「死にかけている男性と牧師」


題名:死にかけている男性と牧師 作者:草壁ツノ

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役表
男性:不問 罪を告白しに訪れた男性。
牧師:不問 男性の罪を聞いている男性。
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<役表>
男性:♂♀  
牧師:♂♀  
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*注意点
特に無し
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■利用規約
・アドリブに関して:過度なアドリブはご遠慮下さい。
・営利目的での使用に関して:無許可での利用は禁止しております。希望される場合は事前にご連絡下さい。
・台本の感想、ご意見について:お気軽にお寄せ下さい。Twitter:https://twitter.com/1119ds 草壁ツノまで
・両声類の方の利用について(2021/11/11追加)
 演者の方ご自身の性別を超える役のお芝居はご遠慮しております。

 可能:「不問」と書かれているキャラクターを「キャラクターの性別を変えずに演じる」こと
 不可:「男性」と書かれている役を「女性かつ両声類」の演者が演じること
    「女性」と書かれている役を「男性かつ両声類」の演者が演じること

 ご意見ある所でしょうが、何卒ご理解の程よろしくお願い致します。
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牧師:「汝、罪を告白しなさい」
男性:「はい......牧師様。私の罪を、告白します」

牧師:「聞かせて下さい。あなたは一体、どんな罪を犯したのですか?」
男性:「私は......私は、愛する妻を手にかけてしまいました」
牧師:「ほう、愛する妻をですか......」
男性:「はい、そうなんです」
牧師:「その、理由を聞かせていただいても?」
男性:「......はい、私は傭兵として、戦場で仕事をしていました。
   私自身腕に覚えがあった事もあり、戦地ではそれなりの功績を上げていました。
   妻も、私が活躍をした話をするたびに、嬉しそうにしてくれていました」
牧師:「そうなのですね。しかし――そんな、奥さんを、何故?」
男性:「......牧師様は、ご存じでしょうか。今や、戦争で用いられるようになった、主流の兵器を。
   人体を怪物に変える兵器だそうです」
牧師:「なんと......そのような」
男性:「ええ。それを投薬すれば、訓練を受けていない兵士をも恐るべき怪物へと変貌させ、
   刃物はおろか、銃弾すら受け付けない恐るべき兵士が出来上がるそうです」
牧師:「......もし話が本当だとすれば、恐ろしい話ですね......」
男性:「ええ。そして......その薬が戦争の中心となると、もはやその薬を用いない国は勝つことが
   出来ないとまで言われるようになり......もっとも、私は一時的に雇われているだけの身です。
   この身に危険が及びそうになれば雇用主を変えれば良いだけだと」
牧師:「そうですよね。確かに――」
男性:「――そう、思っていました」
牧師:「まだ、続きがあるのですか?」
男性:「はい、牧師様。この話の続きを、お聞き下さい――。
   私がいつものように仕事を終えて自宅に戻ると、家にいるはずの妻がいないのです。
   そして、自宅の床に残された、大量の足跡と、夥(おびただ)しい血の跡......
   私は慌てて周辺を探して走り回りました。妻の安否がただただ心配で。そして――」
牧師:「そして?」
男性:「――見つけてしまったのです。人の死体を持ち上げ、その血肉を啜っている、怪物となり果てた妻の姿を」
牧師:「なんと......」
男性:「......妻は、私の事を認識しているようでした。人間だった頃の、妻のような素振りで、
   私を手を広げて出迎え、言葉にならない声で言うのです。《おかえり》と――」

男が顔を両手で覆う。

男性:「私はっ!私は、どんな形であれ、妻を! 愛する妻を......!!この手に、かけてしまったのです!
   許されるはずもない......あんなに、私を愛してくれた、妻を、わた、私はっ......」
牧師:「落ち着いて下さい、あなたは悪くありません......」

牧師が続ける。

牧師:「仕方がなかった事と、思います。あなたが手を下さなければ、きっと、奥様は――
   そのまま、本能に支配されたまま、より多くの人々を手にかけていたでしょうから」
男性:「......牧師様。私の罪は、まだあるのです」
牧師:「聞かせて貰えますか?」
男性:「......妻を殺めたその日。私は怒りのあまり、妻に使われた薬品と同じ物を、自分に打ちました。
   妻をあのような姿にした者達を、同じ目に合わせてやるために――」
牧師:「......」
男性:「そして、ここに来るまでの間に、私の目的は成就されました」

自嘲気味に笑う男の両手は赤く染まっている。

男性:「......牧師様、罪の告白だけでは飽き足らず、このようなお願いをする私をお叱り下さい。
   私自身、もう......自分で自分を止められそうにありません」
牧師:「――そうですか。辛い思いをしましたね」

その言葉を皮切りに、男の様子が変わり始める。

男性:「ツライ、思い、ダト......?あ、ガグ、ググ......お前に、オマエに、何が分かるんダ?」
牧師:「......最後に、僅かに残った人間の心で――私に懺悔をしにきてくれたのですね」
男性:「(唸り声を上げて下さい)!!」
牧師:「......もう良いのです。良いのですよ」

短い銃声が響き、怪物の頭を撃ち抜く。

牧師:「哀れな子羊よ、眠りなさい。――神よ、せめて、愛する者の元へ彼の者を導き給え」

<完>
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