【閲覧注意】アレクセイ・コノエ×アーサー・トライン


(マリーゴールドの栞がお気に入りのコノエなコノアサ小咄。マリーゴールドの花と葉の配色がアーサーっぽいなぁ!と思いまして。またマリーゴールドの花言葉が『変わらぬ愛』なのもアーサーらしいと思います)


『ピピピ……』
 アラーム音で現実に戻される。戦艦という金属の箱にお似合いの無機質な音を手を振って止め、自宅から持ってきた書籍から顔を上げた。
 気がつけば交代の時間まで20分と迫っていた。もう少しすればトライン副長が報告をしに来るだろう。
 案外面白いな、とひとりごちつつ傍らに置いていた栞を手にする。白地にマリーゴールドの押し花があしらわれた、壮年の男が使うには少し可愛げが過ぎる代物。
 先日オーブにて補給作業をしている間の気分転換として基地内を出歩いていた時に、たまたま開催していたバザールで見かけたものだ。

「『マリーゴールドの花言葉は変わらぬ愛なんですよ』、か」

 書籍関連の品物を取り扱っていた店員はそう言って笑顔を見せた。自分を妻子のいる軍人だと思ったのだろう。
 確かに既にそのような存在が居てもおかしくはない年齢だ。だが実際は自分が相手にとって初めての恋人であるのをいいことに、己の副官に当たる副長であり、14も歳下の青年を自分好みに仕込んでいる悪い男だ。
 来訪を知らせる電子音に顔を上げる。パネルに映し出された通知には『アーサー・トライン』の文字。記憶を反芻している間に交代の時間になっていたらしい。
 とりあえず栞に本来の役割を託し、入室を許可した。


 始まる変わりない平時の報告。短い内容は平和維持部隊としてはありがたいことである。
 よく通る声が滔々と読み上げ、艦長室に波紋する。
 柔らかな緑青色の髪に温かみのある橙色の瞳。押し花になったマリーゴールドのよう。
 もう二度と風にそよぐことはなく、朽ちて土に還ることもできない。綺麗に収められ、ただただ持ち主だけに愛でられる小さな棺の中の可愛い一輪の花。
 栞のように閉じ込められたらどんなに幸せだろう。だが、それでは駄目だとも充分に理解しているつもりだ。
 彼は生きている人間であり、平和の為に奔走する軍人であり、今のコノエの右腕である。
 そして、可愛くて仕方がない最後の番。 

「──以上になります。……どうかしましたか?」
「いや、可愛いなと思ってね」
「は、はぁ……。そうです、ね……?」

 予想外の返答だったのだろう。トライン副長の皮が破れ恋人のアーサーが顔を覗かせる。
 よく分からないがとりあえず肯定するのはこの男の美点であり欠点でもある。自分のことだとは露にも思わずに。

「まぁ君のことなんだが」
「……はぃ?!」

 悲鳴じみた鳴き声と共に仰け反るように一歩下がるアーサーを尻目にコノエはゆっくりと椅子から立ち上がった。
 既に報告は受け取った。後の僅かな時間は逢瀬に使うとしよう。

「さて。アーサー、おいで」

 人は歩き続ける生き物だ。そして停滞とは思考する生き物にとって死への一歩となる。
 アーサーを留めておくつもりはない。
 だが、こうやって手を繋いで歩けばどこまでも共に歩めるだろう。それこそ、最期まで。
 恥ずかしげに、しかしあっさりと腕の中に収まった恋人の襟足に擽ったさを感じながら、コノエはくすりと笑った。
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