【閲覧注意】 アレクセイ・コノエ×アーサー・トライン


「アリョーシャ、さん」

小さく、本当に聞こえるか聞こえないかの声で、私の名を呼ぶ。
確かにその名は私であり、私のファーストネームである【アレクセイ】のあだ名。艦長室で、それも出ていこうという前にそんなことを言われ、君は何を思っている。私の気持ちを、どう思っているのか分かっているだろうか。
背中越しで、彼の顔は見えない。ただ、耳が赤く染まりいくらでも出れるはずなのに、出ようともしない。
手を伸ばし、ゆっくりと彼の手を掴み引き寄せれば…思いのほかすんなりと、私の胸の中に納まる。とっくに休憩時間は過ぎているし、戻らなければ不審がられるというのに。いいさ、私との【報告及び今後の指針】について話し合っていた、と理由付けすればいい。今回の航行は少しばかり寄り道が多い、いくらでも内容のこじつけが可能だ。
「…あの」
「離してほしいか?」
「……ほんの数秒だけ、でもいいんで」
腕から手を放し、後ろから抱きしめるように肩とお腹周りに腕を通す。
少しばかり、体つきが良くなったか…今まではスクランブルの多さがあったから、身体も痩せていたしな。
アーサーの腕が、私の両腕に添えられる。
男の手であるが、私よりも若いという男の手で、少しばかり羨んでしまう。ほんの少しの若いから、という中年のひがみのようなもの。笑って躱してくれてほしい。
それからというもの、彼は時々こうやって…私のあだ名を呼ぶようになっていく。
最初はほんの小さな欲求だったのだ。


吉報、おめでたいニュースがコンパス内へと走る。
ラミアス艦長の懐妊の報告。これにより、ラミアス艦長の体調を考慮し申し訳ないという事で、事務作業を主にやってもらうこととなった。健康面を気を使っての結果だったが…そうなるまでに男たち総出で艦長席から何とか引き釣り降ろそうとしたのが、最近のこと。
身重ながら、どこでそんな力が出るやら…。
アークエンジェルには副長、と呼べる人物はせいぜい階級が同列のフラガ大佐くらいだ。さらに言えば、操舵士であるノイマン大尉が、サブリーダー的扱いだと言う。しかし、この度を気にアークエンジェルからラミアス艦長が一時的に下りたという事で、代役としてアークエンジェルの好敵手であったミネルバの副長であったアーサーに白羽の矢が立つ。
最初は驚きながらも、彼も思うところがあったのか…すぐに真面目な顔で、少し憑き物が落ちたかのような顔を浮かべ了承。
今では、アークエンジェルの破天荒とも言える行動に振り回されながらも、艦長としての任を務めている。
反応は大げさながらも、彼は優秀な類だ。経験が足りないだけで能力は備わっている。
今回のアークエンジェルの代理艦長の任は、十分な経験となるだろう…そう、私としても、嬉しいことなんだが。

「艦長、貧乏ゆすりをするなとは言いませんが…もう少し静かにしてもらえますか」

ピシャリ、と容赦なく後ろから声がかかる。
アルバートがさも呆れたような調子で声を上げたのだ。どうやら、いつの間にか貧乏ゆすりがひどくなっていたらしい。
「すまん」
「作業は終わっていますのでかまいませんよ。…デスティニープランと言うのは、案外あてにはなりませんね」
最後あたり、なぜデスティニープランが出るのかがわからない。そんなプランと関りがある話をしていただろうか。
「何の話だ?」
「なにも。大したものではありません」
「そうか…ところで、アルバート。お前…副長がここ最近居ないことを良いことに、若い連中となにを企んでいる?」
さりげなく、そんなことを語り掛けるが…こ奴め。どこ吹く風と言わんばかりに白を切り、さも聞いていないと体現した態度を取りおってからに。この男、武装ならまだ諦めが付く。しかし、若い子と一緒になって好奇心、さらには若気の至りを謳歌するつもりでミレニアム艦内に秘密基地を設置しては、正直便利でそこらの家電より使い勝手の良い道具をこしらえるから質の悪い。
副長は彼らの行動を察知し、叱咤していたが…その副長はアークエンジェルへと移動している。弱った、わんぱく坊主共のさじ加減がますますひどい、ハーケン隊の男性パイロットたちも一枚かんでいるからなおさら。アスカ大尉やレイ大尉たちはまだうら若き少年、それもまだ20歳ではないのだ…残り僅かな青春を、という事だ。
解らんでもないが、限度を超えるんじゃない…。ブラックナイツでの深手から快調してくれたは良いが、…元気があって結構。ダメだ…これからの事を思うと、頭痛がしてくるしそう言うしかない。
エイブス主任、君も少しばかり道連れにするぞ。
「なんのことやら」
「お前ね……はぁ、本当に彼は良くやってくれていた。久々に思い出したぞ、お前がとんでもない問題児だったという事を」
「よい経験かと」
「だまらっしゃい」


「…あの、アレクセイさん?」
「今はアリョーシャで頼む。…君は本当に、出来た副長で私にはもったいないし、いい女房すぎる」
「はぁ?」
女房と言うのはものの例。船の中では艦長が父親、副長が妻…そんな役割を表すかのような、例え。
ようやくラミアス艦長の産休が終わり、コンパスの方にも地球連合からバジルール少佐が駆けつけてくれたため、艦隊の編成にも余裕が生まれる。アークエンジェルの方には、バジルール艦長と副長としてクルーゼ副長が編入された。まさかクルーゼ大佐が来るとは思わなかったが…どうにか、今回は乗り切れるだろう。
一人は元ザフトであるが、あっけらかんとした顔で迎え入れたのには驚いた。ヤマト准将に至っては、近所付き合いのある人と言わんばかりの調子だから…なんとも言えない。あれでもザフトの中では指折りの人物だと言うのに。
「お疲れ様です。少し仮眠されますか?」
やさしく子供をあやすように、背中を叩いてくれる。今回の事での疲労と精神的な何かが、すっ飛んでいった気分だ。
久々のアーサーを堪能するように、きつく抱きしめる。…いつもと違う石鹸の匂い、あぁ…そういえばアークエンジェルのは天使湯が設置されていたな。ここに来る前に借りてきたのか、肌がしっとりとしていて気持ちいいな。
血行が良いから、少し痕を付けてしまったらバレてしまうな。
「…アーサー、気持ち悪いことを言わせてほしい……。今夜は、私の妻になっておくれ」
え、と小さな声が出たが彼が思考を働かせ理解する前に、アーサーの服を手にかけた。

じっくりとすべてを暴き、喉から通るそのあまい声を堪能して、さらには私の背に可愛い痕を付けさせてくる。…こんなイイ女房は、他に居ないだろう。
ほどほどに済ませた頃には、アーサーは息を荒げ蕩けた吐息と怖くもない目をしながら睨んでいた。
途切れ途切れの声に、ゾクゾクとアーサーの無自覚とも言える嬌態の末恐ろしさを堪能する。
「アリョーシャ…の、ばか」
「すまない。加減が効かなくなってな…嫌だったか」
「そうじゃ、ない…ン、です…もうっ」
怒っているとはいえ、拒絶までにはいかない。しょうがない人、で済ませるあたり彼は十分に寛容すぎる。それ故に、彼が私のことを拒絶はしないのは知っているが、少しでも女の影でも出来たら話は別だ。
「ミレニアムの方は、大丈夫でしたか」
「わんぱく坊主共で手を焼かされているよ。本当に君には助けられてばかりだ」
「それくらい、苦ではありませんよ。ああいったのには、慣れていますから」
アーサーの隣に腰掛け、少し息を整えていれば…アーサーは力を振り絞って手を重ねる。手の甲へ乗せては、指の隙間に入れ込み交差したりと、いじらしいことをしてくれる。
「アリョーシャは寂しんぼですね」
「君も言えるだろう?」
それもそうでした、なんておとぼけたように答える。ほんとうに他愛のない会話をすることが、何よりも幸福であった。
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