don't leave


時系列としてはクロスギルド結成以降
でもあやふや
書いててなんか怪しくなり不安ですが特にそういうあれは無いです
過去待機スレであったネタなんですがあまりにも遅筆で半年以上たってるしどこだったか思い出せない⋯⋯!


✂───


 連絡していた予定より一週間遅れてやって来たキャメルは港で鉢合わせた弟に手をふって近づくとニッコリ笑う。
 異変に気付いたクロコダイルからの
「今度は何をした」
 という質問にいつも持っている名刺の裏に文字を書いて差し出す。
“甘そうな木の実があったから味見した”
 獣以下だなというクロコダイルの思考はそのまま口に出されたがキャメルがそれにも気にせず笑顔のところを見るとどうやら味は美味しかったらしい。
 食べた代償に声が出ない、という事態に対して余りにも余裕がある態度は診てもらった医者に言わせれば一時的なもので薬を飲んでいれば治る(普通毒で死んでますよ。という恐怖を滲ませた言葉も添えて)と言われているのもあるが声が出なくても特に困る事は無いからだ。
 直近に会話が必要な打ち合わせはないし斬る時は喋らないし弟は今日も元気。なにも問題はないと結論を出して来たのだが当のクロコダイルに何か起きたらしく不機嫌そうだ。原因は態度からして聞いてほしくない部類のモノだと察してあえて無視した。
 最近なにやら隠し事の多い弟だが怪我も病気もしていないなら後はクロコダイルの判断に任せてキャメルからなにかすることはない。
「口あけろ」
 クロコダイルの言葉に理由が分からないまま素直に開くと肉食獣の様な歯が並んでいた。甘い物ばかり食べているが手入れをかかさないのでキレイなものだ。見にくいので無理やり指を突っ込んで開いてのぞくと火傷をしたような酷い状態で喋ると負担になってしまうだろうし治りは遅くなるだろう。
(なんでこの時点で吐き出してないんだコイツは⋯)
 手を放すとハンカチを渡そうとしながら何か喋ろうとしたのでハンカチをぶん取りながら鉤爪で殴って黙らせた。少し痛い、くらいの様子で頭をさするのがクロコダイルには腹ただしい。
 理由が馬鹿馬鹿しいの一言に尽きるので特に気にすることもないと判断しショコラに労いの言葉をかけて私室に向かう。
 こんなことで一々騒いでいたらそれこそ時間の無駄というものだ。



 
 計画を立てていざそれを実行してみると全てが予定通り進む事はない。
 報告書を読んでいて二行飛ばしそうになった頃、目の前に鮮やかな水色のティーカップが置かれて視線を上げるとキャメルがいて
「そろそろ休憩しようか」
 と伝えてきた。勿論声は無いが分かりやすい表情で弟には十分だ。無言でカップを取ると満足げな顔でソファに戻っていく。
 喋れないからと言ってもキャメルの言動に普段から複雑なものなどないし文字が書けないわけでもない。ギルドに来てやることは「私と組もう」という誘いと土産のお菓子と依頼した服を届けに来ることだけ。弟以外とはほぼコミュニケーションなどしない男に困る事など起きるはずもない。
 会う度にしてくる土産話が話せない事ぐらいだがクロコダイルは特に興味を持っていない。
(なんだ。静かで良いじゃねェか)
 というのが率直な感想だ。隣に座っても空気は騒がしくなっても喋ろうとすると怒られるので黙ってチョコレートの入った袋を押しやってくるだけ。
 普段からここまでとは言わないが静かにしてくれるならもう少しならいても良いアニキがこれだけ静かな事などあったか?
 そんな思考にピタリと個包装を破る手が止まった。

(あった)

 幼少期、キャメルは今と変わらず世話焼きだったがある日船長の⋯⋯父親の前で同じ振る舞いをして叱られていた。
 もちろん子供だろうが相手が親だろうがキャメルはキャメルのままだ。黙っているわけがない。
「どうして? いやだよ」
 と反抗したし、何をされても変わらなかったがある日母親に呼び出され何かを吹き込まれてからは弟に笑顔を見せなかったし構う事も無くなった。
 クロコダイルも今なら大体の察しはつくが当時はただ不安で、不満で、失望していた。
 やっぱり。そうだよね。知ってた。
 子供ながらに理解したふりをしてキャメルから逃げ回っていた。
 そして⋯──


 持っていたチョコに手が触れてハッとする。
 珍しく外された手袋の下はキレイで深い鰐の様な緑色のネイルがされていた。クロコダイルからチョコレートを取り丁寧に包装を開くと手を取って優しく置いてやり、子供の頃から進歩のない相変わらずの腑抜けた笑みを寄こしてきた。

 大人になってから思えばキャメルの行動を制御する方法などいくらでも思いつく。
 下らない。こんな単純な男におれはなんで振り回されたり失望していたんだろうか。
 子供の自分にあったらきっとクロコダイルは苛ついてさっきの様に鉤爪で殴りつけてタンコブを作ってやっていたに違いない。
 そんな事を考えながらチョコレートを口にいれた。
 
「相変わらず甘いな」

 キャメルが撫でるような静かな笑みを浮かべて、弟の為にチョコレートを開けるのをクロコダイルはただ、黙って見ていた。



✂──────




「なんでクロちゃん日に何度も口のぞいてんだ⋯⋯」
「知らん」
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