オリウマ娘のおはなし


すごい……圧倒的大差で逃げ切った」

「デビュー前のウマ娘としては、モノが違うな……これはすごい娘が現れたぞ!」

 選抜レースを見ていたトレーナーたちがどよめく。
 その原因となったウマ娘は、ぶっちぎりでレースに勝ったというのに身を縮こめてオドオドしていた。
 そんな彼女に、スカウトが殺到する。

「すごかったよ、さっきのレース!」

「是非私と一緒にG1を獲りましょう!」

「いや、俺と一緒なら三冠も夢じゃない!」

「いーや、ティアラ路線よ! 貴方ならトリプルティアラだって余裕だわ!」

 そんな勢いで声をかけてくる大人たちを見て、彼女は顔を真っ赤にすると……。

「ご、ごめんなさい~!」

 レースで見せた見事な逃げ足でその場を去ってしまうのであった。

 *****

「またやっちゃった……せっかく、色んな人がスカウトしてくれたのに……」

 夕暮れ時。
 自分のやったことを後悔しつつ、とぼとぼと歩く彼女の名は『エターナルワナビ』といった。
 小柄でありながら素晴らしいスピードが持ち味の、将来有望なウマ娘。

 しかし、彼女には致命的な二つの欠点がある。
 そのうちの一つは──極端に臆病で、照れ屋なことだった。

「まさか、レースで目立つのがこんなに恥ずかしいなんて……」

 彼女は見事な逃げ足を持つウマ娘だが、裏を返すと逃げ以外の戦略が取れない。
 人の目が苦手だし、人が自分の近くにいるのはもっと苦手だからだ。

「これじゃ、トゥインクルシリーズどころじゃないよぉ……」

 今のままではいけないと思う。
 だからこそ、彼女は今のままでは行けないと思っている。
 それに、彼女には夢がある。

「尊敬するデジタル先生みたいになるために、頑張らなくっちゃ。
 私もG1いっぱい取って、立派な小説家になるんだ!」

 元々、エターナルワナビは『小説家になろう』という夢を持っていた。
 でも、レースで走るのも好きだった。
 どちらかの夢を追いかけるためには、どちらかの夢を諦めなければいけない。
 そう、思っていた。

 そんな臆病な思い込みに風穴を開けたのが、『勇者』アグネスデジタルの存在だった。
 彼女は芝ダート問わず走り、G1を6つも勝ってみせた。
 そのうちの一つは、当時最強と言われた『覇王』テイエムオペラオーを下しての勝利だ。

 そんな歴代最強議論にも名が出る程のウマ娘でありながらも、引退後はあっさりとレースの舞台を退いて漫画家として活躍している。
 彼女のしなやかな筆致で描かれるウマ娘ちゃんたちの物語は、多くの固定ファンを集めている。

 全く違う二つの分野で、輝かしい成果を残しているアグネスデジタル。
 それはエターナルワナビにとってたまらなく眩しく、強い憧れとなった。

「明日こそ、逃げないでスカウト受ける! 明日こそ、ちゃんと小説を完成させる! でも、その前に……」

 エターナルワナビはスマホを取り出し、あるサイトを開く。

「朝あにまんに立てたクソスレ、どれだけ伸びたか確認しよっと!」

 彼女の、もう一つの致命的な欠点。
 それは、あにまん民であることだった。
 小説は中々書けないのにクソスレを立てるのは得意な、ろくでもない一面を持っていた。

 果たして彼女は二つの欠点を克服して、立派な夢を果たすことが出来るのだろうか? 
 作品をエタらせない。
 ワナビを卒業する。

 これは、彼女が自らの名が持つ二つの呪いから抜け出すまでの物語である。
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