だとしてもそれは__


あの日、私は自分の娘を抱いてやることができなかった。

しばらくの兵役から戻った私を迎えた妻の腕に抱かれた幼子、母親の遺伝である銀とも薄い紫とも受け取れる美しい髪が度重なる対ゲリラの戦いで疲弊した私の心を癒してくれた。
しかし__いや、だからこそ私はあの子を、アズサを抱きかかえることができなかった。血濡れた手で純粋なあの子を、希望を汚してしまう、その幻覚にとらわれて。

そしてその選択を、私は一生後悔することになる。



教職につき平和な生活を送っていたある日、アズサは連れ去られた。妻が目を離した瞬間の出来事だった。赤子だった彼女は10年以上経っても見つからず、妻は失意の末に命を絶った。

私もまた失意と虚しさを胸に亡霊のように生きていた。その隙間を埋めるように、あの子にしてあげられなかったことを生徒たちにするようにして……そんなある日、彼女と出会い、私はキヴォトスへと招待された。

かつての兵役経験を超える数の弾丸が飛び交い、その中で青春を送る生徒たちのために身を粉にして働いてきた。

そして今、私の前に一人の生徒が立っていた。

「? どうした、先生?」

銀とも薄い紫とも受け取れる特徴的な美しい髪、見間違えるはずがない。

この子は、あの日抱くことができなかった__

"アズサ……"
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