「華麗なる怪盗 コーデュロイとデニー」


題名:華麗なる怪盗 コーデュロイとデニー 作者:草壁ツノ

----------------
<登場人物>
コーデュロイ:男性 怪盗組織に所属する男性。コーデュロイのパンツを愛用している。女性に弱い。
デニー:女性 怪盗組織に所属する女性。デニムの衣服を愛する。大のイケメン好き。
ボス:男性 怪盗組織を取り締まるボス。
レオニルド・ディカポリオ:男性 世界的大スターの映画俳優。金髪碧眼の美男子。
ジーナ:女性 黒髪の美人。女優としてはそこまで売れていない。レオと付き合っている。
警備員:男性 展示場の入り口に立っている警備員。実は諜報員。
-----------------
<役表>
ロイ:男性
デニ:女性
ボス+警備:男性
レオ:男性
ジナ:女性 
------------------
■注意点
特に無し。
----------------------
■利用規約
・過度なアドリブはご遠慮下さい。
・作中のキャラクターの性別変更はご遠慮下さい。
・設定した人数以下、人数以上で使用はご遠慮下さい。(5人用台本を1人で行うなど)
・不問役は演者の性別を問わず使っていただけます。
・両声の方で、「男性が女性役」「女性が男性役」を演じても構いません。
 その際は他の参加者の方に許可を取った上でお願いします。
・営利目的での無許可での利用は禁止しております。希望される場合は事前にご連絡下さい。
・台本の感想、ご意見は Twitter:https://twitter.com/1119ds 草壁ツノまで
----------------------


ロイ:「おっ。なんだい、アンタ。俺に興味があるのかい?ふふ、しょうがないな。
    俺の名前は《コーデュロイ》。プロの怪盗さ。と言っても、これは本名じゃない。コードネームだ。
    俺のトレードマークであるコーデュロイのパンツを、カッコ良く履きこなしている事がコードネームの由来さ。
    狙った女の子は百発百中。俺が持っているのはこの甘いマスクと懐のピストル。そして(フッ)熱いハートだけさ」

デニ:「私?私の名前はデニー。同じく怪盗よ。
    普段からデニム生地の服ばっか着てるから付いたコードネームなの。どう?素敵でしょ。
    スリーサイズと体重は(フフッ)、乙女のヒ・ミ・ツよ。
    最近コーデュロイっていう、な~んか頼りな~いやつとコンビを組まされる事になったんだけど、
    これがもう最っ悪。
    足はくさいし、何かにつけてツメが甘いし、いつも私の足を引っ張ってばかりなのよね......はぁ。もう、先行き不安だわ」

ロイ:「俺とこの女デニーは、最近チームを組んだばかりの即席コンビ。
    今回、俺たちはボスから緊急の指令があると連絡を受け、こうして二人でアジトを訪れたってわけさ」

※シーン切り替え

※指令室、高級そうな机の向こうに座る男と、それに向けて詰め寄るコーデュロイ。

ロイ:「お、俺とデニーの二人で、恋人のフリをしてミッションに参加しろって?!」

ボス:「あぁ、そうだ」

デニ:「な、なんでそんな事しなきゃいけないのよ!」

ボス:「まぁ落ち着いて聞け。今回お前たちに盗んできて欲しいのは《美の女王》と呼ばれるブラックダイヤモンド。
   今度の展示会の場で一般公開される、世界に二つとない貴重な宝石だ」

デニ:「そ、それとこれと!私とこいつが恋人役じゃなきゃいけないっていうのは、どういう了見(りょうけん)なのよ!」

ボス:「それにもちゃんと理由がある。その展示の主催側が、今回の展示会に参加する一般客に条件をつけていてな。
   それが、恋人同士である男女のペアである事というわけだ。まぁ、ここまでくればもう大筋の話は理解出来ただろう?」

ロイ:「いや、全然わかんねーっすよッ、ボス!なァんで俺が、こんなちんちくりんのへちゃむくれ野郎と恋人役なんて罰ゲームみたいな真似」

デニ:「ふんッ!(コーデュロイの足を踏む)」

ロイ:「あァッ!!」

思わず飛び上がるコーデュロイ。

ロイ:「痛ぇ~~~ッ! 何しやがる!ヒールの足で踏むやつがあるかよ!」

デニ:「あ~ら?ごめんなさい。でかいネズミが足元にいるのかと思ったわぁ」

ロイ:「ネズミを足で踏むのかよお前んちはッ!」

デニ:「うちではそうなのよ! 悪いっ?!」

ボス:「(咳払いを2度する)」

ボスの咳払いで二人の口論がぴたりと止まる。

ボス:「まぁ、今回の展示会自体が、某宝石商会社が企画・運営していてな、恋人達に宝石の良さを今一度PRするために行っているそうだ。
   そこで、展示会に参加するのは恋人限定、という話になり、お前たちにその役が回ってきたというわけだ」   

ロイ:「あー......ボス、どうしてもそれ、恋人役じゃないとダメなんスか? もっとこう、会場の警備員とか、厨房のコックとか......」

ボス:「ごちゃごちゃ文句を言うんじゃないコーデュロイ。お前、まだうちで働くようになって日が浅いだろうが。
   そんなやつが仕事を選んでいられる立場なのか?」

ロイ:「ぐうっ......」

ボス:「おいコーデュロイ。行き倒れていたお前を拾ってやったワシの恩、忘れたわけじゃあるまいな?」

ロイ:「あごっ......」

ボス:「おまけに、お前はワシに借金の借りがあっただろう。こっちはまだ今月分の支払いを待ってやってるんだぞ、この穀つぶしめ」

ロイ:「ウアァーッ!すいませんボスゥ!!俺、今回の仕事精一杯頑張ります!!」

デニ:「ちょっとコーデュロイッ?!」

ボス:「おお。期待しているぞ。さて、デニー。お前もやってくれるな?」

デニ:「嫌よっ!幾らボスの頼みでも、今回の依頼だけはお断りだわ。誰がこいつと――」

ボス:「なぁデニー」

デニ:「なによ?」

ボス:「実は、これは極秘情報だが......今回の鑑賞会に、お忍びでレオニルド・ディカポリオが来るらしいぞ」

デニ:「えっ!?あ、あの世界の、レオ様がっ!?」

ロイN:レオニルド・ディカポリオは海外のハリウッドスターであり、金髪碧眼(へきがん)のイケメンだ。まぁ、俺の方がかっこいいけど。
    ちなみにこのデニーのやつは大の面食いである。

ボス:「しかし、デニーがそこまで嫌というなら仕方ない......今回の依頼の話は別の代役を探すことに......」

デニ:「わぁーっ!やりますやります!私やりますよっボス!私しかコーデュロイのペア役は務まりません!」

ロイ:「お前さっきと言ってること全然違うじゃねぇか......」

ボス:「おお、やってくれるかデニー。いや、その返事を待っていたぞ」

デニ:「うっふっふ!任せておいてください、ボスッ!大船に乗った気でいてください! はぁ......レオ様......♡」

ロイ:「はぁ~~......本当に大丈夫なのかねぇ」

※シーン切り替え

展示会当日

ロイ:「......おい、デニー。なんだお前、その恰好は」

デニ:「なによ?別に普段通りの格好でしょ」

ロイ:「どこがだよ。明らかに普段しないアクセサリーしてるし、メイクも普段そこまで派手じゃないだろ。髪も下ろしてるし」

デニ:「きもっ。あんた、そんなに普段から私のことじろじろ見てたの」

その時、コーデュロイの耳にはめた機械に着信音が入る。

ボス:「(ザーザー)あー、ワシだ。ボスだ。コーデュロイ、デニー。聞こえたら応答しろ」

ロイ:「あっ、ボス。バッチリっす。聞こえてますよぉ」

デニ:「あ、こちらも聞こえてます~お疲れ様です、ボス」

ボス:「(ザーザー)どうやら会場には着いたようだな」

ロイ:「ええ着きましたよォ。いやそれにしても、人が多すぎて嫌んなりますよ」

ボス:「(ザーザー)まぁ、そう言うな。展示会場の入り口が見えるか?そこに警備の男が二人立っているだろう。
   そのうち、右側の背の高い方。そいつはうちで雇っている諜報員だ。その男に合言葉を伝えれば中に通してくれる」

デニ:「背の高い方ね。分かったわ、ボス。ところで、合言葉は何なの?」

ボス:「(ザーザー)合言葉を伝えるぞ。合言葉は――《猫吸いたい》だ」

ロイ:「は?」

ボス:「(ザーザー)聞こえなかったか、《猫吸いたい》だ」

デニ:「わ、分かったわ」

ボス:「くれぐれも合言葉を間違えるんじゃないぞ」

ボスからの通話が切れる

ロイ:「なぁ......猫って吸うもんなのか?」

デニ:「私に聞かれても知らないわよ......」

※シーン切り替え

展示場入口付近

ロイ:「なぁ、アンタ」

警備:「はい、なんでしょうか」

ロイが背の高い警備員に話しかける

ロイ:「......猫」

警備員:「は?」

ロイ:「《猫......吸いたい》」


それを聞くと、警備員は頷き、二人を会場内へと招いた。

警備:「......どうぞ、お通り下さい」

ロイ:「なぁ、やっぱり俺にはあの合言葉の意味が分かんねーんだけど......」

デニ:「......まぁ、考えても仕方がないわよ。行きましょう」

※シーン切り替え

展示会会場内

警備:「ブラックダイヤモンドの展示に来られた方は、会場の警備員に従って道をお進み下さい!」

ロイ:「おお、思ってたよりも結構客が入ってるな」

デニ:「そりゃそうよ。なんて言ったって、世界で1つしかない宝石だもの」

ロイ:「まぁそりゃそうか」

デニ:「けど私にとっては宝石なんか目じゃないの。私の一番の目的......それは、そう、レオ様!
   あの世界の大スター・レオ様に会えるかもしれないのよ!あぁ......私、もう胸がはちきれそう」

ロイ:「はいはい。レオ様ばんざいばんざい」

デニ:「コーデュロイ、もし私の胸が張り裂けて倒れたら病院に運んでね」

ロイ:「よし分かった。その辺に転がしとくから安心しろ」

警備:「押さないで! 押さないで下さい!」

デニ:「あっ、ねえ。あれじゃない?例の宝石って。人が集まってる」

視線の先には会場の中心に置かれたガラスケースに保管された、大きな黒色のダイヤモンド。
その周囲には警備員が待機している。

警備:「お客様! 御覧になられる際は、ガラスケースとの距離を守って下さい!」

ロイ:「か~っ、さすがに宝石の周りはすげぇ警備の数だなぁ。こりゃ盗み出すのに骨が折れそうだ」

デニ:「そうね。ん~~、もうちょっと近くで見ておきたいわね。どんなものなのか」

ロイ:「そうだな、よし、もう少し近くまで行ってみっか」

二人が展示の近くに移動するも、見物客が多く近づけない

ロイ:「ったく、全然見えねぇじゃねぇか。はぁ~あ、手に届かない宝石なんてつまんねぇもんだ」

デニ:「あ、ちょっとロイ、どこ行くの?」

ロイ:「煙草だよターバーコ。1本吸ったら戻ってくるから、ちっと待ってろ」

デニ:「ちょっと!......はぁ。もう、ほんと協調性の無いやつ」

※シーン切り替え

警備:「お客様、写真撮影はご遠慮下さい! カメラのフラッシュは展示品を痛める恐れがあります!」

デニ:「あ、うーん。全然見えない~。ちょっともうどいてってば~」

レオ:「わっ!」

デニ:「痛っ!」

デニー、側にいた男性とぶつかる

デニ:「あいたたた......。あ、ごめんなさい!大丈夫ですか」

レオ:「あ、あぁいや。こちらこそよく見ていなかった。すまない、大丈夫かい?」

デニーの前に帽子を深くかぶった男性が現れる。

デニ:「あ、大丈夫です。......あれ、お兄さんお一人なんですか?」

レオ:「あぁ、いや。ここに来るまでは二人だったんだが、会場ではぐれてしまってね。探している所なんだ」

デニ:「そうなんですね」

レオ:「......お嬢さん、良ければ少し、話に付き合ってくれないかい?女性にしか相談できない話なんだ」

デニ:「え、私......ですか?うーん......」

デニN:まぁ、コーデュロイも煙草って言ってたし、少しの間ぐらいならいいか。

デニ:「分かりました。いいですよ。ちょうど今時間空いてますから」

レオ:「おお、そうか。それは有難い」

デニ:「あー。えっと、私デニーって言います。あなたは?」

レオ:「僕はレオ。よろしく、デニー」

※シーン切り替え

ロイ:「(煙草を吸う)......はぁー。ったく何だって恋人同士がキャッキャウフフ♡してる会場で仕事しなきゃなんねんだよ......気が滅入るぜ」

ジナ:「あの......」

ロイ:「そりゃあな? まだ一緒に仕事する相手が美女だってんなら話は別ってもんさ。
   けど相手があのデニーって。っか~~......なんも仕事に身が入らねーっての」

ジナ:「えっと、あの......そこの、お兄さん」

ロイ:「んあ、さっきから誰か俺のこと呼んでます? あぁいやスンマセンね、今ちょっと自分会議で立て込んでまして......っ」

ロイが煙草を足で踏みつぶして消し、声の方を振り向く。そこに居たのは黒髪の美女。

ジナ:「あ、お忙しかった、ですか......?えっと、ごめんなさい」

ロイ:「お、ああ......め、めちゃマブ......グッと来るぜ......」

ジナ:「え?」

ロイ:「あぁいやっ。(咳払い)。お嬢さん、俺に何かご用ですか?」

ジナ:「あ、いえ......少し、人を探していまして。私の付き添いの人なんですけど」

ロイ:「人探し?そんなもん今はいいじゃないですか!こうして俺たちが出会ったのも何かの縁だ。一杯奢らせてくれないっすか?」

ジナ:「あぁいえ、そういうわけにも......」

ロイ:「それじゃ、その探してる人の話でもしながら、ね、それならいいでしょう?」

ジナ:「......そ、それなら。少しだけ」

ロイ:「(小声)よっしゃ! あ、ところで、その探してる人ってのはどんな人なんすか?」

ジナ:「......金髪で碧眼の男性よ。名前は、レオ」

ロイ:「レオ?どこかで聞いた名前だな......おっと。それはともかく、俺の名前はコーデュロイ。アンタの名前は?」

ジナ:「私はジーナ。よろしくね、コーデュロイ」

※シーン切り替え

レオ:「あぁ、そう言えば自己紹介がまだだった」

目の前の男性が帽子を下ろす。美しい金髪と碧い目が露になる。

デニ:「えっ、え、え、え。えええ、あ、あな、あなっ。あなた、あなた様ってもしかして」

レオ:「えっと......レオニルド・ディカポリオと言えば分かるかな」

デニ:「――――っ、れ、れれれ、れお、レオ様?!」

レオ「もしかして、君は僕を知っているのかい?」

デニ「ええ勿論ですっ!レオ様の出る映画は私、全部見てますっ!
   《トラガスの女》、《亡国の王子》、《ルネイジャブールに降る雪》、《蒼い海のその先へ》......どれも大好きです!!」

レオ「ワオ、そんな古い作品まで見てくれているのかい?嬉しいな」

デニ「うっ、うれ、嬉しいのは私の方です......レオ様.......!」

※シーン切り替え

ジナ:「......というわけで、レオと一緒に来たんだけれど、途中で一緒にいるのが苦しくなって、離れてしまったの」

ロイ:「そいつは許せないですね!っかー、俺がもしそのレオってやつにあったら、そのスカした顔ぶん殴ってやるのに。シュッシュッ」

ジナ:「ロイさん、違うわ。彼は何も悪くないの。ただ、私が一人になりたかっただけ」

ロイ:「......なんかあったんですか?」

ジナ:「......私は今、彼と付き合っているわ。けれど、彼は大スター。私は一人の売れない女優。とてもじゃないけど彼とは釣り合わない」

ロイ:「......」

ジナ:「彼を慕っている人は世界中に大勢いる。私なんかより遥かに実力も、美貌も持ち合わせている女性だって......
    私、怖いの。いつか、彼に捨てられてしまう日が来る事が......そう考えたら、どんどん不安になって、少し、一人になりたくなったの」

ロイ:「......大丈夫っすよ!ジーナさんは俺が見てきた中でも一番のべっぴんさんだ。
   そのレオってやつがどれほどのもんか知らねぇけど、アンタなら大丈夫っすよ!」

ジナ:「ロイさん......」

ロイ:「あ、もしそのレオってやつが駄目なら俺んトコ来て下さいよ。俺の恋人枠はいつでも空いてますからね!へっへへ」

ジナ:「......ふふっ、ふふふっ。ありがとう、あなた、人を励ますのが上手ね」

ロイ:「......」

ジナ:「......それに引き換え、私は......駄目ね。いつまでも、後ろ向きな考えばかり」

ロイ:「......ジーナさん。アンタに足りないのは自信っすよ」

ジナ:「自信......」

ロイ:「......そうだ、ジーナさん! 今夜、アンタに付いてきて欲しい場所があるんですけど、時間空いてますか?」

ジナ:「......???」

※シーン切り替え

レオ「そういうわけで、これを機に芸能界を辞めようと思っているんだ」

デニ「ええ?!そ、それって......どこか怪我とか、されたんですか?」

レオ:「いや。そうじゃない。デニーさん、これは、オフレコにしてほしいんだけど......
   実は、今日一緒に会場に来ている女性がいてね。その彼女に近々プロポーズをしようと思ってるんだ」

デニ:「ええっ?!ぷ、プロッ、プロポッ?!」

レオ:「ああ。これまで僕は一人の女性というものを作ってこなかった。けど......ようやく誰かと一緒になる気持ちになってね」

デニ:「そ、そうなん、ですね......ショック......お、おめでとうございます......」

レオ:「はは、まだ成功したわけじゃないさ。必要なものがまだ手に入っていないから」

デニ:「......必要なものってなんですか?」

レオ:「ああ。彼女にプロポーズするためには、普通の宝石じゃダメだと考えているんだ。僕のこの気持ちを伝えるためには、
   何よりも素晴らしい宝石が要る......そう考えた時、《ブラック・ダイヤモンド》でプロポーズする以外に思いつかなかった」

デニ:「......どうやって、手に入れるつもりなんですか?」

レオ:「展示している会社に掛け合って、どんな条件だろうと交渉してみせるつもりさ。彼女のためなら金も惜しまない。僕は本気なんだ」

デニ:「......レオ様。......分かりました。私が、必ずあの宝石を手に入れてみせます!だからそれまで待っていてください」

レオ:「えっ......デニーさん。そんな、何か方法があるのかい?」

デニ:「ええ、私に任せておいて下さい、レオ様。私、欲しいものを手に入れることに関しては誰よりも自信があるんです」

レオ:「......??」

※シーン切り替え

ボス:「(煙草の煙を吐く)......今頃、コーデュロイとデニーのやつは上手くやっているだろうか......
    なんて言っても時価数百億はくだらないダイヤだからな。今回ばかりは、さすがにやつらも苦戦を......
    (少し間を空けて)
    こ、こいつは本当か!? やべぇ、もしここに書かれていることが事実だとしたら......クソッ、ガセネタを掴まされた!」

ボス:「おい、コーデュロイ、デニー! 聞こえるか! おい! ......くそ、繋がらない、なにやってやがるんだ、アイツ等......」

※シーン切り替え

夜の展示場 そこに忍び込んだデニーとレオ

デニ:「よいしょ、っと。ふう、夜はさすがに警備が手薄ね」

レオ:「驚いた。まさか君はレディパンサーだったとはね」

ロイ:「よっと。足元気を付けて下さいよ、ジーナお嬢様」

ジナ:「あら、ありがとう。ロイさん」

レオ:「じ、ジーナ?!」

ジナ:「れ、レオ!?」

レオ:「ジーナ......!き、君。夜は用事があると言っていたじゃないか。こんな所で何をしているんだ?!」

ジナ:「そ、それは......」

デニ:「ちょ、ちょっとロイ!これはどういう事よ!」

ロイ:「お、俺に言われても。俺はただこのジーナさんをここに連れて来たかっただけで......」

デニ:「私もレオ様をここに連れて来ただけよ」

ロイ:「あぁ?こいつがレオなのか?」

レオ:「嘘をついてまで、男と会おうとしていたのか?!」

ジナ:「ち、違うの。違うのよレオ!」

レオ:「もういい。君の事を少しでも信じた僕が馬鹿だった。その男とどこへでも行くといいさ」

ジナ:「そ、そんな......レオ......」

ロイ:「おいてめぇ!さっきから聞いてれば好き放題言いやがって。お前、ジーナさんの気持ち考えた事あるのかよ!!」

ジナ:「ロイさん!......もう、もう、いいんです」

ロイ:「ジーナさん、でも......っ」

ジナ:「......ロイさん。あの首飾り、取り出すことは出来ますか?」

ロイ:「え、ああ......ボスから、セキュリティの解除方法は聞いているから、多分なんとか......ちょっと待って下さい」

コーデュロイが手に持ったリモコンを操作すると、宝石の入ったガラスケースが縦にスライドして収納され、宝石がむき出しの状態になる。

ロイ:「ジーナさん、これで、大丈夫なはずです」

ジナ:「ロイさん、ありがとう」

ジーナが宝石のついた首飾りを身に着ける。

ジナ:「ねぇ、見て。レオ......私、きれい?」

レオ:「......」

ジナ:「......そっか。これほどの宝石をつけても、私、あなたの望む理想に届かないのね......。
    私では貴方の人生の伴侶として役者不足。ふふ、女優としても、女としても......」

レオ:「......ちがう、ジーナ。僕は、そんなつもりじゃ――」

ジナ:「......ふふ、うふふ......」

レオ:「ジー、ナ?」

ジナ:「うふふふふ......私は美しい。私は、誰よりも、何よりも......私は、美の女王。人は皆、私の美しさの前に、ひれ伏すしかない......」

デニ:「ちょ、ちょっと。あの子、なんか様子がおかしいわよ!!」

ボス:「(ザーザー)おい、ロイ! デニー! 聞こえるか、聞こえたら応答しろ!」

ロイ:「えっ、ボス?!どしたんすか。急に」

ボス:「(溜息)やっと繋がりやがったか」

デニ:「そんな慌てて、どうしたのボス」

ボス:「これが慌てずにいられるか! いいか、よく聞け。俺たちはガセネタを掴まされた」

ロイ:「ガセネタ?」

ボス:「ああ、そうだ。今回お前らが狙っているターゲットが、やばい《宝石(ブツ)》だと判明した」

デニ:「やばいものって、どういう事よ?!」

ボス:「(ザーザー)あの宝石はいわくつきの代物だ。過去、身に着けた奴らが何人も発狂して命を落としている」

ジナ:「うふふ、あはははは!私は美しい、私は宝石。何者も、私の美しさには適わない!」

ボス:「(ザーザー)身に着けたものは皆、口々(くちぐち)にこう叫ぶそうだ。《私は美しい》ってな。
   皆、あの宝石の持つ危うい魅力に取りつかれてしまうらしい」

ロイ:「......」

ボス:「(ザーザー)分かったか? ミッション中止だ、今すぐ引き上げろ」

ロイ:「あー、残念だけどよボス。ちっと、情報が遅かったようだぜ......」

ボス:「(ザーザー)なにっ?まさか。おい、コーデュロイッ待てっ(ブツッ)」
   
通話を切るコーデュロイ。

※シーン切り替え

ジナ:「あはは、うふふ......!」

レオ:「ジーナ。僕だ!目を覚ましてくれ!」

ロイ:「無駄だ。あの人は今、あの宝石に心奪われちまってる。あんたの声は届かないさ」

レオ:「じゃあ、どうすれば!」

ロイ:「うるせぇな、それを今考えてるところだろうが!」

デニ:「あの宝石をどうにかするしか......」

レオ:「......ジーナ、頼む。もとに戻ってくれ!」

ジナ:「近付くな!」

レオがジーナに近づくも、彼女の目が怪しく光るとその場から動けなくなってしまう。

レオ:「っぐ! か、体が、動かない......!?」

ロイ:「くそ......おい、デニー! なんか方法は無いのかよ!」

デニ:「私に言われたって、分かんないわよっ......あんた、男でしょ!根性見せてなんとかしなさいよ」

ロイ:「根性で何とか出来るなら、苦労してねぇよ!」

デニ:「ちょっと待って、彼女......」

ロイ:「あ?」

ジナ:「......(泣いている)」

デニ:「......泣いてる」

ジナ:「(泣きながら)あはは。私は美しい。私は、誰よりも美しい。はは、誰よりも、何よりも――私は――」

レオ:「ジーナ......」

ジーナは泣いていた。口元は笑みを作りながら。

デニ:「......ロイ。あんた、射撃の腕は?」

ロイ:「何だよ急に。そりゃまぁ、自信はあるけどよ」

デニ:「私が、あの子の動きを止める......時間はそんなに稼げないかもしれない。あんたは、その瞬間を逃さず、撃って」

ロイ:「あの、宝石を撃つんだな」

デニ:「そうよ。決して彼女には当てないで。あの元凶である宝石だけを撃つの。
   ......あんた、ツメが甘いんだから、こういう時ぐらいしっかり決めないと男が廃るわよ」

ロイ:「......へっ。俺に見せ場を作ってくれるのかい?名女優じゃねぇか」

デニ:「勘違いしないで。アンタのためじゃない。この場は、あの主演男優と、主演女優のためにあるの。それを邪魔するやつは許さない。
   彼の、引退前の最後の大舞台だもの......私が、絶対に成功させてみせる!!」

ロイ:「......わーったよ。熱心なファンのために、俺が―肌脱いでやる。言っておくが俺の銃弾は高いからな?」

※シーン切り替え

レオ:「ジーナ、僕は、君を愛している!だから、目を覚ましてくれ!!」

ジナ:「っ!!」

一瞬動きが止まるジーナ。そこを見逃さず、デニーがジーナに向けて走った。

ロイ:「今だデニー、動きが止まった!」

デニ:「言われなくても分かってるわよっ! やあっ!!」

デニーがジーナを羽交い絞めにする。暴れるジーナ。

ジナ:「ああっ。やめろ、離せっ!美しくないものが、私に、触るなァッ!!」

デニ:「ロイッ!!早くっ!!早くしなさいっ!!」

ロイ:「......こいつは俺のとっておきの銃弾(ジャケット)だ。おしゃれな宝石(アンタ)に着せてやる。食らいなっ!」

ロイの撃った銃弾はジーナの首元に吸い込まれていき、彼女を傷つけず宝石だけを砕いた。
倒れたジーナとそばに腰を落とすデニー。

※シーン切り替え

レオ:「ジーナ!ジーナ!!」

倒れたジーナに駆け寄るレオ。

ジナ:「う、ん......レオ......?」

レオ:「あぁ、ジーナ......(抱きしめる)」

ジナ:「(驚く)レオ、どうしたの?」

レオ:「......君がどこかに行ってしまうんじゃないかって、そう思ったら、怖かった......」

ジナ:「(笑う)痛いわ......レオ。大丈夫。私は、どこにも行きはしないから......」

目覚めたばかりのジーナをレオが抱きしめる。

デニ:「はぁ、良かった......」

ロイ:「お疲れさん。名脇役だったぜ」

デニ:「うるっさいわね。ぶっ殺すわよ」 

レオ:「......ジーナ。すまない」

ジナ:「なにを謝るの、レオ?」

レオ:「君に......さっき、ひどいことを言った。どこにでも行ってしまえなんて。あれは......僕の本心じゃない」

ジナ:「......分かってるわ。そもそも私が、あなたに誤解されるようなことをしたのがいけなかったの。私の方こそ、ごめんなさい」

レオ:「謝らなければならないことは、まだあるんだ」

ジナ:「なに?」

レオ:「本当は......今日、君に宝石を贈るはずだったんだ。けれど、それもたった今、失われてしまった」

ジナ:「......」

レオ:「君に贈る宝石に比べたら、価値は劣るかもしれない......けれど、それを承知の上で、どうしてもこの気持ちを、君に贈りたいんだ」

ジナ:「レオ......」

レオ:「ジーナ、改めて言うよ。......僕は君が好きだ。君を誰よりも愛している。僕と、結婚してくれないか?」

ジナ:「......レオ。あなた、宝石はもう無いと言ったけれど......宝石なら、ちゃんとここにあるわ」

レオ:「え?」

ジナ:「私は、あなたのそのお芝居にひたむきな、その碧い《宝石(ひとみ)》に心奪われたんだもの。
    世界中のどんな宝石よりも、あなたのその瞳が、あなたが愛しい。私も、あなたが好きよ、レオ」

レオ:「ジーナ......!」

ロイ:「はーあ、ジーナさんお嫁に行っちまったか。俺タイプだったのになぁ」

デニ:「ああ......レオ様......」

ロイ:「お前も諦めが悪いな、ほんと」

デニ:「うるさいわねえっ......私は今、絶賛失恋中なのよっ......」

ロイ:「......今映画公開されてる新作《マーデュラの狼》知ってるか?」

デニ:「......それが何よ」

ロイ:「それに出てくる主演俳優ヒョー・ジャックミンも、中々のイケメンらしいぞ」

デニ:「......あんた、本当デリカシーが無いわ。欠けてる!決定的にっ!!」

ロイ:「な、なんだよっ」

デニ:「......その映画のチケット、ポップコーン代、もろもろ!全部アンタ持ちだから!分かった!?」

ロイ:「ああ?何だよ急に!」

デニ:「分かった?!」

ロイ:「はあ??なんだよ......しょうがねぇな......」

ボス:後日、ニュース誌には大きく、大物俳優の結婚報道の記事が載った。
   そして、マーデュラの狼の主演:ヒョー・ジャックミンが不倫報道でタブロイド紙にすっぱ抜かれ、
   その事に怒ったデニーがロイを問い詰める声が、どこかのアジトでこだましたと言う。



<完>
お知らせ
実務でも趣味でも役に立つ多機能Webツールサイト【無限ツールズ】で、日常をちょっと便利にしちゃいましょう!
無限ツールズ

 
writening