【閲覧注意】 アレクセイ・コノエ×アーサー・トライン


「え、僕が女役ですか。嫌ですよ」
「私も嫌だが?42のいい歳だぞ、腰いわすに決まってる」
いわしていいです、と上官に向かってなんて薄情なことを言うんだこの副長。良い笑みを浮かべ、はっきりとノーと突き返す顔は、何とも気持ちのいい。それに僕の方が上手く踊れますから、いわすことはしないですよ?なんてどこからそんな自信が出るのか、と言いたくなるほどに、不安と期待が入り混じってしまう。
とは言え、そこまで言うなら…と私が女役となる結果となった。なんで、このようにダンスをするのかと言えば、雑談の中で社交ダンスの話題となったからだ。つい先ほど、休憩室でテレビで流れていた特集の内容が、社交ダンスだったに過ぎない。それも、すぐにチャンネルが変えられてしまったが。
その話題となって、出来るかできないかとなり、あれよあれよと踊ることとなったのだ。
場所は本日は使われることのない、窓が設置された一室。流れる星々のかけらが漂い、わずかな光の群小が見えている。
「さ、教えますから僕の手を取って。お姫様」
「私の下手さは講師お墨付きだ。痛いぞ」
「イイですよ、踏まれ慣れてます」
にかり、と少し腹の立つ笑みを浮かべ私の手を取り、肩に手を添えゆっくりとした動きで予備足を踏む。
一歩、二歩、三歩、踏み出しくるりと右回りのターンが入る。腰を壊さない程度、繊細に扱うように彼の手に力が入るのを感じる。
いち、に、さん、…息を合わせて、と囁くように副長の声がゾワゾワと耳をくすぐる。彼の言うとおりに、一歩、二歩、三歩と回転をしながらくるくる、と動いていると、不思議なくらいに彼の動きにあっている気がした。正直、動きに付いて行くのがやっとだ。
「ふふ、お上手」
「冗談は、よして、くれ」
視界が流れの早い様子を写し、三歩めのステップで一度片足をつま先立ちのように伸ばし、つないだ手を高く上げる。待て、この状態のキープは…そう悲鳴を上げようとしたが、大丈夫、とこちらの不安を取り除くような優しい声で、肩に支えがしっかりとなった。ゆっくりと戻し、そのペースのままターンを三回ほど繰り返す。
お互いの足を上下に広げ、横に腕を上げる。どうやら、足が震えていたらしくくすくすと、間近から笑い声が聞こえた。
いらだちを見せようかと思ったが、どうして不快な気持ちが沸かない。それもそうだ、馬鹿にするでもなく、純粋な気持ちで彼は笑っていた。一瞬だけ見えたその笑みが不意打ちと言わんばかりに心臓を掴む、それでいて…彼が私のパートナーであったのなら、なんて思ってしまうほど。
……これは、女性が惚れるのも頷けるかもしれん。
テンポよく踊り、ついに来たか…お互いの繋いだ手一本だけを支えとなるモーション。頼むから手を放さないでくれ、と私は心の内で悲鳴を上げた。
常に、嬉しそうな笑みを浮かべている。…これじゃあ、私が道化だぞ。
モーションが終わり、最後ですよ、とようやく終幕の宣言が入った。ターンの入った三歩のモーションを入れ最後の時、私は手を放し二回転ほどで女役のお辞儀をする。
「できたじゃないですか」
「うるさいぞ」
「ええー、せっかく褒めたのに…」
そんな軽口を叩きながら、私は腰をトントン、こぶしを作り叩く。副長は背筋を伸ばし、腰に両手を添え、反った姿勢を取り出した。
「また踊りましょうね。上手くなったら、僕が女役でいいですよ」
ほう、良いことを聞いた。ここまでさんざんと面白おかしく笑われた、いらだちや不快も無いが、癪に障るというもの。こちらとて、プライドくらいはあるさ文句は言わせない。
ふつふつと静かに、徐々に湧きあがる対抗心を沸かしながら、低めの声を出した。
「二言はないな?」
「ひえ」


「なんて、そんなこともあったな。なぁお姫様」
「根に持ちすぎでしょ…アレクセイさん」
「君が妙に王子様らしくてな、つい対抗心が湧いた」
あの時とは違い、アーサーが女役となる。あの時のちんけな敗北感を糧に、時間があるときは昔の部下や教え子を使って散々と練習し、講師にも悲鳴を上げさせた。足を踏みまくっての悲鳴だが。
アルバートはすぐに根を上げるどころか、下手くそだのテンポが遅いだの、ダサいだの文句と罵倒を言いながら付き合ってくれた。足を踏むたびに、あの早口がBGMのように流れ私は聞き流し、ステップを覚え込んでいく。
感謝もしているし、恩義も感じる。イイ教え子を持ったよ、私は。
「周りにも同性ペアも居る。珍しくは無いという事だ」
「そうかなぁ…」
コンパスとザフトを主体とし、懇親会のような集まりが行われた。また、少ない参加だがオーブや大西洋連邦も集まっている。ここで暗躍なんぞすることは目に見えるが、せめてこの情勢、少しは羽を伸ばしてもいいだろうに。
ここにはコンパスメンバーをはじめ、ザフトの佐官から尉官クラス、それに料理を求め参加した下官たちが集まっていた。
大きめの会場で数々のテーブルに、料理が並ばれ若い連中たちはそこに群がっている。…アスカ大尉、少しは目立つことを控えて欲しいんだがなぁ・・・。黒服たちはボトルとグラスを器用に持ち、スイスイと集まりをすり抜ける。
中央には幾人かの社交ダンスをはじめ、小さな楽団による音楽が演奏されゆったりと流れ、踊っている。
若い連中は料理を楽しみ、大人たちはお酒とその余興を愉しんでいる様子。
キラ准将たちも、一曲踊るつもりらしいな。こちらは引き立て役でもしようか、とアーサーに提案すると、小さく頷きを入れる。了承の返事を受け取り、私は彼の手を引きながら舞台へと足を踏み入れた。
緊張感は無いが、アーサーは…杞憂のようだな。
「ここで笑いを取るなら、アレクセイさんがいいんじゃ」
「女役を引き受けただろう。今更下りるんじゃない」
えぇ…と、あまり釈然としない返事をするが。…こちらとて、この時ではないにせよ、君をリードするために修練を重ねてきたのだ。
それに、惚れたからには、君にかっこいいところを見せつけたいものだよ。
アーサーの手を取り、肩に手を添え…予備足を踏み入れた。アーサーの方は私の肘までのとこで、留めている。ペースとしては…少し早いな。
「准将たちは付いていけてますね」
「私たちも上げるか」
それでも准将たちのワンテンポ遅れを取りながら足を踏み込み、一歩、二歩、三歩、とステップを踏んでいく。
一歩、次にターンを入れて三歩踏み込む。ぶつからないよう、周りに気を配りくるくると、ステップを踏み続けていく。つま先立ちでアーサーをゆっくりと床に近づけさせお互いの片足を広げ、繋いだ手と腕を上へと伸ばす。
いつかのあのモーション、アーサーの肩に手をしっかりと添えて支えた。
約一秒、お互いを見つめゆっくりと姿勢を戻す。
身体を揺らすようにスッテプを入れ、数字の八を描くように流れていく。…おかしい、周りで踊っていたペアたちが引いた。困ったな、これではキラ准将たちが浮いてしまう。
「アリョーシャ。雑念が入ってるこっちを見て、そう…」
雑念、と言う言葉に意識が引きアーサーの声に従い、彼の顔へと向けば…ニコリ、と笑みがむけられる。
「准将たちはちゃんとついていけてるし、注目してるから大丈夫」
なら、いい。
それだけ聞けば、十分だ。いまだアーサーが私に合わせてくれるのが、どうも情けなくなってしまうな。
…君とこうやって、ダンスをするのは、何時ぶりか。
そんな余韻に浸り、お互いの足を踏み込み、動きに合わせていく。そろそろ、終幕だろうか…アーサーに目を合わせると、小さく頷き肘に力が入った感触を覚える。このままのペースで、一歩、二歩、三歩、とターンを決めて、…手を放した。
女役の終わりターンを入れ頼みとどけ、胸に手を添え膝をやんわりと曲げ頭を下げる。
一瞬、音楽とともにしん…と静まり返ったが。
大きな喝さいが会場全体に響いた。後ろを振り向けば、准将と総裁はお互いの手を取り合い、こちらを見ている。
何だ、その…微笑ましいと言わんばかりの、目線は。
…まさか。
「アレクセイさん、戻りますよ?」
「あ、あぁ…」
袖を引っ張られ、アーサーに促されるまま人だかりの仲へと踏み込んでいった。周りの視線が突き刺さる、中には囁くような声が上がり、内容は准将と…私どもの話となっていた。引き立て役、と言いたかったが、周りのペアが引っ込んでしまったが故の誤算。
今更、恥ずかしさがこみあげてきた。
当のアーサーは素知らぬ顔で、いつの間にか差を手にし料理を食している。もくもくと頬を膨らまし、おいしそうに食べている。羨ましい限りだよ。
「堂々としていれば、案外なんともないですよー」
そうだった、この男は変に図太い男だった。私はそんなアーサーをしり目に、黒服からシャンパンを貰い…喉に流し込んだ。
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