「自由の海賊」


題名:自由の海賊 作者:草壁ツノ

<登場人物>
ルスター:不問 海賊の青年。財宝集めや略奪行為を良しとしない。人魚の肉を探している。
ティック:不問 本が友達の眼鏡をかけた少年。伝説とされた人魚と出会い、交流を持つ。
ファラン:女性 伝説とされた人魚の女の子。ティックと出会い、交流を持つ。人の生活に興味がある。
レイギッド:男性 私利私欲のために不老不死を求める男。ルスターとは知り合いだが、お互い仲良くは無い。
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<役表>
ルスター:不問
ティック:不問
ファラン:女性
レイギッド:男性
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*注意点
特に無し。
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■利用規約
・過度なアドリブはご遠慮下さい。
・作中のキャラクターの性別変更はご遠慮下さい。
・設定した人数以下、人数以上で使用はご遠慮下さい。(5人用台本を1人で行うなど)
・不問役は演者の性別を問わず使っていただけます。
・両声の方で、「男性が女性役」「女性が男性役」を演じても構いません。
 その際は他の参加者の方に許可を取った上でお願いします。
・営利目的での無許可での利用は禁止しております。希望される場合は事前にご連絡下さい。
・台本の感想、ご意見は Twitter:https://twitter.com/1119ds 草壁ツノまで
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とある港街。活気がある。
露店が並ぶ市場で、一人の男が歩いている。

ルスター:「ん~~、どこにも売ってねぇもんだなぁ......
      (露天商の男に声を掛けられて)お。イカした兄ちゃんってのは俺かい? いや、参っちまうね。
      あぁそうそう。今ちょっと探し物をしててさ。
      何を探してるかって?ああ、そうだな。まぁ、言うなれば......肉だよ。
      いやこれが豚でも羊でも無いんだよ。ちょっと珍しい肉でさ。魚......?まぁ、魚に近いのかな。
      え?もしその魚が港に上がったら、取っておいてくれるって?本当か?そいつは有難いな。
      で、結局なんの肉なんだって? まぁ実は俺も見たこと無いんだけどさ。
      ......《人魚の肉》って言ったら、おっちゃん見たことある?」

※シーン切り替え

ルスター:「(溜め息)、なかなか、探しても人魚の肉の情報って無ぇもんだなぁ......」

ティック:「......だから、......こうで(本を読みながら歩いている)」

ルスター:「そもそも人魚っつーのはどんな生き物(もん)なんだ?魚、って言うぐらいだから、鱗があんのかな......?」

ティック:「......ああ、そういうことなんだ、なるほど。つまり......(本を読みながら歩いている)」

ルスター:「それに《人》と《魚》って名前がついてるけど、顔は人間なのか?それとも......魚?
    さすがに人間だとしたら食うのは抵抗あるな......」

ドンとぶつかる

ティック:「わ!すみません」

ルスター:「おっと。俺の方こそすまねぇな。......ん、お前。すげー分厚い本持ってるな」

ティック:「あ、ああ、その。僕、調べものが趣味なので」

ルスター:「そうなのか。......あ。なあなあ、もし知ってたら、聞きたいことがあるんだけど」

ティック:「はい、何ですか?」

ルスター:「お前、《人魚》ってのがどんな生き物か知ってるか?」

ティック:「《人魚》......ですか?」

ルスター:「なんだ、そんな分厚い本持ってるからてっきり知ってるもんかと」

ティック:「(むっとする)《人魚》ですよね、知ってますよ。(本をめくる)これです。ここに載ってる。
    半身が人、半身が魚の生物ですね」

ルスター:「はぁ、これがそうなのか。この人魚ってのはどこにいるんだ?」

ティック:「えっ(驚く)。に、人魚は空想上の生物ですよ。どこ探したって居るわけないじゃないですか」

ルスター:「えっ。そうなのか?......そうなのか、そいつは困ったな」

ティック:「あの。つかぬ事をお聞きしますが......その人魚を探して、どうしようって言うんですか?」

ルスター:「お?知りたいのか坊主」

ティック:「ええ、まあ」

ルスター:「そりゃ勿論、食うのさ」

ティック:「た、食べるんですか?!」

ルスター:「食うさ。なんでも、人魚の肉を食べたものは不老不死になるって話だ」

ティック:「不老不死......どうして、そんなものに憧れるんですか?」

ルスター:「まだまだ見てぇもんがいっぱいあるからさ。
      色んな世界を見て回りたい。知らない場所に行きたい。した事もねえ体験をしたい。
      俺がまだ知らない、楽しいことが、この海の果てにはきっと無数にある。
      そう考えたら、人生ってのは短すぎる。だから、時間がいくらあっても足りないんだ」

ティック:「......そんなに、長生きってしたいものなんですかね......」

ルスター:「うん?」

ティック:「あ、いえ!(慌てる)そ、それじゃ僕はちょっと用事がありますので!これで失礼します!」

ルスター:「......あ、おい!......行っちまった。変なやつだな」

※シーン切り替え

とある岩礁。
先ほどの眼鏡の少年が海の傍に近寄ると、海から人魚が顔を出す

ティック:「ファラン、ファラン!」

ファラン:「(海から顔を出す)ぶはっ。どうしたの、ティック」

ティック:「大変だ。さっき、街に君を狙ってる人がいたんだ」

ファラン:「......」

ティック:「しばらくの間、海の中で大人しくしてた方がいい」

ファラン:「......ねえ、ティック?」

ティック:「なに?」

ファラン:「あなたは、どうして私と一緒に居てくれるの?」

ティック:「どうして、って」

ファラン:「私がどんな生き物か知ってるでしょう?」

ティック:「知ってるよ。本で調べたから。......人魚でしょ。その肉を食べた人が不老不死になる」

ファラン:「それを知ってて、どうして」

ティック:「前にも言ったと思うけど、僕、長生きする気が無いから。不老不死にも興味が無いし」

ファラン:「それは、私と一緒に居る理由にはならないじゃない」

ティック:「......とにかく、危険だからしばらく隠れてて!わかった?」

ファラン:「......分かった」

そう呟くと、ファランは海の中にどぷんと潜った

※シーン切り替え

男が一人酒場で酒を飲んでいる

ルスター:「はぁ。人魚が駄目となると、なんか他に面白い事はねーもんかな」

レイギッド:「おや?そこに居るのはもしや......ルスターじゃないか?」

ルスター:「(小声)げ、会いたくない顔に会っちまった」

レイギッド:「何か言ったか?」

ルスター:「いや、なにも。お前はこんな所に何しに来たんだ」

レイギッド、ルスターと同じテーブルに座る

レイギッド:「ふと野暮用でな......だが、しかし。なんともつまらない街だな。酒も女も並のものしか無い」

ルスター:「そうか?俺は案外気に入ってるが」

レイギッド:「(無視をする)......それはそうと、ルスター。お前、《人魚》について心当たりは無いか?」

ルスター:「......なんだよ、いきなり」

レイギッド:「......知らないなら良い。今の話は忘れてくれ」

ルスター:「......あれは空想上の生き物だ、って俺は聞いたけど?」

レイギッド:「(わざとらしく)ああ、そうだ空想上の生き物だ。俺は最近、人魚をモチーフにした古美術品を集めるのに凝っていてな」

ルスター:「......へえ」

レイギッド:「お前はどうなんだ?最近は、何か貴重な物でも手に入れたのか?」

ルスター:「いいや。俺は目的も無く、ただ悠々自適な船旅を続けているだけさ」

レイギッド:「......ルスター。お前も海賊の端くれだろう?少しは宝に興味を示したらどうだ」

ルスター:「生憎と、今は酒に興味が向いていてな」

レイギッド:「(小声で)相変わらずつまらん男だ......まぁ、何でも良い。もし、この街のどこかで人魚の情報を得たら、俺に渡せ」

ルスター:「はいはい、気が向いたらな」

レイギッド:「......(金を掴んで置いて行く)これは再会の印だ。釣りは取っておけ」

レイギッドがその場から立ち去る

ルスター:「......(溜め息)すっかり酒がまずくなっちまった」

※シーン切り替え

ティック、一人で海を眺めている

ファランM:――あなたは、どうして私と一緒に居てくれるの?
      ――それは、私と一緒に居る理由にはならないじゃない。

ティック:「......あの時僕は、なんて答えたら良かったのかな」

海鳥が鳴いている

ティック:「......そう言えば、ファランと出会った時って、何がきっかけだったっけ」

ティック、目を閉じて記憶を遡る。そしてあっ、と思い出した

ティック:「......ああ、そうだ。思い出した。あれは、僕が、父さんと喧嘩した日――」

※シーン切り替え

回想、海岸の岩礁に腰かけて海を見ているティック
すると目線の先の海面からファランが顔を出す

ファラン:「――あなた、そこに居たら危ないわよ」

ティック:「危なくないよ。......大体、君は誰なのさ」

ファラン:「私は人魚よ」

海面から魚の尾びれが見える

ファラン:「......あら、驚かないのね」

ティック:「......普段なら驚いただろうね。でも今は......そんな気分じゃない」

ファラン:「ふうん......私を捕まえないの?」

ティック:「網を持っていないからね。大体、なんで僕が君を捕まえなくちゃならないのさ」

ファラン:「私もよく分からないけど。これまで私を見た人間は、みんな私を捕まえようとしたから。
     人魚の肉って、人間にとって薬になるみたい」

ティック:「そうなんだ。けど、僕は長生きしようとは思っていないから」

ファラン:「......あなた、人間なのに変わっているわね」

ティック:「人魚に言われるとは思っていなかったよ」

ファラン:「それにしてもどうして、そんなに暗い顔をしてるの?」

ティック:「......(溜め息)父さんと、喧嘩したんだ。お前は本ばかり読んでいる、もっと他の趣味を見つけろって。
    それを無視してたら、父さん。僕が家に居ない間に、僕の部屋中の本を捨ててしまって」

ファラン:「大事なものだったのね」

ティック:「......どうして、子供は親を選べないんだろう。どうして、自分の好きなように生きたら駄目なんだ。
     これから先、僕はやりたいことを親に決められたまま、ずっと生きて行かなきゃならないんだって......」

ファラン:「......」

ティック:「あ、ごめん。普段はそんな事無いんだけど、なんか今、いっぱいいっぱいで、つい」

ファラン:「いいわよ別に。私が好きで聞いてるだけだから」

ティック:「そう......そう言えば、海の中ってどんな感じなの?」

ファラン:「どんな感じ......そうね。どこまでも広くて、みんな相手に干渉しない。
      静かで、薄暗くて、青い......とりとめて目(め)新しい事は起こらない、退屈な場所よ」

ティック:「そうなんだ。......いいな、僕に合ってそう」

ファラン:「陸はどんなところ?」

ティック:「騒がしい場所だよ。どこにいたって、落ち着かない」

ファラン:「(笑う)いいわね、それ。賑やかで、知らない相手と繋がっているってことでしょ?
      それに、陽の光がいっぱい降り注いでいて、海に比べて明るいし。人間達もみんな楽しそう」

ティック:「そんな良いもんじゃないよ。一人になれなくて、息苦しく思うぐらいだ。
      僕は海の方がいい。きっと陸よりも静かで、呼吸が出来て、毎日穏やかに過ごす事が出来る」

ファラン:「(笑う)あなたそれ、無い物ねだりって言うのよ」

ティック:「......君のほうこそ」

※シーン切り替え

回想から現実に戻る

ティック:「......(小さく笑う)そうか。あれからファランと仲良くなったんだっけ」

レイギッド:「あー、そこの、ガキ......(咳払い)少年。ちょっといいかな?」

ティック:「僕、ですか?」

レイギッド:「ああ、そうだ。ちょっと君に聞きたいことがあるんだが」

ティック:「はあ、何でしょう」

レイギッド:「いや、なに。この海に最近《よくない怪物》が出ると噂になっていてね。
       近々、海に怪物を殺すための毒を撒くそうなんだ」

ティック:「ど、毒を!?」

レイギッド:「ああ、そうなんだ。人間には無害な毒だそうだが......どんな生き物に影響があるか分からんからな。
       色んなやつに気を付けろよと声をかけて回ってるんだが......何でもこの付近に、人魚が出るそうじゃないか」

ティック:「(驚く)な、何故それを?」

レイギッド:「(にやりとした顔)おお知っているのか。そう、その人魚がこの辺りに出るらしいね。
       だが人間には害は無いと言っても、人魚にはどうなるか分からんだろう?
       もし万が一、毒にあてられてしまっては大変だから、避難させたいんだ」

ティック:「ファラン......」

レイギッド:「......ファラン、というのは、その人魚の名前かな?」

ティック:「え、ああ。そうです。僕の――、うっ(殴られ、気絶する)」

レイギッド:「(笑う)情報収集のつもりだったが、これは思わぬ収穫だな」

※シーン切り替え

ルスターが港町の傍の海を泳いでいる

ルスター:「(水面から顔を出す)ぶはっ。いねえもんだな、人魚......」

ファラン:「こんにちは、お兄さん」

ルスター:「うおっと。......驚いた。(笑う)てっきり、人魚が現れたのかと思っちまった」

ファラン:「......(薄く笑う)人魚なんて居るわけないじゃないですか」

ルスター:「んー、ティックも居ないって言うんだけどな。あそこまで否定されると、見つけて驚かせてやりたい」

ファラン:「......あなた、ティックを知っているの?」

ルスター:「え?まぁ、ちょっとした知り合いかな。お嬢ちゃんも知ってるのか?」

ティックM:――大変だ。さっき、街に君を狙ってる人がいたんだ
      しばらくの間、海の中で大人しくしていた方がいい

ファラン:「......そう、それじゃあ、あなたが......」

ルスター:「なぁお嬢ちゃん。あんたは人魚について、何か知ってるかい?」

ファラン:「......残念だけど、知らないわ。......それはそうと」

ファラン、ルスターに近づく。

ファラン:「(怪しく笑う)......いい男ね。あなたは」

ルスター:「......随分と積極的だな」

ファラン:「(怪しく笑う)ねえ、もっとこっちに来て......」

ルスター:「......積極的な女は好きだぜ。......けどな」

ファランが抱き着いた状態で、隠し持った刃物を振り下ろす

ファラン:「痛っ!」

ファランの刃物を持った腕を掴むルスター

ルスター:「生憎と、刃物振りかざしてくる女は趣味じゃないんだ」

ファラン:「......(痛みに耐えながら笑う)あら、オツムの弱そうな人間かと思ったけど、案外やるじゃない」

ルスター:「質問に答えろ。お前は誰だ?なんで俺を殺そうとする」

ルスター、ファランの腕の鱗や下半身の尾鰭に気が付く

ルスター:「......驚いた。アンタ、人魚だったのか」

ファラン:「......ええ、そうよ」

ルスター:「どうしてこんな真似を?」

ファラン:「それは、アンタが、ティックを取ろうとするから......」

ルスター:「は?俺が、なんだって?」

ファラン、力が緩まった腕からすり抜ける

ファラン:「......もう、ティックに近づかないでよね!バカ!」

そう言い残し、ファランは海の中に潜って消える

ルスター:「なんなんだ、アイツは......」

※シーン切り替え

海の底、ファラン

ファラン:「ティック......今頃どうしてるんだろう」

海の底に、ボトルに入れられた手紙が沈んで落ちて来る

ファラン:「......これは、手紙?」

レイギッドM:ティックは預かった。返して欲しければ西の洞窟まで来い。
       小僧が生きているかどうかは、お前の泳ぐ速さにかかっている――

手紙の文末には、誰の物か、血の跡がついていた

ファラン:「......ティック......!」

※シーン切り替え

ファラン:「洞窟って、ここね。......ティック!どこ?どこなの!」

ファラン:「ティック!ティッ――(背後から襲われ、気絶)」

レイギッド:「クックック......」

※シーン切り替え

ティック:「(息を切らして走る)はっ、はっ、はっ――」

ティック:「ルスターさん!」

ルスター:「おお。ティック。いや、さっきまでずっと海に潜ってたんだけどよ。中々人魚が見つからなくてな......」

ルスター、ティックの傷に気付く

ルスター:「どうした、何があった」

ティック:「(涙声で)......ファランを、ファランを助けてください!」

※シーン切り替え

洞窟、鍵付きの檻に入れられたファランと、近くでサーベルを研ぐレイギッド

ファラン:「(目を覚ます)......ここは?」

レイギッド:「お目覚めか」

ファラン:「あんたは......」

レイギッド:「このような形でお迎えして申し訳ない。なにぶん俺も急いでいたのでな」

ファラン:「......ティックは、無事?」

レイギッド:「(何のことだという顔)......ああ、あのガキか。なに、多少痛めつけてはやったが、無事さ」

ファラン:「そう、良かった......」

レイギッド:「今から食われるというのに他人の心配か。人魚というのはよく分からんな」

※シーン切り替え

洞窟の壁に隠れて様子を伺うティックとルスター

ティック:「ど、どうしよう。ファランが、ファランが食べられてしまう......!」

ルスター:「落ち着け、すぐに食われはしない。アイツは変な所でこだわりがある。準備が済むまで時間はまだあるはずだ」

ティック:「け、けどどうしたら......」

ルスター:「......おい、耳を貸せ。(何かを耳打ちする)......出来るか?」

ティック:「......(生唾を飲み込む)分かりました」

ルスター:「ティック、いいか。怖くても目開けろ」

ティック:「(怖くて震えている)う、うう......」

ルスター:「お前にとって、今一番やんなきゃいけないこと。それは、なんだ?」

ティック:「(本を開こうとする)......やらなくちゃいけない、こと」

ルスター:「大切なその本には載ってねえ。大事なもんはいつだってな、胸ん中にある。
    考えずに動け、お前が今一番大事なもんは、何だ?」

※シーン切り替え

ティック:「ファラン!」

ファラン:「ティック!ど、どうして来たの!!」

レイギッド:「(溜め息)やれやれ。せめてもの情けで命だけは取らずに見逃してやったというのに。
       ガキ。俺は今食事の準備で忙しい。分かったら早くどこかへ消え失せろ」

ティックM:こわい。こわい。こわい......!けど......!

レイギッド:「人魚。死ぬ前に言いたいことがあったら聞くぞ?」

ファラン:「(震えた声ではっきりと)......ティックには、ティックには手を出さないで」

ティック:「......!」

レイギッド:「それが最後の言葉か。何とも面白みの無い......(銃を構える)、それじゃあな」

ティック、ファランの檻の前で体を盾にして守る

ティック:「――っ、(荒く呼吸)はっ、はっ、はっ......」

レイギッド:「ほう、自ら盾になるか。見掛けの割に中々勇敢じゃないか」

ファラン:「ティック!バカ、何やってるの!危ない、退(ど)いて!」

ティック:「(目を固く閉じる)退かない......!」

ファラン:「ッ、死んじゃうかもしれないのよ!」

ティック:「そんなこと分かってる!分かってるけど......
      (泣き笑い)こうするのが、一番正しいって、体が動いちゃったんだ......」

レイギッド:「二人仲良く死ぬのがお望みか?ふん......(銃を構える)ま、俺はガキが一人死のうが二人死のうが構わん」

ティック、咄嗟に本を胸の前に構える
銃弾が分厚い本の装丁(そうてい)に阻まれ、貫通はしなかった

レイギッド:「むっ。(怪訝そうに)まさか、本で銃弾を受け止められるとは。
       運が良かったな。もう少しで体に穴が空くところだった」

ティック:「......(精一杯の虚勢)僕の大事な、本です。大切な人ぐらい、守れて当然だ」

ファラン:「ティック......」

レイギッド:「(いやらしく笑う)そうかそうか。それは凄いな。だがな、偶然というのは1度はまぐれで起こるもの。
       2度起こればそれはもう奇跡だ。今度は外さないから、安心して逝くが良い」

ルスター:「悪いな、邪魔するぜ」

頭上からルスターが、レイギッドとティック、ファランの間に割るように着地

レイギッド:「(驚く)ル、ルスター!貴様、一体どこから入ってきた。食事中の礼儀作法(マナー)も守れんのか」

ルスター:「金も払わず無茶な注文する客に、礼儀作法(マナー)をとやかく言われる筋合いは無いな」

ティックの頭にそっとルスターの手が乗せられる

ルスター:「根性見せたな」

ティック:「(涙声で)ルスターさん......」

レイギッド:「(不愉快そうに)、次から次へと......邪魔をするな、いつまで経っても食事にありつけんでは無いか!」

ルスター:「こいつからの依頼でな。悪いがその人魚、返して貰いに来た」

レイギッド:「(溜め息)俺の邪魔をするなと言っただろう......これはもう、俺の所有物(もの)だ。誰にも渡さん」

ルスター:「アンタ、何でそんなにも不老不死を求める。理由はなんだ」

レイギッド:「理由だと......?(大笑いする)俺は金が、酒が、女が!大好きだ!!
      それを死ぬまで、いや、この世界が滅びるまで一生、味わいたい。奪いつくして喉を潤したい!!
      そのために人魚。お前は俺の糧となるのだ。(笑う)どうだ、光栄だろう!」

ルスター:「つまらねえ理由だな」

レイギッド:「(少し不愉快そうに)お前も海賊のはしくれだろう。海賊の本分とは他者から奪うこと!
      私利私欲を満たすこと!それのどこがつまらない理由だと言うのだ!」

ティック:「か、海賊......!?ルスターさんが?」

ルスター:「美味いもんも酒も、金も女も。全部一瞬の欲みてぇなもんだからさ。
      それだけのために生きてるアンタが、穴だらけの船みてぇだから、つまらねぇと言ったんだ」

レイギッド:「黙れ、黙れ黙れ!そう言うお前も、自分の私利私欲のために不老不死を求めているでは無いか。
      口では綺麗ごとを吐いていてもな、人間の本質とはみな、全て!等しく!
      自分の内なる欲求を満たすために生きているにほかならない!」

ルスター:「俺も最初は欲しかったさ、不老不死が。
      けど、俺は誰かのもんを奪って得る幸せに、魅力を感じねえんだ。
      それに(鼻で笑う)、お前と同じもんを欲しがるってのは、他のやつにセンスが悪いと笑われそうだ」

レイギッド:「(怒る)~~ッ、ぐ、ぐぐ......殺してやる。
       貴様を殺し、勝利の余韻に浸った後に、メインディッシュをいただこう!」

ティック、ファランの檻の鍵を何とか外そうとする

ティック:「っ、くそ。くそっ。開かない......」

ファラン:「......ごめん。私が、あの時、あなたに話しかけたこと。あれがそもそも間違いだったんだわ」

ティック:「そんなことない」

ファラン:「どうして、そう言い切れるの」

ティック:「(鍵を外すことに集中しながら)僕は、君に世界を変えられた。本じゃ得られない、大切な体験だったんだ。
      それが間違いであるわけがない。君が話しかけてくれていなかったら、今の僕はここには居ない。
      今、鍵を外すことに集中してるんだ。そんなバカなこと、言わないで」

ファラン:「......(泣き笑い)どっちがバカなのよ、ほんとに」

※シーン切り替え

ルスターとレイギッド、サーベルで切り結ぶ

レイギッド:「前からお前は気に入らないと思っていたんだ!」

ルスター:「へえ、そうか。そいつは奇遇だな、俺もだ」

レイギッド:「貴様は海賊を名乗りながら、物欲が無い、他者から物を奪うことを良しとしない!
      それを美的かとするかのように!貴様のようなやつがいるから、海賊がナメられるのだ!!」

ルスター:「《海賊としての振舞で何が正しいか》。そんなもんが一番つまらねえ。
      悪いが俺は女を泣かせはしない。子供は笑わせる。野郎どもには景気よくビールを振舞ってやる。
      奪った金で私腹を肥やそうなんて考えない。俺はただ面白えもんが好きで、世の中面白くしてぇだけなんだ」

レイギッド:「くだらん!貴様には海賊などではなく、日銭を稼ぐ大道芸人がお似合いだ!」

ルスター:「(笑う)大道芸人か、それもいいかもな!だが、俺は世界を股にかける海賊。
      世界中の海が、俺を冒険に駆り立てて離してくれねえ。だから、俺はいつまでも海賊なのさ」

レイギッド:「貴様の話などもう聞き飽きた!いさぎよく、海賊の俺の手にかかって、死ね!」

レイギッド、サーベルを多きく振り下ろす。
ルスター、落ちていた子供の分厚い本を掴み、それで刃を受け止めた

レイギッド:「ぐっ!」

ルスター:「あんたのその薄っぺらい《サーベル(プライド)》と、この、ティックの《本(誇り)》。
      どっちが強いかは明白だな?あんたの銃弾もサーベルも、ティックの本を貫くことは出来なかった」
    
ルスター、レイギッドの腹部にサーベルの柄の一撃をお見舞いする

レイギッド:「(気絶)うっ、く、くそ......」

ルスター:「海賊名乗るならもっと腕磨いてからにしな」

※シーン切り替え

レイギッド:「む......(目を覚ます)こ、これは!なんだ!?」

レイギッドは体中をロープで拘束され、その上から様々な金品が身につけられている
洞窟から外に突き出した道の先端に座らされていた。その眼下には海が広がっている

ルスター:「お目覚めか。(笑う)どうだい?大好きな金目のもんに体中覆われた気持ちは?」

レイギッド:「(慌てる)な、縄をほどけ!」

ルスター:「(わざとらしそうに)そう言えば、お前は昔からカナヅチだったよな。今はもう治ったか?」

レイギッド:「(顔が青冷める)よ、よせ、止めろ!」

ルスター:「......なんでも聞いた話によると、海の世界ってのは、良いモンらしいぜ?
      静かで、穏やかで、誰にも干渉されない――。
      賑やかさに慣れたお前にとって、(鼻で笑う)新しい発見があるかもしれないな?」

レイギッド:「やめ、やめろ――ッ!!」

レイギッド、海に突き落とされる。

ルスター:「(手を払う)やれやれ。ようやく静かになった」

ルスター:「人間と人魚の出会いの物語。そのクライマックスなんだ。
      劇中は静かにすること、それが......(笑う)礼儀作法(マナー)だろ?」

※シーン切り替え

ティックとファラン。鍵と格闘している

ティック:「......も、もう、少し......(鍵が外れる)やった、外れた!(ファランに抱き着かれて驚く)わっ」

ファラン:「......あなた、どうしてこんな危ない真似をしたの」

ティック:「わかんないよ......さっきも言ったけど、体が勝手に動いちゃったんだ」

ファラン:「......(穴の開いた本に気付く)それ、あなたの大事な本......ごめんなさい。私をかばったせいで」

ティック:「......(笑う)なんでかな。これはこれで、前よりこの本に愛着が湧いたよ」

※シーン切り替え

海岸沿い。小型の帆を張った船に乗ったルスターと、見送りに来たティックとファラン

ティック:「もう行ってしまうんですか?」

ルスター:「ああ。そろそろ次の楽しいもんを探しに行きたいからな」

ファラン:「海の中の知り合いに聞いたの。数日後に、海が荒れるって。だから、海を進むならあっちの道を――」

ルスター:「おっと。それ以上は言うなよ。冒険には予期せぬトラブルもつきものなんだ。予想が出来ちゃ、つまらない」

ファラン:「(笑う)......あなた、変な人ね」

ルスター:「(笑う)そいつは嬉しいお言葉だな」

ティック:「あの、ルスターさん。本当に、ありがとうございました。......あれから父さんとも話をして、仲直りも出来ました」

ルスター:「それはお前が動いた結果がついてきただけさ。俺は何もしちゃいない」

ティック:「けど......」

ルスター:「俺が好きな言葉を教えてやる。
      《人は皆(みな)心に帆を持っている、それを広げるか広げ無いかは個人の自由。
      だが帆を畳んだまま風が来ねえ風が来ねえと嘆くやつに、風はいつまでも吹かない》。
      お前は帆を張った。だから、風が吹いたんだ。良い風がな」

ティック:「......(笑う)覚えておきます」

ルスター:「(笑う)またいつかこの港に帰ってきた時に、二人の面白い話でも聞かせてくれ」

ティック:「かならず。また会いましょうね」

ルスター:「(ロープを外し、船が動き出す)それじゃあな、小僧ども!達者で暮らせよ!」

ルスターの船が海の上を進み始める。どんどんその姿は小さくなり、やがて見えなくなった。

ティック:「......」

ファラン:「ティック、本当は着いて行きたかったんでしょ」

ティック:「(慌てる)えっ。な、なんで分かったの」

ファラン:「(笑う)あなたって顔にすぐ出るのよ」

ティック:「うん、着いて行きたかった。けど、きっとここから先は、僕が自分で選んで進むべきなんだ」

ファラン:「......ねえ」

ティック:「なに?」

ファラン:「(少し心配そうに)その、冒険。もしいつか――私も......着いて行ったら、駄目?」

ティック:「......何を言ってるのさ。連れて行かないわけ無いじゃないか。だって――」


ティック:「(笑う)だって僕と君は、友達なんだから」

<完>

【小ネタ】
ルスター:雄鶏 Rooster。風見鶏に用いられる動物(風を受ける)
ティック:分厚い Thick
ファラン:追い風 a following wind
レイギッド:ぼろぼろの ragged
お知らせ
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