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10年来の親友がおかしくなったのは、ここ最近のことだった。
「オレ、お前をおかずに飯食えるわ」
そう言って白米2合を俺の部屋に持ち込み、1時間ほどかけてひたすら食べる。その奇妙な儀式のようなことが、この1週間で3回も行われた。1秒たりとも視線を俺から外さず、機械のように白米を口に運ぶ。俺は恐怖で慄いた。なんでこんなことするんだと聞くとあっけらかんとこう答えた。
「できるから」
何の理由にもなっていない。
親友は食べ終わると「あーうまかった!」とニコニコとして家へ帰る。俺はへとへとだ。1時間親友が飯を食っている間、俺は日課のブログ巡りをしたりツイッターチェックをしたりしていたが、見られながら(しかも飯を食われながら)で集中できるわけがない。最終的に諦めて、俺も親友が飯を食っている顔を見ることにした。1時間見つめあいっぱなし。会話は弾むが、山のような白米だけが異質だった。
もしかしたら米がうまいのかもしれない。なにかいい米、いい水を使っているのかも。そう思い一口食べさせてもらったが、普通の味だった。
「お前、おかずとかふりかけとかいらねえのかよ」
「だからお前なんだって」
まるで目で捕食されているような気分だった。俺の身体のうまみのようなものが吸い上げられているんじゃないだろうか。親友の行動はそんなことも考えてしまうほど奇妙だった。
1年が経った。痩せぎすだった親友はみるみるうちに太り、逆に俺は食が細くなり痩せこけてしまった。自分をおかずに飯を食われるというのは、予想以上に食欲が削がれることだったのだ。揚げ物が食べられなくなり、カレーが食べられなくなった。うどんが食べられなくなり、漬物が食べられなくなった。
「大丈夫かよ?」
親友が、相変わらず白米を食べながら聞いてきた。お前のせいだというのに。そう思い顔を上げたとき、ふと懐かしい感覚に襲われた。これは――食欲だ。
でっぷりと栄養を蓄えた身体が、美味しそうに白米を頬張っている。ほかほかと白く光る米粒が、大口に運ばれていく。ごくりと喉が鳴った。
「オレ、――お前をおかずに飯食えるわ」
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