ブリテンのヌオー フラグメント


 ブリテンのヌオーは、純粋な人外で、それでもなお人々とともに生きていた記憶を父祖から受け継いできました。
自身も数多くの人々と関わってきたからこそ、人について良いところも悪いところもたくさん知っています。
そんな彼だからこそ、自身を人外と嘯くアルトリアとマーリンに寄り添えたのでしょう。
彼だったからこそ、二人に人の喜びを教えることが出来たのでしょう。

 あまりに視座が人と隔絶してるがゆえに、他者から理解されなかった二人が、理解者であるヌオーを失った苦しみは
想像を絶します。
それでも二人は言うのです。

アルトリアは胸を張って
「彼と出会えたことに後悔はありません。 ええ、彼との思い出はいつだって私を支えてくれます。
あなたに感謝を。 あなたのおかげで私は『人の喜び』を知れたのです」

マーリンは、いつもの微笑をしながら
「楽しいだけでも辛いだけでも、『人生』という物は面白くない。
ああ、この喜びも痛みも“キミ”がくれた最高の品だ。
星の終わりまで、大切にするとも」

 なお上記の二人と一匹に、サー・ケイはブチギレです。
「どいつもこいつも、馬鹿どもが!
なあ、お前は、最後まで面倒見ろよ。

 どうして中途半端にあいつらを人間にして、死ぬんだよ!
ブリテンの未来? ”みんな”を見捨てられない?
つくづく馬鹿だな! テメエは! いつもの、ノー天気面で有象無象なんて見捨てろよ。
テメエの利益にもならねえのに、他人に命を捧げるなんて、ただの馬鹿がすることだ。
ましてや、ブリテンの民とかいう、大半が赤の他人のためになんて……
信じがたい超馬鹿だよ、テメエは!

……騎士として貴公への最後の頼みだ。
少し待ってくれ。 魔法の品や呪具の類はキャメロットに無数にある。
それらを有効活用して、俺を含めた何人かの騎士達の魂を捧げれば貴公は死ななくていいはずだ。

……やっぱり駄目か。 そういうところ、あいつとソックリだな。
褒めてねえよ! たく、自己満足で勝手にくたばれ、超馬鹿が」

凄まじい洞察力を持ち、それゆえに自身が出来るのは縁の下の力持ちだと、自覚できていたサー・ケイも辛かったでしょう。
きっと、マーリンがヌオーを連れて来た時には、こんなマヌケ面な生き物に何をさせるつもりだ?
と訝しんでいたでしょう。
そして、そんな生き物が、バケモノになりつあった義妹に『人の喜び』を教えたことに、
口には出さないけど感謝していたのだと思います。

 アグラヴェインも
「お考え直しいただきたい卿よ。
 御身はブリテンの大事な柱、無くなればこの国は大きく傾いてしまいます。
 たしかに、御身の犠牲で“今”も“未来”も救われるかもしれません。
 
ですが御身無き、ブリテンはどうなりますか?
 民も騎士達も、御身を犠牲にした王を許さないでしょう。
 いいえ! 御身は理解できていません!
 人間は御身が想像するほど、賢くもなければ善良でもないのです。

 どうせ恨まれるのであれば、御身はなにもしないほうが良いのです。
 さあキャメロットに戻りましょう。
 王の説得は、このアグラヴェイン、命に代えてでも果たしてみせましょう。

 ……そうですか、行かれますか。
 ならば、御免! 者共、このお方を捕縛せよ。
 残念だが、多少の怪我も仕方がない、全力で挑め!

 ……何用だ? ランスロット卿。
 貴公に用は無いが、何故剣を抜いている?
 騎士として、見過ごせないだと?

 いい加減にしろ!
 ことは国の一大事なのだ。
 騎士道だの人道など、狗にでも食わせてしまえ!
 
それでも邪魔立てするか。
いいだろう、ランスロット卿は殺しても構わん。
者共、征くぞ」

 こんな一幕もあったかもしれない。

彼にとって、全てはブリテン存続の為で、アーサー王以外の王等、考えてすらしていなかったでしょう。
そしてヌオーの重要性も、誰よりも理解していたでしょう。

いや、『人間嫌い』の彼にとって、ヌオーの存在は純粋に心地良かったのかもしれません。
どちらにせよ、ヌオーの死後、彼は聖杯探索を王に上奏します。
その意図はどうであれ、聖杯への願いは“ヌオーの蘇生”であると彼は語るのでした。
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