雲隠れした女神だと言われている。ハウメア教では、悪を討つ為、二人の戦士に全てを託したとされる。以降、その神話に神は登場しない。

 男は考えた。『天の女神』メンデルが『地の女神』ハウメアを狙う理由など、一つしか無いからだ。だが果たして、地の力を奪えるのか? 根本的に同じ力なら可能だろう。2つ持てる、それだけの権能?

 男は考えた。2つを持つ? あるいは、一つに出来た? あるいは。———中心まで来た爆発の魔力痕が『天』や『地』のどちらともつかないこと。それが、一つの答えを示しているように見えた。

 男は考えた。一つだったものが別れた。天と地でそれぞれ手にし、天が全てを狙った(あるいは順序が逆だろうか)。地は天地問わず、人間に全てを託して消えた。

 仮説の域を出ないそれに、男は何故だか確信を抱くことができた。二つとしてあった世界、ではなく二つに裂かれた星。———かくて、『星の力』は『天』と『地』に分かたれり。

 『イクシード』。そこには、国どころか人と神、種さえも超えた絆があったのだろう。だが、結果はどうだ。そこの標石、いや、墓石が示す通りだ。全ては二つに分かたれた。天と地、生と死を以て。愚かな思惑のせいでだ。

 男は、希望の跡を見た。そして、世界への失望を、絶望を見た。

 ———異なる星へ昏い希望を見出すのは、もう少し先のお話。
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