慟哭


「おねえちゃん、たすけてくれてありがとう!」

川で溺れかけていた女の子は、私に向かって純粋で、無垢で、澄み切った笑顔で言った

やめて。お願いだから。ありがとうなんて、言わないで。私にそんな事を言ってもらえるような資格なんてない。私はそんな笑顔を向けてもらえるような人間じゃない

情報が正しければ、この近くに呪詛師がいるはずだ。本来の目的を忘れるわけにはいかない

私はそのままふらふらと歩き出した。まるで女の子から逃げるように。目を背けるように



戦いを終えていつも通りに、返り血の付いた手を洗い流す。どれだけ血を落としてうわべを綺麗にしたところで、私の手は汚れたまま

鏡に映る自分を見つめる。お兄ちゃんのお下がりの上着。五条先生が買ってくれたサングラス。パンダくんと買いに行った服。真希さんが譲ってくれた呪具。憂太くんにプレゼントしてもらった帽子。棘くんが託してくれた呪言

私はどこまで馬鹿なんだろう?昔の自分を甘ったるい半端者だと心底嫌悪し、もう既に決別したと思っていた。しかし実際は、こんな風に過去(みんな)の事をいつまでも未練がましく引きずっている

笑えてくる。ああ、なんて滑稽なんだ。私はいつの間にか糸が切れたように笑い出していた。自分は狂ってしまったのだろうか?いっそ本当に狂って、壊れてしまえば楽になれるのだろうか

そんな風に考える自分がまた嫌になった。楽になれる?何をふざけているんだ?お前は許されない。楽になんてなれない。なってはいけない

「……自分が決めたんだ。甘えるな、逃げるな、やり直せるなんて思うな」

声に出した後、今一度私は心に誓う。
多くの人が救われるように、多くの人が笑っていられるように。理想なんて綺麗なものじゃない、汚れきって醜く穢れた、私の呪い(ねがい)を
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