<登場人物>
男性:ミチオ。サキの旦那。関西弁。
女性:サキ。ミチオの妻。マリッジブルーになっている。
<配役>
男性役:男性
女性役:女性
■利用規約
・過度なアドリブはご遠慮下さい。
・作中のキャラクターの性別変更はご遠慮下さい。
・設定した人数以下、人数以上で使用はご遠慮下さい。(5人用台本を1人で行うなど)
・不問役は演者の性別を問わず使っていただけます。
・両声の方で、「男性が女性役」「女性が男性役」を演じても構いません。
その際は他の参加者の方に許可を取った上でお願いします。
・営利目的での無許可での利用は禁止しております。希望される場合は事前にご連絡下さい。
・台本の感想、ご意見は Twitter:
https://twitter.com/1119ds 草壁ツノまで
女性:(M)――もうすぐ、私は名前が変わる。
男性:「いやぁ、式場も決まったし、引き出物とか衣装とかも無事に決まった。
動き回ってる間はホンマにこれ終わるんか?って心配やったけど、
なんとかなりそうで良かったわ。サキもそう思わへん?」
女性:「うん」
男性:「つかホンマこの一か月めちゃくちゃハードやったな......
でも、これであとは当日迎えるだけや。
どうする? 今のうちに子供の名前でも考えとこか?」
女性:「うん」
男性:「いやそれは気が早いやろってツッコむところやん!」
女性:「うん」
男性:「......どうしたん。上の空やけど」
女性:「うん」
男性:「......なぁ、前から思ってたんやけどさ。オレってやっぱりカッコイイ?」
女性:「うん」
男性:「大阪一?」
女性:「うん」
男性:「世界一?」
女性:「うん」
男性:「小栗潤より?」
女性:「それは無い」
男性:「なんでなん! そこはちゃんと否定するやん!」
女性:「......」
男性:「......なぁ。どうしたんサキ。マジで元気無いやん。
あれか? ガールズデイ来てもうたんか?」
女性:「......軽蔑しない?」
男性:「せえへんって。多分」
女性:「......結婚、嫌だなって」
男性:「え?」
女性:「......ごめん、今になってこんなこと」
男性:「......そやなぁ。さすがにビビったわ。アイス食べる?」
女性:「食べる」
男性:「ほいほい。あ、大納言あずきとチョコクッキーとどっちする?」
女性:「チョコクッキー」
男性:「ほーい。よっこらせ。
やっぱアイスは大納言あずきに限るねんなぁ」
女性:「ジジくさ」
男性:「ええやん美味いねんから。んー、んまい」
女性:「......」
男性:「......」
女性:「......」
男性:「いや空気冷えすぎやろ。冷凍庫かいな。
なに、どうしたん。なんかあった?」
女性:「別に、なんも無いけど」
男性:「なんも無いいうことは無いやろ。あー、あれか?
俗にいう"まりっじぶるう"言うやつか?」
女性:「......そうなのかな」
男性:「分からん。自分は結婚にめっちゃ前のめりやから」
女性:「......なんかさ、結婚に向けて動いてた時は、楽しかったの」
男性:「ほん」
女性:「新しい生活のこと考えたり、家見に行ったり、家族に挨拶しに行ったり。
友達たちもおめでとうって言ってくれた。
私、今最高に充実してるなって思った」
男性:「今は違うん?」
女性:「......なんか、いろいろ。怖い、かも」
男性:「例えば、具体的にどういうところが怖いん?」
女性:「......苗字が変わること」
男性:「怖いん?」
女性:「今まで気にしたこと無かったけど、
なんていうか、自分の存在が無くなっちゃうような気がして」
男性:「ほうか。んー、なら......俺が婿養子なったろか?」
女性:「え?」
男性:「そしたらサキの苗字は変わらへんやん」
女性:「......それは、そうだけど」
男性:「他にもなんかあるん?」
女性:「......うまく言えない」
男性:「ほうか。うまく言えんか......
ほならいっそ、"どこまでブルーになれるか"、勝負せえへん?」
女性:「は? 急に、なに」
男性:「ほら、結婚自体が怖いこと~って思ってるから憂鬱になるわけやん?
ほんなら、より強いショックで"結婚なんか大したことあらへーんピッピロピー"ってしてまえばええやん。
どう、結構名案やと思うねんけど」
女性:「......どこが名案なの。はぁ」
男性:「ほならオレからな。怖いことかー。うーん。そうやなぁ......。
あ、友達と酒飲んで夜遅く帰ってきた時の、サキのあの無言で机に座って待ってる時、もうめっちゃ怖いわ。
ションベン漏らしそうになる」
女性:「あれは、そっちが悪いからじゃない」
男性:「いや今は怖いこと言い合う流れやから。ほら、なんか無いん」
女性:「......怖いこと、怖いこと......。あ」
男性:「なに?」
女性:「......昔、ガソリンスタンドで働いてた時」
男性:「ほん」
女性:「軽トラックが給油に来たのね。で、私が給油したんだけど」
男性:「ほんでほんで」
女性:「......その頃車なんて全然詳しく無かったから、
軽トラックか、じゃあ軽油だなって給油して......」
男性:「えっ、普通にやばいやん。それで?」
女性:「......あとになってその軽トラ戻ってきて、ガソリンタンク洗浄することになったって」
男性:「こわー」
女性:「怖かった」
男性:「いや、怖いんはサキのほうな。どんだけドジっ子なん」
女性:「だから、さっき言ったでしょ! 十代の頃だったし」
男性:「いや滑らんなぁ」
女性:「滑らない話じゃないからこれ。もう......で?」
男性:「ん?」
女性:「次はそっちの番でしょ」
男性:「ああ、そうやったそうやった。怖いことかー。他になにがあるやろなぁ」
女性:――その後、私たちは。
男性:「ダンゴムシ」
女性:「ゴキブリ」
男性:――なんやかんやと怖いものを言い合って
女性:「お母さん」
男性:「地元の先輩」
女性:――気が付いたら、いくらか最初の怖いという気持ちは収まっていた。
男性:「サキに愛想尽かされること」
女性:「は、なにそれ」
男性:「いや、もしかしたらこれが一番怖いかもしれん」
女性:「ま~た適当なことばっか言って......」
男性:「いやホンマホンマ。覚えてる?
付き合い始めて、何年目やったっけ。結構デカめの喧嘩したことあったやん」
女性:「あったね」
男性:「でさ、しばらく連絡しても返事くれへんし、
たまたまバッタリ遭っても、あからさまに態度そっけないしさ。
前まであんなに仲良かったのに、このまま終わるんかなぁ......って思ったら、結構怖かったわ。
怖い言うか、辛いというか」
女性:「......」
男性:「そう思ったからな、"アカンわ。これはこいつと結婚せな絶対後悔する"って思ってん。
で、怒涛のアプローチ。飯誘ったり遊び誘ったり、全然知らんけど趣味合わせたり」
女性:「ああ......思い出した」
男性:「なに?」
女性:「最初のころミチオ、私が"ショパン好き"って言ったら。
"ショパン好きやわ! あれ塩っぱくて美味いよな!"って。
ふっ、くくっ......いや、それ塩パンでしょって......内心めっちゃ笑ってた」
男性:「はあ!? 初耳なんやけど!?」
女性:「だって言うの初めてだし」
男性:「かー、マジか。あれ塩パンちゃうかったんか......恥ず......」
女性:「はぁ、笑った笑った」
男性:「けど、思い返してみたら色々あったよな」
女性:「......そうだね」
男性:「サキがオレを置いて海外に行ったり」
女性:「ミチオが浮気したりね」
男性:「いやあれは違うって! 散々女友達やー言うたやん!」
女性:「......けど、私だってそう思ったからこうして一緒にいるんだけど」
男性:「え?」
女性:「......もともと、結婚なんて全然興味無かったけどさ。
ミチオと一緒にいたら、あ、なんか居心地悪くないなって。
一緒にいて楽しかったし、これがずっと続くなら結婚も悪くないなって。
......うん、そう。そう思ったから結婚したいなって思った」
男性:「それじゃ、オレ捨てられへんってこと?」
女性:「捨てないよ、寧ろ私が変だっただけ」
男性:「マジかー! 良かった! 結婚費用無駄になるとこやったわ!」
女性:「は?」
男性:「ううわ、今日イチ怖いわ......」
女性:――そうして、私は名前が変わった。
名前を捨てたんじゃない。彼と、ミチオと一緒になったんだ。
そう考えたら、同じなのに、不思議と嫌じゃない。
男性:「ほーらサキ! 記念写真撮るで! ほらこっちこっち!」
女性:「ちょっ、やだなになに!?」
男性:「行くでー、せーのっ、お姫様だっこ! おりゃあー!」
女性:「ばか、やめなってば! 恥ずかしいでしょっ!!」
男性:「幸せなろな、サキ!」
女性:「......バカ、私がするの! ミチオを、幸せに!」
女性:――これからもまた、新しい日々が続いていくかと思うと、
やっぱりちょっと怖いけど、それ以上に、わくわくしてくる。
<終わり>