メカぐるみ(ホビアニ風)


「ふんふふーん♪」
スレッタは鼻歌交じりにホビーショップへ入店した。ここは地元では有名な模型屋である。様々なキットが豊富に取り揃えられており、スレッタの目当てもここで売られているメカぐるみだった。店内にはさまざまな種類のキットが並び、どれを選ぶか目移りしてしまう。
「うわぁ……どの子にしようかなぁ……」
スレッタは商品棚を見ながら楽しそうに悩んでいる。彼女が探しているのは自分用に作るものであるが、こういったプラモデルを買うのは初めてであり、興奮と緊張で胸がいっぱいだった。 しかし、彼女の気持ちとは裏腹になかなかピンとくるものがない。どれもこれも魅力的な商品ばかりで目移りしてしまう。悩みながら歩いていると、ふとスレッタの目にある商品が飛び込んできた。
「あれ……?これって……」
それはファラクトのパッケージイラストだった。そこには、儚げな雰囲気の少年を素体にして黒い装甲に身を包んだメカぐるみが描かれていた。クールな佇まいや装備した武装、ブラストブースターが翼を広げたようなデザインなど細部まで丁寧に描かれたイラストに目が釘付けになる。そして、素体の少年に既視感を覚えた。
「なんだか、エランさんに似てるような……」
そのイラストの少年にはエランさんの面影があった。しかし、あくまでも似ているだけでイラスト自体にはなんの関係もないことは分かっている。それでもスレッタは一目でこのメカぐるみが気に入ってしまった。
「うん、この子に決めました!」
ファラクトの箱を手に取ってレジに向かうスレッタ。しかし、その近くにあった新発売のキットが目に入り思わず足を止めた。
ファラクトv2のパッケージには、黒い装甲に身を包んだメカぐるみが描かれていた。二挺のビームライフルを装備してブラストブースターから伸びるバーニアが光の翼のようになっているデザインや、ブースターの上部装甲を展開してバックブースターを露出させたファラクトv2の姿など細部まで丁寧に描かれており、とても魅力的だった。そして、ファラクトに似た姿ではあるが素体が違うようだ。
「こっちはなんだかエランくんに似てるような……」
こちらの素体は透き通った雰囲気の少年で、にこりと笑った表情をしている。その笑顔がエランくんそっくりでスレッタは思わず笑みをこぼした。
「なんだか、どっちも欲しくなってきた……」
スレッタは新発売のファラクトv2と先ほど気に入ったファラクトとプラモデル用の道具を持ってレジに向かう。どちらも可愛らしいデザインで思わず笑顔になってしまう。
「ふふっ、今から楽しみ」
スレッタは足早に模型店を後にした。これから組み立てるのが待ち遠しくて仕方がないといった感じだ。その足取りはまるでスキップをするかのような軽やかさで、今にも歌い出しそうな雰囲気だった。そして、その表情はおもちゃを手にした子供のようでとても輝いていた。

自室に戻ったスレッタは早速買ってきたファラクトを開封して組み立て始めた。プラモデルの作り方はよく知らないが、同梱されていた説明書を見ながら進めていく。キットと一緒に買ってきた薄刃ニッパーを使ってゲートを切り落とし、ランナーからパーツを切り離す。説明書を見ながらランナーに刻まれたアルファベットと数字を照らし合わせてパーツを切り離し組み立てる、この作業を繰り返している内に頭から胸、両腕、両足、腰と徐々に形になっていった。パーツを切り離すときはスレッタは緊張でドキドキしていたが、組み上がっていくうちにどんどん楽しくなってきた。そしてついに胴体が完成して頭部が取り付けられたときには思わず感動の声を上げた。
「わぁ……すごい!」
しかし問題が一つあった。フェイスパーツは一種類だけタンポ印刷されていて、他の表情のパーツを作ろうとすると付属の水転写デカールを使わないといけないのだ。
これはスレッタにとって初めての経験であり、うまく貼れるか不安だった。
「えっと……まずは絵柄を確認してから……」
スレッタは付属の説明書を取り出してイラストを確認する。そこには水転写デカールの貼り方や説明が書かれていた。そして水転写デカールを貼り付ける場所も書かれている。
「なるほど……ここに貼ればいいんだ……」
スレッタは慎重に水転写デカールを貼っていく。しかし、初めての作業でなかなかうまくいかない。何度もやり直してようやく納得のいく仕上がりになった。
「ふぅ……できた!」
スレッタは完成した表情パーツを見て達成感を感じる。自分でもここまでできるとは思っていなかったので、ちょっとした感動すら覚えていた。それからも同じような手順で他の表情のパーツも作り上げていった。
スレッタは完成したファラクトを見て思わず微笑む。初めてにしては上出来だと満足していた。ゲート処理はしていないのでゲート跡がちょっとゴツゴツして引っ掛かってしまうけど……。それでも自分の手で作ったプラモデルに愛着が湧いてくるのを感じていた。
「これで完成!やった!」
スレッタは自分のプラモデルの仕上がりを見てとても満足した。それからしばらく眺めた後、早速飾ることを決める。しかし、どこに飾ろうか悩んでしまう。自分の部屋には棚や台などはなく、床に直置きするしかない。しかし、床は散らかっているし、棚を置くスペースもないので飾れる場所がなかった。
「どうしよう……どこに置こうかな……」
スレッタは考え込みながら部屋の中を見渡す。そして、あることを思いついた。それは、机の上に置くことだった。机の上ならスペースもあるし、邪魔にならないだろうと考えたのだ。
「うん!そうしよう!」
スレッタは机の上を片付けてから、ファラクトのプラモデルをそっと置いた。自分が作ったプラモデルが机の上にあり、それを飾っているのはなんだか不思議な気分だった。
「ふふっ♪」
スレッタは完成したプラモデルを見て自然と笑みがこぼれる。初めて自分で作った自分だけのプラモデルだ。愛着を持つのは当然のことだった。
「でももう一つも組み立てないと……うーん、明日やろうかな……」

翌日、スレッタはファラクトv2の組み立てに取り掛かった。こちらも説明書を見ながら進めていくが、まだ初心者なのでパーツを無くさないようにしながら慎重に進めていった。昨日に比べて少し慣れてきたのかスムーズに組み立てることができるようになってきた。
そしてついに胴体が完成し、頭部が取り付けられた。
「できた!」
スレッタは完成したファラクトv2を見て達成感を感じていた。今度はしっかりゲート処理もしたのでゲート跡が引っ掛かることもない。自分の力で作ったプラモデルが輝いて見えるような気がした。
スレッタは完成したファラクトv2と、昨日作ったファラクトを机の上で並べてみた。
「わっ!かっこいい」
机に広がる二機のメカぐるみ。その二つが並んでいる光景はとても壮観で、スレッタは思わず声を上げた。
「写真撮ってエランさんたちに見せてみようかな」
スレッタはスマホを取り出して二つのメカぐるみを撮影した。そして、メッセージアプリを開き写真付きで送信する。するとすぐにエランくんから返信が来た。
『今度の休みに一緒にメカぐるみバトルオンラインやらない?』
スレッタはエランくんからのメッセージを見て思わず笑顔になった。『はいっ!やりたいです!』と返信する。するとすぐに次のメッセージが届いた。『じゃあ、近所のホビーショップでやろうよ』
スレッタは嬉しくなって、スマホの画面に表示された『はい!』という文字を押したのだった。
ファラクトとv2が並ぶ机の上に置かれた二機のメカぐるみを眺めながら、スレッタは休日が来るのを待ち遠しく思っていた。そしてエランくんと一緒に遊ぶのが楽しみだった。

休日になり、スレッタは近くのホビーショップに向かった。そこには既にエランくんとエランさん、ケレスさんが待っていた。
「お待たせしました!」
スレッタがそう言うと、三人は笑顔で迎え入れてくれた。エランさんが言う。
「それじゃあ始めようか」
店内ではメカぐるみバトルオンラインの筐体が稼働しており、多くの人たちがプレイしているようだった。スレッタたちもその中に混じってプレイを開始した。筐体にメカぐるみをセットするとスキャンが始まった。専用のヘッドギアを装着すると、視界いっぱいに仮想現実が広がり没入感が高まる。初めてのログインだったのでユーザーネームとキャラクリを簡単に済ませてゲームを開始した。
スレッタはタヌキのような耳と尻尾を持つ、可愛らしい少女の姿になっていた。エランさんたちは姿があまり変わらず、キツネの耳と尻尾が生えている。
「タヌキ耳可愛いな」
ケレスさんがそう言うと、スレッタは少し照れたようにはにかんだ。
「えへへ……そうですか?」
褒められて顔を赤く染めて照れていると、不意に服の裾をちょいちょいと引っ張られる感覚がして下を向いた。すると、スレッタを見上げているメカぐるみファラクトとファラクトv2がいた。
「え?どうして、動いてるんですか!?」
スレッタが驚いて声を上げると、ケレスさんが答える。
「あれ?言ってなかったっけ?データを読み込んで仮想空間で再現されたメカぐるみは疑似人格が付与されて自立稼働するようになるんだよ」
「知らなかったです……」
スレッタは驚きながらも感心したような声で言った。ファラクトたちはスレッタの周囲をぐるぐると回っている。まるで主人を慕うペットのようだった。
スレッタは驚きつつもファラクトとファラクトv2の前にしゃがみ、それぞれ頭を撫でた。するとファラクトも嬉しそうに目を細めながら頭をすり寄せてくる。その可愛らしい仕草に思わず笑顔になった。
「うわぁ……かわいい……!」
思わず声が漏れてしまうほど可愛かった。スレッタはしばらくの間、二匹のメカぐるみに癒やされたのだった。
ファラクトとファラクトv2がスレッタを気に入ったのか、スレッタの後をついて回るようになった。その様子はまるで親鳥について歩くひな鳥のようであり、周囲のプレイヤーからは微笑ましい目で見られていた。
「あはは……なんか懐かれちゃいました」
スレッタは困ったように笑いながらもどこか嬉しそうだ。
「スレッタ、その子たちはバトルもするからあまり甘やかさない方がいいよ」
エランさんはそう言いながらもどこか優しい目で二匹を見つめていた。あとの二人も同じくだ。
「でも、可愛いですね!」
スレッタがそう言うと、エランさんたちは同意するように頷く。それから、改めて周囲を見回してみるとここは色んなプレイヤーが行き交う広い空間になっているようだ。
「ここどこなんですか?」
スレッタが尋ねると、エランくんが答える。
「ここはロビーだよ。ここでミッションを受けたりショップを見たりするんだ」
「へぇー……すごい!」
スレッタは目を輝かせて周りを見る。たくさんの人が行き交っており、様々な施設があるようだ。
「スレッタ、ミッション受けてみる?」
エランさんがそう尋ねるとスレッタは元気よく返事をした。
「はい!」
三人はスレッタを連れてミッションを受けに行くことにした。受付でミッションを受注すると、ゲートが開いて目的地に転送された。そこは一面花畑が広がる美しい場所だった。
「うわぁ……綺麗……」
思わずため息が出てしまうほどの美しさに見惚れてしまう。色とりどりの花々が咲き乱れていて、風にそよいでは花びらを散らしている様子はまるで絵画のようだった。
「ミッションは銀色の珍しい花を採集すればクリアだよ」
エランくんがそう言うとスレッタは元気よく返事をした。
「はい!頑張ります!」
スレッタたちは花畑の中に入っていく。美しい花々が咲き乱れる光景はまさに天国のようで、見ているだけで心が洗われるような気がした。
「あ!ありました!」
しばらく進んだところでスレッタが声を上げる。それは銀色に光り輝く花弁を持った小さな花だった。不思議な雰囲気を漂わせているその花はスレッタの興味を引いたようだ。エランさんが言う。
「それが銀色の珍しい花みたいだね」
スレッタはミッション達成のためにその花を摘んで持って帰ることにした。しかし、採取したら突然襲いかかってきた。
「わっ!動いてる!?」
驚いたスレッタは腰を抜かして尻もちをついてしまった。二匹のファラクトがスレッタを守るように前に立った。
「だ、大丈夫なの?」
スレッタは不安げに尋ねた。スレッタがそう言うと、二匹は得意げな表情で振り返った。その様子はまるで自分が守るのは当たり前だと言っているようだ。二匹はスレッタを守るように戦闘態勢を取ると銀色の花に向かって武器を構えた。花の方も鋭い針のようなツタを伸ばし迎撃態勢を取った。
「わわっ!ちょっと、危ないよ!」
スレッタは慌てふためきながら二匹を止めようとするが、ケレスさんがそれを止める。
「まあ見てなって。余裕があれば指示も出してやればいい」
ファラクトはビームアルケビュースで銀色の花に射撃攻撃を行う。しかし、銀色の花は素早い動きで攻撃を躱すと反撃してきた。鋭いツタが伸びて襲い掛かってくる。ファラクトはそれを避けながら前腕部に仕込まれたビームサーベルを抜刀した。そしてそのまま斬りつける。銀色の花はダメージを受けて怯むと、今度はスレッタに向かって触手を伸ばしてきた!
「ひっ!」
思わず悲鳴を上げるスレッタだったが、ファラクトv2がビームカリヴァで触手を撃ち落とした。さらにファラクトv2が二挺のビームカリヴァを合体させてビームマスケットにして高火力の射撃で追撃を加えると、銀色の花は動かなくなってしまった。
「か、勝った……のかな?」
スレッタは恐る恐る近づいてみる。銀色の花は力尽きたように力を失っており、そのまま動かなくなってしまった。スレッタはホッと胸を撫で下ろすと二匹にお礼を言った。
「ありがとう!すごいね!」
すると、ファラクトたちも嬉しそうに鳴き声を上げる。スレッタはその様子を見て思わず笑みがこぼれてしまった。
その後、スレッタたちは銀色の花を採取しミッションをクリアすることができた。報酬を受け取った後、ロビーに戻ってきた。
スレッタがロビーのソファに座って休憩しているとエランくんが話しかけてきた。
「スレッタ、お疲れ様」
スレッタは笑顔で応える。すると、ケレスさんとエランさんも隣に座ってきた。
「初めてのミッション、怖くなかった?」
エランくんがそう聞くとスレッタは首を振った。
「ちょっと怖かったですけど……でも、この子たちと一緒なら大丈夫です」
そう言ってスレッタは二匹のファラクトとファラクトv2を抱き寄せる。すると、エランくんは優しい微笑みを浮かべて言った。
「そっか、それなら良かったよ」
「はい!」
スレッタも笑顔で答える。しばらく談笑しているとあっという間に時間が過ぎていった。そろそろ帰らないと門限に間に合わない時間になっていたため、帰ることにした。
帰り道でエランさんがスレッタに話しかけた。
「また、やってみたい?」
スレッタは少し考えた後、笑顔で答えた。夕日に照らされる帰り道。その笑顔はとても輝いていた。
「はい!」
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