(⚪️×📣)


たとえば、あの白くて綺麗な髪とか。

たとえば、あの力強い走りとか。

たとえば、あの堂々とした立ち振る舞いとか。

私にないものを、あの子は全部持っていたように思える。



「______いいなあ」
ぽつり、と言葉が零れ落ちる。

「…あら、何が?」
私より少しだけ大きな白い耳をピンと傾けて、"あの子"は振り返った。



「………ううん、なんでもないよソダシちゃん」
全力疾走した後にもかかわらず、乱れのない髪。顔に光る汗も、ダイヤモンドのように透き通って見えて、こんなに美しい姿を目の前にしては、先ほどまでの嫉妬心すらすぐに消えてしまう。
一瞬黙り込んだ私にソダシちゃんはどう思ったのか。

「______そう」
すぐに興味をなくしたように、再び走り出した。

(………大好きなんだけどね、)
小さい頃からずっと一緒だった幼なじみ。
だけど、走れば走るほどどんどん遠くにいってしまうような気がして、私はなんだか惨めな気分だった。



………きっと、ソダシちゃんはそんなこと気にしていないだろうけど。



🌸🌸🌸🌸🌸🌸




(______ああ、"あの子"がついに勝ったのね)
10月1日、午後16時前。

『______やっと、お姉ちゃんに一歩近づきました』
そう語るのは、私の妹。ついさっきのレースで、GⅠを勝利した。



(______悔いはない)
妹はついにGⅠを勝利した。
私は既に実績はある。
脚の痛みは取れきっていないから、走ることも難しい。
そろそろ、次の世代にバトンを渡す時なのだ。

だから、このターフ上に未練なんてない。



………はずなのに、

妹より後ろでゴールした彼女から、私は目が離せなかった。

(______エール、)
私の幼なじみは、今日も三つ編みを乱して走っていた。一時期の走りと比べると少しだけ大人しくなったような気もするけど、それでも、あの子らしさというか、輝きは衰えてないように思えた。



(………ひとつだけ悔いがあるとすれば)



「………言っておけばよかったかしら」
今日、このターフを去ることを。

そして、彼女のことを。






たとえば、あの可愛らしい顔立ちとか。

たとえば、あの個性的だけど強い走り方とか。

たとえば、あの淑女のような立ち振る舞いとか。

私にないものを、あの子は全部持っていたように思えた。



ねえ、エール。

私、貴女のことが好きよ。

トレーナーさんもサブトレーナーさんも、同期の皆も、ミューチャリー先輩だって大好き。
だけど、昔からずっと、1番好きなのは貴女だけ。



でも、今日私は貴女にナイショでこのターフを去るわ。





「まだ夜じゃないのに月が綺麗ね、エール」
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