洪水神話 ヌオー関与版


  エアは『ヌオー』たちの能力の高さを評価していたが、穏やか過ぎる性質とトロいことを理由に『ヌオー』を『人間』の教育者とすることで、労働力を確保しようとしていた。
エンリルは、巧遅は拙速を凌駕するという価値観だったので、『人間』による不出来な仕事の産物では納得できないことを他の神々に訴えた。
とはいえ労働力問題は下位の神々のストライキに端を発するので、であれば『ヌオー』の管理下で『人間』を働かせればいいだろうという方向で話は進んだ。

 賢明なエアは、『ヌオー』に管理者としての能力は無いことを理解していた。
その為に特別な『人間』を制作し、彼を王とし、補佐は『ヌオー』にやらせることにした。
それは当初は上手くいき、エンリルもまたエアの采配を称えていたそうです。

 だが、長い時の間に王は累代を重ね劣化し、人間も数が増え過ぎました。
『ヌオー』達も圧倒的に少数だったので、(一説によるとエアは、ヌオーが下位の神々の役割を奪ってしまうことを警戒して、不老を与えて数を増やせないようにしていたからとされる)管理にも無理が生じてきた。

 エンリルは美しかった都市や村々が、雑多な建物で醜く塗り替わることに嘆き。
また奢った人々が『ヌオー』から実権を奪い、辺境の地に追放したことでエンリルは『人間』の数を減らし、かっての秩序を取り戻そうと画策する。

 疫病、飢饉、塩害によって『人間』は大いに苦しめられたものの、その度に『ヌオー』が人間達の救助に向かい、それを見たエアが『ヌオー』と人間達に知恵を授けることで対処してきた。
その度にエンリルはエアに怒ったものの、エアは「こういう時に『人間』を助けようとするのが『ヌオー』である、そのまま放置すれば『ヌオー』は過労で死んでしまう。 天の主エンリルよ、あなたもそれは見たくないだろう」と言われると引き下がらざるおえなかった。

 だが、増えすぎた人間がもたらす混沌による不協和音は、より酷くなり。
やがてエアでさえ、人間を半ば見捨てるほどに信仰は形骸化していた。
そして、神々の会議においてほぼ満場一致で人類の殲滅は可決されたのである。
その方法が大洪水という手法になったのは、ヌオー達には無害であり、その後の復興も『ヌオー』と、それを補助する新たな『人間』にさせればいいという結論になった。

とはいえエアは、生かすに値する信心深きウトナピシュティムとその家族だけは救おうと考えた。
そこでエアはウトナピシュティムに大洪水を警告し、方舟の建造をするよう指示した。
ウトナピシュティムは善良な人であったので、出来るだけ多くの命を救おうと考えたが、その為にはあらゆる物と時間が足りなかった。

 そんな中、嘆くウトナピシュティムの前に『ヌオー』達が現れ、彼の方舟建造に協力する。
方舟には『ヌオー』の工芸品が無数に使われ、もはや一つの小世界と呼べるほどだったという。
だが、あまりにも立派な方舟に気が付いた神々が、これでは目標が達成できないと考え方舟の破壊を計画する。
エンリルが直々に、方舟を破壊しに行くのをエアはいさめた。
それにより方舟の建造はエアが画策したのだと、神々に知られ、エアの行為を神々への裏切りだと糾弾し裁判が開始される。
そこでエアは、方舟に善良で信心深き者しか乗れないように魔術をかけることで妥協案とした。
また『人間』と神々の間で新しい契約を結び、それを人間が順守している間は、神々は人間を滅ぼさないという約定を神々と結んだ。
この時、エアが何を約定の対価としたかは不明である。

 とはいえエアにより神々の妨害を免れたウトナピシュティムは、無事に人々や動物、財産といった文明の再建に必要なものを方舟に乗せ、大洪水を乗り切る。

 その後、神々と人間の間に新たな契約が結ばれ、人間は自然と尊重し合うことや神々への信仰心を無くさぬことを誓った。
ウトナピシュティムは国を再建するさいに『ヌオー』達に人間の犯した非礼を詫び、もう一度人間の管理者となって欲しいと頼んだが、『ヌオー』達は人間の国は人間が運営したほうが良いと断る。
つづけて、助けが必要なら住処の沼地に来てくれれば、いつでも協力すると約束し、住処へと帰って行った。

 ウトナピシュティムは有能な王であり、見事に王国と文明を再建する。
その功績により、エンリルは彼とその家族に永遠の生命と海の彼方ディルムンの地を与えそこに住まわせた。

そして、時は経ちギルガメッシュ叙事詩へ繋がるのである。
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