君子と政治家と弟子と


 「成程ねぇ」

本物の金の糸と見間違う程に美しい金色の毛、白磁のように素晴らしい肌、鋭くも整っていてまるでルビーを填められたような目、血のように染まったルージュ、そして彫刻でもそうそうないほどに美しい顔。そんな美女は、とあるカフェテリアのオープンテラスで新聞を読んでいた。

そのとある記事には「妖怪マフィアの初公判、指導者以下6名に死刑判決」と大きく書かれていて、起訴された面々の中には囚人にも見覚えありそうな顔があった。
それを少しだけ見て、次の記事に移ろうとした時――

「ん、"傾城"。それってお前の国の新聞か?」

呼び掛けたのは同じテーブルを囲んでいた男性、ウィルシュ・ファーマー。
新聞に対し、興味が少しはありそうな雰囲気を出している。

「ええ、そうよ。内容は……見せて、読み聞かせた方が早いわね」

そう言い、新聞の特定記事を示しながら内容を軽く読み上げる。
それを聞かされた彼もまた、僅かな興味が薄れたようだ。

「さっきの判決が出た連中の一人、無期懲役の奴の顔。十二次元刑務所で薬師をやっていたな」
「ああ、"白澤"のことね。まあ……アレは、確かに殺人も殺人教唆もすることがない部署ですもの。そりゃあ、そうでしょうに」
「けれど、もう一人の死刑判決を免れたのが終身刑なのも気になるが……」
「……"鸞"ね。アタシのところの女性絡みをやらせてたから。確かに死刑にはならなさそうだけれど……彼女が終身刑で、"白澤"が無期懲役。十中八九、"白澤"の司法取引でしょうね。
奴が最初に捕まったもの」

そうあっけらかんと言い放つ傾城だが、事実に則していた。
A棟看守長エースによって捕縛後、護送された彼は当該場所で全てを自白。対価として終身刑ないし死刑となりうる幾らかの要素をなくしていた。
因みに"傾城"の国での終身刑と無期懲役の違いは、終身刑は何があっても釈放されないのに対し、無期懲役は何らかの理由で仮釈放や釈放があり得るところである。
所謂絶対的無期刑とそうでない無期刑、というものだ。

「……成程、そういうものか」
「ええ、そういうものよ。他の六人は……普通に殺人の命令下してたもの。当然よ」

因みに、"傾城"当人の公判は既に終わっており数千年規模の投獄で罪が確定している。また、年月が年月のため再逮捕は事実上不可能――というところも含めて刑期が決められていた。
これもまた、全貌という情報を求めた司法当局と傾城のやり取りの結果であり、実際傾城当人は部下の情報を出せるだけ出したので、当局の勝利であった。

「成程なぁ、まあ俺には関係無いことだがな」
「そりゃあ、そうでしょうに。貴方にも、エリスにも。関係無いことよ。
アタシと、あっちの司法当局と、彼等の問題。結果はアタシと司法当局が取引してwinwin……って、ところかしら」
「流石の政治力だこと」

そう、大人のやり取りをする側で、まくまくとモーニングセットを食べていた少女が口を開く。

「……先生?」
「ん、何かしら、エリス」

先程までの悪い大人の空気を消して、師の空気を纏う。

「女性絡みって、何?」

――穏和な師が戸惑う女性に変わるまで、その時間は一瞬だった。
お知らせ
実務でも趣味でも役に立つ多機能Webツールサイト【無限ツールズ】で、日常をちょっと便利にしちゃいましょう!
無限ツールズ

 
writening