――推しの幸せはヲタの幸せ!私、マモル氏のガチヲタですから!
<比率>
3:2:0
<時間>
20~30分
<登場人物>
遠野
【遠野マモル(とおの まもる)】男性
筋トレが趣味の会社員。ルミ子の飼い主。
ジムのインストラクターである香織に絶賛片想い中。ケンタッキーが好き。
ルミ子
【ルミ子(るみこ)】女性
遠野の飼い猫。の、霊。重度のマモルヲタ。
香織
【会田香織(あいだ かおり)】女性
遠野が通うジムのインストラクター。かわいい。筋肉を見る目がある。
笠原
【笠原(かさはら)】男性
寺川の兄貴分。ある犯罪の瞬間を遠野に目撃される。おっさん。
寺川
【寺川(てらかわ)】男性
笠原の子分。ある犯罪の瞬間を遠野に目撃される。っす。
<利用規約>
https://writening.net/page?bmsmZi
------------以下台本—----------
―とある町の路地裏
(遠野が脇腹から血を流して走っている)
遠野:はぁっ……はぁっ……!なんで……なんで俺がこんなことに……!うっ!
(遠野、転ぶ)
遠野:あぁっ!いてぇ!
(遠野、座り込む)
遠野:なんだよ……なんでこんなに血が出てるんだよ……。
(遠野、空を仰ぎ咳き込む)
遠野:俺……死ぬのか……?今夜はチートデイで、冷凍しておいたケンタッキー食ってビール飲むはずだったんだぞ……。で……明日は久しぶりにジムに……香織さんに会いに行こうと思ってたのに……なんで……。
(遠野、小さく笑う)
遠野:……死ぬのに、思い出すのはこんなことばっかなんて……俺の人生、結構しょうもなかったんだなぁ……。
ルミ子:そんなことはありません!
遠野:え……?
ルミ子:マモル氏は!最高に!ウルトラアグレッシブで、ファビュラスな方です!
遠野:白くてふわふわのそのフォルム……お前、るみ……こ……なのか?
ルミ子:あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、マモル氏ぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!私がついていながらこんなことになってしまい、申し訳ありません!ぶにゃあああああ!
遠野:はは、迎えに来てくれたのか……?やっぱり俺、死ぬんだな……。最期にお前と会話できて、よか、ったなあ……
ルミ子:うにゃあ!違いますよ!私はマモル氏を救いに来たのですよ!
遠野:は……?
ルミ子:マモル氏は、段ボールごと川に流され、子猫のまま儚く命を散らすところだった私を救い、天寿を全(まっと)うするまで育て上げてくれました!ですから私は、ずっと、ずぅぅぅぅぅっとマモル氏のおそばにいて、ご恩返しをするチャンスをうかがっていたのです!それが今!やってきたのです!そう!それはミラクルにアメイジングな神様の采配(さいはい)!
遠野:たのむ、早く……本題に入ってくれ……死ぬ……。
ルミ子:んなぁぁぁ!だめですよ死んじゃ!んもう、相変わらずせっかちな方ですねぇ。それじゃとりあえず……いっきまーす!にゃあああああああん!
(遠野、まばゆい光に包まれる)
遠野:え、ちょ、なにこれ!なにこれ!……うわあああああああ!
【間】
―とある町の路上
香織:遠野さん……遠野さん……!
遠野:ん……え……?
(遠野、目覚める)
香織:遠野さんってば!
遠野:……か、香織さん!?……って!ええっ!?
香織:大丈夫ですか、遠野さん。
遠野:俺……生き……てる。
(遠野、慌ててTシャツをめくる)
香織:遠野さん!?
遠野:傷が……ない……。
ルミ子:これが!私からの恩返しです!
遠野:うわぁぁぁぁぁぁ!
香織:きゃっ!
ルミ子:詳しいことはのちほど説明します故、とりあえずマモル氏は腹をしまって黙った方がいいと思うのです。
遠野:いやのちほど、ってお前
ルミ子:とにかく、このままじゃマモル氏は、路上で腹を出したまま独り言を言うやべぇ奴なので、マモヲタのルミ子としてもそれはちょっと……ねぇ?
香織:あのぅ……遠野……さん?
遠野:え?あ!うわあ香織さん!すみません!俺
香織:いいえいいえ!その、お腹の件は、全然。それより本当に、こんな道端で寝て、どうしたんですか?事故にでもあわれたんじゃないかって、心配したんですよ?
遠野:あ、ああ!いえ、その、前の晩にちょっと接待で飲みすぎちゃったみたいで……。ほら、金曜日だったし!
ルミ子:ナイス言い訳!さすがマモル氏!さすまもぉ!
遠野:うるさい!
香織:え?
遠野:あ、いえ、なんでもないです!ね!ほら!
(遠野、立ち上がる)
香織:でも……
遠野:とにかく、大丈夫なので!俺はこれで!
香織:あ、遠野さん!今晩トレーニングの予約入ってますからね~!忘れないで来てくださいよ~!
遠野:はい、もちろん!まかせてください!ではその時に!
(遠野、走り去る)
【間】
―とある町の電柱の影
笠原:おい、今の……
寺川:あの時の男で、間違いないっす、兄貴。
笠原:てめえ!ピンピンしてるじゃねぇか!お前、ちゃんと刺したんだろうな!?
寺川:そりゃもちろん!肺のあたりをぐっさりと!血もいっぱい出てたし、あれは間違いなく致命傷だったはずっすよ!
笠原:じゃあなんであんなに元気なんだよ!
寺川:そんなの分かんねぇっすよ!
笠原:ちっ、しかたねぇ。機会を見てまたやるしかねぇか……。サツに駆け込まれる前に始末しねぇとな。
寺川:顔は見られてないと思うんすけど……え、やっぱりやるんすか?
笠原:ったりめえだ!石橋は叩いて渡れ、ってのが俺のモットーなんだよ。
寺川:まあ……そりゃ大事なことっすけど。
笠原:とにかく、あいつを徹底的に監視して、タイミングを見計らう。いいな?
寺川:そして一人になった隙にぐっさり、っすね!
笠原:ああそうだ。おい寺川。
寺川:はい!
笠原:いざって時に通行人に顔を見られたらまずい。これでサングラスとマスク買ってこい。ついでに軍手もだ。
寺川:指紋対策っすね!さっすが兄貴!すぐに行ってきます!
笠原:待て。
寺川:どうしたっすか。
笠原:マスクは周囲に安心感を与えるようなデザインにしておけ。そうだな、花柄とかがいい。
寺川:へっへ、まかしてくださいよ!そのまま保育園にでも行けそうなやつ、買ってきます!
笠原:おう、任せたぞ。
【間】
―遠野の自宅。
ルミ子:いやぁ、ここに帰ってくるのも久々ですねぇ。
遠野:……なあルミ子。
ルミ子:なんでしょ、マモル氏。
遠野:お前が俺の命を救ってくれたらしいのは、分かった。だが、それ以外がさっぱり分からん。説明してくれないか?
ルミ子:ええとですね、簡単に言うと、バフです、バフ。
遠野:バフ?
ルミ子:私の魂の一部をマモル氏の魂に分け与え、融合させることで、マモル氏の弱った魂の力を増幅させたってことです。
遠野:なるほど……。つまり俺の抜けかけた魂は、お前のバフによって無事に現世にとどまることができた、と。
ルミ子:ご明察です!
遠野:じゃあ、今こうやってお前と会話できているのはつまり、お前の魂と俺の魂が融合した結果、俺の身体のなかにお前が住むことになったから……と、そういうわけか。
ルミ子:あぁぁぁぁぁぁぁ!その通りです!やはり私のマモル氏!素晴らしい理解力です!ゴロゴロゴロゴロ!おっふ!すりすりできないのがもどかしい!ぶにゃああああああ!
遠野:今更だけど、お前、しゃべるとそんなんだったんだな……。
ルミ子:はい!私、マモル氏のガチヲタですから!
遠野:そんな得意げに言われても。……まぁでも、お前甘えんぼだったもんな。あの頃を思い出してみれば、そのテンションも納得できる気がしてきたわ。
ルミ子:その懐の深さ……ディープブルー……深海のごとし……!あぁぁぁぁ好きぃ……昇天、昇天すゆ……!
遠野:おいおいおいおいおい昇天するな!俺まで昇天するだろうが!
ルミ子:はっ!そうでした!今や私とマモル氏は一心同体、一蓮托生(いちれんたくしょう)!……え?なにそれ興奮する。
遠野:するな!
ルミ子:こほん。まぁ冗談はそこまでにして……。「あんなこと」があった以上、当分は身の回りには気を付けた方が良さそうですねぇ……。
遠野:ああ。俺だってまさかこんなことになるとは思わなかったよ。犯罪の現場に遭遇した挙句に刺されるなんてさ。
ルミ子:でも!安心してください!このルミ子が!魂をかけてお守りしますから!ね!ふんす!
遠野:それなら刺される前に守ってほしかったんだけどな。
ルミ子:うなぁ……魂の状態では、生きている人間に干渉することはできないのですよ。それがあの世のルールでして。干渉したら即悪霊コース、地獄にまっしぐらです。
遠野:え、じゃあなんでお前、今……
ルミ子:あの時のマモル氏はほぼ死にかけでしたから、グレーゾーンってことで見逃してもらえたようなもんですね。
遠野:グレーゾーンて。
ルミ子:いずれにせよ!ルミ子は、マモル氏をお守りすることができて幸せですよ!
遠野:そっか、良かったな。お前が嬉しいと、俺も嬉しいよ。
ルミ子:んへへへへへへ……
遠野:落ち着いたら腹減ったな。なんか食うか。そうだ、お前、今は俺と身体を共有している状態なんだろ?てことは、お前も俺と同じものが食える、ってことじゃないのか?
ルミ子:……そこに気付くとは、やはりマモル氏のポテンシャルは計り知れませんね……!分かっているんでしょう?私の欲しているブツが……?
遠野:ふっふっふっ……。そりゃあ俺とお前は一心同体だからな……!それはもちろん……「これ」だろう?
ルミ子:あぁぁぁぁぁぁん!ケンタッキーぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!
【間】
―とある町のジム
香織:こんばんは、遠野さん!さすが、時間ぴったりですね。
遠野:香織さん!あの!あの!今朝はすみませんでした!
香織:いえいえ!会社員の方って、大変ですよね。ところで、二日酔いなどは大丈夫ですか?トレーニングメニュー、少し軽めにすることもできますよ?
遠野:いや!大丈夫です!がっつりお願いします!
香織:では、軽くストレッチをしてから、ワイドベンチプレス、いきましょうか。
遠野:はい!
香織:気合入ってますね!遠野さんの筋肉も、やる気にあふれてるみたい!
ルミ子:命を狙われてるんだから、本当はこんなとこに来てる場合じゃないんですけど……マモル氏ったらストイックですねぇ。ま、それがまた良き良きの良きでもあるんですけど。んへへへへへ。
(少しの間)
香織:お疲れ様でした!
遠野:ありがとうございました!
香織:今日もいい感じでしたね。このまま筋肉を大きくして、そこから少しずつ絞っていく方向で行きましょう。これ、今夜のおすすめメニューです。ゆうべは宴会だったそうなので、なるべく糖質と脂質を抑えて、たんぱく質を多めに取れるものにしておきました。
遠野:ありがとうございます!香織さんのメニュー、いつもバランスばっちりな上に美味しいので、助かってます!ほんと!毎日食いたいくらいです!
香織:ほんとですか?嬉しいなぁ。
遠野:……あの!香織さん!
香織:はい。
遠野:今日はその……もう終わりですか?
香織:はい。これで上がりです。
遠野:よ、良かったらこの後少し付き合ってもらえませんか?
香織:え?
ルミ子:なんですと!?
遠野:いや、その……えっと……
ルミ子:はっはーん、なるほどぉ?そういうことですかぁ……。えー、マモル氏、聞こえますか、マモル氏。女性をデートに誘うときは、スマートに堂々と!かっこいいポーズでかっこいい台詞を吐くのです!
遠野:え!?
香織:遠野さん?
遠野:あ、あ、えっと……
(遠野、大きく息を吸う)
遠野:「銃を向けられるたびに5セントもらってたら、今頃大金持ちだぜ?」。
香織:……え?
ルミ子:何言ってんの!?ねぇ何言ってんの!?スポーツジムで仁王立ちして何言ってんのマモル氏ぃぃぃぃぃぃぃ!?
香織:えっと……
ルミ子:いくらマモル氏トップヲタの私でもこれは擁護できない!全っ然かっこよくない!ダメもダメ!ダメダメがダメダメですよ!
遠野:あの……なんでもないです。忘れてください……。
香織:あ、待ってください。遠野さん。
遠野:……はい。
香織:私、ちょうど新しいトレーニングシューズを探しているんです。ですからこの後、探すの付き合ってくれませんか?
遠野:え!?は、はい!もちろん!喜んで!
香織:じゃあ、少しだけ待っていてもらえますか。すぐに仕度を済ませます。
遠野:はい!
【間】
―とある町のジムの外
ルミ子:マモル氏ぃ!このこのぉ!良かったですねぇ!このこのこのぉ!
遠野:ああ!やっぱり香織さんは……優しいな。
ルミ子:さっきの「銃を向けられるたびに5セントもらってたら、今頃大金持ちだぜ?」には絶望しかけましたけども……。
遠野:あれは……忘れてくれ、マジで……。
ルミ子:忘れたくても忘れられないほどのインパクトでしたよ……。普通ならドン引き間違いなしだったのに、いや、あの人女神過ぎません?……あ、推せる。これは推せる!マモカオカップル、推せる!
遠野:はあ?
ルミ子:んふふふふふふぅ、ルミ子は全力で応援しますよ、マモル氏!
遠野:意外だな。お前、絶対やきもち焼くと思ったんだけど。
ルミ子:私をそんじょそこらのヲタと一緒にされては困ります!推しの幸せはヲタの幸せ!推しを幸せにしてくれそうな相手なら、全力で応援する所存!
遠野:お前、やっぱりいい子だな、ありがとう。俺、頑張るよ。
ルミ子:え、ちょ、やめてください!そんな、推しからの優しい言葉……おふん……嬉しすぎて昇天すゆ……
遠野:だから昇天はやめろって!
笠原:おう、そこの兄ちゃん!
遠野:え?
寺川:あんた、こないだ……「見た」んだろう?
遠野:あ、これ!まさか!
ルミ子:そのまさかですよ、マモル氏!ファンシーなマスクとサングラスであほみたいなかっこしてますけど、ルミ子アイは騙せません!奴らです!
寺川:兄貴!さっさとやっちまいましょう!
遠野:え、ちょ……!ルミ子!どうする!?
ルミ子:なるべく穏便に事を済ませたいので、通行人が警察を呼ぶのを待ちましょう!幸い向こうもバカです!
遠野:向こう「も」!?
ルミ子:ここは往来のど真ん中!こんなところで仕掛けてくるなんて、バカのバカバカです!
笠原:何をごちゃごちゃ独り言言ってやがる!
寺川:さあ!兄貴、どうぞ!ナイフです!
笠原:ばかやろう!こういう時は下っ端のお前が行くんだよ!
寺川:待ってくださいよ、兄貴!昨日は俺がやったじゃないっすか!今度は兄貴の番っすよ!
笠原:順番なんざ関係ねぇ!早く行け!
寺川:だめっすよ!俺小さい時からばあちゃんに、「順番はきちんと守れ」って厳しくしつけられてきたんで!
笠原:知らねぇよ、お前のばあちゃんの話なんて!早くやれ!
寺川:いやいやいや、ぶっちゃけ俺、刃物とか苦手なんすよ!血を見るの、怖いじゃないっすか!こないだだって、マジでちょっとちびっちゃったんすから!
笠原:おま、今更何言ってんだ!
寺川:だってぇ!
ルミ子:……これ、このまま放置しても良さそうですね……。
遠野:そうだな、このまま警察にまかせて……
(香織、ジムから出てくる)
香織:遠野さん、お待たせしまし……遠野さん!?これは!?
ルミ子:ああ!よりによってこんな時に!
寺川:お、姉ちゃん!この男のツレだな!いいところに来やがったな!
(寺川、香織を引き寄せる)
香織:きゃっ!
笠原:おい寺川!
寺川:へっへっへ!この女を傷つけられたくなかったら、こっちに来いや!
笠原:おい寺川!不用意に素人さんを巻き込むんじゃねぇ!
寺川:うるせぇ!最初からこうすれば良かったんだ!そいつとこの女の二人で首でもくくらせりゃ、俺らが殺したことにはならねぇからな!
笠原:なんて汚ぇことを……!お前には「漢気」ってもんがねぇのか!
寺川:うるせぇ!今時そんなの古臭いんだよ、おっさん!
笠原:お、おっさん……!?お前、俺の事をそんな風に……!
遠野:……さん。
笠原:……ん?
遠野:許さん……!
ルミ子:全く同感です……!
遠野:香織さんに傷一つ付けてみろ……
ルミ子:私の推しカプになんてことしやがりますか……
遠野:絶対に!
ルミ子:許さない!
遠野:香織さんは!俺が守る!
ルミ子:推しの幸せは!私が守る!
遠野:うおおおおお!
ルミ子:ぶち転がす!
寺川:な、なんだこの光はっ!?
笠原:くっ!まぶし……っ!
【間】
香織:……え
笠原:これ、は……
寺川:な……んだ……?
遠野:何をごちゃごちゃ言っている!今すぐその人を離せ!さもなくば……
ルミ子:湧き上がる力を拳に込めて!
遠野:ぶん殴るのみ!うおぉぉぉぉぉぉぉ!
寺川:え、ちょ、ま、待て!うわぁぁぁぁぁぁぁ!
(寺川、殴られる)
寺川:きゃんっっ!
遠野:ふぅぅぅぅぅぅ……。
(遠野、笠原の方を向く)
遠野:次はお前だ……!
笠原:いやいやいやいや!俺はその人に危害を加えるつもりは毛頭ねえ!あんたが俺らの顔を見てねぇ、ってんなら、もうこれ以上は何もしねぇ!だから、か、勘弁してくれ!
遠野:本当だな。
笠原:ああ!ほんとだ!男に二言はねぇ!こいつにもきっちり守らせる!
遠野:ならば、今すぐここから立ち去れ!
笠原:わ、分かった!おい!寺川!行くぞ!
寺川:兄貴ぃ!こんな変態野郎にしっぽ巻いて逃げ出すんすか?
笠原:得体の知れない変態ってのが一番怖いんだ!お前だって「アレ」見りゃ分かんだろうが!
寺川:でも!
笠原:いいから行くぞ!
寺川:ああ兄貴!待って!
(笠原・寺川、走り去る)
(少しの間)
遠野:香織さん、大丈夫ですか?
香織:あ、ありがとうございます……
遠野:怪我がなくて良かった。
香織:あの、あなたは……どなた……ですか?遠野さんは一体……?
遠野:え?
香織:だって……
ルミ子:マモル氏、マモル氏。そこのショーウインドウ見ましょう。
遠野:え、あぁ。
(遠野、ショーウインドゥを見る)
遠野:うわあああああああ!ナニコレ!
ルミ子:いやぁ……まさかこんなことになるとは。
遠野:ねぇなんで猫耳生えてんの!?うわ、もっふもふ!顔ももっふもふ!手も足も、なんなら胸毛ももっふもふ!つーか全裸だよ!?全身もっふもふだから一応倫理的には守られてるけど、ZENRAだよ!?これあれだな、アニメとかで見る獣人だな!え、なんで!ねえなんで!?
ルミ子:恐らく、私とマモル氏の心がひとつになったことで、魂の結びつきがより強固になり、私の魂がマモル氏に強く干渉した結果、肉体にも変化が表れてこうなった……のではないかと……。
遠野:待て待て待て待て!この状況、どうしたらいいの!?香織さんを助けられたのはいいけど、今度は俺が香織さんに通報される番じゃないのこれ!?
香織:あのぅ……
遠野:ひゃい!
香織:お怪我などは、ないですか?
(香織、そっと遠野に触れる)
遠野:え!?あ!あ!ちょっと!そんな風に優しく触られたら……んふふぅ、ゴロゴロゴロゴロ……
ルミ子:ありゃあ……こんなところまで私の魂の干渉が……。これはまずい。まず絵面が汚い!いけません、マモル氏!撤退しましょう!
遠野:ゴロゴロゴロゴロ……はっ!ああああああ!俺は何故こんなことを!すみません!本当にすみません!
ルミ子:落ち着いてください!恐らく感情の昂ぶりが収まれば元に戻るはずです!とにかく!ここは一旦帰りましょう!マジで通報モノですから!
遠野:そ、そうだな!
(遠野、香織を振り返り)
遠野:貴女に怪我がなくて良かった!今日はまっすぐ帰って、ゆっくり休むといいでしょう!できれば今日のことを忘れるくらいに!それじゃあ、また!
香織:あ、は、はい!
(少しの間)
香織:……「また」?
【間】
―その後のとある町のジム
香織:遠野さん、明日こそ約束、守ってくださいね!
遠野:はい!シューズですよね!見に行きましょう!
ルミ子:それにしても、本当に女神ですね。あの日のことをなんにも聞かないでいてくれるなんて。
遠野:それでこそ香織さん、なんだよ。
ルミ子:ま、結果オーライってことで、私はこれからも全力で!マモカオを推していきますよ!
遠野:ありがとう!俺ほんと、頑張るよ!
ルミ子:それはそうとして……
寺川:香織さん!俺、ダンベルカール30キロいけるようになったんすよ!
香織:すごいじゃないですか、寺川さん!最近、頑張ってましたもんね!
寺川:え、ま、まあ……へへへ……
笠原:まだまだだな、寺川よ……。俺なんて……ふんっ!
寺川:40キロ!?兄貴、やべぇっす!
笠原:俺ぁ、まだまだやるぜ?なんたって、「あいつ」に追いつかなきゃならねぇんだからよ。
香織:あいつ?
笠原:こないだの変態野郎さ。振り返ってみりゃあ、あいつ、変態のくせに妙にまっすぐで清々しい目をしていやがってな。それにあの鍛え上げられた肉体!俺らはすっかり自分たちが恥ずかしくなっちまったんだ。
寺川:もう下着ドロなんてチンケなことはやめて、真っ当に生きていこう、って決めたんす!
香織:なるほど。
笠原:「あいつ」みてぇになるために、俺たちはここに通い始めたってわけだ。
寺川:香織さんへの罪滅ぼし、ってのもあったんすけどね。
笠原:あの時は怖い思いさせてすまなかった。こんな俺たちを何も言わずに受け入れてくれたあんたには、本当に感謝してるよ。
香織:いえいえ。筋肉のもとでは、皆平等ですから。
(少しの間)
香織:それにしても……
ルミ子:ん?
香織:あの大胸筋、やっぱり似てるわ……。
ルミ子:大胸筋?
香織:上腕二頭筋も、前脛骨筋(ぜんけいこつきん)も、似てる……
ルミ子:なんて?
香織:遠野さんとあの猫耳の方……ううん、まさかね。
ルミ子:な、なんと、大胸筋から真実に近づくとは……。さすがマモル氏の想い人。女神はひと味もふた味も違うってわけですか……。さすかお……いや感心してる場合じゃない。マモル氏の名誉のためにも、どうか気づかずにいて欲しいものです……。
遠野:おいルミ子!今夜は明日のデートの前祝いをするぞ!食事制限は一旦無視だ!
ルミ子:マモル氏!デートの前祝い、なんて聞いたことありませんけど、やりましょう!……はっ!てことは……やっぱり今夜も「アレ」ですかぁ?
遠野:ふっ……そうだ。俺たちのソウルフード!
ルミ子:ケンタッキーぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!
遠野:フライドチッキぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃン!
(まばゆい光が辺りを包む)
香織:きゃっ!
寺川:兄貴!
笠原:こ、この光は!まさか!
(少しの間)
ルミ子:……あ。
遠野:あああああああああああああ!
【幕】