そして彼は げだした オルフェがコンパスに亡命if


ある日突然、私の中の"何か"が折れた

「閣下、こちらの書類の決裁印を…」
「閣下、陸上戦力編成についての稟議書が上がってきました」
「閣下、無人MSの調達予算の件ですが…」
「閣下、ユーラシア連邦からの外交親書に対する返答書面の内容は」
「閣下、昨今のスラム街問題の件につきましては…」

うんざりだ

「なーオルフェ、俺のエメラルドの随伴機ちょっと調子悪いんだけど」
「ねーねーオルフェ、アタシのガーネットこないだの演習で変なとこぶつけちゃったの言い忘れてたから整備班に伝えといてー」

うんざりだ…

「オルフェ、私のスピネルですがもう少しアイカメラの感度を上げて貰えるとありがたいのですが…」
「オルフェ…俺のサファイアのビームマントさぁ、なんか出す時ラグってんだけど明日までに何とかしといて」

うんざりだ……

「オルフェ!明日こそ剣の訓練に付き合ってもらうぞ!!何?書類仕事はどうした、だと?期日にはまだ余裕がある!なんとかなるさ!」

うんざりだ……!

「…じゃからのうオルフェ、おぬしはこれからのファウンデーション王国ひいてはこの世界を負って立つ人間になるのだから些細な事に心乱されるようでは…聞いておるのかオルフェ?」

うんざりだ………!

(物陰で都市伝説のくねくね…いや過剰な電力を流した踊る花の玩具さながらに身をくねらせるイングリットの姿が見えた)

うんざりだ…………!

「宰相閣下、本当すごい働きぶりねえ」
「そりゃあ女王陛下の手掛けた渾身のコーディネイターなんだから、当然だろ」


ぷちっ


「顔はカッコいいけど、人間味がなさすぎて、ねえ?」
「おい、聞こえたら不味いぞ!」


ぱつっ


「閣下、いつも執務をこなしてらっしゃるけれどちゃんと休んでるのかな?」
「俺達とは違う存在なんだから、休まなくたって平気なんだろうさ」
「それもそうだ」





ぽきっ




ーああ、そうか。ここに僕のそばにいてくれるひとはいないんだ。
みんなみんな、僕じゃなくて、僕が何をできるか、自分のためになにをしてくれるかしか見ていないんだ。
いてくれて当たり前、してくれて当たり前、そうでなきゃ価値なんてない、自分はやりたくないからお前がやれ…
本当の意味で、僕を見てくれる人なんて、どこにもいない。

ーなんでいつまでもこんな事をしなくちゃいけないのだろう。
なんで今までこんな人達のために頑張ってきたんだろう。
なんでこれからもこんな世界のために頑張らないといけないんだ?
なんでどうしてみんな僕に嫌なことを押し付けるんだ?

今まで目を背けていた考えが大波のように、猛獣の咆哮のように逃げ場を奪いながら独りぼっちの僕に押し寄せてくる。その奔流の前に僕は何も出来ずただ打ちのめされ振り回され、前後も上下も左右もなくぐるぐると暗闇を漂うことしかできなかった。


苦しい


振り回してるはずの腕の感覚がない


息が詰まる


なのに鳩尾から胃の中身がせり上がってくる


目の前が暗い


かと思えば真昼よりも眩しく視界が明滅する


寒い


だけど頭が、眼球が熱い、僕にだけ聞こえるこの轟音が実際のものなのか、それとも僕の脳が作り出した幻なのかわからない


僕にはもうなにもわからない



だれか、たすけて




ー意識が途絶える直前、朧気に見えたのは
慕っていたはずの母の顔でも
慣れ親しんだきょうだい達の顔でも
ましていつかこの手で贄とする偽りだらけの王国の景色でもなく
…あれほど激しく恋慕った運命の女性の貌ですらなく
心配そうに僕を見るフリーダムの操者の悲し気な顔と、差し伸べられる彼の手だった。



ファウンデーション王国宰相オルフェ・ラム・タオが自国の最新鋭MSと共に逐電し、自国に滞在中であった世界平和監視機構コンパスのヤマト隊隊長キラ・ヤマト准将に対し自身の身柄の保護を要請したこと。
そして亡命が事実であり、行動に至った背景と詳細は追って調査を進める旨がコンパスより公式に発表されたのはその二日後のことであった。
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