小説・倉橋敦司(浅野浩二)


小説・倉橋敦司

名古屋市に10億円かけて作られた大豪邸がある。
この家の主人は倉橋敦司といって児童文学・ラブコメミステリー小説、の日本で第一人者の倉橋敦司という男である。
分筆活動だけではなく倉橋敦司は絵も描けた。
一時は漫画家になろうと思ったこともあるほどなので倉橋敦司の絵は上手かった。
その絵は、子供の頃から描いていただけあって、輪郭がはっきりしていて、そして現実感があって、そして健全そのものだった。
倉橋敦司は子供の頃から読書が好きで、日本の純文学や外国の作品も多読していた。
倉橋敦司は、小学校・中学校・高校、とすくすく健全に過ごした。
大学は名古屋大学文学部を卒業した。
歴史が好きで歴史ドキュメントを執筆するため資料を蒐集していた。
倉橋敦司の受賞歴を以下に書いてみる。
「受賞作品」
◆児童文学
・創作文芸賞最優秀賞・株式会社アートコミュニケーション
「算数100点大作戦」オムニバス作品集に収録
・ビジュアルアート大賞最優秀賞~児童部門(文芸社)
「ぼくたち二人名探偵」単行本化
・第31回児童文学賞佳作・PTA機関紙「子とともに ゆう&ゆう」
「いたずら文ちゃん いたずら大作戦」
・五木村・創作佳作・五木村活性化審議会
「子守歌大作戦」
◆エッセイ
・扇風機エッセイ募集最優秀賞・松下ネットワークマーケティング
「扇風機のある風景」パンフレット掲載
・響きあう詩エッセー募集・お仏壇のはせがわ
「心の支え」広報誌掲載
・「忘れられない言葉」武田薬品工業賞・講談社
これほどまでに、輝かしい受賞歴をもっているので、日本の文学界での倉橋敦司の存在は絶大だった。
今ではパソコン、インターネットが普及して、小学生でもパソコンを使うようになったので、エロチックな小説は、どの小説投稿サイトでも規制が厳しくなって、書けなくなってしまった。ネットの小説投稿サイトでは、健全でエロは無く、ストーリーが面白いラブコメミステリー小説がもてはやされるようになった。
そういう時代の状況も倉橋敦司にとっては有利に働いた。
倉橋敦司ににらまれては、日本で小説を書くことは不可能だった。
倉橋敦司の書く小説はラブコメミステリー的なものが多く、子供が読んでも面白いものばかりだった。
連載形式で投稿しているので、次はどうなるのか、と多くの倉橋敦司ファンは、それが楽しみで眠れないほどだった。
倉橋敦司は子供の頃、江戸川乱歩に心酔して、乱歩の小説を読破した。
それがミステリー小説の作り方の勉強にもなった。
なので倉橋敦司の小説はストーリーが奇抜なので、読者をワクワクさせるのである。
しかし倉橋敦司にどうしても理解できない作家もあった。
それは谷崎潤一郎だった。
倉橋敦司には、サディズムやマゾヒズム、というものが、どうしても理解できなかった。
サディズムやマゾヒズムは倉橋敦司にとって、変態としか思えなかった。
倉橋敦司は小説投稿サイト・エブリスタにラブコメミステリー小説を投稿するようになった。
倉橋敦司の人気は絶大で、倉橋敦司を知らない日本人はいないほどにまでなった。
しかし、ある時、倉橋敦司は浅野浩二というアマチュア作家を見つけた。
面白い作品もあったが、浅野浩二の作品は、SМ的なエロチックな小説も結構あった。
倉橋敦司はそれが許せなかった。
今は誰でもネットで小説が読める。
18歳以下の小学生も読むことが出来る。
エブリスタの方針にしても、エロチックな作品は、R18と表示して、読んではいけません、と警告してはいるものの、読めてしまうのである。
倉橋敦司は子供が楽しく読めて、読書や歴史が好きになり、健全に成長することを意識して作品を書いていたので、彼は浅野浩二の書く、変態小説を嫌った。
(こんな変態小説を読んだら子供が不健全な性格になってしまう)
と倉橋敦司は危惧した。
倉橋敦司にとっては子供が健全に成長することが絶対的な信念だったのである。
・・・・・・・
ある時、倉橋敦司は書斎で、連載ラブコメミステリー小説の続きを執筆していた。
すると。
ピンポーン。
チャイムが鳴った。
「はーい」
倉橋敦司は急いで玄関に向かった。
カチャリ。
倉橋敦司が玄関の戸を開けると一人の少女が立っていた。
セーラー服を着ている可愛らしい女子高校生だった。
「こんにちは。君は誰。何の用?」
倉橋敦司が聞いた。
「は、初めまして。倉橋敦司先生」
少女はかしこまって恭しくペコリと深くお辞儀した。
全身がガクガク震えている。緊張している様子が見受けられた。
「先生」と呼ばれたことから、倉橋敦司は、大体の予想がついた。
黙っている倉橋敦司に少女はこう言った。
「あ、あの。私。倉橋敦司先生のファンなんです。アポイントもとらないで、いきなり来てしまって申し訳ありません」
少女は深々と頭を下げた。
「ああ。そうなの。それは有難う。せっかく来てくれたんだから、家に入って下さい」
子供思いの倉橋敦司は少女に優しく言った。
「あ、有難うございます。お邪魔します」
そう言って少女は家に入った。
少女は居間に通された。
そこには大きなソファーと大理石のテーブルがあった。
「さあ。遠慮なく座って下さい」
倉橋敦司に言われて、少女は、失礼します、と言ってチョコンとソファーに座った。
倉橋敦司はキッチンから、紅茶とクッキーを持ってきてテーブルに置いた。
「さあ。食べてください」
「はい」
少女は倉橋敦司に勧められた手前、そっとクッキーを一枚、口に入れた。
そして紅茶を一口飲んだ。
「あ、あの。先生。小説をご執筆中だったのではないでしょうか?」
少女が聞いた。
「ううん。別に。確かに連載小説のストーリーを書いていたけれど、このあと、ストーリーをどうしようか、と、ちょっと行き詰っていてね。ちょうど一休みしようと思っていたところだったんだ」
「そうですか。それを聞いて安心しました」
少女はつぶらな瞳を倉原敦司に向けた。
「それとね。僕は何事にも、どんな人にも興味を持っていてね。人との出会いは大事にしているんだ。小説家なんて経験が多い方がいいからね。それが小説を書くヒントになることがよくあるからね」
そう言って倉原敦司も紅茶をズズズーと啜った。
「私なんかで小説のヒントになるんでしょうか?」
「なるとも。なるとも。というより、なるかどうかは、わからないけれど、なる可能性はある、と言う方が正確だな」
と倉橋敦司は言った。
「ところで君は高校生でしょ。高校何年生?」
「高校1年です」
「女子校?それとも男女共学?」
「男女共学です」
「学校の勉強は好き?」
「はい」
「それはいいことだね。国語と歴史はしっかり勉強しておいた方がいいよ。それと読書もした方がいいよ」
「はい。しています」
「君はどんな作家や作品が好きなの?」
「はい。私は倉橋敦司先生の書くラブコメミステリー小説、や、歴史ドキュメントが好きです。倉橋敦司先生は、歴史の資料をちゃんと集めて、歴史ドキュメントを書いておられますから、とても勉強になります」
「それを聞くと嬉しいな」
「私だけじゃありません。私のクラスの生徒は、みんな倉橋敦司先生の小説は面白い、と言って読んでいます。私の学校の生徒は全員、倉橋敦司先生のファンなんです」
少女は熱弁をふるった。
「ふーん。それを聞くと嬉しいな」
倉橋敦司の顔がほころんだ。
「あ、あの。ところで。先生は浅野浩二という人を知っていますか?」
「えっ。知っているよ。エブリスタで知ったんだ。でも、どうして、そんなこと聞くの?」
少女はその質問には答えず、代わりに倉橋敦司に聞き返した。
「あ、あの。倉橋敦司先生は、浅野浩二さんの書く小説をどう思いますか?」
「ああ。浅野さんの小説ね。あの人はアブナイ小説をよく書くからね。困ったもんだ」
と言って倉橋敦司は、はー、とため息をついた。
それを聞いた時、少女は、いきなり身を投げ出して、どっと倉橋敦司の前に土下座した。
「ど、とうしたの?君」
倉橋敦司はびっくりして聞いた。
少女は顔を上げた。その目からは涙がポタリ、ポタリと流れていた。
「ど、とうしたの?君」
倉橋敦司は、訳が分からず同じ質問をした。
少女は涙を流しながら話し出した。
「く、倉橋敦司先生。父を許してあげて下さい」
少女は大泣きに泣きながら言った。
「えっ」
倉橋敦司は一瞬、どういうことなのか、訳が分からなくなった。
「く、倉橋敦司先生。私は浅野浩二の娘の浅野彩子です。父はエブリスタに出した小説を倉橋敦司先生が読んで下さって、率直なコメントをして下さるので、倉橋敦司先生にとても感謝しているのです」
「そうだったんですか。あなたは浅野浩二さんの娘さんだったんですか。でも、どうして、いきなり土下座したり、許して下さい、なんて言うんですか?」
「く、倉橋敦司先生。確かに父は倉橋敦司先生が父の小説を読んで下さって、率直なコメントをして下さることに感謝しているんです。でも父はエロチックな小説も書きたがっているんです。倉橋敦司先生は、本心のコメントをして下さるので、父の書くエロチックな小説に対しては、(またアブナイ小説を読んでしまった)とコメントするので、父はそれに対して悩んでいるんです。今はエロチックな小説は書けない時代で、父はエロチックな小説を書きたいけれど、それを発表できないことに悩んでいるんです。そのため父は首吊り自殺をはかったこともあるんです。私が、あわやという所で止めましたが。確かにエロチックな小説を書くことは罪です。しかし父はエロチックな小説しか書けないんです。なので父の罪を償いたくて私は倉橋敦司先生の家に来たんです。どうか私を罰することで父を許してあげて下さい。私はどんな罰でも受けます」
そう言って彩子は、エーン、エーン、と泣き出した。
うーん、と倉橋敦司は悩んでしまった。
「君。君はお父さんに、僕に謝りに行くよう命じられて、ここに来たの?」
倉橋敦司が聞いた。
彩子は倉橋敦司を直視した。
「倉橋敦司先生。先生に対して失礼ですが、父はそんなことを私にさせるような性格では絶対ありません。私は父を尊敬しています。父は私を手塩に掛けて優しく育ててくれました。今日、ここへ来たのは、父に命令されて来たのではなく私の意志で来たのです。父は私が今ここにいることを知りません。それは信じて下さい」
彩子は、エーン、エーンと泣きながら言った。
うーん、と倉橋敦司は悩んでしまった。
しばしして。
ガチャリ。
玄関の戸が開く音がした。
「おーい。おやじ。帰ってきたぞー」
そう言いながら、一人の高校生が居間に入ってきた。
倉橋敦司の息子の高校1年生の倉橋二郎だった。
倉橋敦司は息子の二郎をキッとにらみつけた。
「おい。いつも言っているだろう。おやじ、じゃなくて、お父さん、と呼べと」
倉橋敦司は不機嫌な顔で言った。
倉橋敦司は心の正しい人間だが、息子の二郎は、粗暴な性格だった。
倉橋敦司としては息子を優しく大切に育てたつもりなのだが、だからといって、息子が清廉潔白な性格になる、という保障などない。
そこが人間の難しいところである。
倉橋敦司としては息子の二郎に、丁寧に勉強を教え、読書を勧め、豊かな教養のある人間に育てようとしたのだが、息子の二郎は、父親の思いと違って、勉強は全くせず、高校生の分際で酒を飲み、タバコを吸い、暴走族のグループに入って、夜の町をバリバリと音を立てて、750ccのバイクを走らせ、万引きはするわ、カツアゲはするわ、覚醒剤は吸うわ、の不良に育ってしまったのである。
二郎は父親の前に土下座している彩子を見た。
「おい。おやじ。この子は何なんだよ。どうして土下座なんてしているんだよ?」
二郎が父親の倉橋敦司に聞いた。
倉橋敦司は息子に事情を説明した。
「この子はな、浅野浩二さんの娘さんの浅野彩子さんだ」
「どうして、おやじ、に土下座なんかしているんだよ?」
「この子はな、父親の罪を償いたいと言って、ここに来たんだよ。何とも健気な娘さんじゃないか。お前も少しは、こういう人間を見習ったらどうだ?」
「ああ。浅野浩二さんの娘さんか。可愛いじゃねーか。ところで父親の罪を償うって、どういうことだ?」
「浅野浩二さんの小説はエロチックな小説が多いだろう。だから、それが、子供に悪影響を与えていることに罪悪感を感じているんだよ」
「なーんだ。そんなことか。そりゃー、おやじの方が間違っているぜ。オレ、浅野浩二さんのエロチックな小説、好きだぜ。オナニーで抜けるからな。それより、おやじの定型的なラブコメミステリー小説の方が、子供だましの、テクニックだけのストーリーで、つまんねーぜ」
うぐっ。
倉橋敦司は返す言葉がなかった。
二郎は続けて言った。
「おやじは頭で書いているけれど、浅野さんは心で書いている。だから浅野さんの作品を読むと浅野さんの心、浅野さんの優しさが伝わってくるぜ」
うぐっ。
またも倉橋敦司は返す言葉がなかった。
その時、ピピピッと倉橋敦司の携帯電話の着信音が鳴った。
倉橋敦司は携帯電話に耳を当てた。
「あなた。今、××のスーパーにいるの。私が万引きしたって因縁をつけられているの。助けて。すぐ来てくれない」
倉橋敦司の妻の倉橋悦子からの電話だった。
「わかった。すぐ行く」
倉橋敦司は携帯電話の送話口に言った。
妻が万引きをしたのではなく、息子の二郎が万引きをしたのだろう。それを妻の悦子に難クセつけているのだろう。いつものことである。
倉橋敦司は背広を着た。
そして息子の二郎を見て、
「おい。ちょっと用ができたからオレは出かける。お前は彩子さんを慰めてやれ」
そう言い残して倉橋敦司は出かけて行った。
あとには、倉橋敦司の息子の二郎と浅野浩二の娘の彩子が残された。
「お前。浅野浩二の娘さんなの?」
「はい。そうです。浅野彩子と言います」
「オレ、浅野浩二さんの小説、好きだけどな。だけど、おやじは、アブナイ小説ってコメントしているけどな。あんたに罪を償う必要なんてないと思うけどな。でも罪悪感に打ちひしがれている人にとっては、罰されないことの方がつらいだろう。オレがおやじに代わって、あんたを罰してやってもいいぜ。さあ、どうする?」
「はい。お願いします。私を罰して下さい」
「よし。じゃあオレが罰してやるよ。さあ、立ちな」
「はい」
倉橋敦司の息子の二郎に言われて、彩子は立ち上がった。
二郎は彩子の手を掴んで家の外に出た。
家の外にはホンダCB750があった。
二郎はそのバイクにまたがった。
そしてキックペダルを踏み込んでエンジンを始動させた。
バルルルルッ。
重厚なエンジン音が鳴った。
「さあ。後ろに乗りな」
「はい」
二郎に言われて彩子はオートバイにまたがり、二郎の体をギュッと抱きしめた。
「よし。じゃあ行くぞ」
倉橋二郎はオートバイのギアを踏み込み、クラッチをつないだ。
オートバイは勢いよく走り出した。
20分くらい走ってバイクは人気の無いある林の中で止まった。
回りには何もない。
「さあ。降りな」と言われて彩子はオートバイから降りた。
そこにはプレハブの小屋があった。
「ここは、おやじの集めている歴史の資料置き場さ。物好きなことだぜ」
さあ入りなと言って、二郎は彩子をプレハブの中に入れた。
プレハブの中は色々な歴史の資料が山積みになっていた。
倉橋敦司が歴史ドキュメントを正確に書くために蒐集した資料だった。
「あんたはオヤジの罪の償いをしたいんだろう?」
「はい。そうです」
「しかしオレのオヤジは子供好きの清廉潔白な性格だからな。とても、あんたを罰することなんか出来ないぜ。だからオレがオヤジに代わって、あんたを罰してやるぜ」
「はい。お願いします」
「よし。じゃあ、まず着ている服を全部、脱いで、素っ裸になりな」
「はい」
彩子はセーラー服を脱ごうとした。
その時。
「ちょっと待ちな」
二郎が制した。
「何でしょうか。倉橋くん」
「オレ一人で見るだけじゃ勿体ないからな。お前のヌードをスマートフォンで撮影してやるぜ。そして、その動画をネットにアップしてやるぜ。どうだ。嫌か?」
そう言って倉橋二郎はスマートフォンを取り出して彩子に向けた。
彩子の顔が真っ赤になった。
「そ、そんなー。ひどいわ」
「嫌なら、やめてもいいぜ。しかし、それならお前は父親の罪の償いをしないことになるからな。お前のオヤジは小説を書けなくなるぜ。さあ、どうする?」
二郎は意地の悪い選択を彩子に迫った。
彩子はしばし顔をしかめて迷っていたが、
「わかりました。どうぞ好きなように動画を撮って下さい。私は耐えます」
彩子が言った。
「よし。じゃあ、まず着ている服を全部、脱いで、素っ裸になりな」
「はい」
彩子はワナワナ手を震わせながら、セーラー服を脱ぎ、スカートを脱いだ。そしてブラジャーを外しパンティーも脱いで一糸まとわぬ丸裸になった。
彩子は男の前で丸裸になったことは一度もなく、さすがに羞恥心から、手で胸とアソコを隠しながら体をモジモジさせていた。
「どうだ。恥ずかしいか?」
「は、はい」
「だろうな。あんたは自分の父親の罪を父親に代わって償おうと思うほどの、健気で崇高な性格だからな」
彩子は手で胸とアソコを隠して黙っている。
「じゃあ、罪の償いとして、しばらく、こうやって裸のあんたをとくと鑑賞してやるぜ」
二郎は裸でモジモジしている彩子をスマートフォンで撮影した。
しばしの時間が経った。
「じゃあ、そろそろ本格的な責めをするとするか」
倉橋二郎はそう言って立ち上がった。
「さあ。両手を出しな」
「はい」
彩子は胸と秘部を隠していた手を前に出した。
倉橋二郎は彩子の両手をつかむと、グイと荒々しく両手首を重ね合わせた。
そして縄できつく彩子の手首を縛った。
「ああっ」
彩子は思わず声を出した。
無理もない。彩子は今まで、男に裸にされて、手首を縛られたことなど一度もなかったからである。
激しい羞恥と恐怖が彩子に襲いかかったのである。
倉橋二郎は縄の余りを天井の梁に引っ掛けて、グイグイ引っ張っていき、固定した。
これで彩子は天井から吊るされる形になった。
彩子の体は縄に引っ張られて、ピーンと一直線になり、つま先立ちになった。
今まで女の恥ずかしい所である乳房と秘部を覆っていた手が外されたため、彩子の体が丸見えになってしまった。
二つの乳房は丸見えになってしまったが、女のいじらしさ、恥ずかしさのため、彩子はアソコだけは何とか隠そうと膝を寄り合わせてモジモジさせた。
それが二郎には面白かった。
「ははは。恥ずかしいだろう?」
二郎はスマートフォンで撮影しながら言った。
「は、はい。で、でも耐えます。私がこうされることで父の罪の償いになるのなら」
「ああ。罪の償いになるぜ。しかし見事なプロポーションだな。おっぱいも大きいし、腰もくびれているし、尻は大きいし」
そういう卑猥な言葉を吐きかけられることで、彩子は自分のみじめな状態を、ハッキリと認識させられて、その度に、顔を真っ赤にして、体をモジつかせるのだった。
二郎もそれが面白くて、彩子の体を鑑賞するだけでなく、時々、そういう卑猥な言葉を彩子にかけた。
その度に彩子は、顔を真っ赤にして体をモジつかせるのだった。
卑猥な言葉は、いわば気つけ薬のようなものだった。
しばしの時間、二郎は彩子が恥じらい苦しむのをスマートフォンで撮影しながら楽しんで眺めていた。
20分くらい経った。
「よし。じゃあ、今度は本格的な責めを開始するぞ」
そう言って二郎は立ち上がった。
彩子は何をされるのか、わからないので、不安げな顔つきで、おびえている。
二郎は鞭を持って、ピシャリと床を叩いた。
「じゃあ徹底的に鞭打ってやる。泣いても許さんからな」
そう言って二郎は思い切り、彩子の尻を一振り、鞭打った。
ピシーン。とムチが彩子の尻に当たり、激しい弾ける意気のいい音が鳴った。
二郎は思い切り叩いたので、一発でも、彩子の尻には鞭打たれた所に赤い跡が出来た。
「ああー。痛いー」
彩子は顔をのけぞらし髪を振り乱して思わず叫んだ。
彩子は鞭打たれたことなど一度もなかった。
SМプレイで、鞭打ちプレイというものは知っていたが、こんなに痛いものだとは知らなかったのである。
「ふふふ。どうだ。痛いか?」
二郎が聞いた。
「はい。痛いです」
彩子は答えた。
「じゃあ鞭打ちはやめて欲しいか。やめて欲しいなら、そう言いな。やめてやるぜ。ただし、それでは、お前は父親の罪の償いを放棄したことになるからな。お前のオヤジはSМ小説を書けなくなるぜ。しかし鞭打ちに耐えるというのなら、お前のオヤジはSМ小説を書けるぜ。罪を償ったことになるからな。オレもオヤジに浅野浩二さんのSМ小説を批難するな、と進言してやるぜ。さあ、どうする?」
倉橋二郎は彩子に判断を求めた。
「ど、どうか、鞭打ちを続けて下さい。父にとってSМ小説を書くことは、生きることそのものなのです。私は父に代わって父の罪の償いをします。倉橋さま」
彩子はためらうことなくキッパリと言った。
「ふふふ。よく言った。じゃあ鞭打ちを続けるぜ」
そう言って倉橋二郎は彩子の尻を激しく鞭打ち出した。
ビシーン。
ビシーン。
ビシーン。
スベスベしたきれいな彩子の尻に鞭が当たる度に意気のいい音が炸裂し、彩子の白桃のような尻はみるみる真っ赤になっていった。
「ああー。痛いー。お許し下さい。倉橋さま」
彩子は、体を右へ左へ、そして前へ後ろへ、とムチから逃げるように体を動かしながら、そして足をパタパタさせながら、気が狂うような痛みに耐えた。
しかし倉橋二郎は容赦なく鞭打ちを続けた。
「ははは。美しい女をいじめることがこんなに楽しいとはな。オレも浅野浩二さんのSМ小説を読んで、SМの楽しさに目覚ちまったぜ。確かに、オレのオヤジが浅野浩二さんの小説をアブナイ小説と警鐘を鳴らしたのは本当だったな。ああいう小説は確かに少年に悪影響を与えるな」
倉橋二郎は、ふざけ半部にそんなことを言いながら彩子を鞭打った。
ビシーン。
ビシーン。
ビシーン。
「許して。許して。倉橋さま」
彩子は号泣しながら、倉橋の鞭打ちに耐え、そして倉橋に許しを求めた。
彩子は鞭打たれながら、何だか、倉橋敦司の息子の二郎にではなく、倉橋敦司本人にいじめられているような気がしてきた。
それも無理はない。
鞭打っているのは、間違いなく倉橋敦司の血を受け継いでる倉橋敦司の息子なのである。
そして親と子の性格は違うが、倉橋敦司の息子の倉橋二郎の顔は父親の倉橋敦司にそっくりだったのである。
彩子は痛みで思考力が低下してきて、朦朧とした意識の中で、今、自分は倉橋敦司に責められ、そして許しを求めているような気持ちになっていた。
「倉橋さま。お許し下さい」と叫ぶ彩子の心は「お許し下さい。倉橋敦司さま」だったのである。
30分くらい倉橋は彩子を鞭打ち続けた。
彩子は尻といわず、背中、腹、太腿、と全身が赤く蚯蚓腫れしていた。
彩子は痛みの感覚が麻痺して、倉橋がいくら鞭打っても、グッタリして反応しなくなっていた。
「ふふふ。よく耐えたな。それじゃあ、鞭打ちは勘弁してやる」
そう言って倉橋は鞭打ちをやめた。
「お慈悲を有難うございます。倉橋さま」
彩子が言った。
「つま先立ちで立ち続けるのも疲れただろう。吊りも勘弁してやる」
そう言って倉橋は彩子を吊り上げている縄を解いた。
吊りが解かれて、彩子はズルズルと床に倒れ伏した。
「お慈悲を有難うございます。倉橋さま」
彩子はハアハアと息を荒くしながら謝辞を述べた。
責められるのはつらいが、責めに耐えることで父の罪の償いが果たされているようで、彩子は苦痛と恐怖の中にも一抹の喜びをも感じていた。
それは、あたかも徳川幕府のキリシタン弾圧の拷問に耐えているキリシタンの心境に近かった。
父の罪が許されるのなら、どんな拷責にも耐えられるような気持ちになっていた。
もし父が今の自分を見たら「彩子。そんなことをするな。お前はオレにとって命より大切な一人娘だ。オレはSМ小説なんて書けなくなってもいい。オレのSМ小説なんて三文小説だ。しかしお前は、かけがえのない一人娘だ」と言ってとめるだろう。しかし本当のところは父親にとってSМ小説を書くことは生きることそのものなのだ。父親は自分の命を捨ててまで自分を守ってくれる、そういう人間なのだ。そう思うと彩子の父に対する思いも一層、強まった。親の子に対する愛と、子の親に対する愛、は、共に命がけの愛で、どちらが上かとか、そういう比較の出来るものではなかったのである。
「おい。彩子。これで終わりだと思うなよ」
倉橋は彩子の顔をグリグリと踏みつけながら言った。
「はい」
「お前はオレの奴隷になるか?」
「はい。なります」
「よし。じゃあ、今度はこうしてやる」
そう言って倉橋はロウソクを二本、取り出して持つと二本のロウソクに火を点けた。
ポッとロウソクに火が灯った。
倉橋は二本のロウソクを右手と左手に一本ずつ持った。
そうして床に倒れ伏している彩子の顔を踏みつけながら二本のロウソクを彩子の体の上で傾けた。
ポタリポタリと蝋涙が彩子の体に垂らされた。
「ああっ。熱い。熱い」
彩子は体をくねらせた。
しかし蝋涙はポタリポタリと彩子の体に垂れていき、あれよあれよ、という間に彩子の体はロウソクまみれになった。
「お許し下さい。倉橋さま」
彩子は泣きながら倉橋に許しを乞うた。
しかし倉橋はニヤニヤ笑いながらロウソクを垂らし続けた。
彩子の艶のある美しい長い黒髪が床にばらけて、そして体には鞭打ちの赤あざと、ロウソクの斑点でまみれ、清楚なセーラー服に身を包んで、天真爛漫のいつもの笑顔の彩子とは、程遠いみじめな姿になった。
彩子の体がロウソクまみれになると倉橋はロウソク垂らしをやめた。
倉橋はもう美しい女を虐めるサディズムの虜になっていた。
「よし。じゃあ次は、犬のお散歩だ。お前は人間ではなく犬だ。四つん這いになって歩け」
「はい」
「オレがいいと言うまでオレの回りを四つん這いで這って歩け」
「はい」
彩子は犬のように四つん這いになって倉橋の回りを這って回った。
「ふふふ。尻の割れ目が開いて尻の穴もアソコも丸見えだぜ」
倉橋はそんな揶揄の言葉を吐きかけた。
彩子は倉橋の回りをのそり、のそり、と10周回った。
「よし。とまれ」
と倉橋は彩子に命じた。
言われて彩子は立ち止まった。
「ふふふ。次はこうしてやる」
そう言って倉橋は大きな浣腸器を手に持った。
浣腸器の中にはグリセリン液が満たされていた。
「おい。彩子。顔を床につけて尻を持ち上げろ」
倉橋が命じた。
「はい」
彩子は四つん這いの姿勢で顔を床につけた。
顔が下がったため、尻が高々と上がり尻の割れ目がパックリと開いた。
尻の穴もアソコも丸見えになった。
「ふふふ。浣腸してやるぜ。動くなよ。じっとしていろ」
倉橋はそう命じて、浣腸器の先を彩子の尻の穴にプスッと差し込んだ。
「ああっ」
彩子は思わず声を出したが、倉橋の命令に従って、じっとしていた。
倉橋は、ふふふ、と笑いながら浣腸器のプランジャー(押し子)を押していった。
浣腸器の中のグリセリン液が、全部、彩子の尻の穴の中に入った。
そして浣腸器を尻の穴から抜きとった。
肛門括約筋が閉じて、彩子の尻は、あたかもグリセリン液を飲み込んだかのようになった。
ほどなくして彩子に排便の苦痛が襲ってきた。
しかし、花も恥じらう乙女が、トイレでもない所に、便を放出することなど出来ようもない。
だんだん激しくなる腹痛に、彩子は身を捩って、ああっ、ああっ、と叫びながら体をくねらせて、のたうちまわった。
「倉橋くん。お願い。おトイレに行かせて」
彩子は涙を流しながら倉橋に哀願した。
「ここにトイレなんてないぜ」
倉橋は冷たく突き放した。
しかしプレハブの中にトイレが無いというのも事実だった。
しかしプレハブの中で排便するわけにもいかない。
彩子はどうしたらいいか、わからず、ああっ、ああっ、と苦しみの声を上げながら、のたうちまわった。
しかしその姿を見ることが、サディストになってしまった倉橋のこの上ない楽しみだった。
「く、倉橋くん。お願い。外へ行かせて」
彩子が悲しそうな表情で倉橋に哀願した。
トイレは無い。しかしプレハブの外は誰もいない森林である。
それなら、せめて、外で排便することが唯一の方法だと彩子は思った。
しかし倉橋はプレハブの戸の前に仁王立ちして、それを許さなかった。
「そんなにクソがしたいか。それなら、この中に出しな」
そう言って倉橋は大きな洗面器を床に置いた。
「ああっ」
彩子はそれを見て絶望の声を上げた。
外の森林の土の上で排便するのなら、まだ救いがある。
しかし倉橋は、それを許さず、彩子が排便するのを、とくと見ようというのだ。
「ふふふ。お前がクソをする所をスマートフォンで撮ってネットにアップしてやるぜ」
倉橋は笑いながら言った。
何という意地悪なことだろう。
花も恥じらう乙女が男の見ている前で洗面器をまたいで排便する行為をとくと見ようというのだ。しかもそれをスマートフォンに録画しようというのだ。しかも、その録画した動画をネットでアップしようというのだ。天真爛漫で真面目で明るい彩子に、どうしてそんなことが耐えられようか。
「ゆ、許して。倉橋くん」
彩子は泣きながら、髪を振り乱し、もんどりうって、歯をカチカチ噛みならしながら、肛門括約筋をギュッと閉め、祈る思いで倉橋に許しを求めた。
しかし倉橋はニヤニヤ笑いながら、彩子が苦しむ姿を楽しんで見ている。
サディストにとっては、女が苦しむ姿を見ることが、この上ない楽しみなのである。
倉橋に彩子を許してやろう、という気持ちなどカケラもなかった。
「許して。許して」
彩子は何度も倉橋に哀願した。
しかし倉橋は、彩子の哀願を聞く気は全くなかった。
しかし、彩子の排便を我慢する忍耐力は限界にきていた。
彩子は、もう我慢できない、と言って、急いで洗面器の所に行った。
そして大きく足を開いて洗面器をまたいだ。
ブリブリブリ―。
間一髪だった。
我慢に我慢をかさねていただけあって、大量の便が洗面器の中に排出された。
丸裸で男の見ている前で排便することなど彩子には生まれて初めてのことだった。
倉橋はしっかりと、彩子の排便をスマートフォンで撮影した。
倉橋は、茶色い液体で満たされた洗面器を見て、
「うわー。すごい。こんなきれいな女でも、クソは汚いんだな」
と言った。
そして洗面器に顔を近づけて、クンクンとその匂いを嗅いだ。
「うわー。くせー。清楚な女でも、いつも、こんなクサいクソを体の中に溜め込んでいるんだな」
と、ことさら彩子を辱しめるように言った。
彩子は、エーン、エーンと大粒の涙を流しながら、床にうずくまってしまった。
しかし一度、火がついたサディストの加虐心は止まらない。
倉橋は床にうずくまっている彩子の所に行った。
倉橋は彩子を足で蹴って仰向けにさせた。
そして彩子の顔を靴でグリグリ踏みにじった。
倉橋はマルキ・ド・サド以上の完全なサディストになりきっていた。
「おい。彩子。口を開けろ」
倉橋は靴を彩子の顔から、どけて言った。
言われて彩子は大きく口を開けた。
倉橋はズボンのチャックを開けた。
そして、おちんちんをチャックから出した。
「おい。彩子。ションベンを飲ましてやるからな。ちゃんと全部、飲め」
そう言って倉橋がションベンをしようとした時である。
・・・・・・・・
「待った」
大きな声が起こった。
プレハブの戸が開いた。そして男がのっそりと入ってきた。
何と男は、倉橋二郎の父親の倉橋敦司だった。
息子の二郎はびっくりして目を白黒させた。
「お、おやじ。どうしてここにいるんだよ?」
二郎はわけが分からなかった。
「そうだろうな。じゃあ、ことの成り行きを説明するよ」
と言って倉橋敦司は話し出した。
「彩子さんが土下座している所にお前が帰ってきただろう。お前の言い分を聞いているうちに、お前の言うことにも一理あるな、と思ったんだ。そして父親の罪を償いたいと言っている彩子さんに対して、オレもどうしたらいいか、わからなくて悩んでいたんだ。まさかオレが彩子さんを罰することなんて出来ないからな。そんな時、ちょうど、悦子から電話がかかってきただろう。オレはチャンスだと思ったんだ。ここはオレが席を外して彩子さんとお前二人にしてみたら、いいんじゃないかと思ったんだ。オレはスーパーに行って、店長に謝罪して、お前が万引きした商品の代金を払ったんだ。そして、どうせお前のことだから、きっと、二人になったら、お前は彩子さんをここに連れ込んで、彩子さんを虐めるだろうと予想していたんだ。なので、スーパーを出ると、急いで車を飛ばして、ここへ来たんだ。案の定、お前は彩子さんを虐めていたな。最初から、とくと見ていたよ。オレは凄惨な虐めなんか、すぐに止めるべきだと思ったんだ。しかしオレは心を鬼にして、少し様子を見てみようと思ったんだ。お前が彩子さんを虐めるのは見るに耐えなかったけどな。しかし彩子さんの父親を慕う気持ちは命がけの本物だと、わかったよ。感動した。彩子さんは命がけで父親を守ろうとしていると100%確信した。オレも浅野さんのエッチな小説を、アブナイ、アブナイ、と言い過ぎたことを反省しているんだ。浅野さんは単なるスケベ心でSМ小説を書いているんじゃない。オレがSМを理解できなくて、SМは単なる変態だと決めつけていただけだと分かったんだ。浅野さんは、真剣に自分の生まれついた感性で、人間の生き様を書いていたんだとわかったんだ」
倉橋敦司は熱弁を振るった。
そして倉橋敦司は、裸でロウソクまみれの、みじめな姿の彩子の所に行った。
倉橋敦司は裸の彩子に優しく毛布をかけてやった。
「彩子さん。私の息子のしたことだが、あんな凄惨な虐めをされて、さぞつらかったでしょう。私は何度、入って行って止めようと思ったことか。私にはそれが出来た。しかし、それをせず、あなたが虐められるのを、じっと見ていた私を許して下さい。息子に代わって私が心から謝ります。ごめんなさい」
そう言って倉橋は彩子に深々と頭を下げた。
「いえ。いいんです。気にしないで下さい。倉橋敦司先生」
彩子の顔に微光がさしていた。
「しかし僕もほとほと困っていたんです。父親の罪を償うために罰されたいという、あなたの健気な訴えに、どうしたらいいか、わからなかったんです。まさか、あなたの訴えを聞いて私があなたを罰することなんて、出来っこないし。しかし、僕も児童文学者として、そしてラブコメミステリー作家として、子供を堕落させるエロチックな小説を認めることは、どうしても出来なかったんです。しかし私は、息子にどんな酷い虐めをされても、父親の罪の償いのために耐えている、あなたの心に感動しました。子は親の鏡です。もし、あなたのお父さんの浅野浩二さんが、悪い人間だったら、あなたのような立派な心の人間には育たなかったでしょう。きっと浅野さんは、持てる愛を全てあなたに注いであなたを育てたのでしょう。そして、あなたを子供の頃から一人の人間として、その人格を尊重して育てたのでしょう。僕も息子には精一杯の愛を注いで育てたつもりです。しかし僕は、自分が正しいと思うことを息子に押しつけていたことを今、思い知らされました。スマホのゲームばかりするな、学校の勉強はちゃんとやれ、子供の頃から日本や世界の名著を読んで読書の習慣を身につけろ、と言ってきました。自分では、いいことをしているつもりだったが、ちょっと干渉し過ぎてしまったと反省しています。僕は息子を、まだ幼いからという理由で、一人の人間として、その人格を認めていなかったのです。そういう育て方をすると、子供は親に反発してグレてしまいます。息子がグレてしまったのは僕の過干渉、親の価値観の押し付け、のせいです。彩子さん。あなたのお父さんは、いいお父さんだ。僕は自分の過ちに後悔しています」
倉橋敦司はうちひしがれていた。
彩子は黙って倉橋敦司の言う事を聞いていた。
彩子は倉橋敦司に裸を見られるのが恥ずかしくて動けないため毛布をギュッと握りしめた。
そのことに倉橋敦司も気づいた。
「おっと。彩子さん。つい僕の思いを語ることに夢中になってしまって大切なことを忘れていました。服を着て下さい。僕は後ろを向いています」
そう言って倉橋敦司はクルリと体の向きを変え彩子に背を向けた。
「有難うございます。倉橋敦司先生」
そう言って、彩子は倉橋のかけた毛布を取り去った。
女は誰でも着替えをする所を見られるのは恥ずかしいものである。
彩子はパンティーを履きブラジャーを着けた。
そしてセーラー服を着た。
「倉橋敦司先生。服を着ました」
明るい声が聞こえた。
彩子の声を聞いて倉橋敦司はまた体を反転させて彩子を見た。
そこにはセーラー服を着て、チョコンと座っている彩子がいた。
その顔には微笑みが見えた。
息子の二郎に散々、虐められた後だが、倉橋敦司のしんみりとした話を聞いているうちに元気を取り戻したのだろう。
その時である。
プレハブの戸がギイーと開いて一人の美しい女性が入ってきた。
「あ、彩子さん。初めまして。私は倉橋敦司の妻の倉橋悦子と申します」
女はそう言ってペコリと彩子に頭を下げた。
「倉橋敦司先生の奥様ですね。こちらこそ初めまして。浅野浩二の娘の浅野彩子と申します」
そう言って彩子は倉橋悦子に手を伸ばした。
悦子夫人も手を伸ばして二人は固い握手をした。
「彩子さん。私も主人と同様、あなたに謝らなくてはなりません。息子の二郎が、あなたに、あんな、むごい虐めをしているのを、私も黙って見ていたのですから」
ごめんなさい、と言って悦子夫人は深々と頭を下げた。
「いえ。謝る必要はありません。奥様はきっと倉橋先生に、出るな、と制されていたのだと思います。違いますか?」
彩子が聞き返した。
「え、ええ」
悦子夫人は申し訳なさそうに小声で言った。
「彩子さん。私も本心を言います。夫はスーパーにすぐに駆けつけてくれました。そしてスーパーの店長に謝罪しました。夫は(今、急ぎの用事があるので後日、あらためて謝罪に来ます)と言って、スーパーを出ました。そして私を車に乗せて、ここへ連れてきたのです。夫は(たぶん二郎が少女を虐めているだろう。お前は心が優しいから止めに入りたくなるだろう。しかし、どうなるか最後まで見るんだ。オレも止めには入らないつもりだ)と言ったのです。私が(その少女は、どういう人なのですか?)と聞くと(浅野浩二さんの娘さんだ)と言いました。私も主人が連載小説を投稿しているエブリスタを読んでいますから、浅野浩二さんの小説も読んで知っていました。どうして息子の二郎が浅野浩二さんの娘さんを虐めるのか、その理由がわかりませんでした。なので、主人に聞くと(浅野浩二さんの娘さんは父親の罪の償いをして欲しい)、と言って主人の所に来たいきさつを話してくれました。私は何と健気な娘さんなのだろうと感動しました。そしてプレハブの外から主人と共に、あなたが息子の二郎に凄惨な虐めを受け、それに耐えている姿を見ました。そして私は感動しました。こんなに深い親子愛で結ばれた親と子は、この親子以外この世にないだろうと思いました。あなたは本当にお父様を愛しておられるのですね」
そう言って悦子夫人はハンカチを取り出して、目からこぼれ出した涙をふいた。
外は暗くなり始めていた。
悦子夫人は彩子にもっと色々と言いたいことがあるように見えた。
それを察して倉橋敦司が、
「ともかく家にもどろう」
と言った。
「はい」
と彩子は元気に返事した。
倉橋敦司と悦子夫人と彩子は立ち上がった。
そしてプレハブを出た。
黙って話を聞いていた息子の二郎もプレハブを出た。
プレハブの外には、倉橋敦司が運転してきた車と、息子の二郎の750ccのオートバイがあった。
倉橋敦司は車のドアを開けた。
悦子夫人は後部座席に乗り込んだ。
倉橋敦司は助手席を開けて、彩子に、
「さあ。乗って下さい」
と言った。
はい、と言って彩子が助手席に乗り込もうとすると、息子の二郎が、
「彩子さん。今日は本当にひどいことをしてしまって、すまなかった。謝るよ。ゴメン」
と彩子に頭を下げた。
息子の二郎も父親と母親と彩子の話を聞いているうちに心変わりしているようだった。
二郎はホンダCB750にまたがって、キックペダルを踏み込んだ。
バルルルルッ。
重厚なエンジン音がかかった。
「彩子さん。もしよかったら僕の後ろに乗らない?」
二郎が彩子に聞いた。
「はい」
彩子はニコッと笑って、二郎の大型バイクの後ろにまたがった。
そして、ピタッと二郎に背中をくっつけて二郎を背後から抱きしめた。
それは恋人同士のオートバイのタンデムのように見えた。
「じゃあ行くぞー」
と倉橋敦司が言って車が発車した。
二郎のオートバイも発進した。
日の暮れた名古屋市街を車と、その後ろをオートバイが走った。
20分くらいして程無く倉橋敦司の家に着いた。
4人は家に入った。
「彩子さん。お風呂を沸かしました。どうぞ、お入り下さい」
悦子夫人が言った。
「はい」
彩子は悦子夫人の後について風呂場に行った。
彩子は脱衣場で服を全部、脱いだ。
そして体中にこびりついている蝋涙を一つ一つ、丁寧に剥がした。
そして風呂場に入り、石鹸で体を洗い、浴槽に入った。
温かい湯船に浸かっているうちに、今日、受けた責めの疲れがとれていった。
十分、湯船に浸かってから、風呂場から出た彩子は、また下着を履き、セーラー服を着た。
そして居間にもどった。
悦子夫人が食卓に料理を並べていた。
風呂から出てきた彩子を見ると、
「彩子さん。夕食が出来ました。どうぞ召し上がって下さい」
と言った。
「はい」
彩子は食卓に着いた。
夕食はすき焼きだった。
倉橋敦司と悦子夫人、二郎も食卓に着いた。
「彩子さん。今日はもう遅い。泊まっていかないかね?」
倉橋敦司が聞いた。
「はい」
彩子は笑顔で答えた。
来客を交えた4人の夕食が始まった。
「彩子さん。今日は本当にひどいことをしちゃってゴメンね」
二郎が謝った。
二郎が、ゴメンね、という言葉を言ったのは今日が生まれて初めてだった。
「いえ。いいんです。私、父の罪の償いが出来たようで、むしろ嬉しいんです」
彩子は笑顔で言った。
「いや。僕が悪いんだ。エブリスタに投稿してくる浅野さんの小説を、アブナイ、アブナイと言い続けたから、浅野さんを悩ませ、自殺にまで追い詰めてしまったんだから」
倉橋敦司がしんみりした口調で言った。
「時代が悪いのよ。昔は小説投稿サイトは、どこでも、エロチックな小説に寛容だったわ。でも今では小学生でもパソコンやスマートフォンを使うようになって、ネットを見れるようになったでしょう。もう学習にパソコンは欠かせない物になったわ。だから小説に限らず、ネットではエロチックな動画や写真を出せなくなってしまったでしょう。運が悪かったのよ」
悦子夫人が言った。
「そうだね。確かにそうだ」
倉橋敦司が相槌を打った。
「エッチな小説が子供を本当に堕落させているかどうかは、私にはわからないけれど、それは疑問だと思うわ。政府は子供がエッチな小説を読んだら、それにハマってしまって勉強をおろそかにする、と思っているようだけれど、それは短絡的な机上の空論だと思うわ。子供ってエネルギーが有り余っているでしょ。だから子供は何にでも興味を持つでしょ。スポーツもすれば、プロスポーツも観るわ。音楽も聴けば、映画も観るわ。そもそも現代は子供も大人も活字離れしているから、小説を読む子供なんて、ほんの少数だと思うわ。エッチな小説だって小説を読まないよりは読んだ方が読書する習慣が身につく可能性があると思うわ。エッチな画像は確かに刺激的だと思うけれど。エッチな小説が、そんなに子供に悪い影響を与えるかしら?むしろスマホゲーム中毒の方がはるかに危険だと思うわ」
悦子夫人は熱弁を振るった。
夫人は続けて言った。
「あなたはエロチックな小説はアブナイと言っているけど、それは違うと思うわ。エロチックな小説を書く人は、そういう小説を書くように生まれついた人だと思うわ。人間だれだって性欲はあるわ。世の中にエロチックな小説や動画、写真、があるから、それを読んだり見たりすることで性欲が満足されて、世の中の性犯罪が抑えられている、ということはもう間違いないと思うわ。もし世の中から、エッチな創作物が全く無くなってしまったら、どうなると思う?性欲を発散できる物が無くなってしまったら、性欲のはけ口が無くなってしまうから、性欲の発散が生きた人間に向かってしまうわ。強姦や未成年の性行為が平然と行われるようになるわ。その方がもっとアブナイと思うわ。エロチックな小説を書いている人は、世間から軽蔑されながらも、世の中から性犯罪を無くすことに寄与している人とも言えると思うわ」
悦子夫人が言った。
彩子は笑顔で、黙って、熱弁を振るう悦子夫人の話を聞いていた。
悦子夫人がエッチな小説を擁護してくれることが、父を擁護してくれているようで嬉しかったのである。
二郎も黙って食べていた。
その晩、彩子は客間に寝た。
悦子夫人がパジャマを貸してくれたので、それを着て。
色々なことがあったが、結局、事態がいい方向に向かってくれたので、他人の家に泊まることなど滅多にない彩子だったが、緊張して眠れない、ということはなく熟睡できた。
・・・・・・・・・・
翌日になった。
4人で朝食を食べた。
いつもなら朝寝坊の倉橋二郎も起きてきて一緒に食べた。
その後、少したわいもないことを1時間ほど談笑した。
「色々とお世話になりました。そろそろ帰ります」
と彩子が言った。
「そうですか。お父さんに、倉橋が、浅野さんの小説を、アブナイ小説、アブナイ小説、と言い過ぎたこと反省している、とお伝え下さい。もうこれからは、決して、軽々しくアブナイ小説などと言いません。彩子さん。よろしかったらまた来て下さい」
倉橋敦司が言った。
「有難うございます」
彩子はペコリと頭を下げた。
彩子は玄関に向かった。
倉橋敦司と悦子夫人、二郎が見送りに玄関までついてきた。
「色々とお世話になりました。楽しかったです。さようなら」
彩子はお辞儀して靴を履いて家を出ようした。
その時。
「待って下さい」
倉橋二郎が彩子をとめた。
「彩子さん。もしよかったら、あなたの家まで、僕のオートバイで送らせて貰えませんか?」
倉橋二郎がためらい勝ちに言った。
彩子も、倉橋敦司も悦子夫人も、言葉には出さないが、彩子を好きになっている二郎の気持ちを理解していた。
「はい。二郎さんに送ってもらえるなんて嬉しいです」
彩子は笑顔で言った。
「それは嬉しいな。実を言うと、女の子とのタンデムは、あなたが初めてだったんです。僕のオートバイに乗ってくれる女の子はいないので・・・。あなたのような、可愛い女の子とのタンデムは、とても気持ちがいいです」
二郎はホンダCB750にまたがって、キックペダルを踏み込んだ。
バルルルルッ。
重厚なエンジン音がかかった。
「彩子さん。どうぞ後ろに乗って下さい?」
二郎が彩子に言った。
「はい」
彩子はニコッと笑って、二郎の大型バイクの後ろにまたがった。
そして、ピタッと二郎に背中をくっつけて二郎を背後から抱きしめた。
それは恋人同士のオートバイのタンデムのように見えた。
「じゃあ行くぞー」
二郎のオートバイが発進した。
二郎は東名高速を東へ向かって飛ばした。
そして浅野浩二の家に着いた。
「倉橋さん。どうも有難うございました」
彩子はオートバイから降りて倉橋にペコリとお辞儀した。
「あ、あの。彩子さん」
二郎はためらい勝ちに顔を赤くして言った。
「はい。何でしょうか?」
「またオートバイでツーリングして貰えないでしょうか?」
二郎が照れくさそうに聞いた。
「有難うございます。喜しいです。またオートバイに乗せて下さい」
彩子は笑顔で答えた。
「有難う。彩子さん」
二郎は感激した。
「二郎さん。スマートフォン貸してもらえないでしょうか?」
彩子が言った。
「はい」
二郎はスマートフォンを彩子に渡した。
彩子はピッピッピッとスマホを操作して二郎に返した。
「二郎さん。私の携帯電話の電話番号とメールアドレスを登録させて頂きました。いつでも電話なりメールなりして下さい」
彩子はニコッと微笑んだ。
「有難う。彩子さん。感謝に耐えません」
それでは、さようなら、僕は家に帰ります、と言って二郎はオートバイにまたがって、キックペダルを踏みこんだ。
「さようなら。二郎さん。またお会いする日を楽しみにしています」
彩子は微笑んで二郎を見ながら手を振った。
「さようなら。彩子さん。ぜひ、またお会いしたいです」
そう言って二郎はギアを1速に入れ、クラッチをつないだ。
二郎のオートバイが走り出した。
彩子は二郎のオートバイが見えなくなるまで手を振り続けた。



2023年7月20日(木)擱筆
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