彦星は織姫へと駆け上がる


「…失敗、しちゃったな」
「イトカワ」は真っ白い星を軌道上から眺めながら呟く。
「りゅうぐう」による軌道爆撃。それを止めるべく自分は単身軌道上に飛びあがった。
…カルデアの皆さんは残念ながら置いてきぼりだ。 だっていくら英霊がいくらいたとしても軌道上に駆け上がることができる英霊なんて
そうそういるものではない。
自分についてきたとしても酸素も無い宇宙空間では生存することもできない。
だからこその単身突撃。
しかしその結果は敗北。「イトカワ」は「りゅうぐう」に敗れ地球周回軌道を巡るだけになってしまった。
死んだわけではない。とはいえ格上の「りゅうぐう」相手にせっかくカルデアのみんながくれた力で挑みかかったのに負けてしまってはもうどうしようもない。
「イトカワ」は再び真っ白い星を眺める。
思い出すのはあの人が困りながらも説明する様子。
-青とは何か。
-それはこの翼の色だ。
「…全然違うじゃん…」
あの金色の彼に備わっていた翼の色とはかけ離れた、まるで自分のような真っ白い星。
これが地球。彼が帰った場所。
…本当に?
彼はたくさんの人が住んでいるといっていた。 青と白、緑に包まれた綺麗な星だと。
ああ、でもそうだったかもしれない星をあの「りゅうぐう」は壊していく。
なんでだろう。何であんなことをするのだろう。
疑問はたくさん。
でもそれを答えてくれる人は誰もいない。
彼が立ち去った後と同じ。
「…会いたいよ」
その言葉がポツリと漏れた

「?」
そのとき真っ白い星に一つのきらめきが見えた。
あの場所は…カルデアのみんながいる場所だろうか。
でも私以外にここまで来れてあの「りゅうぐう」を止めることができる英霊なんているのだろうか?

それは轟音と共に空に駆け上がっていくものを見つめていた。
「哀れなことだ」
種子島のアルターエゴ、そう呼ばれるそれは明らかに憐憫を込めてそれを眺めている。
先に上がった「イトカワ」は撃ち落とすことは出来なかったがこちらは違う。
燃料を大量に消費しながら重力の檻を必死に抜け出そうとするそれは格好の標的であり、それを彼が見逃すことなどありえなかった。
「宝具を使うまでもない」
凄まじい魔力が込められた弓を天へ駆け上がるロケットに向ける。
「無様に落ちるがいい。哀れなるもの」
矢が無慈悲にも放たれた。

放たれた矢を見てそれはにやりと笑う。
「見つけた!」
種子島のアルターエゴはこの特異点において明確にカルデアの敵でありながらなかなかその足をつかむことができなかった。
だからこの打ち上げも当然妨害される。
カルデアはそういってアルターエゴが討伐されるまでは打ち上げすることができないと言っていた。
それの反対を押し切って打ち上げをしたのは彼だ。
何故ならば。
「すぐそこに、イトカワがいるのに届かないわけがないからな」
彼ははやぶさ。 五万六千分の一の引力を辿って、1億2000万kmの距離を超えて彼女の元へたどり着いたもの。
たかが一人のサーヴァントが邪魔できるわけがない。
「さあ、イトカワ、今ここに再び我が奇跡を見せよう」
そのつぶやきと共に大量の魔力がパスを通じて送り届けられる。
あのカルデアのマスターが彼のために令呪を切ってくれたのだ。
ならば、することは一つ。
「我は届ける。人の夢、人の名前。届けて見せよう、あの愛らしき星の元へ」
紡ぐのは己が使命に託された願い。
「たとえこの身が果てるとも!」
解き放つのは我が偉業、届ける物はこの我が身そのもの
「『隼は黒白の星を望む』!」
さあ、たった35,786kmの距離だ。あの2年の旅路に比べたら一瞬に過ぎない距離。それを邪魔できるなんて考える奴は
「馬に蹴られて地獄に落ちろ!」
放たれた矢を置き去りにして彼の宝具によって後押しされたロケットは織姫が待つ軌道上へ駆け上っていく。

同時にカルデアのマスターたちも動いていた。
はやぶさがイトカワを助けに向かう一方で彼らは大本命たる次のロケットの打ち上げを守るためにアルターエゴを倒しに向かうのだ。
そのための情報はアルターエゴ自身が暴露している。
「はやぶさ」から観測されたデータを元にダヴィンチたちはすでに居場所を特定していた。
カルデアの、人類の反撃が始まろうとしていた。
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