やらかしお兄ちゃん


「…しまった!今何時だ?!」
日車の腕の中で目を覚ました脹相が小さく叫ぶ。
「…まずいな。7時過ぎだ。」
寝具から這い出た日車がやや冷静さを欠いた様子で答える。
ここは日車の自室。愛し合った夜は早めに解散するのが常なのだが、昨夜はその後話込んでうっかり寝入ってしまったようだった。

脹相がベッドからするりと抜け、下着とルームウェアを着けながら出入口ドアの向こうに聞き耳を立てる。
「誰か廊下を歩いてるみたいだ…悠仁か?俺の部屋の前で止まった…俺を呼んでいる…。」
脹相の自室はここの向かい側だ。朝帰りの現場を弟に見つかってしまうのは何としても避けたい、脹相の顔にはそう書いてあるように見える。

「取り敢えず俺が虎杖を引きつけるから君は隙を見て部屋に入れ。」
脹相が冷静に言う日車を見ると、彼は既にいつものスーツを身に着けていた。
「俺はいつでも出られるぞ。準備は良いか?」
「分かった。頼む」
ゆっくりドアを開け日車が廊下に出る。閉めたドア越しに脹相が様子を伺う。…日車が悠仁に何か話しかけてその場から連れ出してくれたようだ。

再び廊下の様子を伺う。人の気配は感じない…今なら大丈夫か。
脹相は日車の部屋をそっと抜け出した。自室の鍵を鍵穴に差し込もうとしたその時…急に気配を感じ左手側を振り返る。
「おはよう。」
校医の家入がそこに居た。曲がり角から出てきた様子だったが、どの段階から見ていたんだろうか…?
「珍しいな、この時間にそんな格好で」
家入が言う。脹相はいつものこの時間は自主練をこなしており、ルームウェアのままで廊下をうろついているのは珍しい事だった。
「ああ…今日は少し調子が良くなくて朝練は止めにした。」
「そうか。大事な体なんだから気をつけてくれよ。薬が必要なら取りに来い。」
「ああ、ありがとう。」
「………それと。」
家入が自身の首を指差しながら言った。
「赤い跡、目立ってるぞ。」
「!!!!」
脹相が顔を芯から赤く染めて首元を押さえる。呪印の端が分かりやすく乱れている。
(…いや、おかしい。考えてみたら日車は目立つ首筋にキスマークを付けることは無い…まさかカマをかけられた…?)
「……」
「……」
気まずい沈黙が流れる。
「…まぁ程々にな。」
かすかに笑って家入は去っていった。

脹相は慌てて自室に入り鍵を閉める。
「ああ…下手をしてしまった…冷静に虫さされとでも言っておけば良かったのに…すまん日車…。」
短慮な自分に気分が滅入る。日車だったら顔色ひとつ変えずその場を収めただろうに。
脹相は彼から感情を表に出さないための訓練を受けねば、と思いながら速やかに身支度をするのだった。
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