猛る焔刃、吠える狐狼


「ごほっ はぁ、はぁ、…凄まじいなアイリス・ミドガル…これほどに高鳴る戦いは久しぶりだ…」
「プッ はぁ、はぁ、…称賛の言葉として受け取っておきましょう」
「当然だ、それほどまでに研ぎ澄まされた剣を理解できぬほど俺は無知ではない。」
深い森の中で男と女が剣を向け合う、女は己が守るべきもののため、男は己の理想に辿り着くため、故に刃は交わるのみ。
「…だからこそ解せん、なぜお前は何も捨てようとしない?何故国などという重荷を背負い、家族などというあやふやなものを守る?そんなものを持っているから貴様ほどの才を持ちながら俺程度にしか…っ!」
男の言葉を、斬撃が遮る。
「剣に限らず、何かに命をかけるものは皆大切なものを捨てる、聞いたことはあります。余分なものがなければそれを極めるのも早いという理論も、理解はできます」
「理解しているのなら尚のことだ…貴様ならば国を背負うのをやめ、鍛錬に集中するだけでもっと先へ行けるはずだ!何故それをしない⁉︎」
男が吠える、それは己が積み上げてきた理念。即ち何かを持てば強さが濁るという純然たる信念。……しかし、王女にその言葉が響くことはない。なぜなら
「私にとって、全てを捨てて得た強さに価値はありません。この剣は、この力は家族を、国民を、国を守るために欲した力ですから。」
「故に、私が国を捨てることも、家族を捨てることもありません。」
それは宣言、目の前で相対する宿敵だけで無く、己が内にいる師への[何も捨てずに頂へ至る]という宣言。そして、
「改めて宣言しましょう。フェンリル…我がミドガル王国を長年に渡り苦しめた教団の狼よ、今日ここで、貴様を切る‼︎」
戦いの終局を告げる言葉。
「できるものならやってみろ‼︎アイリス・ミドガル‼︎」
2人が走り出す、もはや間合いの偽造など用いない、互いに後一撃で相手を切る、そのための助走。
一歩、互いの相対速度は音を越え、

二歩、さらに加速し常人にとっては知覚し得ないほどの速度へ
                        ・・・・・・
三歩、互い完璧なタイミングで技を繰り出す。王女は圧縮した魔力を纏わせた突きを、狼は絶大な魔力によって世界を揺らす斬撃を。

二つの技がぶつかればどちらが勝つかなど火を見るより明らか、例え防御できない突きだったとしてこの斬撃ならば堕とせる、勝った。狼がそう考えた瞬間…王女は狼の顔に向けて剣を投げた。まさか勝負を捨てたのか?その程度の剣士だったのか?狼は失望し、そして勝利を確信していた。


その剣に己の腕が引き寄せられ、両腕を上げて隙をさらしてしまったことに気づくまでは。
「な…に…?」
「これは…貴様に苦しめられた全てのミドガル王国民の分‼︎」
ガラ空きのボディにフックが突き刺さり、体が浮き上がる、そうしてさらにガラ空きになった顎に膝蹴りが突き刺さり狼を空高く打ち上げる。剣に全ての魔力を回していた狼は空中で身動きを取ることもできずゆっくりと落ちていく。そして王女は手元に引き寄せた剣で抜刀の構えを取る。それは彼女の師に教わった剣ではなく、誰かから模倣したわけでもない正真正銘彼女のオリジナル。
「焔刃。」
彼女の持つアーティファクトから出る炎を限界を超えて圧縮し、空をも絶つ斬撃に乗せる。それは即ち世界を灼き、拓く斬撃。そんなものに魔神の血を取り込んだ程度の人が耐えうるはずもなく、あっさりと体を両断される。

「…見事だ、見事だアイリス・ミドガル。」
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