【閲覧注意】 TSルート


じわり、じわり、とナニカが近づくような音が、日々聞こえていた。
無機質なこの船の中に、硬いものをひっかけるようにして歩いている強大な多足型の動物。地面でもあったなら、多少はその音がマシだろう。しかし、私の中で確実に近づいてくる…解らない存在だ。

カツリ、カツリ、カツリ…。

私はその音に対し、得も言えぬ恐れを抱いていた。確かに獣の足音、だが…私が知る限りソレは地球由来の動物ではない。
もっと、遠くて…それも居場所も解らない。
だが、最も身近な存在だと思っている。別の扉の先にある、そんな存在だと。
確かに、近くに居るのだ。…あぁ、耳元で生温かな吐息がかかる、獣臭いにおいだ。
それと同時に、…牝(おんな)のにおいも混じっていた。


「どうしました?」

ふと、あの恐怖から目が覚めた。
見慣れた天井、そこに顔をのぞかせる一人の女性の姿。黒く、底の見えない吸い込まれそうな目で、心配そうに見つめる…副長、アーサーの顔だ。オリーブ色の長い髪を結び、控えめなエプロンを付けている…腹部は、直に生まれるであろう…臨月の胎をしている。そうだ…私は、私たちはあの異質なミレニアムから脱出し、そして…彼女は、私の子を身ごもったのだったな。元はやむを得ない事情で身体を重ねた結果、こうなってしまった。彼女の精神を保つために、それでも下心はあったが、…抱いたのは確かだ。
もとより、責任は取るつもりであったし、何より愛しているから…子をもうけてくれて嬉しい。
私との、子供だ。
……寒気が起きた。
デジタル式の時計を見れば、温度はこのプラントでは平均的な気温だ。朝方、寒くなることは無い…ここは、太陽の近くにあるとは言えども…夜を、設定できる。
「朝ごはん出来ていますよ…あなた」
「あ、ぁあ…いただくよ」
「もう、しっかりしてくださいな。臨月なんですから、この児のお父さんになるんでしょう?」
いまだ覚醒しきっていないと思っていないのか、アーサーは困ったようすを見せる。そうして、しょうがない人ですね、と呟きニコリ、とアーサーは微笑む。愛らしい笑みだ、…細めていた目が…一瞬だけ、ヤギの目になっていた。
ノイズが走る。
…待て、何かがおかしい。

彼女の腹は、ダレの子だ?

私たちは、そうだ…ようやく、ようやく…5年以上も経ってから、脱出に成功したのだ。
ちがう、違う…1年、1年だった。シンくんたちが、救助に来てくれて…それで、私とアルバート、それに…アーサーは、…アーサーは。

「アレクセイさん」

私の目の前で■■■のだ。
黒ヤギの化け物に食われて、女のまま…■をむごたらしく食われた。今でも咀嚼音が聞こえる。■を歯ですりつぶし、■を砕き、喉を鳴らす。■も滴り落ち、それをすすってのどを潤す…化け物。蹄を鳴らし、歪に膨れ上がった大樹のような体と4本の足でを取った、理解を拒む声で、姿で、私たちの前に現れた。

「君は、誰だ?」

ニコリ、と笑って…聞き取れない声を出した。
シ■■=ニ■ラ■
そうして、愛おしげにアーサーの顔をしながら…私に口づけを送った。
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