首絞め…


情欲に潤み、蕩けた瞳が俺を見上げる。軽く頭を反らした正雪が白い喉を晒した。
「っ…………」
誘われている。
いつからか、正雪は情を交わしている最中に首を絞めるよう強請るようになった。

確かはじめは、頬を撫でた手を首へ導かれての事だった。理由はわからない。
ただ、あのとき情交の熱に浮かされて、壊してと囁く彼女には抗いがたいものがあったのだ。——受け入れたのは俺自身ではあるが。
それでも本当には「壊して」しまわないよう、相当に加減をして、首に添えた手に力を込めた。
これが気に入ったのか、以来、正雪はたびたび求めるようになったのだった。

胎の奥を突かれながら、幼い口調で途切れ途切れに紡ぎだす。
「おね、がいだ、伊織殿っ………」
「壊して……、私、わたしを…」

「…正雪」
言葉の綾なのか、それとも。いずれにせよ譫言のような求めだが、此度も応えるほかはないと感じる。
長い髪を除け、汗ばんだその細い首に指を巻きつけた。
途端、ぞくりとしたものが背筋に走る。
——本当に壊したとしたら?
このまま折れんばかりに絞め上げて、本能で抵抗するだろう手足にいくらか肌を傷つけられながら、動かなくなるまで。
人形のように冷たい肢体が目の前に投げ出されている光景がよぎる。
毎度のそれを振り切るように、は、と息を吐いた。
加減はしているし、一度に絞めるのはせいぜい十数えるほどの間でしかない。
それでも生命に迫る危機を感じたか正雪の体は強ばり、挿れたままの中がさらに狭くなる。

「好いのか、正雪」
手を離し、訊ねてみるも言葉での答えはない。
頭への血の巡りが悪くなり、ぼうっとしているのだろう。
ただひとつ、小さく頷くのが見えた。
「はは…………」
遣る瀬無いような笑いが洩れる。きついそこを穿ちながら、もう一度首も絞めてやる。

「ぁく、っ…………」
はくはくと、何事か訴えるように正雪は口を動かした。
つね理知的な青い瞳も細められて、歓びのみを湛えている。絶頂が近いのだろう。
俺の腰を抱え込むように脚を絡めてくる彼女を、本当であればいま抱きしめたいと思う。
口付けをして、髪を撫で、穏やかな交わりを持てれば。
こうして命に指をかけながら、死に姿を想像するよりも。

「………………っ!ぁ………ぁ———………!」
「ぐ、っ…………」

熱い膣内が痙攣するように蠢き、背が仰け反る。
正雪が達するのとほぼ同時に、最奥に吐精した。

その翌朝。目を覚ますと、昨日の乱れた姿のままの正雪が隣で眠っている。
白い首に目をやれば、うっすらと浮かんだ赤い痕が目に入り、腹の中に重たいものを感じる。
——請われたにせよ、正しい行いとは到底言えまい。
だが。俺はその望みに、また応えてしまうのだろう。
(正雪。おまえにしてやれる事は…)

その心が救われることを、ただ祈るほかない。
柔らかな髪を撫でれば、眠りながら彼女がかすかに微笑を浮かべた。
お知らせ
実務でも趣味でも役に立つ多機能Webツールサイト【無限ツールズ】で、日常をちょっと便利にしちゃいましょう!
無限ツールズ

 
writening