オリウマ娘のおはなし
作成日時: 2024-03-30 09:41:30
公開終了: -
すごい……圧倒的大差で逃げ切った」
「デビュー前のウマ娘としては、モノが違うな……これはすごい娘が現れたぞ!」
選抜レースを見ていたトレーナーたちがどよめく。
その原因となったウマ娘は、ぶっちぎりでレースに勝ったというのに身を縮こめてオドオドしていた。
そんな彼女に、スカウトが殺到する。
「すごかったよ、さっきのレース!」
「是非私と一緒にG1を獲りましょう!」
「いや、俺と一緒なら三冠も夢じゃない!」
「いーや、ティアラ路線よ! 貴方ならトリプルティアラだって余裕だわ!」
そんな勢いで声をかけてくる大人たちを見て、彼女は顔を真っ赤にすると……。
「ご、ごめんなさい~!」
レースで見せた見事な逃げ足でその場を去ってしまうのであった。
*****
「またやっちゃった……せっかく、色んな人がスカウトしてくれたのに……」
夕暮れ時。
自分のやったことを後悔しつつ、とぼとぼと歩く彼女の名は『エターナルワナビ』といった。
小柄でありながら素晴らしいスピードが持ち味の、将来有望なウマ娘。
しかし、彼女には致命的な二つの欠点がある。
そのうちの一つは──極端に臆病で、照れ屋なことだった。
「まさか、レースで目立つのがこんなに恥ずかしいなんて……」
彼女は見事な逃げ足を持つウマ娘だが、裏を返すと逃げ以外の戦略が取れない。
人の目が苦手だし、人が自分の近くにいるのはもっと苦手だからだ。
「これじゃ、トゥインクルシリーズどころじゃないよぉ……」
今のままではいけないと思う。
だからこそ、彼女は今のままでは行けないと思っている。
それに、彼女には夢がある。
「尊敬するデジタル先生みたいになるために、頑張らなくっちゃ。
私もG1いっぱい取って、立派な小説家になるんだ!」
元々、エターナルワナビは『小説家になろう』という夢を持っていた。
でも、レースで走るのも好きだった。
どちらかの夢を追いかけるためには、どちらかの夢を諦めなければいけない。
そう、思っていた。
そんな臆病な思い込みに風穴を開けたのが、『勇者』アグネスデジタルの存在だった。
彼女は芝ダート問わず走り、G1を6つも勝ってみせた。
そのうちの一つは、当時最強と言われた『覇王』テイエムオペラオーを下しての勝利だ。
そんな歴代最強議論にも名が出る程のウマ娘でありながらも、引退後はあっさりとレースの舞台を退いて漫画家として活躍している。
彼女のしなやかな筆致で描かれるウマ娘ちゃんたちの物語は、多くの固定ファンを集めている。
全く違う二つの分野で、輝かしい成果を残しているアグネスデジタル。
それはエターナルワナビにとってたまらなく眩しく、強い憧れとなった。
「明日こそ、逃げないでスカウト受ける! 明日こそ、ちゃんと小説を完成させる! でも、その前に……」
エターナルワナビはスマホを取り出し、あるサイトを開く。
「朝あにまんに立てたクソスレ、どれだけ伸びたか確認しよっと!」
彼女の、もう一つの致命的な欠点。
それは、あにまん民であることだった。
小説は中々書けないのにクソスレを立てるのは得意な、ろくでもない一面を持っていた。
果たして彼女は二つの欠点を克服して、立派な夢を果たすことが出来るのだろうか?
作品をエタらせない。
ワナビを卒業する。
これは、彼女が自らの名が持つ二つの呪いから抜け出すまでの物語である。
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