【閲覧注意】ハインライン×アーサー♀ その2


時系列:劇場版後
ハインライン設計局とか色々捏造過多注意。
アーサーは女性ですが名前はアーサーのままです。
※以前書いた続きです。
※ウィリアム→アーサーを含みます。

ミレニアムに複数ある休憩室のテーブルセットの一つで、コノエはハインラインとアーサーの前にコーヒーを置き、自分のコーヒーを持って向かい側に座る。
今回の帰港で補充された新人がブリッジクルー経由で助けを求めてきた時は何事かと思ったが、聞けばただの痴話喧嘩だった。
ハインライン設計局の局長から、もはや新型兵器の導入計画か何かと思うような緻密かつ人間味の無い婚姻スケジュールを一方的に送られて来た時はどうしたものかと思ったが、痴話喧嘩の内容を聞く限り少なくともハインラインの方はそれなりに婚約を意識はしているらしい。
逆にアーサーの方はハインラインの態度にもどこか他人事のような雰囲気だ。
ハインラインとアーサーを引き剥がし、4人掛けのテーブルセットに並んで座らせたところでアーサーからは深々と頭を下げられた。
「申し訳ございません艦長。副長の立場でありながらクルーの前で大尉と騒ぎを起こしてしまいました。その上艦長にまで御足労頂き、本当に申し訳なく思っております」
テーブルに髪がつきそうなほど深く頭を下げ微動だにしない。
そそっかしく頼りないと言われるアーサーだが、仮にも佐官教育を受け上官としての立ち振る舞いは身についている。
普段発揮されていないが。
いつもキビキビと動いていればナメた態度を取る輩も減るのだがなぁ、と思いながらまぁ良いかとコノエは明後日の方向に行きそうな思考を戻す。
良くも悪くもコーディネーターは実力主義であるため、オーバーリアクションでうるさくて頼りなくても仕事をこなしているアーサーを邪険にする事はあっても指示に従わない事は無い。
少し前までのハインラインもアーサーに最低限必要な仕事でしか話しかけもしないが、理不尽に無視する事も無かった。
神妙な態度で頭を下げるアーサーに一拍遅れてハインラインも頭を下げる。
「申し訳ございませんでした、艦長」
いつもの勢いが感じられない、どこか戸惑いを含んだような謝罪の言葉に、コノエはワザとらしくため息をついて見せた。
「まぁ、とりあえず顔を上げたまえ」
その言葉にアーサーがスッと、ハインラインは戸惑いがちに顔を上げて見せる。
「いきなり新人クルーに『副長とハインライン大尉が痴話喧嘩です!』などとブリッジで叫ばれてしまって大混乱だったよ、休息中の事とはいえ後でブリッジに戻ったら皆に謝っておきなさい、良いね」
艦長としてではなく少しばかり意識して教師の顔を覗かせる。
言外にあくまでプライベートの話であって仕事の話ではない、と印象付ける。
客観的に見れば、勤務中に大尉が上官で少佐の副長を自分の物扱いするわ、暴言を吐くわ、その内容が痴話喧嘩だわ。処分必須のスキャンダルではある。
だが見ている分には面白いが、報告書にはあげたくない。
コンパスにはミレニアムごとザフトから出向中とはいえ、当然オーブと大西洋連邦の監視の目はある。
規律に従って処分を下せば他国の目にもその内容は触れられてしまう。
ただでさえ凍結から再開に向けて面倒な手続きの真っ最中なのだ。
特にザフトはファウンデーションの事件の際のクーデターの失態を取り返しきれていない状況である。
スキャンダルだけはどうしても避けたい。
「えーっ、良いんですか!隠し事は不味くないですか??」
コノエの考えを言葉にせずとも正確に読み取ってアーサーがいつもの喧しさで首を傾げて見せる。
隣の声にうるさそうにしながらも何か誤魔化すようにハインラインはモノクルデバイスに触れる。
(アルバートの内心を誤魔化す時の癖は昔から変わらんなぁ)
ミレニアムより前のハインラインを思い出しながらすっかり冷めたコーヒーを飲む。
「うーん、でも騒ぎになるより大した事じゃないんだし誤魔化しちゃった方が良いですかね。ブリッジクルーは大丈夫でしょうけど新人達に口止め出来るかなぁ、配属先がミレニアムって決定したわけでも無いんですよね?」
今回の新人の多くはザフトからではあるが、数人はオーブからも来ている。
ミレニアムはザフトの最新鋭艦であり、当然ザフトとしてはザフト軍人以外載せたくないのだが、オーブ所属のアークエンジェルが沈んでしまい、元々のクルーは今はオーブの軍艦を借りて仮運行中の状況では新人育成の余裕がないとオーブに「相談」されてしまった。
オーブ出身のコーディネーターならミレニアムでの活動に従事できると思うのだがどうだろう。もちろん守秘義務は徹底させる。と言われてしまっては、例のクーデターのせいで今までで一番発言権が弱まっているザフトに、実質的な勝者であるオーブの「相談」を退ける術は無い。
苦々しい顔で顛末を話したラメント議長を思い出しながらコノエはもう一口コーヒーを飲む。
「まあ、正式な配属先決定後にあちらに戻る者がいても、あくまで今回の件はプライベートであると言い続ければ無理に深掘りするような話でも無い。向こうだってザフト軍人のアーサーを口説いてきたんだろう?」
「え!?やだなー、あんなの揶揄われただけですよー」
本気なわけ無いじゃないですかー、とニコニコ笑うアーサーをハインラインがジロリと睨む。
「えーっ、何?何で睨むの!?」
「…いえ、別に」
「なんかいつものハインライン大尉じゃないみたいですね、大丈夫ですか?何か悪い物でも食べました?いつもならいっぱいお小言言ってくるのに」
顔を背けるハインラインをアーサーが覗き込む。
天然って怖いなぁ、とコノエは思うのだが放っておくと先ほどの痴話喧嘩に逆戻りだ。
「とりあえず状況を整理したいのだが良いかね?あくまでプライベートの雑談として、だが」
「あ、はい。本当にご迷惑をお掛けしてすみません。実は極々プライベートな事なんですが、自分は今成り行きでハインライン大尉と婚約してまして!あ、でもすぐに婚約解消するので大丈夫です!」
ほんと、天然って怖いなぁ。
コーヒーが一層苦く思えるハインラインの怒涛の罵倒をBGMにコノエはこっそりため息をついた。


何で怒られてるんだろうと涙目になるアーサーにハインラインの罵倒の言葉が止む。
実にバリエーション豊かな罵倒の羅列を早口で捲し立てるのにはいっそ感心するほどだが、これがハインラインの部下ならいっそ首をくくりかねないレベルではあった。
その罵倒を受けて「怒られちゃった」で済むアーサーはある意味強いのかも知れない。
アーサーの目尻に光るものを見て、動揺して黙ったハインラインにコノエは少しばかり微笑ましく思う。
生徒の成長は教師の喜びである。
正確にはハインラインは生徒ではなく部下だが、今まさに人として成長しようとする姿は喜ばしいものだ。
(まぁ、婚約者を泣くまで罵倒するのはマイナス100点だが)
落第どころではないし、コレが自分の息子ならブン殴ってでも矯正するが、ハインラインは部下なのでそこまではしない。
ハインラインが変わりたいと相談しに来れば別だが、そこまでこの部下の情緒は育ってないだろう。
ようやく人を意識し始めた対人レベル赤ん坊に今すぐ立って走れというのは無茶というものだ。
形状記憶合金並みにすぐ回復するアーサーのメンタルに異常が出ない限りは、徐々にハインラインを育てて貰おう。スキャンダルが表沙汰になる前に、なるべく早く。
押し黙ったハインラインを制しながらまずはアーサーから詳しく話を聞き出し、そのあとはアーサーを制しながらハインラインから話を聞く。
保育士の適正はコーディネイトされて無かったと思うんだがなぁとコノエは心の中でボヤいた。

アーサーとハインラインの2人から経緯を聞き出し、コノエは状況を整理する。
故グラディス艦長の遺児であるウィリアム君を正式に引き取りたいアーサーが手続きを相談しに行った役所で丸め込まれお見合いを了承し、さらにうっかり仕事が忙しくて釣り書きもろくに確認しないままお見合いに臨んだら相手が引っ張り出されたハインラインだった。さらに局長に丸め込まれトントン拍子に婚約と相なったと。
「詐欺には気をつけるように」割と真面目にコノエは忠告してしまった。
不思議そうに首を傾げながらアーサーが「分かりました!」と元気よく返事をする。
分かってないだろう、絶対。
「親御さんにも言われたことはないかね」
「いっぱい言われました!自分の両親は心配性なんですよねー」
そうかー、今現在良い様にされてる真っ最中なのだがなぁ。
彼女の親御さんはさぞ娘の独り立ちを心配された事だろう。
「しかし何故ウィリアム君と養子縁組したいのかね。
養育費は基金から出ているし、君が第二後見人であるから特に手続き等も問題無いはずだが?」
軍人の遺児には手厚い補償がある上に、現役軍人のアーサーが第二後見人なのでプラントで生活する限りウィリアムに不自由は無いはずだ。
「普通に生活する上では無いのですが…ウィル、いえ『ウィリアム・グラディス』はザフトへの入隊を希望しています」
「タリア・グラディス艦長の遺児が、ザフトへ?」
ハインラインが目を見開く。
コノエも開きかけた口を閉じる様に顎をなぞる。
ザフトは元々義勇兵であり、その入隊は志願を持ってなされる。
逆に言えば成人して健康な生粋のプラント市民が入隊を希望すれば、士官アカデミーへの入学はまず問題無いはずである。
はずではあるが、『ウィリアム・グラディス』がそのまま入学する事は難しいだろう。
故タリア・グラディス艦長の軍人としての能力は非常に優秀である事は記録として残っており、その遺伝子を受け継ぐ遺児は本来は絶賛され歓迎されるところではあるが、それでも立場がまずすぎた。
『デュランダル議長の愛人は、退艦指揮中に自ら艦を放棄してメサイアの議長の元に向かって心中した…。』
戦後にまことしやかに流れた噂は誰が言い出したものだったのか。
ザフトに置いてデュランダル議長の名前と同じくらいグラディス艦長の名前は禁忌に近しい。
堂々と胸を張ってグラディス艦長麾下であった事を話すのはミネルバに乗っていた者でも少ない。佐官で言い切るのはアーサーくらいである。
不名誉な噂が嘘か誠かはこの際どうでも良い。
ただでさえ議長に振り回されたザフトからすると、議長の関係者は例え直接関係ない子息であっても入隊に難色を示すことは間違い無い。

「ウィルからザフトに入りたいと相談を受けたんです」
「…それで『ハインライン』との見合いを了承したのですか?」
ハインラインの声がワントーン下がる。
アーサーがウィリアムと養子縁組して『ウィリアム・トライン』になってもザフトは難癖をつけてくるかも知れない。
だが『ウィリアム・ハインライン』ならザフトは拒めない。
シグーやディンを開発しザフトに貢献したハインライン設計局その一員であれば、さらに一族の代表である局長の後押しがあれば。
グラディスの名前を出さないならば、と条件をつけるかも知れないが希望は叶う。
「ああなるほど、それでろくに釣り書きも見ずに見合いに臨めたわけですか」
あの日の全てが腑に落ち、ハインラインの頭が急速に回転していく。
どう考えてもまともに思えないスケジュールを事前に渡され、設計局を見合い会場に設定されて、おそらくは勤務の真っ最中に呼ばれてコンパスの制服のままで見合いに臨んで、見合いのはずが結婚が決定事項と言われたのに驚きはしたが文句は言わなかった。
元から彼女に決定権の無い見合いだった、という事か。
「それなのに婚約解消予定とおっしゃるんですね、貴方は。何故ですか、ハインラインの名前はいらないと言うのですか、そのためにわざわざ見合いを了承したのではないのですか」
「えっ!?だってハインライン大尉が私と結婚するの嫌そうにされてましたから。ウィルには苦労をかけて申し訳ないけど、嫌がってる方に結婚をお願いするわけにはいきませんよね。局長さんには「アルバートの子を産めば援助は惜しまない」なんて事前に言われましたけど、誠心誠意謝ってハインライン大尉以外のハインラインの方をご紹介して頂こうかなっ「ふざけ…」
『ガンッ!』
あの日と同じ困った顔で笑いながら努めて明るく話すアーサーに、思わず食ってかかろうとして大きな音に我に帰る。
見ればコノエが憮然とした顔で足を組んでいた。
おそらく思い切り蹴ったであろうテーブルがビリビリと震えている。
「双方、落ち着きたまえ」
「は、はいぃ!」
「…失礼致しました。私としたことが我を忘れかけていた様です」
二人が前に向き直るのを待ってコノエはいつもよりゆっくりと言い聞かせる様に話す。
「まずはアルバート、君に怒る権利は今の話では無いように思える。身内の不始末をアーサーに押し付けるな。局長に対し立場上意見を具申出来ないのであれば後でまとめて提出するように。コンパスに影響がある事であればコンパス本部を通しザフトか最高評議会を経由して抗議させてもらう」
「申し訳ございません、ですがまずは私の口から局長へは抗議します。必ず結果を出してみますのでお待ち頂きたい」
コノエと視線を合わせるハインラインの目には力がある。とりあえずはやらせてみようと次にアーサーを見る。
「アーサー、君に言うべきことはただ一つだ。相手を大切にするのは良いが、それと同じくらい自分を大切にしなさい」
「は、はい!?」
反射的に返事をしただけで理解できていないであろうアーサーにさらにゆっくりとコノエは言い聞かせる。
「君はウィリアム君のためにアルバートと婚約したが、ウィリアム君は自分に有利な姓のためだけに君に望まぬ結婚を強いて喜ぶような子なのかね」
「とんでもない!!ウィルは今回の件には関係ないですよ!私がウィルにしてあげられる事をしているだけです!」
(それは余計なお節介と言うやつなのでは)
ハインラインが思わず口を挟もうとするが、コノエがこちらを見ずに手で制してくるので開けかけた口を閉ざした。
「では仮にウィリアム君が姓を変えるためだけに結婚しようとしていたら君はどうするかね?」
「もちろん止めます!ウィルには好きな女の子と結婚して欲しいです!」
自信満々に胸を張るアーサーに、ハインラインは頭を抱えそうになる。
(ダメだこの女、誰かはやくどうにかしないと。…いや、結婚するならばもしかして私の役目なのか?)
ほんの少し、ハインラインは眩暈がした。


じっとコノエ艦長がアーサーを見てくる。
何かマズイ返答をしてしまっただろうか。
ウィルはアーサーと「ハインライン」との結婚を喜ばないのだろうか。滅多にワガママを言わないあの子があんなに行きたがっていた軍への道が開けるのに。
それにウィルが結婚だなんて!まだ13歳なのにそんな打算で結婚を選ぶだなんてダメだ!第三世代だし、遺伝子相性の良さで結婚相手を見つけるのが優先されてしまうかも知れないけど、やはり尊敬し合い愛を育んでいける人と結ばれて欲しい。
だから、アーサーが「ハインライン」と結婚すれば大体の問題はクリア出来るのだ。
相性が良い数値だったハインライン大尉には嫌がられてしまったのは残念だけど、他にもハインラインの親族の中に相性の良い人がいるかも知れない。
遺伝子相性なのだから確率は高い。
「アーサー」
「はい!」
どこまでもウィルの幸せを願い思考するアーサーは、コノエ艦長に呼ばれて勢いよく返事をする。
「君が理解出来ないのか意識的に考えるのを避けているのかは分からないが、身勝手に押し付ける愛なぞ当人以外には迷惑でしかない」
ざらりとアーサーの心に釘を刺してくる。
「君がウィリアム君の母親として与えられるだけのものを与えたいというのはまあ愛と呼べるものかも知れないし、遺伝子の相性で結婚相手を選ぶ事も悪いことではない。なんなら利益優先の打算で結婚したってそれでお互いが幸せならなんの問題もないだろう」
コノエ艦長の声は子供に言って聞かせるような柔らかい声音なのに、アーサーには冷水をかけられたかのように思考が止まる。
「だが、君が君自身を蔑ろにする事を『ウィリアムのため』で正当化するのは君のエゴだ。もう一度聞くがウィリアム君は君とアルバートが結婚する事でザフトに入れたとして本当に喜ぶような子なのかね?」
コノエ艦長の言葉はもはや圧力を感じられる程だった。
ウィルが幸せならそれで良い、はずなのに。
アーサーは心細くなってコノエ艦長から目を逸らしオロオロと視線を彷徨わせる。
でも誰も助けてなんてくれないのだ。だってどれだけアーサーが手を尽くそうがウィルの…タリア艦長の遺児を誰も本当に助けようなんてしてくれなかった。だからアーサーだけが頑張らなければならないのに。

目に見えて狼狽えるアーサーをハインラインは痛々しく思う。
ここ数日ずっと振り回された彼女の存在に苛立っていたが、彼女は彼女なりに現状をどうにかしようと頑張ってはいたのだろう。それが打算的に利用される方向だったとしてもだ。
色々と事情が見えてくればあそこまで振り回されたのが嘘のようだ。
とは言えハインラインと彼女の関係は婚約者(仮)だし、いずれ解消するとなれば手助けする事もままならない。せいぜい局長に少しでも良い縁組を斡旋してもらえるように具申してみるくらいだろう。
気まずさを誤魔化すようにモノクルデバイスの位置を直し、ふと視線を感じて横を向いた瞬間、こちらを向いたアーサーと目があった。
涙目なアーサーに見上げられ、何かがハインラインの中でプッツリと切れた気がした。


「ああ、そうか。そうですね。分かりました良いでしょう。というか何ですか、そもそも解消する必要がありませんね。前提条件が誤っていました。すでに正しい条件は全て揃っているではありませんか。いけません寝不足でしょうか、そういえばここ数日寝つきが悪かった気がします。それもこれもアーサーのせいです」
「へ?えーっ!なんか分からないけどごめんなさい!?」
黙って経緯を見守っていたはずのハインラインが唐突に捲し立てるのにコノエはおや?と様子を伺う。
2人がバラバラに設計局に呼び出されてから、目に見えてハインラインは調子を崩し不安定になって暴走していたが、何故かいきなり狂っていたギアが元の位置に戻ったのか急に落ち着いて無機質な表情で怒涛のセリフを喋る。
「艦長」
「…何かね?」
「ようやく理解しましたが、コレはもうどうしようもなく自分より他人を優先して自らを大事に出来ない人間なんでしょう」
「コレ!?私、上官なんだけど!?」
悲鳴を上げるアーサーの額をハインラインは手で押す。
「アーサーは黙っててください。今更28年も生きた人間の生き方を矯正するのは無駄が多いでしょうしウィリアム君の成人に間に合わないかも知れません。ならばMSにユニットをつけるように補助して仕舞えば良いのです。つまりはプラウドディフェンダーですね。具体的なプランといたしましてはアーサーが自らを顧みないなら私が彼女を幸せにすれば万事解決です」
解決ですではないが。
どうですか完璧ですと言わんばかりに目を光らせるハインラインにコノエは胡乱げな目を向ける。
ギアが戻ったと思ったが外れて大暴走中なのだろうか。
「スケジュール通り婚約期間半年後に結婚すれば私は夫として伴侶であるアーサーに干渉できる範囲が増えます。いえ、いっそ婚約期間を最低限に縮めて良いのではないでしょうか?なんなら今から婚姻届にサインしに行きましょう、そうすれば今日からアーサーは私のものですね」
「何言ってるんですか!?いや本当に何なんですかこれぇ!?」
大暴走中を超えて超暴走だった。
いつも通りの早口だが、内容がいつもと違いすぎるのにいつも通りすぎて逆に怖い。
コノエ艦長助けて下さい!っと泣きついてくるアーサーに、なりふり構わず助けを求められるようになるなら一歩前進かなとコノエは考える。
一人でできることになど限界はあるのだから、自分だけで空回りしなくなるだけでも手を貸してやる余地は生まれたのでまあ良しといったところだ。
「私の何が不満だというのですか?家柄も地位も財産もそれなりに備えています。階級は貴方より下ですが良いでしょう、出世出来るよう頑張りましょう」
「ぴぃ!」
もはやアーサーは人の言葉で返事をする事も出来ないくらいに追い詰められているが。
(ヤマト准将やクライン総裁の連れてる鳥型ロボットのような鳴き声だなぁ)
今頃准将は総裁といちゃいちゃしているんだろうか、いいな羨ましい。
とうとう婚姻届を取りに行こうと立ちあがろうとしたハインラインを今度は縋り付くようにアーサーが止めている。
「待って待って、いや本当に待って!無理無理無理!何コレ何コレ!?ハインライン大尉落ち着いて下さい。大尉は私の事嫌いでしょう!?」
「たった今好きである事を自覚しました」
「えーっ!?だって鈍臭い女は嫌いって」
「貴方が他人を優先して自分を蔑ろにするから結果として考え無しの行動をしてしまうというプロセスだった事は理解しましたので、貴方は鈍臭いのではないと判断します。貴方は他人を優先する、私は貴方を優先する。貴方に足りないところは私がフォローすれば良いのですから何の問題にもなりません」
良いですか、とハインラインはアーサーの手を握る。
「私が貴方を愛しているから結婚したくて、貴方はハインラインの名を欲しているから私と結婚したい。ついでにウィリアム君を養子に迎えれば彼の望みも叶う、実に理にかなった三方よしです」
「え、えぇーっ…?」
それはどうなんだろう、とアーサーが引いている。
「考えてみてください、何とも思っていない相手と結婚したとして、貴方が情を移さずにいられますか?賭けても良いが僕の計算だと1年も持たないでしょう」
「いや…だって一緒に生活するんだし…そういうものじゃない?」
もはや内容がプロポーズを通り越して結婚後の人生設計になっている気がするのだがアーサーは気づいていないようだ。
私はもういなくても良いんじゃ無いかなと思いながら、今席を立ったら馬に蹴られてしまうかな?とコノエは黙って二人を見守る。
「では当初の予定通り私と結婚したので問題ありませんね」
「えっ、えっとその、ウィルに相談してみないと…」
「休暇下さい艦長」
あ、私の出番まだあった。


どうせ仕事にならんだろうから、とコノエ艦長にミレニアムから叩き出され、あれよあれよとウィルの学校の近くまで連れて来られた。
(何がどうしてこうなっているんだろう?)
そもそもウィルに相談するだけなら通信でも良いんじゃないかな、とアーサーは思うがハインラインは「直接顔を会わせるというのも形式的には重要な事です。だからお見合い文化は廃れないのでしょう?」といって聞かない。
何だか結婚前の親族顔合わせみたいだなぁ、とそのものである事に気がつかずアーサーはとりあえずパフェを突っついた。
ここはウィルの学校の近くにある喫茶店だ。
簡単な食事も出してくれて奥には完全な個室もあるのでウィルに会うのに重宝している。あとパフェも美味しい。
学校からも寮からも近くて外出可能範囲とはいえ平日に突然呼び出してウィルに怒られちゃうかな?と思いながら隣のハインラインを見た。
興味があるので、とアーサーと同じパフェに挑戦しているが甘すぎるのか少し眉間に皺がよっている。
アーサーの視線に気づいてハインラインは満足そうな顔で少し笑う。
(うーん、コレは浮かれてる?のかなぁ?)
背景に花でも背負っているのが似合いそうな美形の微笑みだが、アーサーには眼福より困惑の方が強い。
ウィルのために挑んだお見合いで相手に気に入られたとなれば上々の結果であるはずなのだが、何だか考えてたのとは違う気がする。
見合い後のアレコレをすっ飛ばせば、少なくとも現時点ではハインラインがアーサーを好きだというのは間違いではないのだろう。
ハインライン大尉って恋に浮かれるタイプだったんだなぁと、どこか他人ごとのようにアーサーはハインラインを観察する。
頼りないだの抜けているだのと言われるが、副長の多岐にわたる仕事をこなしながら艦内の業務を円滑に回すのが役割のアーサーは、情報さえ与えられれば大抵の事にはそれなりに対処出来る。
(昨日までは普通に見下されてたよねぇ、私)
頭の回転が速く尊敬できる相手以外軒並み全員興味の埒外という態度を隠そうともしないハインラインだが、さらに体育会系や鈍臭いのはガン無視に近い対応をしている。
アーサーもハインラインには論外のレッテルでも貼られていたのか、一緒に仕事をし始めて話した事はそこまで多くないが何度か下に見られるような言い方をされたことはある。
ただ、アーサーもコーディネーターなので仕事が円滑に進んでいるなら問題ないな、とハインラインの態度をスルーしていたのだが。
(昨日まで嫌いだった人を好きになるとかハインライン大尉は変わってるなぁ)
以外と色々な人と話させてみたら気が合う人がいるかも知れないし、コンパス内で懇親会でも開いてみようかな、とハインラインが聞いたら不参加一択の計画を立てるアーサーの耳にノックの音が聞こえる。
「ハァイ、どうぞー」
「アーサー!久しぶり!……て、誰ソイツ…」
はち切れんばかりの笑顔で飛び込んできた少年の顔が、一瞬で警戒する表情に変わる。
「久しぶり、ウィル。ええと、この人は…」
どう紹介しようか迷っているとハインラインが立ち上がってウィリアムに向き直る。
「はじめましてウィリアム君。アーサーと結婚して君の義父になるアルバート・ハインラインと申します。取り急ぎ今後の事について計画を立てたく会いにきましたが、少々お時間頂きますがよろしいでしょうか」
「は?よろしく無いのでお帰り下さい」


ウィリアムは大好きなアーサーの隣に座る男を睨む。
ハインラインは有名な名前だが、関係者だろうか?アーサーがコンパスの一員で大尉だと紹介してくれたが、こんなヤツと一緒に仕事をして大丈夫だろうか。
やはり早く学校を卒業してアカデミーに入学し、軍人となってアーサーを守らなければ、と決意を新たにする。
帰れと言ったにも関わらずハインライン大尉は持ってきた端末に計画書とやらを表示する。
「今のところは婚約状態ですが、早めに結婚したく思っていますのでウィリアム君…ウィルと呼んで良いでしょうか「お断りします、馴れ馴れしくしないでもらえますか?」そうですかではウィリアム君とお呼びしますが、やはり結婚にはお披露目として挙式も必要。スケジュールは綿密に合わせる必要が「ねえ、アーサー!」」
怒涛の勢いで話すハインラインの声を掻き消すほどの声量でウィリアムが叫ぶ。
「付き合ってる人いなかったでしょ?いきなり何なのコイツ」
「せ、先日お見合いをして一応婚約しちゃったんだけど…」
「は?なにそれ、お見合いなんて聞いてない。それになんでいきなり婚約なんてなってるの?」
「結婚を前提にした形式的なお見合いです。ですのでお見合いが終われば自動的に婚約となります」
(お見合いの後に冗談では無いって怒ってなかったっけ?)
アーサーがえぇー、という顔で見るがハインラインはしれっと無視する。都合の悪い事を言ってないだけで嘘はついてない。
「何でお見合いなんてしたの?」
「いや、そのぉ、そろそろイイ歳かなぁって…?ほら、養子縁組の話をしたでしょ?役所で相談したら薦められちゃって」
ウィルのためって言ったら怒られちゃうよねぇ、とアーサーはしどろもどろに言い訳する。
正直いまだに理解しきれていないところがあるが、コノエ艦長には全幅の信頼をおいている。
艦長が言うならたぶんそうなのだ。
「…養子縁組はしなくて良いって言ったのに…」
「でもウィルはアカデミー入学の資料取り寄せてたでしょ」
困った顔で言うアーサーにウィリアムは内心舌打ちする。
アカデミー入学の資料を取り寄せようとして、妙に戸惑うような対応をされた理由をウィリアムは良く知っている。
産みの母親がどれほど軍に煙たがられているか『親切にも』ウィリアムの耳に入れてくれる関係者共がいるのだ。
腹は立つがどうしようもないし、一生付きまとう荷物だがそのおかげでアーサーに会えたので割り切る事にしている。
なので成績や内申点を挙げ、学校がアカデミーに推薦せざるを得ない立場になるよう日々努力しているところなのだ。
ウィリアムに第一後見人の校長にはそれとなく応援してもらえるようお願いしてある。
アーサーはウィリアムを心配するあまり過保護になる時がある。
それで嬉しい思いもしているが少しばかり子供扱いが不満に思う時もあった。
「アーサー…」
ウィリアムは座っているアーサーに近づき、そっと抱き寄せ、肩口に顔を埋めて耳元で囁く。
「僕だって頑張ってるんだよ。もう少し信じてほしいな」
「ウィル…」
そのまま抱き寄せる手を撫でるように…
「そこまでです」
「は?」
ハインラインはウィリアムの手を遠慮なく掴む。
「いくら実質息子でも母親(仮)の腰を撫でるのはセクハラになります」
「…貴方に関係なくない?」
「婚約者ですが?」
アーサーが息子と思っているので抱きつくまでは見逃したが、耳元で囁くわ肩に顔を埋めるわ腰を触ろうとするわ。
「…ああ、こういうのをマセガキと言うのでしたか」
「アーサー、僕コイツ嫌い!」
「気が合いますね、私もです」
敵として見下すハインラインを敵として睨むウィリアム。
「どうしたんですかハインライン大尉。ウィルは息子同然なんですからセクハラなんかじゃないですよー」
ウィリアムとハインラインに近くで言い争われて目を白黒させながら、アーサーはウィルを庇うように立ち上がり前に出る。
「ちょっと甘えん坊なんでそんなふうに見えちゃいましたか?そうなんですよねぇ、タリア艦長の事とかあってつい甘やかしちゃうんですよね、ウィルのためにならないからやめなきゃいけないんですけど」
ごめんねぇ、と言いながらアーサーからそっとウィリアムの頭を撫でる。
アーサーが撫でやすいように頭の位置を動かしながらウィリアムがアーサーに見えない位置からハインラインにべーっと舌を出して挑発した。

厄介な敵だ。とハインラインは眉を顰める。
なんと言ってもアーサーが庇っているのが最悪である。
先ほどのウィリアムのアーサーへの態度を誰かに見せれば10人中10人がウィリアムの下心を見抜くだろうに、その対象であるアーサーだけは眼が曇っている。
ウィリアムはウィリアムで立場を利用してセクハラ三昧。
どうしてくれよう。
(いっそアカデミー入学やザフト入隊に口を聞く替わりに後見人の解消を…いや、ダメだな。後見人を辞めさせて自由にするとアーサーを本格的に口説きにきそうだ。ならば敢えて養子縁組して『父親』の立場をフル活用して彼に干渉した方が良いか)
高速で頭を回転させ意識を切り替えたハインラインはスタスタと歩いてアーサーをしっかりと抱きしめる。
もちろん手は腰に沿わせた。
「婚約者がいるのに無防備すぎるでしょう?例え息子同然のウィリアムと言えど私以外の男に触れさせないで欲しい」
じっとアーサーの目を見つめる。
意識して少し悲しげな寂しがっているような顔をする。
普段は必要に思えないのでやらないが、家柄の良いコーディネーターの血筋らしくハインラインの顔は整っているので、取り繕えばそれなりに効果がある事は自覚していた。
案の定アーサーは目に見えて狼狽えている。
情に訴えれば効果はあるだろうと思ってはいたが、余りにも効果がありすぎないだろうか。
(准将の言っていた『ちょっとお願いしたらチョロい』というやつなのでは?)
プラウドディフェンダーのセンサー開発時の雑談で、アスランがいればなぁとボヤいていた准将が思い出される。
(あと准将は何と言っていたか)
「アーサー、お願い」
ね?と小首を傾げて見せる。
こうすれば大体アスランはイチコロです。カガリにも教えてあげたんでアスランには怒られちゃいましたけど。と実演した准将を真似て見せる。
「ヒョわ!?」
アーサーが顔を真っ赤にして悲鳴?をあげる。
「ああああ、あの、その、ええと…ウィ、ウィルが見てるのでぇ…」
当のウィリアムは怒りが頂点を突き抜けたのか、もはや無表情であった。
「…アーサー、僕その男が父親になるのは嫌だな」
「えぇーっ!?」
ウィリアムに降り向こうとするアーサーを制しハインラインは努めてにこやか?に笑って見せる。
「お任せ下さい。ウィリアム君の件も私が完璧にフォロー致しますので、貴方は全て私に任せてくれれば良いのです」
笑顔は本来攻撃的な表情だと言ったのは誰だったか。
ハインラインは極めて優秀と謳われる実力を遺憾なく発揮しようと笑みを強くする。
「愛してますよ、アーサー」
「あ、ありがとうございますぅ…?」

結婚まであと半年。
完了した項目: プロポーズ。
スケジュール進捗率:0%→−5%→20%?
お知らせ
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無限ツールズ

 
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