no title


「ねえお父さん。分からない所があるんだけど…」

書斎の扉から恐る恐るとばかりに娘が顔を出す。エヘヘ…。と少し罰の悪そうな顔に溜息を吐きながら、読んでいた新聞を折り畳む。

「参考書は前にも買ってやっただろう」
「だってお父さんに教えて貰う方が分かりやすいんだもん」

ねっ、お願い!と懇願する娘に仕方無しと肩を落とし、隣に座るよう彼女に促す。それに嬉しそうに笑いながら娘が隣に腰をかける。
年頃の女子高生特有のミニスカートから、滑らかな少女の滑らかな太腿が覗いた。それに目を逸らしながら、側に置いてあった眼鏡を掛ける。

「それで、どこが分からないんだ?」
「んーと、ここなんだけど…」

開いた教科書を指し示すと、娘が密着して来た。ブラウス越しに柔らかな感触が伝わる。

「余り寄るな。見えにくい」
「別にいいじゃん。何が不満なのさ」
「お前は年頃の娘なのだから、もう父親にベタベタと触れる歳でもないだろう」
「ーーー本当に?」

普段の軽快さをどこかへ脱ぎ捨て、艶やかな声が返って来る。
思わず振り返ると、そこには娘の顔をした『女』がいた。
ーーーこれは、本当に立香なのか?
いつも邪気の無い快活で、未だ愛どころか恋も紡いだ筈のない娘はしかし、その目には確かに『女』を宿していた。
チロリ、と唇を薄く舐めてから『女』が耳元で囁く。

「本当に私の事『娘』として見てるの?」

耳元で囁かれる悪魔の声色に、首筋から汗が零れ落ちた。
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