俺(錠前職人)の妄想


 とあるところに錠前が出来たら必ず『あること』をおこなう職人がいた。
 その職人がおこなう『あること』とは自らの作り上げた錠前を開けられるかどうかの挑戦をさせるということだった。
 これには職人の仕事の出来栄えを確認するということもあったが、何より大変大きな下心からおこなわれていた。
 なにせ挑戦相手には毎回同じ相手を指名していたからだ。
 その相手とはカーカブルードで店を営むハーフフット。名前をチルチャック・ティムズといった。
 職人はわざわざ彼のところに自作の錠前が付けられた小箱を持っていき、意気揚々と
「さ、コレを開けてみてくれ」
と言って手渡す。
 渡された方は呆れたような顔をしつつも錠に施された仕掛けを解いていく。
 カチャカチャと金属の擦れる音がしばらく鳴ったかと思えばガチャリと何かが外れた音が彼の手元から聞こえる。
「ほら開いたぞ」
 そう言って彼が差し出してくるのは完璧に開錠され、すっかり無防備になってしまった小箱。
 しかし、自分の作った錠前が仕事を放棄してしまったのを見ても職人は少しも驚いていなかった。
 むしろそうなることを望んでいたかのように職人の顔には喜色満面であふれていた。
「流石チルチャック。まあ次はお前でも開けられないくらいのやつ作ってやる」
 職人の放った言葉は挑発的でもあったが、やはりどこか嬉しさのようなものが滲み出ていた。
 職人のそんなトンチンカンな様子を見たチルチャックは頬杖をつきながら、ハァとわざとらしくため息をつく。
「毎回俺で試すなよな」
 呆れたと言いたげな顔をして見せるが、同時にそのセリフは毎回付き合うくらいには面倒見が良い彼の性格も表していた。
 職人は少し視線をさまよわせたかと思うと
「自分の知る中で一番腕が良いのは君だから」
とどこか曖昧に笑い返す。
 その言葉に気分を良くしたのか、はたまた照れ隠しなのかチルチャックはやや早口で感想を告げる。
「ま、今回のはまあまあ手強かったな。けど前回の方が手がかかった」
「3個前のあったろ?あっちの方のギミックを生かした方が開けづらいんじゃないか?」
 素直で的確で親切な言葉が職人の胸に刺さる。

「めっちゃ覚えててくれてるじゃん好き……(なるほどな〜)」
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