強く、美しく、されど繊細


👹ジェンティルドンナ
🥒アーモンドアイ

「アーモンドアイさん!サインお願いします!」

「俺にもお願いします!」

🥒「勿論。今日は本当にありがとう。思う存分、楽しんで頂戴」

👹「……」

「あれ?あそこにいるのジェンティルドンナじゃね?」

「ホントだ!私達もサイン貰いに行こうよ!」

今日は春の感謝祭。ファン達との交流の機会である。尤も、“強さ”を求める私にとっては関係のない祝祭であるが。

……ましてや私の隣にいる彼女、アーモンドアイさん。史上初の芝G1九勝を成し遂げ、メモリアルヒーローファン投票でも5レースで得票数1位となった、私と同じ顕彰ウマ娘。

そんな彼女がいらっしゃると、“最強”の私すらついで扱い。こんな屈辱、非常に堪え難い。

🥒「……そろそろ午前のサイン会はお終い。みなさん、また午後によろしくね?さ、ジェンティル。行こう?」

👹「ええ。では、ごきげんよう」

「えぇ〜マジかよ」

「でもアーモンドアイさんが言うなら」

「そうそう!待ってあげよ?」

誰も彼もがアーモンドアイ、アーモンドアイ……私には目もくれやしない。虫唾が走る。

そうなる事は私も分かっていた。それでも今日彼女の隣へ並んだのは……

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数日前……

👹「感謝祭のエントランスでサイン会?」

🥒「ティアラ路線を盛り上げてくれた2人なら適任だって、ルドルフがね。要するに招き猫になれってワケ」

👹「……この私が易々と依頼を受けるとでも?」

🥒「知ってる。だから貴女の望みを聞かせて?私も生徒会と交渉するから」

👹「そうね。ならば……」

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👹「必ず彼女を捻り潰し…“最強”を証明する…!」

控室にて勝負服を纏い、私は感情を吐露するように呟いた。そう、感謝祭のメインイベントとして、アーモンドアイさんとの並走を提唱したのだ。

“強さ”こそ絶対的な正義、つまり“最強”こそ神に等しい存在。それは私だと証明する。否、私でなければならない……!

🥒「準備できた?」

👹「!?……戸も叩かないとは、不躾ですこと…」

🥒「私と貴女の仲なのに今更?」

いつも通りの余裕すら見える表情。自分が1番だと言わんばかりの傲慢な笑顔。本当に本当に、憎くて、邪魔で、私の信念すらも踏み躙って……!

🥒「貴女は何故強さを求めるの?」

👹「……は?」

突然の質問。思わず間の抜けた声を上げてしまう。

🥒「単純に自分の力に酔い痴れたいから……なんて貴女にしては余りにも独特すぎるし」

👹「……」

🥒「ホントは……周りの承認に飢えて、満たしたいだけじゃないの?」

👹「おやめなさい!!!」

怒鳴り声を上げ、彼女の衣装を掴む。その勢いは鋭くそして弱々しい。品が無く、臆病にすら見えるのは分かっている。それでも身体が堪えられなかった。

👹「私は貴女より“強い”!それだけではない!この学園にいらっしゃる誰よりも!私こそ“最強”であるのは揺るぎない真実!」

🥒「……」

👹「それでも大衆は私ではなく貴女に期待している!私よりも弱い筈の貴女に!私の正義に、完全なる否定を齎した貴女に!」

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「ヴァイオリンすらまともに弾けないのね。その力加減の余りに」

「あんな子に近づいちゃダメ!怪力、本当に危なっかしい……」

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嗚呼、思い出される。私の存在そのものを罪とする人々の蔑みを。ここで負けたのなら、否、勝ち続けてもいずれはあの頃に戻ってしまうかもしれない。

もはや握る手の感触すら薄れていく。ただ、幼き頃以来流した涙が頬を伝う事だけが分かる。

🥒「もう気は済んだ?……そうは見えないけど」

👹「……」

🥒「でも、次は私の番。ジェンティル、貴女はとても“美しい”わ」

👹「!?」

“美しい”……アーモンドアイさんが何かを賞賛する際に発する言葉だ。幾度も聞いてきた言葉ではあるが、私はそれでも戸惑いを隠せない。ましてや最悪の雰囲気。これは哀れみか、それとも慰めか。

🥒「どのレース場でも等しく輝けるその才能。私がどれほど渇望しても手に入らない唯一無二の力。本当に逞しくて、それでいて“美”が宿っていて……」

👹「無様な私への励ましかしら?」

🥒「お世辞なら私が貴女にここまで執着してると思う?」

👹「……」

言い返せずに再び沈黙が続く。そこで漸く気づいた。取るに足らない筈の出来事を目の当たりにする度に、私が勝手に屈折していったのだろう。私の“強さ”を理解しているアーモンドアイさんは、そんな私を見て……

👹「本当に、意地悪な人」

🥒「え?」

👹「今度は私が意地悪をする番。貴女の持つ“美しさ”、それが取るに足らない事を教えて差し上げますわ」

自然と呼吸が落ち着く。いつも他者に火を放つ時のような闘争心が燃え上がる。

🥒「そう来なくちゃね。貴女は常識も、風潮も、概念も覆す“強さ”を秘めている」

👹「お覚悟はよろしくて?」

🥒「それは私の台詞よ。あ、タックルされる覚悟までは流石にないけど」

👹「そ、それは!」

🥒「ふふっ、冗談よ!そろそろ入場しましょうか」

やはり彼女は気に入らない。それでも先程よりはどこか澄み切った感情のまま、「ええ」と返事をした。

さあ、始めましょう。互いの望みを賭けた、最強にして究極の競走を……!
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