【閲覧注意】 アレクセイ・コノエ×アーサー・トライン


「人類存亡をかけた最後の防衛策…デスティニープランを開始する」

この宙の中で、一人の人間が…宣言する。
遺伝子による職業選別、争いもなく優劣も決まりきったその宣言は…はたして、人であることの証明となるだろうか。争いもが無くなれば、このような戦争も起きなくて済むだろう。優れているか、優れていないかの永遠の争いに終止符が打てるだろう。
しかし、それは人の思いを無駄にする。
結局は、遺伝子が優れていれば…何にでもなれるのだから。
「なっ…一体、何を考えて」
「…」
これはきっと正しいのだろう。人は指導者を欲する、指導者の下に与えられた命令をこなせばいいのだ。しかし、その指導者がなんの学び萌えていないまま、ポンと置かれたように立たせていいのか?
きっと、指導者の周りには軋みも生じ、指導者は体の良い傀儡となる。
それでも、この宣言の下にされたプランなら仕方ない、で済まされる。だって、遺伝子が優秀なんだから。
「艦長、よろしいですか。いえ、申し上げます…熱源反応あり。また、筒状の物体を捕捉し解析したところ、反射反応を行わせる精製と断定。…月の裏側に、基地施設で熱源…まさか」
宇宙からの高威力の破壊。寒気がいっそうひどくなる…そうだ、似たようなことが、最近起きたはずだ…考えろ。思い出せ…あれは。

「…っ!レクイエムかっ」

すぐさま割り出しを行わせる、アルバートも気づいたようで指を走らせているが…舌打ちが聞こえる。
「第一次中継点を割りだし…く、間に合わない!」
「どこに向かう!」
「アルザッヘル基地です。……沈黙を確認」
この短時間…いや、あの演説で時間を稼がれたか。
中継コロニーの所在位置を割り出させ、画面を共有。…随分と、陰鬱なことをしてくれる。この破壊兵器は、もう使用しないと言ったのではないか?まぁいい、問題は…この基地へと照射された際に巻き込まれたわが軍の艦隊、それの被害状況だ。
このレクイエムの使用により不信感は想定内。次に目を配らせるべきは、被害の大きさだ…この手はイチかバチかだろう。
「被害報告…ザフト側のほうには、被害はありません」
「そうか…。議長は…あのメサイアに居るのか」
肯定の言葉が聞こえる、ひし形のような宇宙要塞。いつの間にあんな大それた基地を建設していた、シナリオ通りに動くことを確信してか。
しかし、不信感が生まれたのは事実。
「神はとっくに我々の手で殺したはずだというのに…」

戦況は正直言って、ザフトにとっては不利だ。地球連合と対峙し、さらに言えば第三者との交戦をするほどの戦力は情けないが、心許ない。確かに強いパイロットは居る、だが…結局のところ彼らの疲労を考え、長期で見る限り、勝利の望みは薄い。
ハッキリ言おう。第三者であるアークエンジェル及びエターナル…もはや、私のような臆病者は彼らにすがりたい。
この戦いを止めてくれ、と。
すると、アルバートはこちらを向きながらハッキリとした声量で声を上げた。
「艦長、宣言します。私はあのレクイエムを護れとおっしゃるなら、この船から降ろさせてもらいたい」
「ハインライン大尉!貴様、何を言って」
「何を言っている?レクイエムを使ってまでそのプランを承認させるというなら、私はそこまでする義理も無いですね。私は遺伝子で優劣するならば、なおのこと自らの腕と頭を叩きあげてから勝負してもらいたい。
私はコーディネイターだ。しかし、私でさえも優に超える技術者は居る、ナチュラルであったこともある。
遺伝子ごときで優劣されるくらいなら、私が学んで叩き上げてきた腕は、無駄だと言うのか?遺伝子ごときで、私の意志で使った時間を否定させるだと?
ふざけるな、と言いたいですね」
「だが議長の言葉は正しいっ。現に指導者が決められ、さらには己の道を示してくれる未来を語るプランでもあるのだぞ」
「もういい、ここで言い争ってもしょうがないだろう。ここは戦場、死ぬ場所だ」
言い争ったところで、何になる。後ろから撃たれるぞ…まったく。
「それで、承認してくれますか?」
「…」
「……ミネルバは、前線でアークエンジェルと交戦中。これが、最後となりますよ」
何でミネルバが出てくる。あの船は議長のお抱えの船だ、今更こんなことをされても議長を裏切ることは無い。あの艦長は言いたくても、言えないのだが…。
いらだちを隠しながら、アルバートにこう語る。
「何が言いたい」
「加勢しますか?ここからだと間に合いますが」
ハッキリと言え。
「あなたのソレが、弱点ですよ」
そう言い切り、続けざま…無慈悲な報告を告げてくる。血の気がすべて引くように、目の前すらも真っ暗になるような…何もかも、放り出したくなるような言葉だ。


「ミネルバ撃沈。続けて被害報告、ザフト艦艇マルベースとプルトンの沈黙確認」

「は?」
「照準先割り出します。…機動要塞メサイア、議長からです」
あの要塞からか…まさか、ミネルバも?それに、ザフト艦艇まで…そこまでして、議長よあなたはそこまでしてまで、このプランを実行するというのか?
「それで、どうしますか?」
私は、…。
どこかで何かがヒビが入り…崩れたような音が聞こえた。

ここまで、どうしたか覚えていない。アルバートは何も言わず、副長もクルーも口を濁すばかり。何をした、…いや、反旗を翻したのだろう。持てる力を使って、私は…議長の下から離れた、敵に回ったのだ。
ミネルバの撃沈の報を受け、頭が白紙となり声すらも出ない。ただただ、彼の姿を思い出すだけで胸が苦しくなる。解っていた、私が彼に向ける感情を…目を逸らしていたのかもしれない、無意識に遠ざけていた。
これが恋、と言うならばきっとそうだ。
これが愛だと言うならば、…違いない

私は彼を愛していたんだ。一目惚れだろう、それでも…短い期間であっても、私はあの人間を愛していたんだ。

「ようやくですか。その年になって鈍くなりましたね」
「…口が過ぎるぞ」
「それと、自分は撃沈、と言ったんですが」
「何だいきなり」
「そのままの意味ですよ。…では、私はここで待っています」
形だけの敬礼を行い、すぐに後ろを向けスタスタと離れていった。待つと言ったのだから…まったく、アレも困ったものだ。興味の無いことはほとんど興味無い、まるで手の掛かる猫を飼っているかのようだ。
私は小さく息を吐き、指定された広間へと向かう。
同じ白服たちも習って入ってい来る、黒服たちは数人ほど先に入っていたらしい。黒服…彼が居ないはずなのに、な。…撃沈、確かに消滅とは言ってなかった。その言葉に希望を持ちたくて、心の内で彼が生きていることを期待してしまう自分がいる。

視界に映る、あの暗いオリーブが見えた。

それとともに、あの桃色の歌姫の姿もある。そうか、彼女が戻ってきたのか…戻らなくていいはずなのに、強い人だ。
「ここに居られましたか。コノエ大佐」
カツカツと、小気味の良いブーツの音を立たせる若き将に、傍には彼の右腕と左腕が一名ずつ。赤と黒の、時代を導く者たちだ。白く切り揃た短い髪を揺らし、そのナイフのような目はあの女傑殿と同じ目。以前見た彼は、確か…いや、これは野暮な話だな。
「これはジュール大佐どの」
イザーク・ジュール。かのザラ派であるレザリア・ジュールのご子息である彼は議会委員でありながら、こうやって戦場で指揮を執っている多彩な人物であった。若い内から表に立ち、政への参加…何かが、彼を掻き立てている。先の戦争では多くの若い命が散り、歴戦の者たちも散らしていった。
私の動機であり戦友に教え子も、しかり。
「この度はご迷惑と共に、…ご助力感謝いたします。ですが、あなたのご発言のおかげで多くの者たちが終息へと、尽力を注ぎました」
「…正直な話、私はあまり覚えていないのです。馬鹿な老人がたわ言を言ったまでですよ」
「ですが…。いえ、…我々はまだ、やりきれないことが多いのです。どうか、お力をお貸しください」
「この老いぼれの力になれるなら、いくらでも」
多くは言わない、これからの事は誰もがそのことを嫌でも解ってしまっていた。議長が提示したプランを選ばず、我らの手で選択し、掴まなければならなくなった。未来が見えない、昔から…低迷だったのを、さらに先延ばしにしている。
それでも、私どもの選んだ未来だ…今更、誰が後悔しようとも歩むしかない。
そういう事だ、選択と言うのは。
このアプリリウスの地、ザフト本部内に設けられた通路。通路はまるで橋を模しているかのように一本道で、周りは薄く水が張られている。
先頭に立つは、ラクス・クライン。周りは私とジュール大佐以外にはすべて黒で他は彼の側近、ハーネンフースの赤服が映える。私の対になる位置には…トライン少佐が彼が立っている。暗い顔をのぞかせるが、前方に人の気配が見えるとすぐにキリッと、まじめな顔を浮かばせる。
気配の正体は、白いザフト軍服をキタ一人の少年…彼が、フリーダムのパイロットか。随分と若いな、周りの者たちも多くはザフト兵で、中には報告にあった協力者と脱走者が居ることに呆れが出る。今更、この場で咎めることは無いが…頭が痛いものだ。

「キラッ」
「ラクスッ」

両人はこちらのことを忘れてか、お互いの存在を確かめ合うように抱き合う。なんとも幸せそうなことであるし、随分と熱愛じゃないか。ちらりとジュール大佐を横目に見る。眉間にしわを寄せる程度に抑え、大きくため息を吐いた。
次にトライン少佐に視線を移せば、一瞬驚きの表情を浮かべる。彼は良くも悪くも、素直すぎるところがあるな。
そうして観念したかのように、小さく笑みを浮かべる。彼らによって船が落とされたはずなのに、…それ以上のことを望まず。ただ、目の前の両人たちを受け入れている。奥底ではきっと蒸し返しても意味ない、諦めも含まれているだろう。
「……素敵だなぁ」
そんな言葉がトライン少佐から漏れ出る。彼はとっさに口を抑え、慌てた様子を見せるがすぐに大人しくなり、先ほどよりもいっそう真面目な顔を取った。
向こうの方は…案の定、彼らの関係性を知らなかったとみる。一部は、恨めしげな顔を浮かべているが…見なかったことにしよう。


プラント共同墓地、日に日に増える軍人たちの墓場はまばらながらも遺族の者たちが訪れ、顔を見せに来た。
ある者は花束を、ある者は上等な酒類を、その両方を持ってくる者も居る。彼は白い百合と、一輪だけ青みがかった紫色の花を指した花束を持っていた、酒類のモノは持ち合わせていな。
ここに来たのは偶然だ。知己と部下に生徒、先の戦争で死んでいった者たちのところへ顔向け、という意味合いで行ってきたのだ。そこに、彼がたまたま居合わせたにすぎない…前は、何時ぶりだろうか。
あの返還を終え、少しの時間が出来た時に話しかけたものの…あの表情で、避けられてばっかりだった。
もとより彼の電話番号すら知らず、かと言って無断で調べかけようものなら…。
いや、もうそれはいい。ともかく、せめて話くらいはしたい…あの約束をした以上は、それでケリを付ければいい。
彼に何かをしたか、嫌なことをしたか、そればかりが頭でいっぱいになった時もあったのだから。
「おひさし、ぶり、です。…その、あはは…生き残れました」
「撃沈の報を受けた時は…目の前が真っ白になった」
「ご心配おかけしてすいません。この通り、ピンピンしてますので」
「五体満足、それは喜ばしい。私は…君が生きてくれるだけで満足だ。いや、違うな」
わずかに近づく、そのたびに彼は半歩ほど後ろへと下がった。身を縮こませ、下を俯くばかりでこちらを見てくれない。
スタンダードな喪服に白いシャツ、一般的なデザイン。しかし、材質は上等なものでそこそこ値が張る代物と見る。
「…あ、あの…ちかい、です」
「君が逃げなければ、少しは離れるさ」
そう告げれば、しばらく口を閉ざし…熟考した結果ここから離れた小さな公園へと向かおうと言った。

プラントは時間というモノは確かに存在する。元より太陽に近く、それでいて地球と隣であるため、それでこそ争いが終わらない原因でもある。この環境は人工物ではあるものの、水も空気もちゃんと備わり箱庭ではあるが、生活には困らない。医療設備も、完備されているし技術力も高い…しかし、それでも食料品には限りがある。プラントおよびその内部の敷地内も限りがあった。
時刻は夕方に差し掛かり、日が沈み地平線の境目が出来るほど。暗がりとなっていく景色は、人工物の中とは言えやはり、きれいだ。
隣にいる彼、トラインくんは夕日をじっと見つめる。
「…キレイ、ですね。そういえば、ジブラルタル基地でもこんな時間帯でしたね」
「そうだな。私としては地球のほうが、きれいだな」
えぇーと、隣で少しおどけながらくすくすと小さく笑う。
私は見下ろすように彼を見つめ、…言いかけた言葉を言おうと必死になる。しかし、恥ずかしさが勝り…上手く言えない。
言わなければ、…これっきりだろう。
こちらに気付き、きょとんと目を合わせる。その小さな口が薄く開いていたが、閉じてしまった。

「トラインくん、私は君が好きだ」

随分な間が開いたのち、トラインくんは間抜けな声で短い言葉を発する。顔は驚いていたが、次第にこちらの言った言葉を理解してか…顔を赤らめる。何か言いたいのだろう、それが上手く言葉に出ずに声を詰まらせ、目を泳がしている。
「あ、そ、その…それってご、友人として」
「君のその反応で、私は期待してしまうよ」
「う…えっと…」
ふい、とまた顔を逸らされてしまう。こっちを向いてくれ、せめて…せめて、今だけはこっちを向いてくれ。夕日でもない、芝生でもなく、宙でもない…ただ、私を少しでも長く見てくれ。君にそんな気持ちがないならば、これは簡単な話だろう。
もとより、ジブラルタル以前から…君はちゃんとそういった関係でない限り、目を見れていたじゃないか。なぜ今となってそんな目を伏して、こちらを見ないんだ…なにも無ければ君は、こっちを見るだろうに。勘違いをさせないでくれ。
グイ、と頬を添え無理にでもこちらに向けさせる。
「う…ぅ…」
「こっちを見てくれ、トラインくん」
「…だ、駄目です。僕は、あなたより弱くて…強くも出来が良いわけでも、無い。艦長を、止められないで…。
こうやって、生きてるんです」
口元を抑え、目を伏し溢れた涙が頬を伝う。私の手にもその湿り気を感じ取れた。
あふれる涙を抑えられずに流れ続ける。ずっと辛抱強くこの戦場の下で立ち続け、尊敬していた上司を失いクルーも船も、失った。珍しいことではない、それが…戦争だ。
ただ、ただ…勝ったことへの承認欲求を満たし、その上で目を伏せられてばかり。犠牲の数が、闇に埋もれ続ける毎日。今日もどこかで悲鳴が聞こえ、称賛の声が聞こえる。明日にはどれくらいの声が聞こえる?
そんなものだ、戦争なんぞ…。だからこそ、変えていかなければいけない。
「生きることは、誰かに会うためだろう?…それを、私にしてほしい」
「…なんで」
今でも、どうしてこんな感情を持ったのかは分からない。盲目なのだ、私は。
恋を知って、彼が欲しいと知ってしまったから…見えなくなってそれっきり。短い期間ですべてを知ることは出来ないから、君に告白し…それからを考え、愛していく。
「さあな。…今でも解らない、だから知っていきたい。君を知って、どうして惚れたのかを知りたいんだよ」
なんです、それ…と自棄気味な感情を吐露するように消えそうな声で、呟いた。涙が引いていき、目元を赤く腫れさせながら困った笑みを浮かべている。顔も少しばかり赤いような気がする、夕日の所為かそれとも。
口元を抑えていた手は下がり、声がやっと聞こえる。君の声は明るいが、それでいて大人の声と同様に低さがあった。
少年の高い声ではない、彼が成人だという証拠にもなっていた。
「ばかな人」
「なんとでも」
そんなことを言うしかない。だってこれ以上の言葉が思いつかないのだ、君の前では私は仮面を外れてしまうようだから。
「それにトラインくん、…アーサーが死んだら一生引きずる気でいたよ」
一生分、君を思って死ぬ。それくらいは、別にいいだろう?そう続け、彼は呆れたような声だが、嬉しそうな笑みで本当に馬鹿な人、と呟く。

つま先立ちをし、夕日に近い目を閉じて…ゆっくりと顔を上げ待ってくれる。
夕日、黄昏が終わり…一瞬だけ、光の筋が一本真っ直ぐに伸ばされる。その短い瞬間、柔らかくかさついた唇が触れた。

──そうして、夜となったのだ。
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