地獄へ


12次元刑務所の一角、小さく無機質な部屋で刑務官の男と拘束された1人の囚人が向かい合っていた。
「これでお前の脱獄未遂は3回目だ」
「それが何か」
「先日のB棟囚人殺しも重く見られている」
「女性に暴行しようとしていたので止めたまでです」
「独房行きももう嫌だろう?他の囚人と長らくコミュニケーションも取っていないであろうし…」
「よく抜け出して皆さんの所に会いに行っていますよ」
「…」
刑務官は苛つきをあからさまに顔に出す。
「とにかく、次やらかしたらお前は死罪だ」
「…あぁそうですか」
「あぁそうですか、じゃない。今から強制聴き取りだ」
「くだらねー」
「囚人番号B-00299、肉体の名前は大原日奈、自称・櫻、本名、小」
「その名前はやめてくれませんか」
「…化学的な説明が不可能な力を持つ人間の誘拐、抹殺。何故お前はこんな事をした?」
「もう散々言ったでしょう」
「お前が昔“されたこと”は、異能を持つ者全てを殺そうと思うような理由にはならないだろう」
刑務官の言葉を遮るように何かを貫くような音が響き渡った。鉄製のデスクはスクラップになり、刑務官はぐったりとその場に倒れた。
「我々に宣戦布告するのだな」
「僕はただここから出るだけです」
次の瞬間には四方の壁は瓦礫と化してしまった。軍隊のように武装をした看守達が突撃する。
櫻は上に撃ち上がった。天井を容易く突き破って逃走を図る。
看守達は次々と発砲をする。櫻は影に潜り、弾は壁や天井を破壊するだけであった。
追いかけっこは幾つかの事務仕事に使う部屋を犠牲にして暫くの間続いた。ここまで櫻は一度とて銃弾を身体に受けてはいなかった。そして彼は自身の勝利を予感した。あと何階か上がれば刑務所の外だ。そうしてまた天井を易々と突き破った時…彼の動きは一瞬、ほんの一瞬止まってしまった。
「あ…」
その部屋にあったのは絵であった。高尚なものではない、囚人や看守達を画用紙に描いた、絵。
ほんの刹那にできた隙を無数の弾丸が衝く。
…僕の負けだ。
「でもまだ、だ…地獄の底から這い上がってでも、戻ってきてやる…」
そんなありがちな悪役の捨て台詞を吐いて、櫻は夢見た空から遠ざかるように堕ちていった。
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