TS転生厨二ウマ娘でもトレーナーに恋するって本当ですか?


拝啓
別世界のお父さん、お母さん。お元気ですか?
俺は今…ウマ娘になっています。
そんな俺に今、春の季節が訪れそうです。

「君が強いからじゃない!俺は君の走りに惚れたんだ!だから!君のトレーナーになりたいんだ!」

ウマ生12年目。
前世と合わせると27年目の今日。
トレーナーに惚れそうです。
目の前の俺を見上げる小さなトレーナーにです。
俺との身長差を考えて……俺の身長が大体189だから……。
この人は159くらいかな。
低身長のわりに大人びた印象の彼。
紅い瞳に綺麗めな顔。
美女と言っても差支えの無いほど整った容姿。
癖毛ですこしうねった黒髪を伸ばしている彼に……。

普通にときめきました。
『元』男の俺が……です。

お父さん、お母さん、助けてください。
俺、この人に女子パラメータを最大値に振り分けられちゃう!
そんなときめき状態の俺はつい……。

「なら、この俺のためにその命をささげる覚悟はあるか?」

と彼の顎に指をあててそう言っちゃいました……。
ヤバい。今世は中二病全開で生きていこうと思っちゃって、つい。
と今更やったことに後悔しまくる俺に彼は……。

「君のためならこの命。惜しくはない。」

あやっべ!覚悟ガンギマリの人だ!
俺は湧き上がる歓喜を抑えるのに必死だった。
え……こんな合法イケショタがトレーナーで良いんですか!?
と情緒がぐちゃぐちゃになってしまう。


「面白い。ならその命の輝きを俺に魅せてみろ。」

俺は、ははわ///となってしまうのを必死なって抑えてそうカッコつけたのだった。


ーーー
自分を自覚した朝は俺の知らない朝だった。
自分という存在は記憶に紐づくというが、記憶はそのままなのに、その世界はすべてが俺の知っていたものと違っていた。
見知らぬ天井。
見知らぬ部屋。
見知らぬベッド。
そして、

見知らぬ自分。

自分の手を布団から出して掲げてみれば、そこには細く白い指があった。
おおよそ男の指とは違い、細く、今にも折れそうな手。
自分の手とは絶対に違うのに、掲げている感覚は自分のものだと言っている。

「訳分かんねぇ……。」

そう呟いてみると、その声は男の声とは違い、鈴の鳴るような綺麗な女の子の声だった。
とりあえず、体を起こして、辺りを見回してみると、すぐに、鏡のようなものが眼に入った。
俺はベッドから出ると、そのまま鏡の方へ歩いて行った。
冷たい木製の床が、ギシ、ギシと鳴る。
簡素な部屋は、まるで今日来たばかりの様だった。
そして鏡の前に来てみれば、俺は眩暈のするような感覚に襲われた。

ウルフカットにカットされた灰色の髪、前髪には白く細い毛が三日月のように垂れさがっていた。
そして顔。
美少女と言っても差支えの無い整ったもので、可愛いよりかは綺麗寄りの物だった。
瞳は左右で色が違い、右目が赤一色で、左目が赤と黒が混じったような禍々しいものだった。
そして何より、俺の頭についている、この『耳』
俺の知っているウマの耳が俺の頭についていた。

「おいおい、まさか……。」

そのまさからしい。
俺の身体は、二次元の中でしか存在しない、架空の生物『ウマ娘』という生物そっくりの身体になっていた。
そう俺が唖然としていると、
ガチャと、ドアが開いた。
一体誰だ?と俺が振り返ると、そこには。

「お、もう起きてたんだね。」

俺と同じ、ウマ耳が付いた、大人の仮称ウマ娘がそこに居た。
少なくとも敵意の無いその声色。
優しく、まるで母のような女性に、俺は思わず聞いてしまった。

「俺は……誰ですか?」

彼女は一瞬苦い顔をすると、すぐに優しく微笑んでくれた。
俺を安心させようとしてくれた。
そして口を開く。

「アンタはハイカミショウドウ。今年で9歳のウマ娘だよ。」

ーーー

そのあと俺は彼女、エイルアンダーさんから、色々と教えてもらった。
ここは俺の今までの記憶での日本とそう大差なく、唯一違うところと言えばウマ娘という存在だけだった。
俺には死んだ記憶も、何もないが、今までの記憶の中で一番近しい状況。
小説の中でしか聞いたことのない事象。
『転生』と言うことにした。

そして、この俺に色々優しく教えてくれる女性。
エイルアンダーさんこそが、俺の今日からの育ての親らしい。
俺はもともと別の場所で住んでいたが、いろんな事情があって、ここで暮らすことになったらしい。
そんで、俺の新しい生活が始まったわけだが。

もうね、皆良い人だった。
女傑だが優しい育ての親のエイルさんに。
少ないけどかけがえのない10人のクラスメイト達。
そして、気のいい近所の人。
のどかで、静かなこの村には人のやさしさが詰まっていた。
そんなここで過ごしていくうちに俺は、あることを思うようになった。
『走りたい』と。
それはウマ娘としての本能か、俺の意思か、分からないがとにかく走って勝ちたかったのだ。
そんな俺のわがままにエイルさんは付き合ってくれて、少し遠出をしては公式のレースに行った。
そこで俺はこう言われた。

「君はこの年のウマ娘にしては異様に速い」と。

それは地方でトレーナーをしている人から言われたっけ。
そう、どうやら俺の身体は生まれつき強く、それでいて成長速度が速いらしい。
要は、最初っから強くて、努力すればするほど速くなるのだ。
それにもう一つ異常な事があった。
それは……。

どのバ場、距離でも普通に走れるのだ。
普通ウマ娘にはバ場適正、距離適性なるものが存在しているが、俺の場合それが全てあったのだ。

バケモンだろ……。

と我ながら思った。
ならその才能、利用せねばもったいないと思うのが人の性で。
俺は程なくして中央を目指した。
が、俺は少し、いやかなり心残りがあった。
中央を目指すということは、即ち地元を離れるということ。
俺はこの3年間でかなりここに愛着を持った。
だから離れたくないというのが本音だったが……。
皆に背を押されて俺は中央を目指すことを本格的に決意した。
それと同時に、皆が誇れるくらいのカッコよくて強いウマ娘になるということも。

そして俺は……。

「ここが中央か……。」

俺は中央トレセン学園の校門前でそう呟く。
桜並木がまるで生徒たち祝福しているようで。
その校舎は憧れからか、とても大きく見えた。

皆見てくれよ……。

俺は心の中でそう故郷に思いを馳せると、一歩を踏み出した。
強者たちが居る、この学園へ。

ーーー

そして入学式も終わり、いよいよトレーナー探しだ。
ここで良いトレーナーを見つけられるかが勝負だが、俺は絶対に妥協しないことを決めている。
だって皆が誇れるくらいのウマ娘だぞ?
絶対に俺に合致するトレーナーじゃないと嫌だな。
え?その肝心な選抜レースは勝てるかって?

正直すっげぇ不安。
だって中央だぜ?あのネームドウマ娘が集まる中央だぞ?
でもな、ここで勝てなかったら情けないだろ?カッコ悪いだろ?だから勝つんだよ。

俺はそう自分に発破をかけると俺はレースの準備のために更衣室に向かった。

ーーー

晴れ渡る空の元、俺たちは今ゲートに居た。
これからの自分のレース人生を左右するトレーナーを決める大切なレース。
皆、緊張する。
だが、その中で二人だけ、前を見据えるウマ娘が居た。
俺と栗毛の少女だ。
あの栗毛の少女はどうやら名家の出らしい。
出走前何故か絡まれた印象しかないが、トレーナーからの評判は上々。
負けてられないな。
俺たちがそれぞれの思いを抱えている中、ゲートが開いた。

ーーー

レースも終盤に差し掛かる。
栗毛の子は一着を独走中。
2着との差は大差だ。
そん中俺はというと。

最下位。

全ウマ娘が絶望と感じるワード。

もし仮に、こんな状況からすべてをぶっちぎって一着になったら?
もし仮に、こんな絶望をひっくり返したら?

「カッコいいだろ?」

俺は一人そう呟くと、足をターフに踏み込み……。

跳んだ。

一気に体が加速する。
意識が追いつかなくなりそうだが、気合で一気に自分を持つ。
まるで衝撃波が出そうなほど加速した俺に、周囲の走者は何が起こったか理解できていないようだった。

あぁ、そうだよ。
この絶望をひっくり返せる力が、俺にはある。

そして3着を追い越して。
2着を追い越して、遂にはるか彼方に居る1着を、この眼で捉えた。

手加減はしない。
全力で叩き潰してやる!

そんな思いと共に、俺はさらに加速した。
身体を打ち付ける風が痛い。
少しでも足が空回れば負ける。
臆せばその勝利は遠のく。

だからこそ。
前に進む!

俺は1着を抜き去り、さらに差をつけてゴールした。

あぁ、最高だ!
これがレース!
これが勝利!

俺はそのまま、水分を飲もうと控室に向かった。

ーーー

俺が一人ターフで水を飲もうと控室から出ると、そこには沢山のトレーナーが待ち構えていた。

なんだよ。人が気持ちよく勝ったていうのに。
俺は一瞬の苛立ちを抑え、歩こうとしたが、トレーナーの群れに阻まれる。
そして口を開けばいかに自分が有能かを語る。
そんな姿に俺の苛立ちは頂点に達し。

水筒の蓋を開けると、そのまま周囲のトレーナーに水をぶっかけた。

そして一言。

「邪魔だ。」

その声は自分でも驚くほど低かった。

ーーー

あー水も全部ぶちまけちゃったし、どうしよう。
途中あの栗毛の子に絡まれちゃったし、もう気分最悪だ。

俺は一人ターフに寝そべると、欠伸をする。
柔らかい芝生がベッドのようで心地いい。

あー空綺麗だなー。

そんな綺麗な空を見ていると地元を思い出す。
みんな元気にしてるだろうかとか、今何をしているのだろうかとか
そんなことを考えていると寂しさで不意に涙が出そうになった。
そんな時、

「君、少しいいかな?」

と不意に上から声がかけられた。

「‥‥‥。」

俺はその声に黙ったままだった。

「少し、俺の話をしていいかな?」

その声は俺の隣に座り、同じようにターフに寝っ転がった。

「俺はね、昔はウマ娘っていう存在が少し、苦手だったんだ。父が、そのせいで居なくなって、帰ってくることはなかった。だから気になったんだよ。俺は父が狂ったウマ娘という存在がどういう物か。」

その内容に俺は衝撃を受けた。
ウマ娘のせいで父が居なくなった?
確かに、俺も身近な存在が突然居なくなったら、その存在を恨むだろう。
だが、こいつはあくまで知ろうとしたのか。
声は続ける。

「でも、君の走りを見て確信した。ウマ娘はすごい。君のお陰でそう思えた。」

そうか、俺の走りで、一人の価値観が変わったのか……。
それに俺は嬉しさを感じた。

「だから、」

という言葉と共に、声は立ち上がって、俺の前に立った。

「君の夢の手伝いを俺にさせてくれないか?」

そう言って手を差し伸べた。
小柄な男だった。

「俺が強いから、自分のキャリアになるからじゃないのか?」

そう言って俺はその手を掴むことなく、立ち上がる。
その言葉に、男は即答した。

「確かに、そう思うかもしれない……。けど、俺は!」

そしてその男の瞳が変わった。
輝かしい、獄炎の赤へと。

「君が強いからじゃない!俺は君の走りに惚れたんだ!だから!君のトレーナーになりたいんだ!」


拝啓、別世界のお父さん。お母さん。元気ですか?
俺は今…ウマ娘になっています。
そんな俺に今、春の季節が訪れそうです。

『元』男の俺が本気でときめいたこの男こそが、俺の運命のトレーナーかもしれません。
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