小説・飯場の少女(浅野浩二)


僕は、会社から、リストラされた。
それで、僕は、ある飯場に住み込み、土方として、働くことになった。
昼間、土方として、働いた。
仕事が終わると、僕は、粗末な、飯場の家に帰った。
四畳半の狭い部屋が、僕の部屋だった。
その家には、他にも、3人の男が、住んでいた。
僕は、彼ら、3人と、その家に住むようになった。
彼らも、昼は、土方として、働いた。
ある時である。
一人の少女が、やって来た。
彼女は、豪雨災害で、家も家族も失って、誰も助けてくれる人がいなかったので、路頭に迷っていたのだ。
彼女は、オシ、で、言葉、が喋れなかった。
僕たちは、彼女を、可哀想に思って、彼女を、家に、泊めてあげた、そして、食べ物をあげた。
彼女は、涙を流して、僕たちに感謝した。
彼女は、名前を、桃子、といった。
彼女は、僕たちの、食事を作ってくれたり、買い物に、行ってくれたり、掃除してくれたり、僕たちの、よごれた服を、洗ってくれたりした。
彼女は、嬉しそうだったし、僕たちも、嬉しかった。
彼女は、まるで、可愛い、アイドルのような、存在になった。
彼女は、そのまま、この家に、すみこむうに、なった。
彼女は、この家の、ハウスキーパー、のような、存在になった。
僕たち、4人は、皆、桃子に気があって、ライバル関係だった。
誰かが、桃子に手を出そうとすると、すぐに、他の男たちが、それを、制した。
それほど、僕達のライバル関係は、熾烈だった。
だが、僕は、そのライバル関係に、表立って、行動できなかった。
僕は、桃子に、面と向かって、好きだ、と言えるような、性格じゃなかった。
黙って、桃子のことを、思い続けるだけだった。
桃子は、無口で、気立ての優しい、ちょっぴり、弱々しく見える、女の子だった。
桃子は、僕達4人のために、料理を作ってくれ、僕達の服を洗濯してくれ、ちらかった部屋を掃除してくれた。
桃子は、それらを、少しも苦にする様子もなく、いっつも、黙って、働いていた。
僕は、そんな桃子を、こっそり、見るのが好きだった。
ある時、三人の仲間の一人が、こんなことを、言い出した。
「桃子は、性格もいいし、気立てもいい。いつ、どこから、縁談の話がもちかけられて、社会的地位の高い男にもっていかれてしまうかもしれない。それに僕達4人のライバル関係も決着がつきそうにもない。こうなったら、桃子を僕達4人だけのものにしてしまおう。その方が社会的地位の高いヤツに桃子をとれてしまう、よりいい。そのためには、桃子を僕達4人で、犯してしまえばいい。その事実を桃子に縁談がもちかけられた時、相手方に話してしまえば、縁談は、ブチ壊れるし、それに、桃子みたいな古風な子は、処女を奪われてしまえば、他の男を愛する資格が、なくなると、思い詰めてしまう、だろう」
残りの2人も、それには、二つ返事で同意した。
「お前も賛成だろう?」
と、この計画の立案者が僕の同意を求めた。
僕は、これに無言で頷いた。
「そんな方法で、天使のような、桃子、に乱暴をして、気立てのいい、桃子、の性格を利用するなんて、人間のやることじゃない。畜生のやることだ」
僕の本心は、そう言っていた。
だがそんな本心も、スバズバ言うには、僕の気は小さすぎた。
決行の日が来た。
夜だった。
桃子、は、台所で食器を洗っていた。
3人が、瞬時に、桃子、に、おそいかかった。
両手を後ろに、捩じ上げ、大声を出さないよう、口を塞いだ。
そして、桃子、を、担ぎ上げて、二階の、桃子、の、部屋に、運んだ。
3人のうちの、一人が、僕にも、手伝うよう言った。
だが、僕には、とてもそんなことなど、出来なかった。
だが、だからといって、「そなにことやめろ」、と言って、この暴行を止めるほどの勇気も無かった。僕は、ただ黙って、彼らについていった。
この行為を、黙認して、共犯者となることが、僕に出来る唯一の協力だった。
か弱い桃子、は、部屋に入れられると必死で抵抗を試みた。
僕達は、桃子、を好きだったし、また、桃子、も、僕達を友達と思って好意をよせてくれていた。
だが、それを、こんな形で、裏切られることは、桃子、には、耐えられなく、つらく、悲しいことなのは明らかだった。
桃子は、抵抗の中にも、相手への思いやりがあった。
だが3人は、桃子、のそんな気持ちなど少しも理解していなかった。
3人はむしろ、このさい、完全に、桃子、を、なぶりつくしてしまえば、桃子、を、自分たちのものに出来ると思い込んでいた。
3人は抵抗する、桃子、を、後ろ手に、捩じり上げ、平手で、桃子、の顔を思いきり叩いた。
そして、桃子、が、声を上げないよう、猿轡をかまし、桃子、をベッドに縛りつけた。
桃子、は、目をつぶっていた。
そして、その目じりからは、幾筋もの、涙が流れ続けていた。
3人は、獲物に群がるハイエナのように、桃子、の首筋にキスしたり、胸を揉んだり、じらすように、太腿から、スカートの中へ、手を這わせたりし、それを、代わる代わるした。
じらすような、ペッティングが続いた。
それは桃子、を精神的に屈服させ、これから行う本番の行為を精神的に受け入れさせるためだった。
ようやく、長いペッティングが終わった後、3人は、立ち上がり、だれから、やるためのジャンケンをした。
第一番になった者は、小躍りして、桃子、の上にまたがった。
そして、ナイフをとりだして、桃子、の服に手をかけた。
桃子は、もう、抵抗する気力もなくして、ぐったりしていた。
ただ、閉じられた目からは、涙が流れ続けていた。
僕の心の中の火の玉が炸裂した。
僕は桃子にまたがっていた、男の胸ぐらをつかんで、投げ飛ばした。
そして、この突如の暴挙にでた狂人を取り押さえようとして、残りの2人が僕を押さえつけようと襲いかかった。
僕は気が小さいが、子供の頃から、始めて、テコンドーを身につけていた。
僕は、右からくる者を、左足で、回し蹴りで倒し、つづいて、左からくる者を右回転し、右後ろ回し蹴りで倒した。
二人は、声をたてる間もなく、地に倒れた。
僕は、落ちていた、ナイフを、とり、桃子の両手両足の縄を切った。
そして桃子を持ち上げた。
そして、部屋を飛び出し、階段を降り、建物を出た。
僕は無我夢中で桃子を抱いたまま、走った。
162cm、45kg、とはいっても、人一人である。
重かった。
僕は仲間3人を裏切ってしまった。
それも、手ひどい方法で。
彼らは、業を煮やして、僕を追いかけてくるだろう。
僕はそれが怖かった。
だが、何としても、桃子を守らなくてはならない。
そのためには重さなど、感じてはならないと、思った。
僕は走りに走った。
いつしか、僕達は、海岸に来ていた。
満月が、唯一の、光であった。
僕は、桃子を座らせ、僕も座った。
僕は、桃子の猿轡を解いた。
桃子は、気を失っていた。
僕は桃子を抱きしめた。
僕は桃子を守ってやらなくてはならないと思った。
僕は桃子を愛していた。
だが、僕には、桃子を幸せにしてあげる能力が無いことも、十分、知っていた。
僕は、桃子を本当に愛し、幸せに出来る人があらわれ、二人が、幸せになる日まで、命がけで、桃子を守ろうと思った。


令和2年8月18日(火)擱筆
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