絆ストーリー 「あなたとの一杯」


(溜まっていた事務仕事を終わらせたところで……)
(後ろから足音が聞こえてきた)

「先生、お疲れ様です。」
「今日の分の書類は、これで全部ですね。」

"お疲れ様、カヤ。"

「シャーレに赴任して間もない頃と比べると、先生の仕事も早くなりました。
 連邦生徒会の一員として、これは喜ばしいことです。」
「……生徒の支援要請を受けている間は、すっぱり止まってしまうことに目を瞑れば、ですが。」

"それは、その……ごめんね?"

「……はぁ。」
「別に、怒ったりはしていないのですよ。これが他の役員であれば分かりませんが。
 少なくとも私は、生徒のために動いている先生のことを、大変に好いていますので。」
「ただし、それで無茶をしなければ、という前提が付きますが……!」

"大丈夫、気を付けてるよ。"

「……まあ、そういうことにしておきましょう。お説教をするわけに来たわけでもないですから。」
「ところで先生、これから休憩なさるのですよね?
 もしよろしければ、コーヒーを淹れましょうか? ちょうどその予定だったので。」

"カヤのコーヒーも久しぶりだね。"
"お願いしてもいいかな?"

「分かりました。ちょっと今日は時間が掛かるので、少しお待ちください。」

"それは……コーヒーミル?"

「はい、防衛室から持ってきました。
 いつまでもインスタント品ばかり振る舞うのも、と思いまして。」
「既製品には既製品の良さがありますが、やはり自分で淹れるのは楽しいですから──」

---

(ここからメモロビ演出)
(ミルの中にコーヒー豆を入れる、カラカラと軽快な音)
(白手袋越しにハンドルを回し、ゴリゴリと小気味よい音が響く)

──このように。
──豆を挽く音、立ち上る芳醇な香り、手のひらに伝わる感触。
──どれも、自分の手で淹れるときにしか、得られない感覚です。

──インスタント品に比べると、時間が掛かってしまうのもありますが……
──少し前までは。趣味を楽しむなんて、といった罪悪感があって。
──あの時の私は、どうすれば悪人になれるかしか、考えられなかったので。

──穏やかな気持ちで、ゆっくりと時間を過ごすことができる。
──そんな日が来るなんて、まるで思いもしませんでした。

──実は、連邦生徒会長に振る舞ってあげたこともあるのですよ?
──あの頃とは、豆の好みも、挽き具合の好みも、すっかり変わってしまいましたが。

──あの人は、私の淹れるコーヒーを、また美味しいと言ってくれるのでしょうか。

---

「どうぞ。初めて飲むコーヒーは、ミルクなし砂糖なしのブラックでしたよね?」
「一応置いておきますので、必要であればお使いください。」

"うん、ありがとう。いただきます。"

「…………」

"すっごく美味しい! 今までのと全然違う!"

「それは良かったです。
 正直、かなり久しぶりだったので、腕が落ちていないか心配でした。」

"こんなに美味しいコーヒーなら、毎日でも淹れて欲しいくらいだよ。"

「──ッ!? せ、先生!?」
「……いえ、先生のことですから、他意はないのでしょうけれど。
 あまりそういったことは、他の方に言ってはいけませんよ?」

"う、うん。気を付けるね"

「まったく……」

「……先生。」
「改めて。先生には多大なるご迷惑をお掛けしましたし、これからも掛けてしまうかもしれません。」
「それでも、こうして先生に必要としてもらった以上は。
 先生のためにも、他の生徒のためにも。"シャーレの秘書"として、役目を果たしたいと思っています。」

「ですから、先生。これからもどうか、よろしくお願いしますね。」
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