双月~クラィムタウン~


此方は他作『-守るもの、守りたいもの-』からの続編ですが
話のキーとしては別々に捉えていただければ幸いです。
『-守るもの、守りたいもの-』を知っていればより一層楽しめるかと思います。

♂ハルバード・ビジェット
まだまだ未熟な警察官。
だがその芯のある性格は亡きガッティズ譲り。

♀ユーリ・テルマ
連続殺人鬼の犯人。元整形外科
元患者とのトラブルを境に人格が生まれた。

♂テイラー・マイケット+絡み(モブ)
亡きガッティズと飲仲だった男。
少し横暴な性格

♀マリリア・ブラウス+N
ビジェット達が出会った被害者の女性。

♂ヴァレンタイン
ヴィンターロッツイで夜はバーを営む人物(表)
裏では情報屋。




ビジェット:
ユーリ:
テイラー・絡み:
マリリア・N:
ヴァレンタイン:

3:2
────────────────────────────────────

ヴァレンタイン:平和こそ人生の基本。
        そんな夢見ごとを愚かと打ち消すかのような街がある。
        「ヴィンターロッツイ」。年中季節問わず夜になれば濃霧が包むこの街には
        不思議とゴロツキばかりが集まる。だれかが呼ぶわけではない
        皆自然とこの街に惹かれ訪れ、そして身を置く。この街で一生を送る気なら
        死神に心の臓を握られている最高の気分が味わえるはずよ
        そしてまたこの街に人の悲鳴が鳴り響く。

ヴァレンタイン:月は九月を巡り血の気の盛んな人達が練り歩く
        発見されたすべての遺体には手術跡があった。
        たんに身元確認の遅れを狙っているわけではない。
        皆美しくひとつの作品のように彩られている。────整形。
        被害者の遺体は整形されている。

ビジェット:悪趣味極まりないな。

ヴァレンタイン:彼は今年の四月にこの街の警察署へと着任した
        まだこの街の穢れのケの字も知らないルーキー
        でも着任して間もない頃に直属の上司を亡くす経験をしている。
        可哀想でしょう?でもこの街ではそれが普通になってしまっているの
        己の身は己で守れ。いつ影から自分の首を斬られるか分かったもんじゃない。
        これを不幸と思うか自身の名を上げる好機と見るかは....その人次第。

ビジェット:もう被害者の数は十を超えた。
      しかし現場周辺を洗ってもその犯人を目撃した者すらでない
      いくら路地だろうと一人も目にしていないのはおかしい....
      もしかしたら組織犯の可能性もあるな....よし、また周辺聞き込みでもしてみるか
      ─────っとすまない!

テイラー:あ?んーお前初めて見るな新人か?

ビジェット:え?は、はい。ハルバード・ビジェットです。貴方は....?

テイラー:俺は別の署から短期異動してきたテイラー・マイケットってんだ、よろしくな。
     んでよ、この事件の担当官になったんだがどこの会議室にいけばいいんだ?

ビジェット:「連続異形殺人事件」....って僕のところですよ!

テイラー:なんだお前の所か。
     んで事件担当配員は今何名いるんだ?

ビジェット:僕以外ですとあと
      マイケル・ウィザース
      ベルナドット・スワッチャー
      ドクト・ベイカー
      エミル・グラトラの四人です。

テイラー:そうかい、んじゃお前以外は作戦から除名しとけ。

ビジェット:え?えと....え?

テイラー:この事件は俺とお前だけで片つけるっつーんだよ
     こんなショボイ事件に五ヶ月も有すとはこの署も落ちぶれたもんだな
     ガッティズの野郎は....そうかアイツは墓の中でおねんねしてんだっけか

ビジェット:....。

テイラー:ビジェットと言ったな
     どこかで聞いた名だと思ったら、お前ガッティズの野郎と一緒に事件にあたってた新人じゃねーか?

ビジェット:....はい。ガッティズ警部は僕が初めて事件捜査員に配属された時の担当官でした。

テイラー:俺も奴とは酒飲の仲でな、所轄は違うがよくこの街について語ったもんだ。
     正解の無ェ答案用紙をじーっとにらみつけるようにな。

ビジェット:....。

テイラー:すまんすまん、暗い話をしたいわけじゃあねぇんだ。
     ちぃとばかし付き合えるか?それともデートの予定が?

ビジェット:いえそんな。どちらへ?

テイラー:調査の事と知り合いにちょっと顔を見せるのさ。
     久々にこの街の臭ぇ空気を満喫したい

ビジェット:?


テイラー:此処だ。

ビジェット:これは....コーヒーショップですか?

テイラー:あぁ。入るぞ

ビジェット:はいっ

テイラー:....おうマスター、ベッピンさんは居るかい?

N:そういうとマスターと言われた無愛想な男は浅く頷く。
 その反応を見たテイラーはお金のようなものを隠すように渡した。
 マスターはテーブル奥の壁と一体化しているドアをあける。

テイラー:よーし行くぞ新人

ビジェット:えっここで注文するんじゃ?

テイラー:いいから来るんだよ。....っと居た居た。よぉ

ヴァレンタイン:あら、煩い足音が聞こえてきたと思ったら貴方なの
        ....その靴の良い趣味はご健在のようね

テイラー:顔合わすなりトゲトゲすんなよベッピンさん。
     久々に来たもんで挨拶をと思ってな

ヴァレンタイン:挨拶?貴方がそこまで気を使える人だとは驚きよ。
        でも本当に久しぶりね。元気そうでなにより

テイラー:へへ....んでこっちのは....

ヴァレンタイン:あら貴方随分と大きな息子さんがいたのね

テイラー:チッチッチ、こいつは仕事の部下だ。名前は

ヴァレンタイン:知ってるわよ。
        私の大事な友人の死を間近で見た人だもの

テイラー:客を友人とは、情でもあったのか?

ヴァレンタイン:いいえ、良い人だったってだけよ。
        どうもよろしくねビジェット巡査。私はリサータ。リサータ・ジュエリー

テイラー:それは裏の名前だろうが。

ヴァレンタイン:当たり前よ、信用できる人かも分からない人に表名を教えるなんて馬鹿まるだしよ。

ビジェット:よろしくお願いしますリサータ....さん?

ヴァレンタイン:ふふ、私は男でも女でもないの。

テイラー:オカマちゃんだ。

ヴァレンタイン:ちょっと!言い方ってものがあるでしょう?
        私は性別なんてあってもなくても同じものだと思ってるの
        無いほうが生きやすいわ。

ビジェット:....ここは裏場(ウラバ)ですか?

ヴァレンタイン:そう。私は情報屋。
        警察だろうがマフィアだろうが殺人犯だろうがお金さえ落としてくれれば私の口は安いものよ。

ビジェット:貴方は自分のその行いでもし犯罪が行われていようと何も思わないのですか?

ヴァレンタイン:思うわよ?せっかく上物の物を流してあげたのに雑に仕上げて、あっけなく捕まっちゃう子がいたら
        ....腹が立つわ。

ビジェット:....

テイラー:ビジェット、コイツは気まぐれなのさ。使いようによっちゃ最高の薬にもなるし最悪の毒にもなる。
     あくまでフェアな立場にいるってだけだ。

ヴァレンタイン:ふふ

ビジェット:それで....テイラーさんはこの方に会ってどうしようと言うのですか

テイラー:リサータ、この事件の犯人を知っているか?って聞くのは野暮だろうが

ヴァレンタイン:....ええ。私の上等のお客様よ。

テイラー:てことは....

ヴァレンタイン:私はその人から貰ったお金の分だけは口が堅いわ。

テイラー:ちっ....まさかお前を使ってる犯人だとはな....
     いくらでその口は開くんだ?

ビジェット:テイラーさん!そんな奴を使うだなんて!

ヴァレンタイン:そんな奴ってひどいわね。
        そうね....貴方の五十年分くらいの年収かしら

テイラー:随分と相手の財布は大きいんだな

ヴァレンタイン:ふふ....どうする?
        ローンは利かないわよ?キャッシュで即金が鉄則。

テイラー:....自力でやってみるか、だがお前を使ってるとなるとこりゃ手間取るぞ

ヴァレンタイン:ありがとう。

テイラー:この死神め

ヴァレンタイン:それも褒め言葉としてもらっておくわ、それよりいいの?
        ビジェット巡査は出たわよ?

テイラー:あ?おっと....─────おい!ビジェット!待てって!

ビジェット:テイラーさん、僕は貴方を見損ないました。
      あんな奴を利用するだなんてそこらのゴロツキと変わらないですよ!

テイラー:テメェは相手が戦車で向かってくるってのに
     チャチな鉄砲一丁構えて正面からぶちかませると思ってるのか?

ビジェット:例えそうでもあんな奴と....

テイラー:どっちにしろリサータは使えない。俺たちの手でやんねぇといけねぇってことだ。
     すまねぇな、仕事が終わったら飯にしよう。今日はご馳走してやるよ。

ビジェット:いいです。家に帰れば昨日の残りがあるので

テイラー:ガッティズの話もつけてやるよ。

ビジェット:....はぁ....卑怯ですね。

テイラー:よく言われる。


テイラー:よし、行くか?

ビジェット:あの....本当に除名しちゃっていいんですか?
      彼等皆あっけらかんとしていましたけど....

テイラー:良いんだよ。さぁいくぞー


N:夜が訪れ酒に酔い賑わいだす飲食街。
 初めて会った者同士話は尽きずカラのジョッキが列をつくった。
 店員からそろそろ帰れと言わんばかりの接客にテイラー達は席を立つ。


ビジェット:今日はご馳走様でした。

テイラー:いいってことよ、これで機嫌良くなってくれたら万々歳だ。

ビジェット:おかげでガッティズ警部は本当に凄い方だったと再認識できました。

テイラー:まだまだ話はあるが、今夜はもう遅いからここら辺でお開きだな。
     へんな売り子に絡まれるんじゃねぇぞ?

ビジェット:分かってます。今日は本当にありが─────

マリリア:キャ──────!!

テイラー&ビジェット:!

テイラー:うひひひひ!こんな時間に悲鳴とは初日からツイてるか!?

ビジェット:何言ってるんですか!早く行きますよ!!

テイラー:もっと楽しもうぜ!この街に事件が起きる時、血が流れないってことはねぇ!

ビジェット:不謹慎ですっ────ここです。

テイラー:待て、複数犯かもしれん。様子を見るぞ....

ビジェット:はい....

マリリア:ぁ....ぁぁあ

ユーリ:はぁぁ....貴方とても醜い....私が綺麗にしてあげ───誰?

ビジェット:動くな!警察だ!お前を暴行致傷の現行犯で逮捕する!

テイラー:馬鹿野郎!ッチ!動くな!....単独か?

ユーリ:....残念。邪魔が入っちゃったわ....またねお嬢さん。

マリリア:ぁぁ"ぁ"....ぁ"ぁ"....

ビジェット:待てッ!!

テイラー:お前が待てビジェット!無闇に突っ込むと死ぬぞ!

ビジェット:くっ....そのお嬢さんは?

テイラー:なぁに口を少し切っただけだ。
     ....っ!お嬢さん大丈夫か?

マリリア:わしゃし....ふえ!?ふぁに!?
     わしゃしのふぉえ....
     (私....え!?何!?私の声....)

テイラー:口の両端を切られてら....これじゃバットマンのジョーカーだな。

ビジェット:何言ってるんですかすぐ病院に!

テイラー:分かってる、警察署横の病院に連れて行く。
     お前はいい、帰れ。あとは俺が処理する。

ビジェット:でも....。

テイラー:お前は明日署に来たら病院へそのまま来い。
     その時この人に事情聴取する。いいな

ビジェット:....はい。

テイラー:歩けっかお嬢さん?

マリリア:ふぁい....


ビジェット:....大丈夫だろうか、やはり一旦僕も病院に....
      いや、行った所で何もできはしない....
      犯人を追いかけたい気持ちはあるが僕一人じゃ絶対に無理だ....
      しかたない家で少し飲み直すか........ん?

絡み:なぁちぃーっとで良いからよ、その柔らけぇモンを見せてくれや
   見せてくれたら俺のも見せるからよ、なぁ?

ユーリ:止めて....!

ビジェット:ホント、この街は楽しませてくれるな。

絡み:あ?なんだテメェ、この女は俺が目ぇかけたんだ他所へ行けやボウズ

ビジェット:ヴィンターロッツィ署の警官だが少し目に余ると思ってね
      ほら警察手帳、みえる?

絡み:警察がどうした?そんなモンでこの街の連中が黙り込むと思ってんのかァ!?

ビジェット:もちろん思っていません。
      新人ですがこの街の愚劣さは着任当初から知っています。
      だから────

絡み:のぁ!?

ビジェット:武術で相手を制圧させる。この方がこの街らしくいいでしょう?

絡み:テメェ....!

ビジェット:まだごねますか?
      腕の骨を砕くのは結構簡単なんですよ?試してみますか?

絡み:分かった!もういい!分かったから止めてくれ!

ビジェット:....消えろ。

絡み:ヒィィ!

ビジェット:....突然すみません。大丈夫でしたか?

ユーリ:え、えぇ....あなた強いのね?

ビジェット:そんな、素人相手となればそれなりに強くなくとも組み伏せますよ。
      またここにいたら絡まれます。送りましょう。

ユーリ:ええ。....若いのに頑張ってるのね

ビジェット:若いからこそです。
      年老いた上官達は口を動かすのがやっとのようで

ユーリ:ふふ、貴方の口も中々よ?

ビジェット:この街では若い警察官がよく亡くなります。
      言いたいことも言えずに土に篭るのは勘弁ですから

ユーリ:それもそうね、ねぇ少し飲んでく?仕事終わりなんでしょう?

ビジェット:正直、飲み直しをと思ったときに貴女と会ったので....

ユーリ:良かった。ここ、お勧めなの

ビジェット:ここ....って

ビジェットM:昼間にテイラーさんと来た裏場のコーヒーショップ....だよな?

ユーリ:昼はコーヒーショップなんだけど、夜は少し風変わりなバーになるの。

ビジェット:はぁ....あのマスターがやってるのか?

ヴァレンタイン:あら、こんな夜更けに来客、しかも顔なじみが二人も。

ビジェット:貴方とはまだ二回目なので顔馴染みではないですよ....
      夜は貴方が店主なんですね

ユーリ:ん、顔見知りだったのママ?

ヴァレンタイン:ママって言わないの、そうね、犬猿の仲に近いかしら?
        私は仲良くする気なのだけれど?

ビジェット:貴女はこの人の事を知っているんですか?

ヴァレンタイン:よく来てくれるお客さん。
        とだけ、警察官といえど一般市民の個人情報は教えられないわ

ビジェット:別にそこまでいってません。(小声)裏場の事を知ってるのかどうかです。

ヴァレンタイン:さぁ?それも個人情報の内よ。それより何か飲む?

ユーリ:私はグラターナ。

ヴァレンタイン:いつものね。もうボトルを置けばいいのに....

ユーリ:既製品よりママの手が加わったオリジナルが好きなの。

ヴァレンタイン:あらうれしい、でもママと言わないの

ビジェット:僕は────

ヴァレンタイン:〝アクラテ”....でしょう?

ビジェット:!

ヴァレンタイン:亡き上司の好物を飲む事はあまりお勧めしないわ。
        でも、そうね。飲んでみる?

ビジェット:全て予想通りですか

ヴァレンタイン:さぁ?....はいどうぞお二人さん。
        ところで何故二人が一緒なのか疑問なのだけれど?
        職務を終わらせてからナンパでもしたのかしら?

ビジェット:僕はそんな下種な行為はしません。
      彼女が悪童に絡まれていたのを助けただけです。

ヴァレンタイン:それでお酒の店へと連れ込むの?中々早いわね

ビジェット:ちょっと!僕はそんなことしません。
      僕は「誘われた」側です。

ヴァレンタイン:へぇ....ユーリちゃんが誘うだなんて意外ね。

ユーリ:彼凄いの、私達より背の高い男を組み伏せちゃったのよ。

ヴァレンタイン:この街でやっていくのならそれが普通よ。
        見かけどおりヒョロヒョロじゃ一週間ももつか分からないわ
        でもユーリちゃんを助けてくれてありがとうね

ビジェット:仕事の時間以外も街の治安を守るのは当然です。

ユーリ・ヴァレンタイン:ふふ....

ビジェット:何か?

ユーリ:この街の治安を守るのは無理、理想は高くて結構だけれど
    あまり口に出していると笑われちゃうわよ?

ビジェット:僕は本気です。知っていますか?
      この街は他の街から揶揄され「不の街」(クラィムタウン)と呼ばれているんですよ。
      同僚から聞いた話ですけど....

ヴァレンタイン:平和で呆けている何もアクションの起こらない街よりマシよ。
        この街では皆一人一人が自身の保護を優先する。
        人間の本能である交友行動(コミュニケーション)を捨て
        一分一秒を緊張し生きている。
        この店にいつ暴徒が現れても不思議じゃない中
        そのお酒を飲んでいる貴方も、もうこの街に染まってるのよ。
        ....亡き上司が愛飲していたお酒のお味はどう?

ビジェット:....クセが強くありませんか?

ヴァレンタイン:それが普通の人の感想なの 
        でも彼はそれが好きでそれのためだけに
        大事な書類を放ってこの店に足を運んできたものよ。

ビジェット:....。

ヴァレンタイン:安酒ではあるけれど大事な思い出のお酒....
        だから人気が無くても置いてるの

ビジェット:リサータさんあなたは本当はガッティズ警部の事が....

ヴァレンタイン:さぁね、でもそうだとしても当の本人は御眠なのよ?
        悲しい事を口にしたところで自問自答でおしまい。
        なら先のある未来を見据えるだけよ。

ビジェット:....。僕、リサータさんを悪く思ってました。
      人の心を持たない方だと....

ヴァレンタイン:ふふ、皆そうよ。
        でもね、その心は決して失くしちゃいけない、人をどう思うかは自由だけど
        疑うことも礼儀なの。

ビジェット:はい。肝に銘じておきます。お酒ご馳走様です。
      僕はそろそろ────

ユーリ:あっじゃあ私が出すわ、誘ったのは私だから

ビジェット:いえ、そんな悪いです。

ユーリ:ううん、私が───

ヴァレンタイン:もう、店主の前で金をどちらが出すかなんて見せないで頂戴。
        今日はそこの坊やと和解できた記念として無償でいいわよ。

ビジェット:そんな!僕は─────

ヴァレンタイン:そんなことよりも
        閉店しようとした矢先に貴方達が来たから営業時間とっくに終わってるのだけれど?

ビジェット:ですが....

ヴァレンタイン:次回来た時に売り上げに貢献してくれたらそれでいいわよ。
        そもそもアクラテなんて儲けにもなりゃしないんだから。さぁ帰んなさい。
        ユーリちゃん、ちゃんと送ってもらいなさい。

ユーリ:うん。ありがとうママ

ヴァレンタイン:ママはやめて。


N:二人はリサータに見送られ店を後にする。。
 先程まで道が鮮明だったが数十分もしないうちに霧が街を覆っていた。
 ビジェットはユーリを家まで送る。


ユーリ:送ってくれてありがとう。

ビジェット:いえ、あの、これは良かったらなんですが....
      誘ってくれたお礼として今度料理をふるまえたらなって

ユーリ:本当!うれしい。是非ご賞味預かりたいわ。

ビジェット:はは、よかった。では僕はこれで───

ユーリ:待って。

ビジェット:え───....!(頬にキスをされる)

ユーリ:今日助けてくれたお礼。助けてくれてありがとう。ふふ....おやすみなさい!

ビジェット:............まいったなぁ....


N:次の日、警察署に着き制服へと着替えテイラーが待つ警察署横の病院へと向かう。


テイラー:おう、ボウズ遅いじゃねぇか

ビジェット:すみません....少し二日酔い気味で....

テイラー:あ?うっお前酒くせぇぞ!オレと昨日分かれた後飲んだのか?

ビジェット:えぇ....ちょっと口直しに

テイラー:はぁ....まぁいい。
     結論からいうと昨日の女は無事だ、手術でどうにかなるレベルだったようだ
     だが犯人の顔を見てないようだ。犯人はおそらく例の事件と関係している

ビジェット:そうですか....何か手がかりと思ったのですが....
      リサータさんも何も教えてはくれなかったですし。

テイラー:いや?あいつは一つだけヒントをくれたぞ
     口を零したのか、はたまた気まぐれなのかは知らんが

ビジェット:え?

テイラー:犯人は金持ちだってことだ、そしてこれまでの遺体整形の写真を見ると
     精密な縫い目も綺麗でな、同業者に見せたら若い奴の仕業だとよ。
     金持ちで整形の技術を持つ犯人、それらを調べたら五人程名が挙がった。
     コンベに住む元整形外科医師の男、ウィル・ローデンス。
     同じくコンベに住む現職の整形外科医師の男ジェット・ヴァロン。
     マルテスに住む元整形外科医師の女、エミル・クーファン。
     シュンティスに住む現職の整形外科医師の女:バン・ミコス。
     そしてココ、ヴィンターロッツィの元整形外科医師の女ユーリ・テルマ。

ビジェット:ユーリ・テルマ....まさか?

テイラー:最後のユーリ・テルマだが、なんとこの病院の専属医だったらしくてな
     だが彼女は自己概念が強く客が望む整形以上に整形を施し問題が多かったらしい。
     そんな彼女は腕は良かったが問題視され続けたため解雇されたそうだ。

ビジェット:では、そのユーリ・テルマが怪しいと?

テイラー:いや、単にそういう話が耳に入ってきただけのことだ
     もちろん犯人が五人の内の誰かという保証も無い。

ビジェット:そう、ですか。

テイラー:俺も調査はするが、お前のほうでも動いてくれないか?

ビジェット:分かりました。

テイラー:よし、んなら解散だ。

ビジェットM:とりあえず、今までの被害者の遺体見分書でも見るか....
      ユーリ・テルマ....いや、単に上の名が同じってだけだろう....

N:ビジェットは遺体検視班の同僚から見分書を借り、読み漁る。
 すると遺体達から一つの共通点を見つけ出す。

ビジェット:遺体全部に犯行時とは別の整形痕がある?
      彼等は皆生前整形手術を受けていた?
      ....整形痕だけじゃどこの病院で受けたかなんて判明できるはずがない。
      僕が病院のつながりも居ないし....

ヴァレンタイン:────それで私のところへ?

ビジェット:本当は外部の人に見せてはいけない物なんですが....
      これ以上被害者を出さない為にも....

ヴァレンタイン:まぁ直接的に犯人に関わる話でもないからいいわよ?
        そうねぇ....貴方の二ヶ月分でどう?

ビジェット:....わかりました。後ですぐお渡しします。

ヴァレンタイン:即金....と言いたいけれど貴方は嘘をつかないでしょうから先に教えておくわ。
        これらの遺体は二つの病院で全て行われているもの。
       「ロアン」にある病院と、貴方の勤め先の警察署の横にある病院よ。

ビジェット:ッ!

ヴァレンタイン:その様子だと犯人の名前はいくらか絞られている様子ね。
        あのテイラーの坊やもそこそこやるわ....

ビジェット:もう一つ....いいですか、これは別に答えていただけなくても結構です。
      昨日僕とお酒を飲んだユーリさんという女性....
      彼女ユーリ・テルマというお名前でしたか?

ヴァレンタイン:............そうよ。

ビジェット:....!

ヴァレンタイン:彼女はこの街では結構名の知れた整形外科医師よ。
        でもあることが問題視されて職を追われたの。

ビジェット:犯人について教えないのではなかったのですか?

ヴァレンタイン:犯人だとは言ってないわ。
        貴方こそその物言いだと決め付けているようだけれど?

ビジェット:....。お金はすぐ持ってきます。情報提供感謝します。

ヴァレンタイン:........行ったわよ。

ユーリ:ママ....なんで言っちゃったの?

ヴァレンタイン:隠してもすぐばれる事よ。
        それよりも先に私が零せば犯人とは関係ない情報だと誤認するかもしれないじゃない。
        連続異形殺人事件の犯人、ユーリ・テルマちゃん。

ユーリ:私じゃない!!私じゃない!....やったのは〝もう一人の私〟!

ヴァレンタイン:そんなもの百も承知よ、だから匿っているんじゃないの。
        職を追われ過剰整形をした患者に復讐され 
        ショックと恐怖で生まれたもう一つの人格
        もう一人のユーリ・テルマ。

ユーリ:そう、だから私がやったんじゃない....ママ....

ヴァレンタイン:分かってる。私が貴女を守るわ。だから大人しくしていなさい。

ユーリ:ありがとう....。


ビジェットM:....テイラーさんが絞った犯人の名前はたったの五人。
      だがその中に犯人がいるという確証は無い。
      絞る条件もこの街の周辺にいる金持ちの整形技術を持つ若い者と曖昧なもの
      それの中に昨日関わった人間の名前が居るからといって犯人と断定することは不可能。
      整形痕の話だってそうだ。ロアンにある病院と署の横の病院で行われた物
      リサータさんも犯人とは関係のない情報だからこそ売ってくれたわけだ....
      ならユーリ・テルマさんは犯人では....ない?
      頭が痛くなってきた....一応テイラーさんに昨日の被害者にも整形痕があったか聞いてみよう。

テイラー:....あん?どうした?

ビジェット:すみません。
      昨日保護した女性なんですが体のどこかに整形痕ってなかったですか?

テイラー:整形痕?....そういや耳の近くにそんなものがあったな?それが?

ビジェット:あ、いえ....そんな大したことではないので何か分かったら報告します。

テイラー:あ?ち、ちょっと待てビジェット!

ビジェット:直接聞いてみよう。

N:ビジェットは昨日の被害者が居る病院へと向かった。
 整形痕について聞くと以前この病院で受けたそうだ。
 ただその整形は望んだものでなく医師自らの判断で施されたという。
 女は話していくうちに昨日の出来事を思い出す。
 それは犯人が最後に残した言葉「またね」というものだった。
 ビジェットはそれを聞き再度この女性が狙われるんじゃないかと思った。
 するとビジェットは彼女の行動を細かく聞き実際にその行動を試す。 

ビジェット:犯人が再度彼女を狙うとするならまた同じ道に現れるだろう....
      それを利用しておびき寄せれば....だがどうやって?
      彼女は病院にいる。そんな彼女を引きずり出し囮として使うなんてとんでもない....
      嘘の情報を流しおびき寄せる....自分から犯人を断定はしたくはないが疑いも晴らしてやりたい
      やるしか....ないか....いや、やるべきなんだ。


ヴァレンタイン:あら、今日もきたの?
        その恰好じゃまだ勤務中じゃないのかしら?

ビジェット:書類を投げて足を運んだ上司の気分を味わいたくて

ヴァレンタイン:ふふ、あまり憧れを抱くほどの期間を一緒にいたわけじゃないのに?

ビジェット:でも僕にとってはかっこいい人でした。この街で威勢を持ち
      一人になっても諦めない、底なしの熱血....とまではいきませんが
      少なくとも後ろ姿を見て学んだことは多いです。

ヴァレンタイン:こんなことを聞くのはイジワルなのだけれど
        その上司がこの裏場を使っていたとしたら、どう?

ビジェット:....やはりそうでしたか
      ガッティズ警部がマスコミを誘導して犯人をおびき出した時、疑問に思っていたんです。
      そんなにも顔が広いなんて、と、当時の僕は楽観的に捉えてましたが
      でも、それでも犯人を捕まえたい一心で動いていたという事実は僕が知っています。
      だからそれを聞いてガッティズ警部を下に見たり、失望するなんてことはありません。

ヴァレンタイン:ふふ、そうね。その方が彼もうれしいはずだわ。
        誰一人彼を思う人がいなくなれば悲しいもの....

ビジェット:....なんだか暗い話になってしまいました!
      でも悪いことばかりじゃないですよ?
      先日例の連続殺人事件の被害に遭った....って、亡くなったわけじゃないですが
      怪我を負った被害者が三日後退院することになったんです。

ヴァレンタイン:そう、それは吉報ね。
        でもその女性はそのままこの街にいるつもりなの?

ビジェット:ええ、流石にずっとではないのですが次の仕事が見つかればすぐにでも離れるそうです。

ヴァレンタイン:そのほうがいいわ、この街は死神に呪われている。
        呑気に歩いているとまた〝彼女〟に襲われるかも....

ビジェット:警察もあまり機能していないのが現状ですから....

ヴァレンタイン:あら?坊やがこの街を正すんじゃないのかしら?
        そう言っていたじゃない。

ビジェット:その気持ちはまだありますよ、じゃあ僕は戻りますね。
      ごちそうさまでした。よかったらこれ

ヴァレンタイン:ん、これはガーベラ?ふふ、随分と粋なことするわね。

ビジェット:先日のお礼ですよ。では....

ヴァレンタイン:........ガーベラ、そうあの坊やも私のサインに気づいてくれたようね。

ユーリ:ママ....行った?

ヴァレンタイン:行ったわよ。三日後に仕留めそこなった子が退院ですって....

ユーリ:私じゃないの....そんな事いわないで、ママから見捨てられたら私は....

ヴァレンタイン:分ってるわ、大丈夫。私が守ってあげるから

ユーリ:本当?本当ママ?

ヴァレンタイン:うん、だからママって言わないの。

ヴァレンタインM:この子はもう一人の自分に侵食されている。
        分かってあげられるのは私だけ
        助けてあげられるのも私だけ....


ビジェット:....。やはりリサータさんはつい先日被害にあった患者の事を知っていた
      僕が男とも女とも言っていないのにハッキリ『女性』だと。
      そして犯人の事も『彼女』と....僕の勘が当たった。犯人は【ユーリ・テルマ】───彼女だ。


テイラー:お前どこにいたんだ?無線も切って携帯まで電源落しやがってよ
     ....で?どうだった?

ビジェット:犯人が分かりそうです。

テイラー:!....やっぱりリサータの所に行ってたのか。

ビジェット:ただ犯行による証拠や証言が足りなさすぎます。
      このまま縄をかけても証拠がなければ裁判はできないです。

テイラー:んなもん知ってる、凶器についてだがやはり医療関係の道具だと思われる。
     だが今時医療器具のほとんどはどこにでも流通している。一般人でも手にできる物だ。

ビジェット:だけど被害者の傷などは外科医療経験者じゃないとできない施工だった。

テイラー:もう犯人は目の前なんだろ?

ビジェット:ええ、あとは凶器等の証拠....ってさっき言ったじゃないですか!

テイラー:だな。よしじゃあ家宅捜索とやらなんやらと令状作らにゃいけねーから─────

ビジェット:テイラーさん。

テイラー:ん?

ビジェット:この一件僕に任せてもらえませんか?

テイラー:任せるってお前....

ビジェット:お願いします。

テイラー:........無理をするな、新人なら新人らしく上司の後ろ姿を見て基本を覚えろ。

ビジェット:....だけど僕は─────

テイラー:だが自分の勝手な行いが正しいと思うなら、他人の反応なんか気にするな。
     ....ガッティズが新人にいつも言ってやってる言葉だ。
     立場上お前の上司は俺だが、お前自身にとっての上司は誰だ?

ビジェット:テイラーさん....!

テイラー:危なくなったら俺を頼れ。さっきも言ったが立場上俺はお前の上司だからな
     いいなビジェット?

ビジェット:....はい!


N:その日の夜。ビジェットは買い物を終えある場所へ向かった。


ユーリ:はい....どちら様?──!

ビジェット:夜分遅くにすみません。今大丈夫ですか?

ユーリ:え、えぇ....あ、待って今外に出る服に着替えるから....

ビジェット:あ、できれば中で話せますか?

ユーリ:は、はい....どうぞ

ビジェット:失礼します、....結構綺麗にしているんですね。

ユーリ:あの、それで今日は何を?

ビジェット:夜ごはんは済ませちゃいましたか?

ユーリ:え?いいえ。

ビジェット:良かったら一緒にどうかなと思って

ユーリ:えっと....

ビジェット:ほら、前に言ってたお礼で。ちょうどいい食材が市場に流れていましたので

ユーリ:....。

ビジェット:リサータさんにも話したら喜んでくれましたよ。
      君はまともなご飯食べてないからって

ユーリ:....そう。ありがとう。

ビジェット:すぐ出来ますので、よかったら座っていて下さい。

ユーリ:手、凄く綺麗ですね。男の人なのに

ビジェット:実は警察やるまえは料理人だったんです僕。

ユーリ:何故料理人から警察に?

ビジェット:昔、僕が働いていたお店に強盗が押し入ったんです。
      働いていた従業員は皆、強盗に殺されました。
      僕は貯蔵庫に居て強盗達とは鉢合わせなかったので助かりました....
      恐怖で怯え、呼んだ警察が来るまで一人蹲って震えてたんです。
      たった数分が何時間にも感じました。警察がきて保護されて初めて安心したんですよ
      だけど....

ユーリ:だけど?

ビジェット:新しい職場で包丁を握ったとき手が震え、まともに物がつかめなくなったんです。
      料理人としての生命が絶たれた僕は酒におぼれ自堕落に生きてきました。
      今はなんとかこうして持ててますがね

ユーリ:....。

ビジェット:何もせず貯金が減り続ける毎日、でもある人が訪ねてきたんです。
      その人は強盗事件の時僕を保護してくれた警察官でした。
      その人が僕を警察官への道を作ってくれたんです。

ユーリ:それは苦労したのね。

ビジェット:いえ....苦労なんていう苦労はしてません。
      周りが僕を助けてくれていたんです。僕はそれに甘えていただけで....

ユーリ:そう。

ビジェット:ん?どちらへ?

ユーリ:少し窓を開けてくるわ。
    お皿も好きなように使って。

ビジェット:ありがとう....

ビジェットM:玄関を入ってすぐの場所に医療器具を置いていたのを見た。
      これを鑑識にかければ白黒ハッキリするのかもしれない。
      だが道具が突然無くなれば逃亡する恐れがある。
      ....ユーリさんすまない。

N:ビジェットは隠し持っていた透明な液体を医療器具に吹きかける。

ユーリ:ん、いい匂い。

ビジェット:──!も、もう出来ますから席にどうぞ!

N:ビジェットの料理は絶賛された。ビジェットもこの時ばかりは人に振舞う嬉しさに浸り
 今目の前にいる女性が自分が追う犯罪者だとは忘れていた....
 ──いや、思いたくないと心のどこかで抱いていたのだ。
 食事を済ませ後片付けをし家を後にしようとする。

ビジェット:今日は突然お邪魔してすみません。

ユーリ:ううん、美味しかった。またご馳走してほしいわ。

ビジェット:それはよかったです。....あの....

ユーリ:ん?

ビジェット:....いえ、おやすみなさい。

ユーリ:おやすみなさい。


ビジェットM:....僕は今何を言い出そうとしたんだ?
      自分がしていることは彼女を犯人と断定付けさせる工作だ。
      そんな事をしたクセに....僕は....彼女に惹かれている....
      でが、明日だ。明日で白黒つける。

N:次の日、被害者の女性が退院する日が来た。
 あの時間、あの場所、今か今かと息をひそめる影が一つ....
 そして現れた。──影は襲い掛かり押し倒す。そして横腹にメスをつき刺すと
 刺されたソレは小さく囁いた────

ビジェット:掛かったな...!!

N:月明りに照らされたソレはあの被害者ではなく
 被害者が被害当時来ていたコートを羽織ったビジェットだった。

ユーリ:ッ─────!!

N:影は身を屈めビジェットを突き飛ばし逃げた。
 だがビジェットは追おうとはしなかった。横腹に刺さった凶器を引き抜き止血させ歩く。
 その足が向かった先は─────


ユーリ:!!どうし、て....─────

ビジェット:ユーリ・テルマ....君を連続殺人事件の犯人として逮捕する。

ユーリ:え、わ、私じゃない!

ビジェット:あぁ、君じゃない。....〝もう一人のユーリ・テルマ〟だ。

ユーリ:!....なんで....?

ビジェット:....これ、君のだろう?

N:ビジェットは先程自身で引き抜いたメスを見せつけるように取り出した。

ユーリ:私のじゃないわ!!

ビジェット:....前にお邪魔した時君の医療器具に仕掛けを施した。
      君の所有物だという決定的証拠を得るためにね

N:ビジェットは持っていたメスに特殊ライトを近づける。
 するとメスは青白く光った。────ブラックライト。
 医療器具に吹きかけた液体は蛍光液体だった。

ビジェット:....君を逮捕する。さぁ────

ユーリ:ぁぁああぁぁあッ!!

ビジェット:なッ!?

ユーリ:なんで、なんで邪魔をする!?弱いコイツを守るためなんだよ
    私は正しい!邪魔する奴は殺すだけだ!!

N:ビジェットの持っていたメスを奪い襲い掛かるユーリ。
 無造作に振り回しビジェットの肩や頬を何度も掠った。

ビジェット:ユーリ....!

ユーリ:ッ!離せ!離せェ!このっこのォ"!

N:抱き寄せ制止させようとするが
 ユーリは構い無しにメスを背中に何度も突き刺す。

ビジェット:ぐぅ....!ユーリ、目を覚ましてくれ
      ユーリ!!ぐぁ....!

N:何度も何度もメスを突き刺す。血が滴りカーペットは真っ赤に染まった
 だがそれでもビジェットは名前を呼び続けた....そして次第に───

ユーリ:ぁぁ....ぁぁぁ....どうして、どうして....
    ごめんなさい....ごめんなさい....

ビジェット:っ....おかえりなさい。ユーリ。

ヴァレンタイン:はぁ、はぁ....!貴方たち....そう、終わったのね。

ビジェット:えぇ....彼女は無事ですよ。

ユーリ:ママ....なんで?

ヴァレンタイン:ユーリちゃん、もういいんじゃないの
        自分に危害を加えようとする人間なんて全員が全員そんなわけないじゃない。
        ....ここで貴女は終わりなの

ユーリ:ママ....私を見捨てたの?

ヴァレンタイン:見捨てるわけないじゃない。捨てたのは〝もう一人の貴女〟よ。
        彼がここに来る前に私の所へ来て証拠や確信、全てを話してきた....
        私もまたそれに応えるように全てを話したわ、でも裏切ったわけではないの
        彼は貴女を助けるためと情報を求めた....
        私も貴女を助けたいがための判断よ。
        ....それでどうする気?そのままこの子を逮捕するつもり?

ビジェット:....もし僕が彼女を捕まえたとしたら────

ヴァレンタイン:間違いなく極刑よ。つまり貴方はこの子を殺すことになるの
        自らの手でなくともね。

ビジェット:....。

ヴァレンタイン:『自分の勝手な行いが正しいと思うなら、他人の反応なんか気にするな。』
        誰かさんが言ってたわ。....今なら私の手でこの街から貴方たちの存在全てを抹消できる。
        ....時間はないわ。今ここで決めなさい。
        殺すか、その子と一生を寄り添うか....

ビジェット:....。

ユーリ:ママ、だめ、私は生きれない。生きてはいけないの
    沢山の人を傷つけた....私はもう誰からも愛されない。
    だから────

ヴァレンタイン:──ユーリちゃん!

ビジェット:!ユーリ、その銃を返せ!

ユーリ:ごめんなさい。
    もうこれ以上誰も傷つけたくない!ママ、ビジェットさん....ごめんなさ────

ビジェット:好きだ!!

ユーリ:────!

ビジェット:ッ....僕が望む、僕が君を愛す!
      こんなこと警察である僕が言ってはいけないのかもしれない
      でも言わせてくれ、僕は君が好きだ。好きなんだ。

ユーリ:っ....

ヴァレンタイン:ユーリちゃん。貴女は多くの罪を犯した。
        このまま逃げる気?

ユーリ:え....

ヴァレンタイン:生きてその十字架を背負いなさい。生きてその人に尽くしなさい。
        ....ビジェット巡査。貴方の答えは受け取ったわ。
        直ぐに発つ支度をしなさい。ここへ迎えを寄越すわ

ビジェット:リサータさん....

ヴァレンタイン:ヴァレンタイン。私はヴァレンタイン。この名を教えた意味分かるわよね?
        私の愛する娘を頼むわよ。


N:....数週間後二人はヴィンターロッツイから遠く離れた国にいた。
 記録を抹消され新しい土地で、新しい人生を歩もうとしている。


テイラー:....。お前逃がしたな?

ヴァレンタイン:うん?何の事かしら?

テイラー:....まぁいい。で、ビジェットは元気なのか?

ヴァレンタイン:さぁ?残念だけど私は知らないわ

テイラー:ハッ、情報屋のお前が警官一人の行方を知らないだなんて
     えらく落ちぶれたもんだな

ヴァレンタイン:失礼ね。でももう無駄よ。事件の証拠も書類も記録も全部処分させたから

テイラー:ああ、知ってるさ。だからここに来たんだよ....じゃあな。

ヴァレンタイン:あら、もういくの?

テイラー:事件がなくなったらこの街には必要ねェとさ
     戻れとのお達しだ。

ヴァレンタイン:そう....また元気な顔見せなさいよ。

テイラー:俺はガッティズじゃねぇんだよ....ハッあばよ死神。

ヴァレンタイン:ええ。また。
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