TS転生厨二ウマ娘でもトレーナーに恋するって本当ですか?


拝啓
別世界のお父さん、お母さん。お元気ですか?
俺は今…ウマ娘になっています。
そんな俺に今、春の季節が訪れそうです。

「君が強いからじゃない!俺は君の走りに惚れたんだ!だから!君のトレーナーになりたいんだ!」

ウマ生12年目。
前世と合わせると27年目の今日。
トレーナーに惚れそうです。
目の前の俺を見上げる小さなトレーナーにです。
俺との身長差を考えて……俺の身長が大体189だから……。
この人は159くらいかな。
低身長のわりに大人びた印象の彼。
紅い瞳に綺麗めな顔。
美女と言っても差支えの無いほど整った容姿。
癖毛ですこしうねった黒髪を伸ばしている彼に……

普通にときめきました。
元……男の俺が……です。

お父さん、お母さん、助けてください。
俺、この人に女子パラメータを最大値に振り分けられちゃうっ!
そんなときめき状態の俺はつい……。

「なら、この俺のためにその命をささげる覚悟はあるか?」

と彼の顎に指をあててそう言っちゃいました……。
ヤバい…今世は中二病全開で生きていこうと思っちゃって……。
と今更やったことに後悔しまくる俺に彼は……。

「君のためならこの命。惜しくはない。」

あやっべ!覚悟ガンギマリの人だ(歓喜)
え……こんな合法イケショタがトレーナーで良いんですか!?
と情緒ぐちゃぐちゃになってしまうぅぅ。
俺は、ははわ///となってしまうのを必死なって抑えた。



なんでこうなったか少し時を戻そう。

「遂にこの瞬間が来たか……」

俺は校門の前でそう呟く。
正直不安だらけだったけど……。
自分がこの学園に受かったことを実感する。
天にも届きそうなほど大きく見える校舎は、憧れた舞台だからなのだろう。
その更に上に広がる空は雲一つない快晴だ。
爽やかな春風が優しく身体を撫でる。
それはまるで意思を持ち、俺を鼓舞してくれているようだった。
俺の葦毛の耳と尻尾がスカートともに揺れ動く。

見ててくれよ……皆……。

俺は心の中であの人たちへの思いを馳せる。
そんな俺が今いるのは中央トレセン学園。
日本最高峰のウマ娘養成機関だ。
そこに居るのは強者、強者、強者ばかりだ。
俺はまだ見ぬ出会いと戦いに心躍らせながら一歩を踏み出した。
舗装されたアスファルトにブーツがコツコツとまるで『馬』の蹄のようになる音が心地いい。

ん?何故『馬』という単語を知ってるかって?
言い忘れていたが俺は転生者ってやつで前世の記憶がある。
待ってくれ。別に気が狂ったとかそういう訳じゃない
本当に目が覚めたらこの世界に生まれていたんだ。
そう、ウマ娘の居る世界に。

転生前の日常は今でも思い出せる。

朝起きて学校に行って友達とバカな話をしては、家でウマ娘に没頭する。
あぁ、ここで言うウマ娘はコンテンツの話だ。
俺の居た世界じゃ色んな人が没頭していた。
そして一日が終わる直前…。
暖かなベッドの中、ふと思った。
ウマ娘になりたい……と。

ただのウマ娘じゃない。勝利が決まっている最強のウマ娘だ。
最強のウマ娘になって、浴びるような歓声を味わいたいと。
ただのオタクの願望でただの憧れだった。
彼女たちのようにカッコよく、美しくありたいと。
そう願った。
先の見えない現実からの逃避くらい分かり切っている。

けれど、それども……。
画面の向こうで輝いている彼女たちのようになりたい。
誰でも思う、眠りにつく前のちょっとした願望。
だからその時は思いもしないだろう。

だが、どういう訳か、現に俺はウマ娘となった訳で。
まぁ、全くもって、人生は何が起こるか分からない。
いや、本当に何が起こるか分からないな……。

辺りを見回してみれば可愛らしいウマ娘たちが自分たちのこれからに思いを馳せているようだった。
鹿毛の子から栗毛の子、黒鹿毛のこや、青鹿毛の子。
なんとも微笑ましい絵面だ。
ぜひ写真を一枚撮りたいくらいだよ。
そんなやべーほうのデジタル的な想像をしつつ俺は足を運んだ。

なんやかんやで入学式も終わって次はトレーナー探しだ。
ここで如何に良いトレーナーを見つけられるかが勝負どころだが、正直言ってどうでもいい。
専属レースに出て結果を残せば普通に集まるだろ?
なんでそんな根拠のない自信があるかって?
あるんだなそれが。

ーーー

昔からウマ娘が嫌いだった。
父がその存在に狂い、母さんと俺を捨てたからだ。
そんな俺が何故トレーナーを目指したか。

何故、父が狂ったのか……それを知りたかったからだ。
狂うに相応しい物だったら納得するし、そうじゃ無かったら父はただの狂人ということになる。
そんな不純な動機で俺は中央トレセン学園のトレーナーにまで上り詰めた。
こんなトレーナーじゃ担当が不憫だと思う情くらいはあった。
だから選抜レースを見に来たのも、単なる気まぐれだった。
俺に担当は必要ない。

そう思っていた。

血統が何よりも重要視されているこの業界ではどの子が有望か、ある程度トレーナー間で共有されるものだった。
だから、皆どの子が勝つかある程度見当がつくのだが…。
今回は訳が違った。

皆、良いトレーナーについてほしいと願い、必死になってひた走るレース。
先頭を走るのは今回有望株だとされていた栗毛のウマ娘だった。
終盤まではそのウマ娘の圧勝で終わるかと思われていた。
次の瞬間。
突然最後尾のウマ娘の姿が消えたのだ。
まるで灰になってしまったかのように、忽然と消えたのだ。
一体何が起きたと脳をフル回転しても処理しきれない状況。
そして走者と俺たちトレーナーはやっと気づく。
消えたんじゃない。
前に行ったんだ。と。

そのウマ娘はどんどん加速していき、1着へ迫っていった。
葦毛の髪が風を泳ぎ、宙を舞う。
まるでG1ウマ娘のような覇気をまき散らしながら他の走者たちを蹂躙していく。
大柄とはとても思えないほど軽やかな走り。
俺はその全てに魅せられていた。
そうか……これが父が狂った訳か……と俺は納得してしまった。
それと同時に気づく。
自分も父と同じように狂わされたことも。
1着の差は2バ身、1バ身と縮まっていき、遂には抜き去って行った。
そして、そのままゴールラインを抜け、選抜レースは彼女の勝利で終わった。

彼女へ声をかけようと次々とトレーナーが立ち上がっては、彼女の元へ向かう。
俺も彼女がどういった人物か気になり、その後を追った。

ターフの上、蛾のように群がるトレーナー達の中でも一際異彩を放つ彼女。

ウルフカットに切られた滑らかな葦毛。前髪には一筋だけ、長い白毛が三日月のように垂れている。
ウマ娘だから、もちろん耳と尻尾も持っているが、あれだけのトレーナーに囲まれて一切微動だにしない。
顔のパーツは可愛さよりも綺麗さに比重の寄った形だった。
左目は髪の毛で見えないが、右目で紅い、黒みががった瞳をしていた。
大柄で、かなり成長した体つきをしていた。
そんな彼女は水筒を手にしたまま微動だにしなかった。

もしかして緊張しているのか?

そんなことを思った次の瞬間。

彼女は水筒の蓋を開けると……。
その中の水を辺りのトレーナーにぶっかけたのだ!
そして慌てふためくトレーナー達を見て彼女は一言。

「退け、邪魔だ。」

と低く凛々しい声だった。

ーーー

あーあ。せっかくレースで気分よく勝ったっていうのに……これじゃ気分台無しだ。

俺は控室でスペアの水を飲んでいた。
なんでスペアを飲んでるか?
トレーナー達の余りの鬱陶しさに思わず水ぶっかけちゃったってそのせいなんだけどね……。
あっそうだ。この世界で俺は中二病心全開で行動することにした。
せっかくこんな強い身体とかっこいい顔を手に入れたんだ。
有効活用しないとな。
そんなことを思っていると不意に声がかかる。

「ちょっと!私の選抜レースめちゃくちゃにしてあれは何!」

と後ろから声をかけられた。

「なんだ?」

と俺がそう言い振りかえると

そこには…えーっと誰?

「誰だ貴様?」

あ、やべ、思わず声に出ちゃった。

「アッドアウェイよ!一番人気だったわよ!」

その言葉で思い出す。

そう言えば一番人気はあの逃げの子だったっけ。

「俺に負けた木っ端が何の用だ?」(訳:俺に一体何の用ですか?)

「こ、木っ端って‥貴方!あれだけのトレーナーにスカウトされといて何!?あの態度!?失礼だと思わないの!?」

あーそれ言っちゃう?
如何にカッコよく周りを退かすかの最適解。
てっいうのもあるし…

「あのような羽虫の戯言。聞くに価しない。」(訳:どいつもこいつも言ってる子と同じだった。)

俺はそう言いながら立ち上がると、その彼女を壁際に追い込んだ。
このイケメンフェイスならセーフだよな…?

ドンッと俺は勢いよく彼女の顔のすぐ横に手を付けた。

所謂、『壁ドン』である。

そして俺は、震える彼女のウマ耳にそっと囁く。

「この俺に意見したいなら、戦場でのみ聞こう。まぁ強者の言葉だけだがな。」

決まったー!俺カッコイイ!

そして俺はそのままこの場を去った。

……よく考えたら痛いどころの話じゃねぇなおい……


ーーー

へなへなと腰が砕けそうになる身体を必死に抑えて、ロッカーへもたれかかる。

なんなのよ……アイツ……。
強くて……カッコよくて……自信にあふれていて……。
本当に同じ新入生……?

そんな疑問が頭を駆け巡る。

なんであんなことができるのよ……。
それにさっきの、か……壁ドン……。
少女漫画とかそういう架空の世界でしか見たことない存在…
綺麗な顔があんなにも近くて……。
あんなにかっこよくて綺麗な声で……。

「は……は……は……」

呼吸が乱れる……。
顔が今にも火が出そうなほど熱くて……
まるで恋煩いみたいに胸が苦しい……

そう……憧れたのね……私……
あの走りに、あの言動に……。
あの人の隣に立って……今度こそ私をライバルとして見て欲しいって……そう思ったんだ……。

生まれて初めての感情に戸惑うと同時に、目標が見えた。

あの人の隣に立って、追い越すんだ!
そうと決まったらトレーナー探しよ!
そう踏み出した私の足取りは、自分でも驚くほど軽やかだった。
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