ヌオーと聖遺物


  ヌオーは神話世界に数多く存在した影響か、ヌオーの遺骸と称される遺物の伝承は多い。
その中でも、最多の物はエフェソスより持ち出されたと称される物だろう。
とはいえ、聖遺物のほとんどが偽物であるのと同様に、ヌオーの遺骸もそのほとんどは偽物である。

 ただし、数少ない本物は恐るべき効能を有していたという記録が残されている。
時計塔の信頼できる資料によれば、ヌオーの遺骸のほとんどは薬として消費されたという。

 その理由は、万能薬と称しても過言ではない薬効と、“超能力”や“権能”の獲得、“魔術回路”の歴史の水増しなどが低リスクで行えたからだという。
事実、世俗においては貴婦人が“多産”の加護を求めて“本物”のヌオーの遺骸を喰らったところ、健康で病気に強く優秀な子供を産んだ事例がいくつか報告されている。
またハプスブルク家とメディチ家を代表とした有力貴族は、ヌオーの遺骸をえるために、多大な財貨をついやしたことが知られ、“本物”を使用したことも確認されている。

 魔術師の世界においても、現代のメルアステアに、ヌオーの遺骸によって復古した血筋が入っているのは周知の事実である。

 とはいえ神代が完全に終わり、神秘が著しい衰退をする中で、ヌオーの遺骸がなぜ、それほどの効力を持っていたかは謎である。
一説には、ヨーロッパ全域を襲った黒死病の惨禍の中で、ヌオーのお告げや祝福により、数多くの黒死病患者が救われたという噂が大流行した。
その結果、教会への失望と合わせて”ヌオー信仰“が民間に根付いたことで、ヌオーの遺骸に信仰の力が宿ったのではないかという物がある。

 無論、この説には大きな穴がある、そもそも信仰の力が神霊を産み出す時代は、とうに過ぎ去っている。
本物の神霊の遺骸すら、劣化して腐る時代で、なぜヌオーの遺骸はその力を失わないですんだのかという謎の答えにはなっていない。

 その謎を解明し魔術の衰退を繁栄に転換しようと、本物のヌオーの遺骸と、今もなお生きていることが確認される二匹のヌオーを確保しようと、魔術世界では激しい暗闘が繰り広げられている。

 そのうち、一匹のヌオーは“時計塔”を統べる君主達の共有財産とされている。
もともとは、本物のヌオーの遺骸を用いてヌオーに転生した魔術師で、当時のメルアステアとの契約で、彼個人の所有物になったそう。
契約の代価は、メルアステアとの間の子を認知し後見人になることだったという。
しかし他の君主の圧力で共有財産させられ、現在に至る。
再現不能なため、封印指定という話もあったが、生かして管理しておいたほうが有用なので、時計塔の地下に監禁されているという。

 もう一匹は、今も世界中を放浪している。
神代の時代から生きる、“神霊”であることや“女神の掌”の最高導師で神智学協会にも多大な影響を与えたこともあり、時計塔や聖堂教会は今でも捕獲しようと刺客を送っているが、結果は芳しくないようだ。

余談
 ヌオーの遺骸を食すると、属性が若干ヌオー寄りになってしまう。
また、“神霊”ほどではないが情報量が大きいので、よほどの情報許容量がないと、耐えきれず精神崩壊してしまう。
たいがいの場合は、そうなる前にヌオーの残滓が人間の精神を破壊しないために意図的に不活性状態になる。
だが、ヌオーと一体化した快楽を忘れられない捕食者が、無理矢理ヌオーの残滓を活性化しようとして生贄を伴う黒魔術に傾倒することが多かったという。

 ヌオーの力の根拠
そもそもが神秘に依存していない。
物理法則への対応も可能で、星々の海に人類が旅立つ頃には、その力は科学的に解明されるのだとか。

 ヌオーと黒死病
 “彼女”としては当初は関わらないつもりだったが、友人である聖母マリアや“ヌオーの残滓”達の懇願により、少しだけ手を貸すことにした。
結果的に“女神の掌”の前身となる組織が出来上がったり、聖堂教会が“黒死病の元凶”認定をして本腰を入れて殲滅対象に認定し、無数の代行者を派遣してきたので苦労したそうだ。

 時計塔地下の“姫君”
時計塔の無数にある厄ネタの一つで、彼女に会おうとしたり詮索しようとすると殺されると噂されている。
彼女本人は、大変に穏和で、ヌオー由来の知識や技術を惜しみなく来訪者のために提供するという。
もともとは、17世紀に生きる歴史の浅い魔術師の家の人間で、当代のメルアステアに譲られた物扱いだったという。
礼装にされるか、魔術的な実験の資材にされると彼女は考えていたが、どういうわけか当時のメルアステアは彼女を弟子として可愛がり、いつしか恋仲になっていた。
とはいえ、物扱いの彼女が落ち目とはいえ貴族筆頭の“君主”であるメルアステアとの恋が許されるはずもなく、彼との間にできた子も物扱いになるのは必定だった。

 それを打開すべく、彼女は自身の血筋が女神エレオスやセベクに遡れることを利用し、ヌオーの遺骸を用いた一世一代の転生儀式を行うことにした。
その儀式により生じる成果物のすべてを、メルアステアに譲るかわりに子供の後見人となることを了承させたのである。

 儀式は成功し、彼女はヌオーになった。
それは、落ち目だったメルアステアの復興への第一歩になりうる成果だったが、他の君主の圧力で彼女は共有財産とされてしまった。
 
 以降、メルアステアの悲願の一つにこの宝物の奪還が加わったという。
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