ホワイトデーのお返しに意味を持たせた奴を本気で恨んだ。


3月14日、ホワイトデー。
トレーナーさんからバレンタインのお返しと、あたしの頭くらいある大きさの包みを貰った。
寮に帰ってから包みを剥がすと、色とりどりのキャンディが入ったガラス瓶が姿を見せた。

「わぁ、綺麗ですねー!ソレどうしたんですか?」

部屋着に着替えたパーマーが横から覗いて尋ねてくる。
あたしは誤魔化さずにトレーナーさんからバレンタインのお返しで貰ったと伝えると、パーマーはビックリした後、神妙な面持ちであたしと瓶を見比べだした。

「なんだよ、何か言いたそうな顔して…」
「いや、どこの誰が決めたのか分からないんですがね?バレンタインのお返しで送る物には意味があって、キャンディは『あなたが好きです』って意味があるらしいですよ?」
「ほーん……………………………はあ!?」

パーマーの言葉の意味を理解した瞬間、あたしの体温は爆上がりして、耳と尻尾の毛が逆立った。

「まぁ販売商法で広まったやつかもしれないんで!あまり本気にしなくていいかと!」 
「そそそそうだよな!トレーナーさんいい大人だし学生相手にそんな事する訳ないよな!」

パーマーの弁解に賛同してその場は笑ったけど、その日の夜、あたしはパーマーの言った事が頭から離れなくて中々寝付けず、寝転んだ状態で、カーテンの隙間から溢れる月明かりに照らされた、机の上に置いたキャンディの瓶を見つめていた。


〜〜〜⏰〜〜〜


まだ日が昇っていない時刻、結局一睡も出来ないまま畑を見に行くと、既にトレーナーさんが土を弄っていた。

「あ、おはようエース!」
「ゔっ」

トレーナーさんの笑顔を見ただけで昨日のことを思い出し、顔が熱くなる。

「どうした?顔赤いし…それに隈も出来てる、昨日は眠れなかった?」
「あ……あああその…考え事してて…」
「眠れなくなる程深刻な事なら、相談に乗るよ?」
「いや!!トレーナーさんには関係(あるけど)ないし!!大したことじゃねぇから!!」
「………そうか?けど無理はしないでよ?」
「おう!心配させて悪かったな!」

なんとか誤魔化し作業を始めようと畑の前でしゃがんだ時、トレーナーさんが「あっ」と声を出す。

「昨日渡したバレンタインのお返し、中身見てくれた?」
「へ!?」

口から心臓が飛び出すんじゃないかと思った。
あたしは思わず「まだ見てない」と答えてしまう。
するとトレーナーさんはあたしに近付いてきて、隣にしゃがんで、神妙な面持ちであたしを見てきた。

「………あえて言わなかったんだけど」
「え?」
「エースにあげたヤツはね……」
「え?え?え?」

昨日のパーマーの言葉を思い出し、あたしの心臓の動きが早まる。
もし、本当にトレーナーさんが、あたしの事が好きなんだとしたら、あたしは………。

「エースにあげたヤツはね…………



にんじん味のキャンディが混ざってるんだ!」
「…………………あ?」
「何あげようかネットを見てたら偶然見つけたんだよ、老舗の飴屋さんが作ってるフルーツキャンディで、少量だけどウマ娘向けに作ったにんじん味が入ってるんだって!本当はにんじん味のキャンディだけのをあげたかったんだけど売り切れててさ、けど、色んな味のキャンディが入ってる方がエースは喜ぶんじゃないかって思って!」
「………………」

目を輝かせながら熱弁するトレーナーさんを他所に、あたしは脳みそがスーっと冷えて冷静になっていった。

「エース?なんか目が死んだ魚みたいになってるけど…やっぱり体調悪い?」
「………うん……ちょっと駄目かもしんない……あたしの自業自得なんだけど……」
「なら今日は帰って休んだ方がいいよ、担任の先生には俺が連絡しておくから」
「ごめん頼む……じゃあ……」
「明日も無理そうなら連絡くれなー」

あたしはあたしを心配してくれるトレーナーさんに背を向けながら手だけを振り、正門を出たところで寮まで走り、部屋に戻って布団の中に滑り込んで、恥ずかしさと自己嫌悪で一日中布団の中でのたうち回った。


終わり
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