失せもの、落としもの、拾い物


「…お疲れさん。」
「ありがとうね〜」
ずいぶん遅くなったものだ。
ずいぶんと、早いものだ。
思っても見なかったこと。なんの感慨もわかず、しかしなんとなくわかっていたわけでもなく。感情が追いつく気配も、まるでなく。
月の隠れた空の下で、友人殿に手を振った。

話し相手がいないので、クラスから孤立することが確定した。もともとそんなものだろう。
計画していた公演も、頭数が減ったから組み直しだ。どうせかの歌劇王がなんとかするだろう。
───嫌になることができたら、よほど都合は良かった。これでやけっぱちになってしまえば、心は楽だった。その場は楽だった。
そうはいかなかった。

「そうしたら、僕はどうしようかね…」
「変わりはしないでしょ?それとも寂しくて泣いちゃうかな?」
「いつの話を…というか、先生と泣かないと約束してるので。覚えてるでしょう、貴女は」
「…懐かしいよね、合唱団も」
「急にどうしたんですか」
「最後だろうしさ?思い出語りくらいさせてよ。」
「…わかったよ。」

書類の山は大きくなった。勝手にやっていることだが、正直ちょっとつらい。
自分でやるといったのは僕だ。なら、その言葉には責任を持とう。そう言っても苦しいものは苦しいので。
誰かのせいじゃない。僕のせいでもない、と思いたい。そんなことはないのだろうけれど。

「悔しいな〜。結局、G1は取れなかったよ」
「重賞勝っといて…というわけにも、いかないもんなぁ」
「君は…誰よりも、わかってるよね。きっと」
「もっとわかってそうな方々もいるさ」
「私のこととして、わかるのは。きっと、君だから」
「…僕を買いかぶり過ぎだよ」

6月初週にマルをつけた手帳。放り投げるわけにもいかず、しかもやけに重く感じる。
「大丈夫?抱え込むのは、相変わらずみたいだけど」
かけられた声に、どう返すか悩んで。結局、当たり障りのない言葉になった。
「まあ。どうにか、やっていくさ。僕は、そうするしかないから」
…この期に及んで、期待してしまうのは。僕の良くない、
「…ねぇ」
…あぁ。
「君は。ディーヴァはさ」
そうだね。そうだよな。
「諦めないで。私は───」
ありがとう。

ジムを開ける。1人だが、それは構わない。
「さて、始めようか。」
意味もなく吐き捨てる。
この瞬間を生きる理由は、今できた。
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