デッド・ストーリー


【工業禁止区画 処刑山】
処刑山───人々からそう呼ばれる、ある呪われた屹然たる山があった。そこは元々、田舎町の背景にある大きな山であった。段々と時間が経っていくと共に、田舎町は発展を遂げた。やがて街は繁盛し、田舎のイメージはやがて消え去った。
しかし、その山には誰一人として手を出さなかった。やがて噂ができた。
「この山は処刑場だ」その噂は町中に広がり、今では最恐心霊スポットと化した​のである

山の上に聳え立つ屋敷。芸能人の南原隆一は自給自足の様な生活に憧れていた。彼は自身の冠番組を​もっており、一部の家をリフォームするコーナーで、様々な芸能人達が自らの家をリフォームしていた。
しかし、南原は自分の綺麗な家をリフォームするという部分に、あまり納得がいかなかった。そんな​ある日、インターネット​で​ある物件を発見した。
そこは元処刑場の山の上に聳え立つ屋敷。しかも、その屋敷は格安物件で雰囲気の恐怖感も良く、番組のネタ的にも美味しい物件だった。
「そろそろ始まります!」
番組のADが楽屋に駆けつけ、収録の開始直前を予告した。了承して南原は楽屋を出るや否や、スタジオに向かった。スタジオの照明が、南原を酷く照らした。
他の出演者達も一斉にスタジオに入り、他の出演者やスタッフにも挨拶をした。そして、南原はプロデューサーとディレクターにお菓子の袋を配った。そして、ディレクターに言った。
「これ、家で食べてください。あとちょっとお願いしたいことがあります」
「なんでしょうか?」
「今度、番組のリフォームコーナーで良い物件見つけましたよ。そこは元処刑場ですごくボロボロの屋敷なんですが、ぜひ取り上げてください。僕がリフォームしますんで」
ディレクターは困惑した様な顔で、南原を見つめた。南原はスタジオの演台に向かった。
演台に載せられた紙には番組の構成や台詞の例が書かれていた。
「そろそろ収録を始めます。えー、皆さんは席にお座りください」
すると、ゲストやレギュラーの出演者達が席に座り始めた。アシスタントディレクターが指の合図を示した。​
「はいそれでは始めます。三、二…」
南原は番組開始のタイトルコールを大声で発した。
「ザ・バラ家TV!」
「えー、始まりましたバラ家TV。今回も様々な自宅を様々な出演者がリフォームしてまいりました。そして、今回のゲストは…」

六十分程度が経過した。アシスタントディレクターはカンペを取り下げ、番組終了直前のカウントダウンを指で示した。
「それではまた来週!さようなら!」
「はいOKです。お疲れ様でした」
美術スタッフはセットを簡潔に取り壊し、そのまま​​​​​​タイトルロゴの看板や壁の素材を持って、美術倉庫へと向かった。すると、南原のもとにディレクターが近づいてきた。
「例の件の物件、見せてもらえますか?ぜひ取り上げましょうよ」
南原はポケットからスマートフォンを取り出して、検索履歴から物件の詳細ページを探した。そして、南原は彼に物件の詳細ページを見せた。
​ディレクターは急いでポケットからボールペンと、小柄のメモ帳を取り出して、メモ帳の一ページに物件の詳細を書き殴った。
「ここ、前の住居者がすぐに手放したそうですよ。まあ今では老朽化が進み、ボロボロの状況ですがぜひともここをリフォームしましょう」
「わかりました。あと絶対にスポンサー各社には言わないでくださいね。山の名前も知られていませんし、ついでに我々は一応名前を伏せて『山にあるぼろ屋敷』とだけ言っておきます。
スポンサーが処刑場の山にある屋敷と知ったら、祟りを恐れて番組を手放すでしょう?放送分の完パケもお蔵入りになりますし、絶対に漏らさないでくださいね。あと一応、周辺の必要のない部分はモザイクをかけますんで。
あと放送が決まったらグループラインでお伝えします」
ディレクターが言うと、南原は灰色の扉を開けて楽屋部屋に向かった。楽屋の鞄や袋を片付け、そのままテレビ局の外に向かった。

三日後、番組のスタッフグループラインに招待が届いた。すると、グループラインにはロケの予告だった。
「四月六日の午前十時までに、東洋テレビに来てください。ロケバスを手配します。ぜひともあの屋敷に向かってリフォームしましょう。家具や木材は配ったものでお願いします。
あと屋敷も購入を済ませておいてください」
南原はその後、不動産屋に行って屋敷を購入した。可能な限り番組は休み、屋敷もリフォームに力を注入していた。そして、一週間ほど経った。
南原は言われた通りに東洋テレビに、タクシーで向かった。タクシーの女性運転手は南原の姿に驚き、南原への質問などに夢中であった。
東洋テレビに付くと、ロケバスが南原を待ち構えていた。目を凝らして窓ガラスを覗くと、後席にディレクターが座っていた。
南原は鞄を持ちながら走ってロケバスの中に入った。運転手のスタッフがドアマークのボタンを人差し指で押すと、白いロケバスの扉は閉まった。ディレクターは起動したカメラを南原に向け、南原のリアクションを撮った。
「ちょっと今は撮らないでください」
南原はポケットからスマートフォンを取り出し、ネットサーフィンを始めた。道の整備が万全ではないのだろうか、車の強い振動に南原は少々酔った。
「あ、食材は番組側が負担します。常時スタッフが付いていますのでご安心ください」
ディレクターがそう言って鞄の中を漁ると、南原に一瞬鞄の中身が見えた。中身には肉や野菜、電子レンジ等が入っていた。南原は少々不安を感じつつ、屋敷に多大な興味を持っていた。
数時間が経過すると、あたりは都会の姿から一変し、田舎町に突入した。田舎の街をロケバスで駆け抜いていくと、段々と薄く霞んだ山の姿が見えてきた。
「もうそろそろ付きますね。浅井ディレクターも一緒についていくんですか?」
「いえ、僕はディレクターなので。あと言い忘れましたが、ご同行するスタッフは毎日午後十時までです。朝になると、山に駆けつけますんで。
 何かあったらすぐ向かいますんで、連絡してください」
「ええ、わかりました」

その後、ロケバスは山に到達した。山の独特な葉が南原の鼻をついた。彼は右手に重い鞄を持ち、懐中電灯で足元を照らしながら山を一歩一歩進んでいった。
段々と足元の地面の標高が上がっていき、南原は山に恐怖心を段々と抱いてきた。南原は一瞬、転げ落ちそうになるも手で地面を押さえて身体を安定させた。
南原は安心して溜息をつくと、段々と屋敷が見えてきた。屋敷は山の途中にあるためか、南原は山を登らずに済んだ。屋敷の姿は不動産の詳細ページの写真よりも、更に老朽化が進んでいた。
「随分とボロい家だな」
すると、背後からアシスタントプロデューサーが山を登り、屋敷の中に早速入っていった。彼はそのまま店頭カメラを中に一台設置した。
「それじゃあ南原さん、作業始めます?」
「始めようか」
南原は重い鞄から電動ノコギリと木材を取り出した。南原とアシスタントプロデューサーは屋敷の壁紙を共同で剥がした。
壁紙はとても分厚く硬かった。屋敷を壊さぬように慎重に壁紙を剥がし続けることに夢中になり、半日が経った。
アシスタントプロデューサーはロケバスで帰っていき、南原は一人で布団を敷いて眠っていた。すると、謎の声が聴こえてきた。
「だ……す…け……で……だ…す……け……て……い…や」
南原は夢の中に恐怖で幽霊が出てきたのだと思い込み、そのまま爆睡した。翌日の朝、南原は何事もなく起床した。
「はぁ…」
すると、丁度山の奥からアシスタントプロデューサーの姿が見えた。南原が手を振ると、彼も手を振って返した。南原は再び屋敷に戻り、作業を再開した。
屋敷の内装の解体が終わると、家具も全て撤去した。そして、屋敷の外壁のリフォームに取り掛かった。しかし、リフォームの途中で突然屋敷の屋根が外れてしまった。
屋敷の屋根は地面に落下し、大きな音を立てて割れた。南原は慌てて屋敷に向かい、屋敷の残骸をかき集めて、庭に運んだ。庭に運ばれた屋敷の残骸を見ると、南原は途方に暮れた。
屋敷の外装のリフォームは完了したものの、内部は殆どが潰れてしまって使えなかった。南原は仕方なく、リフォームを中断して下山することにした。すると、山の奥に謎の人影が見えた。人影に向かって近寄ると、突然その人影の首は見事に取れた。南原は驚いて腰を抜かし、その場に倒れ込んだ。すると、その人影はゆっくりと南原の方に向かってきた。南原は急いで逃げようと必死で手足を動かしたが、思うように動けない。
「何やってんすか南原さん」
アシスタントプロデューサーの声が聴こえてきた。南原は起き上がり彼の方を見るなり、強張った表情で人影の方に指をさした。
「あれ……見えるだろ……いるだろ……」
アシスタントプロデューサーは何も見えない様子で、首を傾げた。南原が指をさす方向に目を凝らすと、確かに何かがいるのを感じた。彼はスマートフォンを取り出してカメラを起動させ、撮影を始めた。
南原が疲れているのだろうと彼を気遣うと、彼は南原にスマートフォンの画面を見せた。そこには、誰もいないのに動画の撮影が行われている様子が映し出されていた。
南原は恐る恐る屋敷の跡地に再び目を向けると、そこにはまだ首のない人間の形をしたものが立っていた。南原はその瞬間、今までの疲労が一気に吹き飛び、恐怖で絶叫しながら逃げ出した。
南原はロケバスに戻ると、震えながら運転席に座っていた。すると、背後から何者かが肩を叩いた。南原が振り向くと、目の前には顔がなかった。南原は驚いてロケバスを出た。すると、今までの首無し幽霊は見事に消えていた。
「南原さん……疲れすぎですよ、やっぱり芸能人ってのはすぐ引っ張りだこになって、出演回数が一時期に偏っちゃうもんなんすからね」
アシスタントプロデューサーの言葉を聞いて、南原は少し冷静になった。そして、彼は山奥の屋敷で起こったことを全て話した。その後、南原はしばらくの休暇を取って、実家でのびのびとした生活を送った。
そして、南原はもう一度撮影を再開した。屋敷周辺の草むしりをしていると、一枚の新聞の切り取りを発見した。その新聞には山の写真が大々的に載っていた。
「元処刑場の山・桜山で変死体が発見されました、警察によりますと変死体は原型をとどめておらず、身元は不明です」
南原は一瞬背筋が凍ったが、すぐに思い直して作業を続けた。その後、屋敷のリフォームが完成し、南原は無事に仕事を終えた。休日の日、南原はスタッフと記念で一日宿泊していた。深夜、毛布の中で眠っていると、突然謎の呻き声が聴こえてきた。
「なんか……聞こえないすか?」
三人は呻き声に恐怖し、三人は屋敷内を見渡した。屋敷には三人以外誰もおらず、不法侵入された跡もなかった。すると、床に血の足跡がついているのが見えた。
すると突然、天井から大量の手が出てきた。南原はスタッフを置いてけぼりにして、屋敷を抜け出した。
「ちょ、ちょっと!!!」
すると、前から首の無い屍が痙攣して近づいてきた。南原が断末魔の様な悲鳴を上げると、大勢の屍が南原を囲んだ。大量の首が上から降ってきた。南原は血飛沫浴びながら、倒れた。爛れた手が南原の顔面を鷲掴んだ。
「助けてくれ……いたい……いたい」
脅威の力で首の無い屍は、南原の首を鷲掴んで切り裂いた。

程なくして、南原の首の無い遺体が山奥で発見された。皮肉にも、他のスタッフ二名は生き残り、番組はお蔵入りとなった。
その後、処刑された人々は冤罪なのではないかという世間からの疑問が生まれた。そして、遺族の手によって屋敷は売りに出された。
屋敷は買い手の売買を繰り返すごとに、荒れ果てていった。




愛というのは実に難しいものです。軽々しく恋人を作ったりすると、あなたももしかしたらその恋人に​取り憑かれるかもしれません​
そしてその代償に、愛の責任、いわば愛の証明をしなければなりません。決して​​浮気や不倫はしてはなりませんよ。
しかし、時に愛というのは悪魔のような存在に​かわることがあります。もしもあなたの恋人があなたにナイフを向けていたら、あなたは受け止める側に回ります。
だって、本気で愛しているんでしょう?愛の証がそれで成立するとは、運命は皮肉なものです。

【恋霊】
昨年だろうか。僕の恋人はバイク事故で​亡くなった。どうやら彼女は首無しのまま路上で倒れていたらしい。遺体を発見したのは、付近の交番に勤める警察官で、その警察官は直様救急車を呼んだが、案の定亡くなっていた。
葬式に参加したその警察官は顔色悪く暗い表情をするや否や、彼女の遺影に手向けていた。警察官は葬式の際、僕の顔色を見て僕に頭を下げていた。
棺桶の中の故人に花束をそっと置く際、彼女の首と周囲には白い布がかけられていた。それから一年頃が立ち、精神的に苦痛を与えられた僕は、その恋人から立ち直れぬ沼にはまり、寂寥な感覚が襲いかかってくるばかりで、​毎日が鬱の様な日々だった。そんな毎日だったが、死の憂鬱はいつの間にか身体から去っていった。僕は丁度その時期、就活を考えていたから消え去ったのかもしれない。
バイトを終えて、自宅のマンションに向かっている途中に、スマホの着信音が鳴り響いた。電話の相手は僕の友人の鈴木だった。鈴木は小学生の頃からの友達で、クラスでも人気な存在だった。
鈴木にも、彼女ができていると知ったのはおそらく半年前だ。恐らくまた鈴木の自慢話が繰り広げられるのだろう。
「なんだ?また彼女の自慢か?」
「いや違う。なんかコンビニ行ってたら、櫻木の彼女の玲奈みたいな顔の人いるんだよ。でも……死んでるよな?」
鈴木は驚く程に真剣な声で言っていた。まるで悪い冗談の様な話だ。鈴木は恐らく見間違いでもしたのだろう。玲奈はもうこの世を去っている。彼女が現れるわけがない。
「何言ってんだ。お前が疲れて玲奈の顔に見えたんだろう。ところでコンビニってあそこのコンビニか?」
鈴木は​​僕のマンションの近くのアパートに住んでいる。丁度マンションのベランダから見える程のところにコンビニがある。にしても鈴木は、あそこのコンビニが大好きだ。
「にしても、お前はいつもコンビニ行くな。コンビニ大好き星人なのか?コンビニ星の王様かよ」
「まあいいや。見間違えか。じゃあ俺は今からゲームで帰るから電話切るわ。俺最近プレステ買ったからさ。じゃ、櫻木、バイバイちん」
鈴木は突如、興奮気味になりながら電話を切った。僕は変わらぬ鈴木のゲーム愛に、呆れて顔を顰めてしまった。
僕は常夜灯に照らされながら、歩道を歩いて自宅のマンションに向かった。マンションはバイト箇所とも近く、仕事が終わればすぐに帰れる。
自宅のマンションの長い階段を登り続けると、丁度一番左端の僕の部屋が見えた。財布から鍵を取り出そうとした瞬間、鍵が薄汚い床に落ちてしまった。急いで鍵を取り、扉の鍵を開けた。
すると、部屋の床に一枚の紙切れが落ちていた。その紙には「また会いに行く」という玲奈の特徴的な文字で書かれていた。
僕はきっと、玲奈が生前家に遊びに来た際に置いていった張り紙なのだと思った。玲奈はよく紙にメッセージを書くというのが好きで、いつも紙を机などに置いていた。今思えばあの恋は、とてもロマンチックだった。
すると、スマホの着信音が鳴り響いた。僕は驚いてスマホを見ると、​あいては​鈴木だった。また自慢をするのかと、僕は呆れつつスマホを受け取った。
「風呂が…赤くて寒い……水が……赤い……寒いよ……たすけ…て​櫻木……」
「鈴木……おい、お前何言ってんだ?風呂が赤くて寒いって何だよ……鈴木!鈴木!おい、大丈夫か。おい!鈴木!」

翌日、鈴木の訃報を鈴木の両親の電話で聴いた。鈴木の風呂の水は血に染まり、鈴木は首の頸動脈が切れていたという。死因は頸動脈を自傷したことによる、出血性ショック。
しかし、僕はあんなにもテンションの高く彼女もいる鈴木が、自ら自殺するとは思えなかった。それに、昨日の電話だって自殺するような様子じゃなかった。
僕は鈴木の死に、悲しみ以上に不自然な感情を抱いた。しかし、死ぬような人とは思えない人ほど自殺をする。世の中はそんな「あり得ない​コト」の積み重ねでできていると実感した。
しかし、僕は鈴木の生前の言葉を思い出した。玲奈が見える──それは、一体鈴木にはどのように見えていたのか。その玲奈は、似た人物なのかそれとも幽霊なのか。そして、僕はある言葉を思い出した。
死ぬ前の人物には幽霊が見える──それは、鈴木の死の直前を玲奈が見届けたということなのか。僕は顔を顰めて背筋を凍らせた。鈴木は果たして本当に自殺が死因なのか。それはまだ疑問に浮かんでいた。
そんなとき、僕にメールが届いた。その内容は「今日の七時、休日だからみんなで高城の家に集まって飲もう」というものだった。僕は鈴木の思い出話をしようと、チャットの返信で参加を承諾した。
どうやらその会には全員偶然参加を承知しているようで、僕は久しぶりに白井と会うのが嬉しかった。

七時、僕は高城の家に行った。高城の家には既に僕以外の友人が、座布団に座っており、早速コンビニ弁当を食いつつ、缶ビールを飲んでいた。
「どんだけ飲んでんだお前ら」
そして、僕は久しぶりに会う友人達と鈴木の思い出話を、ビールを飲みながら交わした。しかし、高城から衝撃の一言が発せられた。
「あのさ……俺達、玲奈のこと見かけたんだよ。お前のマンションの前に赤い服でずっと立ってたぞ」
「え?」
鈴木と同じような一言に、俺は驚いて缶ビールを飲む動きを止めた。僕の周辺の友達が次々と言う「玲奈を見た」という言葉に、僕は気味が悪くなった。
鈴木も「見た」、そして僕以外の友人も「見た」。しかし、同時に僕は嫌な予感がした。もしかして、僕達も死ぬのだろうか。
「ごめん帰る」
「え、ちょっと、おい!待てよ櫻井!」
すると突然、部屋の電気が消えた。そして、部屋は脅威の揺れに包まれ、僕は恐怖で体が震えていた。僕はあまりにも怖くなり、高城のマンションを飛び出した。高城の扉を勢いよく閉め、そのまま僕は自宅のマンションに向かった。
マンションの階段を急いで駆け登り、自分のマンションの一室に向かった。自分の部屋にハリウッドばりに倒れて入り、急いで鍵を閉めた。
「くっ、来るなよ……来ないでくれ……」
すると、ポケットの中のスマートフォンの着信音が鳴り響いた。恐る恐る震えた手でスマートフォンを握り取り、電話の相手を確認した。電話の相手は白井からであった。恐る恐るスマートフォンの電話を受け取った。
「死……に…たく……ない……よ……死…に……た……くな……い……たすけ……て…く……れ……」
僕はベットの中の毛布に潜り込み、恐怖で冷や汗を大量にかいていた。玲奈はきっと、次々と僕達の周囲を狙って、あの世に連れ去ろうとしている。
すると、ドアの方から異様な気配を感じた。僕は何枚もの毛布の中に潜り込み、玲奈の霊から隠れようとした。
「やめてくれ……やめてくれ!俺たちになんの恨みがあるってんだ!助けてくれ!誰か…助けてくれ!頼む!」
すると、ドアの方からコンクリートの床を一歩一歩、段々と僕の部屋に近づいていく密かな音が聴こえてきた。僕は冷や汗をかきながら、布団の中に潜り込んだ。
そして、僕は念の為キッチンのナイフを取りに行った。直様、ナイフを握り取り、布団の中に隠し持った。
「来るな……来るなよ……来ないでくれ!頼む!」
ドアを叩く音が聴こえてきた。僕は包丁を布団の中で構えながら、玲奈の霊が入ってこないように祈った。
するとほのかに、「助けて」という玲奈の声が聞こえてきた。僕は同時に、恐怖心が去った。それよりも、彼女の死の悲しみを実感した。
ドアを叩く音が消えた。ドアを開けて廊下を見回すも、玲奈の霊は消えていた。きっと、彼女は孤独だったのだろう。ずっと知り合いもおらず、両親もまだ生きている。だから、僕達の周りを連れて行ってしまった。​きっと彼女は、孤独で寂しかったんだ。
僕の腕に一滴の雫が溢れ落ちた。玲奈は死ぬ時、痛かっただろう。辛かっただろう。僕は玲奈の悲しみと辛さを実感した。

数日後、僕は玲奈の墓参りをした。玲奈の墓に薔薇の花束を置き、墓を掃除した。掃除を終えて、僕は自宅のマンションに帰った。
すると、机には「ありがとう」と書かれた一枚の紙切れが置かれていた。僕は、玲奈は無事成仏できたのだと微笑んだ。
きっと、玲奈は天国で喜んでいるだろう。でも時々思う。寂しかった思いは、果たして満たされたのだろうか。無事、天国で心地よく過ごせているのだろうか。
すると突然、部屋の電気が消えた。僕は部屋の中を見渡して停電かと思うと、突然電気が付いた。すると、目の前には首の無い女の姿があった。あの服は、玲奈の大好きな服で、ズボンは僕によく自慢していた玲奈のズボンだった。
「​れっ​…玲奈……」
玲奈は首が無く、周辺の肉が部屋の隅々に零れ落ちていた。僕は玲奈の姿に驚くあまり、腰を抜かしてしまった。
「たすけてくれ……やめてくれ…玲奈……お前は……死んだんだ……お前は……もうとっくに事故で死んだんだ!玲奈はバイクに撥ねられて、走り去ったバイクが丁度玲奈の首を切断して玲奈は死んだんだ!」
すると、玲奈は僕の頭を鷲掴んだ。玲奈は僕の頭を壁に何度もぶつけさせ、額に激しい障壁が走った。額から大量の血液が噴き出した。
「やめて……くれ……」
段々と額の衝撃が強くなっていき、「グチャ」という音が次第に鳴り響くようになっていった。
「痛い……痛い…痛い……やめてくれ……やめてくれ!嫌だ!死にたくない!嫌だ!」

その後、櫻木は病院に無事搬送された。脳は損傷していたが、手術により無事一命は取り留めた。原因は自らの自殺未遂と判断された。

ある男は学校の登校中、櫻木の噂を語っていた。それを聴いていた女子生徒は、気味の悪い話に顔を顰めた。
「それでな、その男の人、病院で入院中に発狂したんだって。彼女の首無し幽霊がずっと立ってて、今でも段々と近づいてくるって」

櫻木は暗闇に包まれる深夜、病院の一室で玲奈の幽霊に発狂をしていた。痩せ細った櫻木は一日ごとに近づく玲奈の霊に、毎日怯えていた。
「ふっ、ふふはははははははははあああああああ」
そして、櫻木は発狂のあまり精神病院で身を包帯まみれにされ、白い空間の一室で入院していた。
身動きもとれぬ櫻木の身に、段々と玲奈の霊が迫ってきた───。


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