題名:詐欺師、今日も行(ゆ)く 作者:草壁ツノ
<登場人物>
A:不問 詐欺師の男。30代。
B:不問 詐欺師の男。20代。
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<役表>
A:不問
B:不問
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■注意点
*Aは話の中で、ギャルと警察(1台詞)の兼ね役があります。
*Bは話の中で、お婆さんの兼ね役があります。
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■利用規約
・アドリブに関して:過度なアドリブはご遠慮下さい。
・営利目的での使用に関して:無許可での利用は禁止しております。希望される場合は事前にご連絡下さい。
・台本の感想、ご意見について:お気軽にお寄せ下さい。Twitter:
https://twitter.com/1119ds 草壁ツノまで
・両声類の方の利用について(2021/11/11追加)
演者の方ご自身の性別を超える役のお芝居はご遠慮しております。
可能:「不問」と書かれているキャラクターを「キャラクターの性別を変えずに演じる」こと
不可:「男性」と書かれている役を「女性かつ両声類」の演者が演じること
「女性」と書かれている役を「男性かつ両声類」の演者が演じること
ご意見ある所でしょうが、何卒ご理解の程よろしくお願い致します。
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A:「よう、元気にしてたか? クソったれ」
B:「そっちこそ生きてたのかジジイ。俺はてっきり、どこかでポックリ逝っちまってるもんかと思ってたぜ」
A:「んなわけねぇだろうが。それに、俺とお前で年(トシ)なんざ、3つか4つしか変わんねぇだろ」
B:「はいはい。そんなことより......どうなんだよ、そっちの首尾は?」
A:「どうだかな、まぁボチボチって所じゃねぇか」
B:「ボチボチだぁ? 今日が勝負の日だったろうが。初めから勝負投げてんのか?」
A:「そうカッカすんなよ。全く、これだからガキってやつは」
B:「言っとくけどな。俺とお前で年なんざ3つか4つ程度しか変わんねーからな」
A:「はいはい。それで? そんなに威勢よく食って掛かるってことは、さぞかしいい仕事が出来たんだろうな?」
B:「まあな。オッサンだったら驚いて腰抜かすだろうさ」
A:「ほお、そいつは楽しみだ」
B:「余裕カマしてくれるじゃないの。で? そっちはいったい誰をひっかけたんだ?」
A:「(笑う)そう焦るなって。どうせ自(おの)ずと結果は分かるだろ?」
B:「(笑う)ああ、それもそうだな」
A:「それじゃ、お互い同時に、手に入れたブツを机の上に出す。準備はいいな?」
B:「ああ、俺はいつでもいいぜ」
A:「よし。それじゃ行くぞ......せーの!」
A:「おはぎとみかん!」
B:「プリクラとゲーセンの景品!」
A:「......」
B:「......」
A&B「はああああ!?」
B:「お前、冗談だろ! おかしいじゃねぇか! なんだよおはぎとみかんって!」
A:「お前こそなんだ、このイチャついたプリクラとゲーセンの景品は!?」
B:「こ、これは......あれだよ! 今の若者に人気のある、価値があるもんだよ!」
A:「お前、借り物競争か何かだと思ってたのか......?」
B:「う、うるせえ! そっちこそなんだよ、このジジくせーラインナップは! お前の方がよっぽどしょうも無いじゃんか!」
A:「お前、この愛のこもったおはぎの良さが分かんねぇのか! これだから若い者(もん)は!」
A&B:「(荒い呼吸)......」
A:「......ちょっと、一旦整理しないか?」
B:「......賛成だ」
A:「大体、どうしてこうなった? 元々は《どっちの方が腕が優れているか、詐欺の結果を競う》って話だったろ」
B:「ああ、そうだったはずだ」
A:「......お互いに当日の動きを説明する必要があるな」
B:「俺もそう思う」
A:「それじゃあまずお前の話から聞かせてもらおうか」
B:「俺から?(溜め息)......まぁ、いいぜ。俺がこうなった経緯の話な。俺は――」
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待ち合わせをするBと、それに駆け寄る女の子
B(彼氏):「お待たせ、待った?」
A(ギャル):「ううん、今来たとこ~♡」
B(彼氏):「そっか。それじゃあこれからどこ行く?」
A(ギャル):「えっとね、あたしぃ、タピりた~い!」
B(彼氏):「いいよ、タピりにいこう」
A(ギャル):「卍(まんじ)~!」
B(彼氏):「それにしても今日は付き合ってくれてありがとな」
A(ギャル):「ぜんぜんいいよ~。他でもないジュンジュンの頼みだもん」
B(彼氏):「カナコ......」
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A:「ごめん、ちょっと待って」
B:「なんだよ、今説明してるとこだってのに」
A:「お前、女にジュンジュンって呼ばせてんの?」
B:「い、いいだろ今そこは! (溜め息)......話続けるぞ」
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A(ギャル):「ねえ、ジュ~ンジュン♡」
B(彼氏):「どうした? カナコ」
A(ギャル):「ううん、呼んでみただけ♡」
B(彼氏):「お前、やめろよ(笑う)」
A(ギャル):「えへへ」
B(彼氏):「それはともかくさ、カナコ」
A(ギャル):「なに?」
B(彼氏):「......大事な話があるんだよ」
A(ギャル):「えっ? なになに、なんの話?」
B(彼氏):「......カナコ! 頼むっ!」
A(ギャル):「えっちょっとジュンジュン!? どうしたの急に。顔上げてよ!」
B(彼氏):「......悪いカナコ。実はその、俺の母さんがさ」
A(ギャル):「お母さんが?」
B(彼氏):「今度......その、手術をする事になったんだ」
A(ギャル):「えっ。やばたにえんじゃん......」
B(彼氏):「......」
A(ギャル):「その......お母さん、重たい病気なの......?」
B(彼氏):「......日本じゃ珍しい病気らしいんだ。それで、アメリカで手術をする事になった」
A(ギャル):「そっか......あたしに大事な話って?」
B(彼氏):「......母さんの手術費用のために、金を貸してくれないか?」
A(ギャル):「......いくら必要なの?」
B(彼氏):「500万」
A(ギャル):「500万円っ!?」
B(彼氏):「......無茶な頼みだってのは分かってる! でも、こんなこと頼めるの、カナコぐらいしか居なくて......」
A(ギャル):「ジュンジュン......あたしだって何とかしてあげたいよ。けど......そんな大金......」
B(彼氏):「......そうだよな、ごめん。いきなりこんな話、無理に決まってるよな」
A(ギャル):「......」
B(彼氏):「今日は付き合わせて悪かったな! 今の話は忘れてくれ。それじゃあ......」
A(ギャル):「ま、待ってジュンジュン!」
B(彼氏):「......なに?」
A(ギャル):「出す、あたしがお金出すよ!」
B(彼氏):「本当か、カナコ!?」
A(ギャル):「う、うん......ジュンジュンの、お母さんのためだもんね」
B(彼氏):「カナコ......ありがとう。必ずまた返すから」
A(ギャル):「おけまる!」
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A:「合間合間で理解出来ない言葉が入ってるのは気になるが、まぁ。悪くない流れじゃないか」
B:「まあ......ここまではな」
A:「なんだ、はっきりしないな」
B:「俺の話は一旦いいだろ。そっちの話も聞かせろよ」
A:「俺の話? ......まぁいいけど。そうだな、どこから話そうか――」
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古い家のインターホンを押すスーツ姿のAと、家の中から出て来るお婆さん
A(訪問販売):「ごめんください」
B(お婆さん):「はいはい。どちら様でしょうかねぇ」
A(訪問販売):「突然すみません。私(わたくし)、こういうものです」
B(お婆さん):「おやご丁寧に......ンアァ? 小さい文字で読めないねぇ......」
A(訪問販売):「おっとこれはすみません。私(わたくし)、《皆様に幸運をお届けするハッピーライフアドバイザー》、福沢幸男(ふくざわゆきお)です」
B(お婆さん):「その......ハニーバターアーモンドさんが、あたしに何の用だい?」
A(訪問販売):「ハッピーライフアドバイザーでございます奥様。近頃、日常生活で不幸なことが起きていたりしませんか?」
B(お婆さん):「不幸なこと? そうだねぇ。そう言えば......」
A(訪問販売):「何か心当たりが?」
B(お婆さん):「ええ、家の窓ガラスが割れていたり......」
A(訪問販売):「ふむふむ」
B(お婆さん):「部屋の中が気付いたら散らかっていたり......」
A(訪問販売):「ふむふむ」
B(お婆さん):「家の中の物がいつの間にか無くなっていることがあるわねぇ......」
A(訪問販売):「空き巣か何かに遭(あ)われているのでは?」
B(お婆さん):「空き巣?」
A(訪問販売):「......(咳払い)それはさておき。奥様。それらは全て、あなたに悪い気運がついているからなのですよ!」
B(お婆さん):「悪い気運......?」
A(訪問販売):「そうです。あー、あなたの周囲から、この家のあちこちから、あー悪い気を感じます......」
B(お婆さん):「あらまぁ、それは困りましたねぇ......どうすればいいんでしょうねぇ」
A(訪問販売):「(不敵に笑う)そんな方に、ご紹介しているものがありまして。それがこちらの、《幸運のツボ》です」
B(お婆さん):「あらあ、随分と綺麗なツボだねぇ」
A(訪問販売):「ええ。こちら、なんと悪い気を払ってくれる上に、良い運気を持ち主に運んでくれる特別なツボなんですよ」
B(お婆さん):「あらあ。素敵だねぇ」
A(訪問販売):「そうでしょう?」
B(お婆さん):「けど、お高いんでしょう......?」
A(訪問販売):「そんなことはありません。今ならなんと、お値打ち価格で」
B(お婆さん):「お幾らかしら?」
A(訪問販売):「500万円ポッキリです」
B(お婆さん):「あらあ......」
A(訪問販売):「どうです? これひとつあれば、払ったお金以上に良いことが舞い込んできますよ!」
B(お婆さん):「......そうねえ。そんなに良いものなら、ひとついただきたいところだねぇ」
A(訪問販売):「それじゃあ――」
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B:「なんだよ、何も問題無いじゃねーか」
A:「ところがそうでも無いんだよ」
B:「なんだそれ。勿体ぶらずに聞かせろよ」
A:「とりあえず俺もある程度は話した。今度はお前が話す番だ」
B:「また俺? いいけど、俺の話が済んだらお前も話せよ?」
A:「ああ、分かった分かった」
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警察に連行されるカナコと、その場面に遭遇したB
A(ギャル):「ちょっと、離して! 私にはお金が必要なの!」
B(彼氏):「カナコ?」
A(ギャル):「あ、ジュンジュン......」
B(彼氏):「お前、どうして......」
A(刑事):「この女は空き巣の常習犯だ。ここ半年で、この地域のお宅が何件も被害にあっている」
B(彼氏):「カナコ、お前......」
A(ギャル):「......ごめんね☆ ずっと隠してて。本当はもう足を洗うつもりだったんだけど、最後の最後で、ヘマしちゃった」
B(彼氏):「お前、もしかして俺のため――」
A(ギャル):「(Bの台詞にかぶせて)ジュンジュン......これ」
B(彼氏):「......これは?」
A(ギャル):「前に私とゲーセン行った時の景品と、プリクラ。......よく撮れてるっしょ? あたしのこと......忘れないでね」
B(彼氏):「カナコ......」
A(ギャル):「(笑う)ジュンジュン、きっとお母さんの手術、成功させてね!」
B(彼氏):「カナコー!」
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A(訪問販売):「......というわけで、奥様の家で空き巣を繰り返していた犯人が捕まったと、警察の方から伺いました」
B(お婆さん):「あら、そんなことがねぇ......良かったねぇ。これでもう安心だね......」
A(訪問販売):「ええ......」
B(お婆さん):「そのツボのおかげだねぇ......ぜひ、そのツボを買いたいのだけど」
A(訪問販売):「いえ、あの。少し事情が変わりまして」
B(お婆さん):「あら、なにかしら」
A(訪問販売):「空き巣事件のおかげで、警察がここら一帯に今目を光らせてまして......」
B(お婆さん):「ええと.......?」
A(訪問販売):「(苦笑い)つまり、お金はいらないということです。こちらは差し上げます」
B(お婆さん):「......あらあ。そんな、いいのかしら」
A(訪問販売):「構いませんよ、元々100均で買ったツボに金メッキを塗っただけなので」
B(お婆さん):「なにか言いましたか?」
A(訪問販売):「いえいえ、何でもありません」
B(お婆さん):「でも、なにかお礼をしないと申し訳無いわ。ちょっと待ってちょうだいね(席を外す)......はい、これ」
A(訪問販売):「これは?」
B(お婆さん):「お婆お手製のおはぎ。あなた、毎日お仕事大変だろうから、これ食べて元気出しなさいね」
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A:「.......」
B:「......」
A:「(溜め息)なるほど、まさかそういうことだったとはな」
B:「俺こそビックリだっつーの......」
A:「とりあえず、おはぎ食うか?」
B:「ああ。食べる......ん、こいつは......美味いな」
A:「だろ? 昔からババアの作るおはぎは最高だって、相場が決まってるんだ」
B:「何の相場だよ」
A:「で、結局今回の勝負はどっちの勝ちなんだ?」
B:「そりゃあ......」
A&B:「俺だろ」
<完>