滝神さん


峰原千紗<みねはら ちさ>♀
13歳/23歳。
家庭環境に難があり、自分がその原因だと知る。

滝神<たがみ>♂
外見は25歳前後
おっとりとしたお兄さん。
山を愛する。

千紗:
滝神:

1:1
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

千紗N:あの人は元気だろうか、いや、そもそも人かも・・・
   でもあの人のお陰で今の私がいる。
   あの人と初めて会った日。もう今から十年も前なんだね。

――十年前。

千紗:うっ・・・ぅぅ・・・お母さんもお父さんも嫌いだもん。
   もう顔も見たくない・・・
   私がいらないから要らないって言えばいいじゃん!
   なんで・・・なんで・・・

滝神N:少女は轟音と共に下る滝壷を見る。幼きその身で何を思うか
   少女は滝壷へと足を踏み入れようとする。

千紗:心配・・・しないよね、だって要らない子だもん・・・
   ・・・・・・ごめんなさ―――

滝神:君!何やってるんだこんな所で!

千紗:!!離して!離してよ!私は要らない子なんだから!

滝神:何言ってるんだ!・・・おいで。

千紗:・・・。

滝神:何があったかは分からないけど、そんな若くして死のうと思っちゃ駄目だ。
   お家に帰りなさい。

千紗:帰る家なんてないよ・・・お父さんもお母さんも私が邪魔なんだ。

滝神:邪魔ってどういうこと?

千紗:お兄さんに話す事じゃない!この手離してよ!

滝神:駄目だ。今離したら君はまた同じ事をする。

千紗:私の事何も知らないのになんでそんなに止めるの?

滝神:知らないよ。でもね、泣いてる子を目の前にして助けない大人がいるかい?

千紗:・・・。

滝神:良かったら話してくれない?辛いこと、君をそこまで思い詰めること。

千紗:知らない大人には話せない。

滝神:・・・私は滝神。この山が大好きな大人だよ。君は?

千紗:千紗・・・峰原千紗。

滝神:千紗ちゃんね。よし、少し落ち着いたようだからそこのベンチで話を聞くよ。

千紗:・・・。お兄さんの手って冷たいね。

滝神:山にいると身体が冷えちゃうからね
   おかげでよくおなかを壊してしまうけど。

千紗:それでもこの山が好きなんだ。

滝神:うん。だって毎日眺めても同じ風景が一つも無いんだ。
   鳥達や花、雲の動き。全てがこの山の一部となって私に魅せてくれるんだ。

千紗:毎日見に来るの?

滝神:そうだよ。

千紗:お兄さんって仕事ないの?無職?あっホームレスだ!

滝神:違うよ。この山が好きな大人。ただそれだけ

千紗:環境保護協会とかなんとかの人?

滝神:そういうことでいいよ。

千紗:うーん・・・

滝神:私の事はいいから、千沙ちゃんの事を話してよ。

千紗:・・・私の両親仲が悪くてね。それは昔からなんだけど
   ここ最近酷くて・・・離婚なんて話もしててね。
   そうしたら私をどっちが引き取るか・・・だってさ。
   嫌だよね。自分の存在が邪魔だなんて実の父親と母親に言われたんだもん。
   それで私も勉強する気になれなくて学校の成績も落ち気味で・・・
   どうしたらいいかわからなくて・・・
   こんなこと友達に言っても掛けられる言葉が全部偽善の言葉に聞こえちゃって
   疑心暗鬼手前かな、初めて死にたいって思った。
   今日の夕方お父さんに殴られたんだ。「お前のせいで」って・・・
   私が何したの?誰も傷つけてなんかしてない・・・っ、ぅぅ・・・
   それで、気づいたらこの山にいて・・・

滝神:死のうとした。

千紗:そう。私がいなくなって全部上手くいくならって・・・バカだよね私。

滝神:馬鹿だよ、大馬鹿だ。
   死んだって変わらない。君のご両親は責任を押し付けあうし、学校では可哀想な子扱いだ。
   それでいいの?

千紗:分からない、分からないけどこの状況にいるのが凄く嫌なの。

滝神:どうしてほしいの?

千紗:お父さんとお母さんに仲直りしてほしい、離婚しないでほしい。
   優しい二人に戻ってほしい・・・!

滝神:言えるじゃないか。千紗ちゃん、君は勇気がある。
   死ぬ気になれば、なんて言葉があるでしょう?君は一度死んだ。弱い君はね。
   逃げちゃ駄目だ。逃げれば状況は悪くなる。死ぬ気になったんだからなんでもできる。

千紗:だからってどうしたら・・・!

滝神:君の思いを君の言葉で伝えるんだ。君が逃げずに話せば君のご両親はきっと聞いてくれる。

千紗:・・・。

滝神:自信ない?

千紗:・・・うん。

滝神:・・・おいで。こっち

千紗:何?・・・・・・うわぁ綺麗・・・何ここ?

滝神:ここは鳥達が集まる場所。この山は土地を渡る鳥達の一時の休息場。
   今このタイミングでしか見れないとっておきの場所。
   私のお気に入りのスポットだよ。

千紗:へー・・・この山よく来るけど初めてしったよ。お兄さんやるじゃん

滝神:はは。もしまた辛くてたまらなくなったらここに来なよ。
   私でいいなら話も聞くしこういう所も案内できるよ。

千紗:お兄さんやっぱり無職なんじゃ?

滝神:ははは・・・んっどうしたの?

千紗:・・・ありがと。お兄さんのおかげで馬鹿な事・・・思い留められた。

滝神:うん。君の悩みが消えるまでずっといるよ。

千紗:言ったね!じゃあまた明日くる!じゃーねー!

滝神:うん。・・・ん?どうしたの?忘れ物?

千紗:滝神さんっていい人!

滝神:っはははは!いい子だよ君は。さようなら。

千紗:うんっ



滝神:・・・。―――うわっなんだ!?

千紗:だーれだ?

滝神:あっ来たんだね千紗ちゃん。

千紗:・・・うん。

滝神:その様子だとあまり上手くいかなかったのかな。

千紗:聞いてはくれたけど大人の問題って言われてね・・・

滝神:・・・。よしよーし

千紗:なっ――!

滝神:あっ嫌だった?ごめんね。

千紗:いや・・・ううん。そういうのされたことなくて
   お父さんはいっつも一人で私と遊んでくれなかったな。

滝神:そうなんだ。

千紗:・・・あのさ

滝神:ん?

千紗:いつまでなでなでしてるの?

滝神:嫌?

千紗:嫌じゃ・・・ないけど。ちょっと恥ずかしいし・・・

滝神:誰も見てないよ?

千紗:私が!!あーもういいって!

滝神:そんなぁ・・・結構いい感触だったのに。

千紗:もうなでなでさせないしっ

滝神:ええ!?そ、そうか・・・ごめんね。

千紗:・・・。お兄さんってさ

滝神:ん?

千紗:ここに毎日来るって事は・・・その、いないの?

滝神:何がだい?

千紗:彼女・・・とか?

滝神:はっ・・・ははははは!彼女か、いないよ。

千紗:そうなの?

滝神:作ろうと思わないからね。そういう千紗ちゃんは?彼氏とかいるの?

千紗:いないいない。私結構ぶっきらぼうだからそういうの全然ないんだ。

滝神:そうなんだぁ、可愛いのにもったいないね。

千紗:え?

滝神:ん?

千紗:いや・・・なんでもない。

滝神:そう?なんか顔赤くなってない?熱?

千紗:ちが―――ちょ・・・

滝神:うーん。別に熱くないね。なんだろ

千紗M:近い近いっ・・・!

滝神:・・・落ち着いた?

千紗:え?

滝神:家の事少し忘れられたでしょう?

千紗:・・・うん。

滝神:大丈夫。君が進み続ければわかってくれる。大丈夫。

千紗:明日もさ・・・来ていい?

滝神:いいよ。いつでも。

千紗:じゃ、じゃあまた!!

滝神:・・・。大丈夫、きっと君なら―――


千紗N:その次も、そのまた次の日も滝神さんは私を待ってくれていた。
   私が悲しい顔をしていると優しく迎えて許してもいないのに頭を撫でてくる。
   本当は嬉しいのに恥ずかしがって離れてしまう。
   両親も私の訴えを最初は見向きもしなかったけど落ち込んだ分滝神さんに慰めてもらって訴えを続けた
   そうしていくうちに離婚の話は無くなった。私はそれを両親から聞き嬉しさのまま山へと向かう。
   彼が待つあの滝へ、彼が迎えてくれる。・・・そう思って。
   でも彼はあの場所にいなかった。用事だろうか?でも昨日も「待ってる」と言ってくれた。
   私は焦り彼を探した。教えてもらった鳥達の場所、彼が好きだといった花の咲く場所。
   山で一番好きだと言っていた見晴らし場・・・だけど・・・彼は私の前には現れなかった。
   嬉しい事を伝えるはずが気分がだんだん不安にかわり、悲しみに変わる。
   いつもの場所に戻る時には涙が溢れていた。会いたい・・・彼にただ会いたい。
   自信なんて関係なかった、不安なんて言い訳に過ぎなかった。彼に会って頭を撫でてほしかった・・・ただそれだけ。
   ベンチに座り彼の呆けた顔を思い浮かべる。真剣な顔、優しい顔、ころころと顔が変わる。
   それが余計に辛かった。

千紗:滝神さん・・・私ちゃんと言えたよ、言えたんだよ・・・
   なんでいなくなったの?私の事嫌いになった?・・・なんで・・・ぅぅ

千紗N:私はまた泣いた。始めてあった時のように・・・その時一陣の風が私の横をふいた
   横を見ると小石で留めた手紙があった。

滝神:ちゃんと言えたね。分かっているよ。
   まっすぐな君のことだからきっと上手くやったと思う。
   君の傍に居れなくてごめん。でももう私は必要ない。
   今の君に必要なのは大好きなご両親だけ。
   また自信を失くしたらここにおいで、その時私は君を待っているだろう。
   会えないまま離れるのは辛いけど。ずっと君を忘れない。
   ―――ありがとう千紗。

千紗:ぅぅ・・・バカ、バカ!バーカ!!


千紗N:それから私は高校へ入り大学へと進む。今の私は大切な人と出会い
   幸せを実感していた。式を控え地元へと一度戻る。・・・式に使うアルバムなどを見ていると
   あの山での事を思い出した。私はその足で山へと向かう。変わらぬ景色。
   鳥達の囀りと木々の隙間から漏れた日差しで一層に思い出が蘇る。

千紗:私は大きくなったけどここは変わらないね。

滝神:お嬢さん、そんなところにいると危ないですよ。

千紗:―――!

滝神:久しぶりだね。覚えてる?

千紗:滝神さん・・・!

滝神:綺麗になったね千紗ちゃん。いや・・・千紗さん。

千紗:私貴方のことずっと・・・

滝神:ごめんね。私も会いたい気持ちは同じだった。
   でも会ってしまったらきっと進めはしなかったろう。
   ・・・幸せかい?

千紗:ええ、とても。

滝神:それは良かった。

千紗:でも相手は初恋の相手ではないですよ。だって初恋の相手は・・・

滝神:シー・・・

千紗:?

滝神:鳥達が呼んでいる。久々に行こうか?

千紗:・・・はい。

滝神:・・・。とても綺麗だね。

千紗:ええ、相変わらず素敵です。

滝神:いいや・・・

千紗:え?

滝神:君の事だよ千紗さん。・・・おめでとう。

千紗:・・・っ

滝神:お祝いに何かしたほうがいいかな?

千紗:ううん・・・

滝神:そう?

千紗:・・・じゃあ一ついいですか?

滝神:・・・頑張ったね。

千紗:っ・・・ぅぅ頑張った。頑張ったよ私。滝神さん・・・っ

滝神:うん。知っているよ。


―――・・・

滝神:次あうときはもっと嬉しい事があるといいね。

千紗:まだ気が早いですよ。

滝神:そう?じゃあ気長に待っているよ。

千紗:・・・待っててくださいよ。次も

滝神:うん。待ってる。

千紗:・・・・・・じゃあいってきますね。

滝神:うん。


千紗N:やっぱり滝神さんは人ではなかった・・
   あの時と変わらぬ若さ・・・きっと滝神さんはあの山の―――
お知らせ
実務でも趣味でも役に立つ多機能Webツールサイト【無限ツールズ】で、日常をちょっと便利にしちゃいましょう!
無限ツールズ

 
writening